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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2021.03.16
プレイヤーにとってメーカーは敵か味方か?~あの日まで甘ちゃんでした~
その日も、やはり雨だった。
いや、かろうじて雨だったと言っていい。傘を持つ右手はとうに感覚を失っていたし、吐く息は濃く白い。気を許せばスグにみぞれに変わる。そんな天気だった。
左手はポッケの中で丸めたままで、出す気にもなれない。安物のブーツは、ギュッギュと小さく鳴いている。濡れた路面を見つめながら、一歩一歩、力を込めて歩いた。
角を曲がり、この辺りかと顔を上げると見慣れた顔があった。
編集長「おう、おせーぞ」
両手はポッケに隠れ、いつもならしゃんとしている背中も小さく丸まっている。それにしても遅いとは心外だ。まだ約束の10分前だし、30分ほど前には着いて近くのカフェで暇をつぶしていたのだ。
――「…すみません。おはようございます」
編集長「おう、じゃあ入るか」
――「ええ? まだ10分前ですよ」
編集長「いやそうだけど寒いんだよ! 緊急避難だよ」
約束の時間より、ほんの少しだけ遅れて入る。それが社会のマナーだが、そうも言っていられないほど冷たい雨だ。建物の印象は「少し立派なマンション」。いわゆるオフィスビルといった雰囲気ではない。
滑らないよう気を付けながら、薄暗いエントランスへ急いだ。インターホンを押さず、ここで10分ほど待てばいい。そう思っていたのだが、傘を畳んでいるうちにエレベーターのドアが開いた。
機種のウリ。
広報さん「こんにちは~!」
編集長「ああ、○○さん! お世話になります。まだ早いですが?」
広報さん「寒いでしょうから、どうぞお入りください」
編集長「ありがとうございます!」
広報さん曰く、窓から外の様子を見ていたらしい。そこで我々を確認し、まだ早いが迎えに来てくれたというわけだ。
暖房の効いたショールームはさながら天国だった。すっかり白くなった右手のビリビリとした痛みが、徐々に和らいでいく。
編集長「いや~、助かりました」
広報さん「いえいえ、寒いですもんね今日は」
――「ありがとうございます」
礼を言いつつ、ハンドタオルでコートやバッグの水滴を拭う。そうしているうちに、パチっとスイッチを入れる音が聞こえた。次いで大きな「ドアが開いています」。聞き慣れた機械的な声だ。
広報さん「こちらが新機種になります」
少しばかり薄暗い部屋が、やや赤く色づいた。筐体デザインは悪くない。いや、むしろ打ち気をソソる。打ち慣れた筐体。下パネルには少しだけ陰を孕んだキャラクターが描かれている。
編集長「これがあの○○○の?」
広報さん「そうです! 僕もアフレコに立ち会いまして」
編集長「マジすか!? 〇○○に会ったんですか?」
広報さん「会いましたよ! マジ可愛かったですよ~」
――「それは羨ましいですね~」
○○○は当時のトップ声優だ。アイドル顔負けのルックスも備えており、アニメに明るくない俺でもハッキリと顔を知っているほどの人気声優だった。
既存のアニメ版権であっても、パチスロのためにアフレコするのは珍しくない。アニメ本編には「チャンス」や「激アツ」、「左・右・中」などという言葉がめったに出て来ないためだ。
アニメ本編にはないオリジナルエピソードを収録していれば、もちろんそのためのアフレコも必要になる。声優業界とパチンコ・パチスロ業界も、割と密に関わりがあるというわけである。
広報さん「いや~、アフレコの日は1日付き添いまして…」
広報さんのアフレコ話は30分にも及んだ。その間、新機種のゲーム性についての話題は1つもない。なるほど。声優推しの機種ということか。
このメーカーは、いわゆる大手ではなかった。好きな機種名を挙げろと言われればパッと4つくらいスグに浮かぶが、昨今のスロッターなら名前すら知らないメーカーである。
有名声優を招いてのアフレコは、かなりの冒険だったことだろう。それだけこの新機種にチカラを入れているというわけだ。
広報さんの話に相槌を打ちながら、手渡された資料に目を通した。仕様としてはボーナス+ART機にあたるが、実質的にはARTのみで出玉を増やすタイプ。
同社が1つ前にリリースした機種は、少々マニア向けではあったもののヒットと呼んでいいデキだった。同じようなゲーム性なら、今作もヒットする可能性はある。
広報さんがひとしきり満足した頃、編集長が切り出した。
編集長「では、そろそろ試打を始めさせて頂きます」
広報さん「設定はどうされます?」
編集長「もちろん6でお願いします」
広報さん「かしこまりました」
