パラレルワールド～パチスロ鉄拳2nd②～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

――「……ダメだ、打てそうな台が無え」

原稿を書き上げたのが13時。そこから昼食もとらずM店のイベントへ向かったが、案の定、すでに勝負はついていた。

――「やっぱ開店間に合わない時点で詰みか」

小さく吐き捨て、店内をダラダラと巡る。稼働率は極めて高く、よほどの機種でない限り空きはない。目算になるが、稼働率は95%程度だ。

ライターとスロプロの決定的な違いはココにある。言わずもがなスロプロはホール稼働がメインのため、本命のイベント日に他の予定が入っていることなどあり得ない。

対してライターは「仕事」がメインだ。いかにハズしたくないイベントがあろうとも、原稿執筆や動画出演の仕事が入れば、そちらを優先する必要がある。

当然「プライベートで打ちに行くから」と仕事を断ることも可能だ。しかし、それはすでに〝断っても構わない地位〟にいるか、逆に〝仕事での成功を求めない人物〟に限られる。

「使いにくいヤツ」の烙印が押されるため、俺のような立場ではプライベート優先など許されない。

――「もう少し早く仕事が終わればなぁ……」

M店のイベントに参戦しようと徹夜でキーボードを叩いたが、時は5号機ART～AT機時代の真っ只中。5号機時代到来以降、最も仕事が多い時代である。パチスロ攻略誌の編集・ライターは、誰もが寝る間も惜しんで働いていた。

ホールなら近隣にいくらでもある。期待値の高い台を求め、店移動を繰り返すのも手だ。しかし俺はM店を離れたくなかった。徹夜による眠気で移動が面倒という気持ちも正直あったが、それより〝あの機種にリベンジしたい〟という想いが強かった。

敗戦の傷。

10日前も同イベントに参戦し、見事なまでの敗北。狙った機種は「パチスロ鉄拳2nd」だった。

パチスロ鉄拳2ndの筐体

▲5号機「パチスロ鉄拳2nd」(山佐)

※機種の詳細は前回更新「ジャイアント・キリング」参照

デビュー当初から好きではあったが、すっかり旬が過ぎた最近も執拗に攻め続けている。子ども染みた思考で恥ずかしいが、俺は〝あの敗戦〟をずっと引きずっていた。

リーグ戦番組の最下位決定戦。負ければ番組降板という大一番で、俺は鉄拳2ndのプレミアART「デビルラッシュ」に捻じ込んだ。継続率が90％にも上るため勝利を確信したが、まさかの2セット終了で番組を降板する羽目に……。

1つの番組を降板した程度では、収入面に大きな影響はない。特に売れっ子の演者・ライターは、番組が1つ2つ減ったところで焦ることすらないだろう。

しかし「これから」の時期となると、のちに与える影響は計り知れない。この番組で多くの視聴者に顔を覚えてもらおう。そんな時期に、そのチャンスを逃してしまったわけである。

この上ない局面でプレミアARTに入れたのに……だ。

鉄拳2ndの設置店は徐々に減りつつあった。どんなに新機種がリリースされても、俺にとっては輝きを失わない名機のままだが、導入から時が経ち稼働は大きく落ち込んでいる。シマのまま残しているのは、近隣でM店だけだった。

言わずもがな鉄拳2ndのシマもフル稼働。今や鉄拳2ndに魅了された連中が遠方から打ちに来るまでになっていた。

ちなみに設置は4台で、イベント日なら設定5・6が投入される可能性も十分ある。今日はどうか……。全台のデータ表示器を睨みつけたが、まだ目立った台はナイ。開店から4時間半だ、まだ「今日はナイ」と断じるには早すぎる。

とりあえず休憩所で店移動するかどうかを考えよう。そう思ったが……。

――「えっ!?」

目の前で1台が空き台に!　再度データ表示器をチェックすると、総ゲーム数は3,200G程度。ボーナス出現率はシマでトップだが、初当りと思しきARTは6回(約1/533.3)だ。

