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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2019.11.12
スターと脇役~小さな分岐点~
腕時計の針は10時05分を指していた。俺は溜め息とともに大きく紫煙を吐き、煙草をやや乱暴に灰皿へと押しつけた。狙い台は予定通り取れた。しかし、ブン回す気分じゃない。気が抜けたまま数ゲームを回し、軽く舌打ちしたのちA先輩の元へ向かった。
さっきまで静かだった店内も徐々に客が増え、ホールらしい喧騒に包まれつつある。主要機種は間もなく満席になりそうだ。しかし肝心の「アイツ」の姿がない。A先輩も狙い台を確保できたようで、すでにプレイを始めていた。その肩をそっと叩く。
A先輩「おおラッシー、(狙い台)取れた?」
――「ええ、まあ無事に」
A先輩「Hくんは来た?」
――「いや、まだっすね」
A先輩「ふはは、まあ俺らで頑張ろっか」
――「なに笑ってんすか」
俺は苛立ちを隠さなかった。
重役出勤。
誌面企画「M」の評判は悪くなかった。とはいえ、それはあくまで「内輪受け」。俺が初参加したリニューアル一発目は奇跡的に上手くいったが、その後はノリ打ちの収支が低迷。読者ハガキの人気投票では下位が定位置になりつつあった。つまり誌面における我々の立ち位置は、非常に危うかったのである。そんな状況だが…。
――「もう今日こそはガツンと行きますわ」
A先輩「まあまあ、そんな怒らないで」
――「んな甘いこと言ってっからナメられんでしょ!」
今月もまたHくんが来ていない。当時のHくんは、それはそれは見事な遅刻魔だった。Hくんのために補足しておくが、あくまで「当時は」である。今は私生活が大きく変わり、遅刻することはほとんどない。
既述の通り、誌面企画「M」はノリ打ち実戦だ。ノリ打ちで遅刻などあってはならない。そしてホールからのメールを見て立ち回る企画なのだ。当然、ほかの客もメールを見ているハズなので、遅刻すれば狙い台を取れなくなる恐れが高い。
それなのにHくんは、さも当然のように毎月遅刻。CS番組のADを経験している俺からすれば、全くもって理解できない。それがほぼ「毎月」である…。
A先輩「電車が遅れてるのかな」
――「それも考慮して家を出るのが大人でしょ」
A先輩「まあまあ、Hくん家も遠いし」
――「俺のほうがずっと遠いわい!!」
そんなやりとりをしていると、すぐ隣の自動ドアが開きHくんがアクビをしながら入って来た。
Hくん「おう、おはよう~」
――「おはようじゃねーよ! もうメイン機種埋まってるよ」
Hくん「だ~いじょうぶだよ。出しゃいいんだろ?」
A先輩「そう、よろしく頼むよ」
――「いやいやAさん! なに笑ってんすか!」
Hくんはメイン機種のシマには目もくれず、フラっとバラエティーコーナーへ。そして思いもよらない機種の下皿に煙草の箱を投げ入れた。ギリリと奥歯を噛みしめる俺。
――「ちょ、Hくん『くりぃむしちゅー』取りましたよ」
A先輩「ふははは!」
5号機「くりぃむしちゅー」(ロデオ)
2007年9月にリリースされたノーマルタイプで、文字通りお笑いコンビとのタイアップ機。ボーナスはスーパーBIG・ノーマルBIG・REGの3種類で、スーパーBIGなら5号機で最大の448枚を獲得できる。そのぶんボーナス合算確率は設定6でも約1/220.7、設定1に至っては約1/295.2とかなり重め。ボーナス当選要因は特殊リプレイ同時当選がメイン。特殊リプレイが入賞すると10G間のプチRT「緊急事態」へ移行し、そのボーナス期待度は25%~29.7%だった。
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――「笑ってる場合すか!」
A先輩「どんな機種かも知らない」
――「俺だってそうすよ。そんな台に(高設定)入るわけナイでしょ」
A先輩「まあ、勝算があるんだろうよ」
そんな俺たちの元へ、顔色一つ変えずHくんがやって来た。
Hくん「お~し、狙い台取れたぞ~」
――「狙い台? アレが?」
A先輩「どんな機種なの?」
Hくん「知らね~~~」
――「は???」
A先輩「ふはははは!」