ショールームに再び「ドアが開いています」の声が響き、次いで「設定を変更しています」の声が流れた。
広報さん「では、なにかありましたら内線〇番でお呼びください」
編集長「ありがとうございます」
広報さんの背中を見送り、まずは調べものからスタート。レア役やハズレ目・ベルこぼし目の停止形を探り、1時間ほどしてから本格的なデータ採りへ移った。
編集長「じゃあ、お前回せ。俺がメモってやるから」
――「ホントすか? あざっス!」
編集長「でも時間短いから早く回せよ」
――「お任せください」
疑念。
2時間後――
編集長「おい~、いい加減にしとけよ?」
――「いやいやいや、俺が悪いんスか?」
編集長「当ったり前だろ! 6だぞ?」
――「いや、でもヒキばかりは…」
ところどころ演出を見ているためフルウエイトではナイが、休みなく回しているにもかかわらず、スランプグラフは綺麗な下り坂を描いている。上向く気配は一向にない。
ART初当たりは3回引けているものの、いずれも大きな上乗せはなかった。
編集長「こんなデータ、編集になんて言って渡せばいいんだよ」
――「まあまあ、少しは上向くでしょうから」
設定6の不発など、特別珍しいことではない。ショールーム実戦でも度々起こるため、俺はすっかり慣れ切っていた。
一方、編集長が現役で編集をしていたのは4号機時代。「設定6はエクストラ」が当たり前の時代である。焦るのも無理はない。
俺は編集長の罵りを他人事のように聞き流しつつ、淡々とレバーを叩き続けた。
1時間後――
編集長「ちょ、ダメだ! 代われ! お前がメモれ!」
――「ええ!? はぁ…まあいいっスけど」
ART初当たりが1回増えたものの、華麗に駆け抜けて即座に終了。そこからまた400Gほどハマリ、限界に達した編集長がレバーを奪った。すると10分ほどでボーナス告知が発生!
編集長「ほれ見たか! こうやって当てんだよ!」
――「さすがっスね(棒)」
ボーナスからARTに突入したが、やはり上乗せはなく呆気なく終了。
編集長「ん~、たしかにちょっと難しいな」
――「まあまあ、あと1時間半ありますから」
編集長「だな。最後に大量上乗せして『取りきれませんでした』なら、どうにか恰好もつくだろう」
――「ですね。時間さえあればマクれた…みたいな感じで」
さらに1時間後――
編集長「おい…どーすんだ?」
――「いや、どうもこうも…」
設定6らしさが微塵も感じられない! ボーナス+ ART初当たりはたまに引けるものの、そこからの伸びが一切ナイ。 そしてART初当たり出現率も、決して良いとは言い難い。実際の確率は不明だが、体感的には「初当たりが重いうえ、ARTも駆け抜けばかり」といった印象だ。勝てる気がまるでしないのである。
設定6の不発など珍しくないとは言ったものの、さすがにここまで勝つビジョンが見えないのは珍しい。こうなると、自然と1つの疑念が生じる。
――「1に打ち間違えたんスかね?」
編集長「あー、それあるな…」
設定確認。
広報さん「どうされました?」
内線をかけると、1分もせずに広報さんが駆けつけた。
編集長「いや~、大変失礼なんですが、設定を確認させて頂けませんか?」
広報さん「設定? 6ですよね?」
編集長「そうなんですけど、コイツ(ラッシー)がポンコツなせいか大きく沈んでまして」
――「いやいや、アナタも半分打ってるじゃないっスか!」
スランプグラフをチラリと見て、笑みを浮かべる広報さん。
広報さん「んー、派手にやってますね~」
編集長「なので、大変失礼ですが念のため…」
広報さん「構いませんよ」
広報さんがドアを開け、俺と編集長は筐体前面の7セグを見つめた。そして設定キーが捻られると………
「6」
広報さん「これでよろしいですか?」
編集長「あっ、で…ですよね~」
設定を打ち間違えるケースは稀にある。今回もそのケースだと思ったのだが…。
――「大変失礼しました!」
広報さん「いえいえ、よくあるんでw」
これはなかなか気まずい状況である。自分たちのヒキ弱が原因で、無実の広報さんを疑ってしまったのだから。編集長が広報さんと冗談を言い合える仲だから、どうにか気を悪くされずに済みそうだが……
編集長「で、失礼ついでですが…この機種どうやったら出るんですw?」
――「ええっ!!?」
際どい!! これは日頃からコミュニケーションを取っていないとブッ込めない内容だ。メーカーによっては激ギレされてもおかしくない発言である。
編集長のことだ。当然、これくらいでは機嫌を損ねないと踏んでの発言だろう。
広報さん「出るって…〝なにが〟です?」
編集長「ですから、どうやったら勝てるのかと…」
広報さんは小首を傾げ、目を丸くしている。おどけているように見えるが…!?