【パチスロ鉄拳2nd】 ART初当たり出現率
設定1	1/566.5
設定2	1/493.7
設定3	1/540.4
設定4	1/460.0
設定5	1/510.2
設定6	1/441.3

データ表示器から的確に設定を予想できるほど簡単な機種ではナイが、ART初当りから察するに、どちらかといえば奇数設定の雰囲気だ。

現在、鉄拳2ndのシマに〝当たり(設定5・6)〟らしき台はない。ほかの台も3,000G以上回っているのだから、現実的に考えて本日6を使っている可能性は低い。しかし、5であれば可能性はまだある。この台もまだ……。

相当ユルめの根拠だが、この頃の俺は無理に理由を付けてでも鉄拳2ndを打ちたかった。さすがにヒラ日(通常営業日)では打てないが、イベント日なら少なからずツモれる可能性がある。

仮にツモってもプライベートだ。せいぜいコラムのネタにできる程度で、ただの自己満足にすぎない。しかし、鉄拳2ndを満足に打てる時期はそろそろ終わる。

きっと後世まで語り継がれるボーナス＋ART機の名機になるだろう。苦い思い出のまま終わりたくはなかった。

ざわつく胸中。

――「チッ、またこの展開かよ……」

データ表示器の現在のゲーム数は900Gを超えた。ボーナス後すぐから打ち始め、なにもないまま1時間半が過ぎようとしている。投資は28,000円にも達した。

少しだけ設定差がある弱チェリー・スイカ出現率は、いずれも設定1のそれを下回っている。もはや高設定の可能性など微塵も感じられない。奇数設定の低め。すなわち……

「デューイーン、デューイーン、デューイン♪」
――「………はぁぁぁぁぁぁ～」

左角の台から発せられた激しい上乗せ音が鼓膜とみぞおちに突き刺さり、深く大きい溜め息が漏れた。鉄拳2ndのシマに当たりがあるとすれば左角だろう。確定画面こそ出ていないが、この1時間半でメキメキと頭角を現し、順調に出玉を伸ばしている。

対する俺の台は、テコでも動かない雰囲気だ。とっくに天井を意識しているが、そう易々と到達できるわけがない。

天井の条件と恩恵
ボーナス間で1,400Gハマると、前兆を経由してプレミアART「デビルラッシュ」に突入。デビルラッシュは1セット10～50Gで、その継続率は90％にも上る。さらに消化中はデビルラッシュゲーム数の上乗せ抽選のほか、通常ART「鉄拳ラッシュ」のゲーム数・セット数上乗せ抽選も行われる。突入時の期待獲得枚数は約2,500枚。

天井直前で当たり「打たなきゃよかった」と後悔する未来が見える。いや、仮に到達したとしても、また〝あの時〟みたいにデビルラッシュが即終了するのでは……!?

天井が近づくにつれ、徐々に激しくなる動悸。総投資が30,000円を過ぎたところでレア役からARTを射止めたが、ボーナスには繋がらず、天井までのゲーム数は継続。お陰で天井までの投資スピードは緩んだが、そんな小さなことで喜べる状況ではない。

残り300G…

残り200G…

残り100G…

総投資は40,000円を超えた。天井までの正確なゲーム数は内蔵データで確認可能だが、もはや怖くて見る気も起きない。姿勢を変えることすら憚られる緊張感である。

残り50G…

残り30G…

悪魔の恐ろしさ。

――「キタ！」

数ゲームにわたり明らかな前兆挙動を確認し、天井到達を確信した。同じく鉄拳2ndを打つ周囲の客もそれに気付いたようで、チラチラと俺の様子を気にしている。

総投資43,000円でやっとデビルラッシュが発動。どよめく鉄拳2ndのシマ。期待獲得枚数は2,500枚だから、人並み程度の展開なら投資分を回収できる。

今回はプライベートだ。番組降板を賭けた〝あの時〟ほどの緊張はない。仮に短く終わっても、俺には才能がないと笑えばいい。肺がいっぱいになるまで深く息を吸い、レバーを叩いた――