Hくん「今日は台番末尾系だろ? 分かってるから」
――「にしても機種のチョイスよ!」
遅刻に加え、ナメた機種選択。それで勝てるほどパチスロは甘くない。なにより負けたら全員に影響するノリ打ちなのだ。そんな状況でこの選択は…。
言おう。Hくんのほうが先輩だけど、今回ばかりは言ってやろう。今日の収支が確定したら、実戦後の反省会でビシッと言ってやるんだ!! たとえケンカになったとしても…。
奇妙な歯車。
実戦開始から8時間後――
俺は手を止め、天を仰いだ。投了。ノリ打ちなのに豪快なウン万負けである。これ以上打ち続けても傷口を広げるだけなので、大人しくリタイヤすることにした。
A先輩はどうか。数時間前に1台をヤメたところまでは知っているが…。店内を探して回ると、導入から間もない「マッハGOGOGO2」のシマに姿を発見。しかし、シマは閑散としており、A先輩がポツリといるだけ。出玉はなく、今まさに貸出ボタンを押すところだ。
――「ちょ、なんでマッハ打ってんすか?」
A先輩「いや、出てはナイけど設定4っぽいんだよ」
当たりと思しき台番末尾とは、全く無関係な台である。
――「はぁ…総投資いくらです?」
A先輩「いま45Kくらいかな」
――「えっ!? はぁ…そっすか…」
手遅れだ。A先輩の目はすでに正気を失っている。完全な「投資ーズハイ」だ。投資をしすぎて貸出ボタンを押すたびに悦びすら感じるような精神状態である。マッハGOGOGO2の設定4の出玉率は約101.3%。朝イチからの直ヅモや、収支トントンからのヒマつぶしなら話は分かる。しかし、大きく負債を抱えてからの出玉率101%は…。しかも「予想設定」が4なのだ。確実な設定4ですらない。
――「…ほどほどにお願いします」
A先輩「俺が、俺が必ずどうにかするから!」
――「はぁ…頑張ってください(棒)」
また今月も大敗か…。どうやらリニューアルしたこの企画も、長くは続かなそうだ。残る望みはHくんだが、打っているのがアレである。誰も見向きもせず、朝イチから10分ほど放置されていた台なのだ。Hくんのことだ、とっくに諦めパチンコを打っているかもしれない。いや、むしろその線が強い…。
――「あわ…あわわわ…」
俺はHくんの背後で立ち尽くしていた。ドル箱4箱がカチ盛り! 下皿もカッチカチなのである!!
――「ちょ…なに…(設定)6なの?」
Hくん「さあ、くりぃむしちゅーの設定差なんて知らねーし」
――「いや…でも…」
Hくん「こんだけ出てりゃさすがに上だろ」
――「そ、そうだね…」
Hくん「ちょっと回すとスグ当たんだわ」
――「なにそれ怖い」
Hくん「ラッシーとAさんはどっかで休んでていいよ」
――「…うん、ありがとう。頑張ってね」
結果、俺とA先輩は2人で-5000枚に迫る惨敗。しかしHくんが「くりぃむしちゅー」で7000枚以上を叩き出し、この日のノリ打ち収支はプラス域に! 朝はあれほどHくんに苛立っていた俺も、怒る気など完全に消え失せた。そしてA先輩とともに、ひたすらHくんに頭を下げるのだった。
Hくんは遅刻しながらも大勝。対するA先輩と俺はガッツリ負けて「ノリ喰い」。この流れは不思議と毎月のように続き、誌面企画「M」のお約束となっていった。
仮に俺とA先輩だけが勝ち続け、Hくんだけが負けまくっていたら、俺らの関係は途中で終わっていたかもしれない。誌面企画も早い段階で無くなっていただろう。このときはまだ気付けなかったが、今になって振り返れば理解できる。
出演者にはそれぞれ役割があり、不思議とその通りに物事が進む。一見すると各人の立ち位置には根拠がなく、狙ってできるモノではないように思える。しかし人間には自然と立ち位置が生じるのだ。これも編集U氏の狙い通りだったのだろう。力を抜いてユルく立ち回るヤツが勝ち、キッチリと真面目に立ち回るヤツが負ける。そんな裏切りがあってこそ、バラエティー企画は面白い。
どこまでも破天荒なHくん。派手にやらかすけど憎めないA先輩。じゃあ俺は…。
こうして絶妙なバランスで歯車が回り、数か月が経った――。
抗えぬ流れ。
自宅で原稿を書いていたある日のこと。そろそろ昼食にしようかと手を止めると、ちょうどケータイが鳴りだした。液晶には「編集部」の文字が浮かんでいる。締め切りはまだ先のハズだから、新たな仕事の依頼だろうか。恐る恐る通話ボタンを押した。