広報さん「勝つ? プレイヤーが勝つということですか?」
編集長「そうです、そうです」
広報さん「ハハハ、勝てませんよw」
編集長&俺「えっ!?」
カイシャ。
広報さんは微笑みを湛えながら続けた。
広報さん「弊社は顧客であるホールを儲けさせてナンボ。ホールがお客さまなので、ホールのために台を作っているんです」
編集長「はぁ…」
広報さん「なので、プレイヤーが勝つことはありません!」
――「………(な、なんじゃそりゃ!!)」
編集長「…な、なるほどですね~」
広報さんの目からは、少しの迷いや悪意が感じられない。むしろ清々しさすら感じる。まるでそれを誇りとさえ思っているかのようだ。
編集長「じゃ、じゃあラッシー、そろそろお暇しようか」
――「そ、そうですね…」
広報さん「なにか質問等ございましたら、改めて後日…」
編集長「ありがとうございます。失礼します」
そそくさとコートを羽織り、傘を乱暴に握ってエレベーターに乗った。広報さんはホテルマンさながらの綺麗なお辞儀で我々を見送り、我々もお辞儀を返した。
雨は変わらず続いていた。しかし不思議と寒さはそこまで感じず、黙ったまま編集長と駅へ向かった。駅に着いて傘を畳むと、やっと編集長が口を開いた。
編集長「お前、見たか? ○○さんの目」
――「はい。一点の曇りもない、堂々とした目でした」
編集長「だな。ああもキッパリ言い切られたら」
――「なにも言うことないっスね」
この日までの俺は、少し「甘ちゃん」だったのかもしれない。メーカーはみな、プレイヤーのほうを向いている。プレイヤーのために機械を作っている。なんの根拠も疑いもなく、自然と読者の頃からそう思っていた。
しかし、そうではナイという事実を突き付けられた。冷静に考えれば自然なことだ。機械を買うのは我々プレイヤーではない。ホールなのだ。顧客が得するための商品を提供する。企業として至極当たり前のことである。
そうは理解しても、簡単には飲み込めなかった。俺は「パチスロを作る側」ではないけれど、メーカーはある種の仲間だと思っていた。だが、必ずしもそうではない。この事実はライターとしても、いちプレイヤーとしてもショックだった。
なお、この機種がリリースされてから数年後、このメーカーは無くなった。社名が変わったのでなく、文字通り無くなった。広報さんはメーカーの社員として間違っていないと思う。ただ、一緒に美味い酒が飲めるかと言われれば自信はない。
昨今はしっかりとプレイヤーのほうを向いているメーカーが多い。ファンイベントを開催したり、プレイヤーの意見を取り入れたり。やはり、結局はエンドユーザーを見ているメーカーが残るということなのだろう。
全てのメーカーが「客はホールであって、エンドユーザーではナイ」という考え方ではナイのだ。
プレイヤーのほうを向いていないメーカーは、長期稼働するような機械を作れない。結果として、直接的な客であるホールへの貢献もできない。もちろんホールが利益を上げることは大切だ。そうでなければ新台入替もできないし、設定だって入れられない。
俺は別に負けたって構わない。だがそれは、リスクに見合った面白さや〝勝てるかも〟といった夢があってこそ。せめて夢だけでも見させてほしい。そう思った取材だった。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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