トラウマになりつつある2セット目も無事に継続。しかし、気は抜けない。継続期待度が90％なのだから、せめて平均の10セットまでは粘りたい。

3セット、4セット、5セット……と、危なげなく継続。が、通常のART「鉄拳ラッシュ」のゲーム数上乗せは小さい。デビルラッシュが継続しているうちに、いかに鉄拳ラッシュゲーム数を上乗せできるかが超ロングARTへのカギとなる。

8セット、9セット……そして平均の10セットを超えても、まだまだ終わる気配はない。「こういうことは収録でやってくれよ」。内心そう思った。もう平均を超えているのだ、いつ終わっても納得はできる。もちろん投資分だけでなく、大きくプラスになれば嬉しいが……。

18セット、19セット、20セット…… まだまだ終わらない。相変わらず鉄拳ラッシュの上乗せは小さいが、累計はさすがに＋100Gを超えている。それでも大事故とは言い難い。おそらく平均獲得枚数は超えられるだろうが、まだ騒ぐほどの状況ではない。そう冷静さを保ちつつレバーを叩き続ける。

28セット、29セット、30セット…… まだ終わらない!!　周囲の客もコソコソ見るのをヤメ、しっかり手を止め俺のデビルラッシュを見守っている。そして―――

――「あ？ヤバ……ああ～」

デビルラッシュは39連で終了し、通常ART「鉄拳ラッシュへ」。その残りゲーム数は360G!!

――「頑張った……頑張ったよ、俺！」
隣の客「いや～、長かったスね～」

――「ありがとうございます」

途中で引いたボーナスはノーマルBIG2回のみで、現在の枚数は1,000枚強。ARTの純増は約1.7枚/Gといわれているが、これまでの経験からもう少し低いと思っている。

それでも360Gもあれば上乗せやボーナスが絡むハズ。デビルラッシュ初当り時の期待獲得枚数は軽く超えられるだろう。目指すは3,000枚！そこまで到達できれば、あの敗戦の傷も癒えるに違いない。

頼むぜ鉄拳2nd。
やっぱり大好きだと言わせてくれっ―――!!

パラレルワールド。

店員「はい、手を止めてくださ～い」
――「………はい」

鉄拳ラッシュ後の鉄拳チャンス(CZや引き戻しゾーンのようなもの)中に閉店終了。そう、あのデビルラッシュきっかけで始まったARTが、なんと閉店まで続いたのである!!

360Gからスタートした鉄拳ラッシュは、ゲーム数が減るどころか3ケタ上乗せが頻発し、残りゲーム数は一時1,000G超にまで膨れ上がった！「これは万枚だな」などと思ったりもしたが、遠く及ばす7,200枚を突破したところで閉店となった。

それでも俺は感動で震えていた。

ハイスペックではない鉄拳2ndの推定低設定で、まさか7,000枚も出す日が訪れるとは!!　これまで鉄拳2ndの最高出玉は3,000枚程度。高設定をツモったうえに特化ゾーンにブチ込んでも、約3,000枚が限界だった。なのに……

高設定狙いの失敗からこんなに出るとは!!

最下位決定戦のあの時は、あんなに強く願ったのに2連で終わったデビルラッシュ。なのに、ユルく打ち始めた今日は39連し7,000枚OVER。

パチスロとは、なんと気まぐれなものか。

最下位決定戦でこの出玉を叩き出せていれば、俺の未来は少しだけ変わっていたかもしれない。でも、それを成せないのが〝俺〟のような気もしていた。

ともあれ俺は、この一戦で鉄拳2ndに惚れ直した。すでに爆裂AT機時代に移行しつつあったが、以降も俺はイベントのたび鉄拳2ndを追い続けることになる。

この日から数年後、鉄拳2ndで2万枚を出した猛者がいるとのウワサを耳にした。俺のような凡人には、なにがどうなればそんなことが起こるのか想像すらできない。もはや嫉妬の念も抱けない。

世の中には理解を超えた〝バケモノ〟が存在するのである。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。