M氏「お疲れさまです、Mです」
――「おお、お疲れさん」
M氏とは編集部員時代からの仲だ。同い年だが1~2年ほど後輩にあたる。
――「どうしたの?」
M氏「今、バトル企画の校正をしてまして」
――「うん、そんな時期だね。で?」
M氏「編集長が、ネーム(文章)を書き直してほしいと」
――「えっ!? なにかマズかった?」
ネームを書き直せと言われることなど滅多にない。なにかマズいことでも書いてしまったか、単純にネームがヘタだったか…。
M氏「いや、ネームは問題ないんですが」
――「は? じゃあなんで?」
M氏「誌面企画『M』の中ではラッパーキャラじゃないですか?」
瞬間、悟った。
来るべき時が来たらしい。
――「まぁ…アレは俺が書いてるんじゃないけどね」
M氏「で、ほかのページでは普通の文章じゃないすか」
――「え~と、つまり…」
M氏「編集長から『全部ラッパーで統一』しろと言われまして」
――「出た!! そんな日が来ると思った!」
M氏「そんなわけで、以降は全てラッパー文にしてほしいと」
――「マジか…(ラッパー文ってなんだよ)」
M氏「はい、整合性とれないからって編集長が…」
これはなかなか大きな問題である。ここで「うん」と答えたら、自分の意図しないキャラを演じ続ける羽目になる。読者からの拒否反応はあるだろうし、ガチのラッパーからも反感を買う恐れがある。
実際、学生時代の先輩にはB-BOYもいたが、「YO-YO!」なんて言っている人は1人もいない。「キャラ作りのためにHIPHOPを安売りしてんじゃねーぞコラ」。そんな声が聞こえてきそうだ。
――「でもそんなのスグに飽きられるんじゃね?」
M氏「正直、そんな気がします」
――「でしょ? 飽きられたら編集部が責任取ってくれんの?」
M氏「…まあムリでしょうね」
――「ほらね。YOYO言うヤツが真面目に攻略語っても響かなくね?」
M氏「たしかにそうですが」
――「ならその話はナシでしょ」
M氏「いや~、そう言われましても編集長の要望でして」
――「要するに拒否権はナイと?」
M氏「そうなりますね」
あえて聞こえるように舌打ちし、煙草に火を点けた。目を閉じ、これから先の原稿を想像したが、明るい未来は見えなかった。静寂に耐えかねたM氏が切り出した。
M氏「飽きられたら、またそのとき考えましょう」
――「………」
他人事みたいに言いやがる。
すでにスターになられた先輩方は、みんな飾ることなく自然体だった。それこそが王道。無理なキャラ作りをしてしまったら、もう2度と王道は歩めない。確実に「イロモノ枠」になってしまう。今でこそ個性的な演者さんが増えたが、当時はイロモノ枠の成功者など1人とていなかった。
――「でもラッパー文なんて上手く書けないかもしれないよ?」
M氏「それはこっちバックアップするんで」
――「…(バックアップってなんだよ)」
M氏「あの…そろそろ責了近いんで…」
なるほど。折れる気はナイらしい。少しだけ癪なのは、今後を決める大事な話なのに、編集長ではなくフリー編集の後輩が電話してきたことだ。俺には編集長が直で話すほどの価値すらないのか…。そのとき、あの日のことが頭をよぎった。
「ここにお集まり頂いた皆様は、いつ辞めて頂いても構いません」
「どうか『読者を引っ張って来られるライター』になってください」
「方法は各々にお任せします」
今の自然体の俺には価値なんてない。座して死ぬなら、せめて前のめりで死ぬべきだ。失敗したら、またやり直せばいい。
――「分かったよ。ネームの直し、いつまで?」
M氏「ありがとうございます。できれば今日中に…」
――「ん、直したらまた連絡するから」
M氏「了解です! では…」
通話を切るとリクライニングに背中を預け天を仰いだ。溜め息とともに大きく紫煙を吐き、煙草を乱暴に灰皿へと押しつけた。またしても遠のいた王道。味付けナシでは勝負できない己の非力さを呪いつつ、すでに書き終えたはずの原稿を開き直した――。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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