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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2022.07.05
破壊の呪文~人生で一番効いた言葉~
ビルの谷間から差し込む光は、瞼の奥に鈍い痛みを与えた。それを嫌って、なるべく木陰を選んで進む。
通勤・通学の人の波に逆らって歩くと、まるで自分だけが社会不適合者のような気がした。いや、そんな劣等感など、とっくに慣れきっているのだが。
ボストンバッグに引かれ、上半身はみっともなく斜めに傾いている。しかし、しゃんと立つ気力もなかった。とにかく早くベッドに潜り込みたい。その一心で黙々と歩いた。駅から自宅までのいつもの道が、ひどく遠く感じる。
案の定、自宅マンションのドアも普段より重かった。もともと風圧で重くなりがちだが、きっと疲れのせいだろう。「ふんっ」と力いっぱいドアを開けると、カギを開ける音で察したのだろう。玄関にカミさんと娘の姿があった。
カミさん「おかえり~」
娘「ぱぱ、いやっしゃ~い」
――「ただいま~」
家に着いたらどう笑顔を作ろうかと考えていたが、そんな必要はなかった。どうやら父親というものは、こんなに疲れ切っていても自然と笑うものらしい。
パパ。
リビングにはたくさんのオモチャが転がっていた。朝食が終わり、これから遊ぶところだったらしい。俺は座ることもせず、ボストンバッグから山のような洗濯物を取り出した。
おそらく座ったが最後、立ち上がるには相当な気力が必要になるだろう。それに4日ぶりに会った娘を撫でるために、まずは手をキレイに洗う必要がある。
娘「ぱぱ、あしょぼ?」
カミさん「マナ(仮名)ちゃん、パパ疲れてるんだよ~」
――「ゴメンね~。パパ、今から〝ねんね〟するんだ~」
娘「ややなの! いっしょあしょぶ!」
――「ゴメンね~。パパ起きたら一緒あそぼ?」
娘「ややなの~。いっしょあ~しょ~び~た~い」
――「ん~、ゴメンゴメン!」
ジーンズのポケットを掴む娘。それを引きずるように洗面所へ向かった。洗濯物を雑にカゴへと放り込み、すぐさま洗面台へ。鏡に映った顔には、大きなクマが浮かんでいた。
――「いや~、ヒデえツラだな」
娘「ぱ~ぱ、どしたの?」
――「いやいや、なんでもない!」
下品な言葉を使ったことに気付き、慌てて笑顔でごまかした。ハンドソープでキレイに手を洗い、脂が浮いた顔も洗顔フォームを使って丁寧に洗った。これでやっと娘を触る権利を得る。
少しかがんで娘の頭をワシワシと撫でた。少し前まで細い繊維のようだった髪が、太くたくましくなったように感じる。背も伸びたような気がしたが、さすがに4日程度では変わらないだろう。
――「おりこうにお留守番できた?」
娘「うん! ままとなかよししてた」
――「そうなんだ! まーちゃん、えらいえらいだね」
娘「うん! だからあしょぼ?」
――「そうだね! パパ、一旦〝ねんね〟してからね」
娘「ややなの! いまあしょぶの!!」
カミさん「まーちゃん、パパ疲れてるからあとでね」
――「ごめんね。夕方になったら遊ぼう」
カミさんに引きはがされた娘は、不服そうに頬を膨らませている。娘が怒るのも無理はない。最近の俺は、とてもじゃないが〝いいパパ〟をできていない。
バブルの余韻。
どうやら〝ライターバブル〟とやらは、とっくに弾けているらしい。まるで他人事のようなのは、さほど恩恵を受けたという自覚がないためである。
俺の仕事の中で来店や収録が占める割合は、最盛期でも5%未満。95%以上はバブル前と変わらず、原稿の執筆や誌面・小冊子の編集が占めていた。そんな俺にも来店の依頼があったのだから、一応はバブルの恩恵を授かったことになるだろう。
この頃はボーナス+ART機からAT機へと移行する時期で、我々のような攻略ライターの仕事は多かった。言うなれば〝バブルの余韻〟のような時期である。月刊攻略誌の原稿を書くだけでも十分喰えたが、特集本(通称:一冊本)や雑誌の特別号の編集業務も積極的に受けた。
身を粉にして働く理由は書くまでもない。60歳まで組んだローンを返す必要があるし、家族にも苦労をかけたくなかった。俺がこの仕事をしているせいで、金銭的に困るようなことがあってはならない。
俺のワガママで家族をこの仕事に付き合わせている。せめてもの罪滅ぼしに、少しはゆとりのある生活を送らせてやりたい。そんな考えから、少々無茶なスケジュールでも貪欲に仕事を受けていた。
収入には満足している。もちろん業界の第一線で活躍する著名なライター・タレントからすれば鼻で笑われる額ではあるが、それでも身の丈に合った範囲の中では、よくやっていると思っていた。
それをカミさんも理解しているようで、4日ぶりの帰宅にも文句一つ言いやしない。理解あるカミさんでよかったと心底思った。
しかし、娘にとってはどうか。 夜になっても帰ってこず、休日に一緒に遊びにいくことも叶わない。そんな俺を、ちゃんと父親だと認識しているのだろうか――。
ライターの日常。
カミさん「シャワーは?」
――「昨日、ビデボで浴びたから大丈夫。起きたらまた浴びるよ」
カミさん「そう。ご飯は? お母さんが炊き込み置いてってくれたんだ」
――「そうか、お義母さん昨日帰ったんだっけ?」
カミさん「そうそう。マナ、ばあば帰らないでって大変だったんだから」
――「そう……あとで起きたら電話するよ」
お義母さんはカミさんと娘を心配し、頻繁に金沢から来てくれている。口には出さないが、あまり家にいない俺を、よくは思っていないハズだ。
――「炊き込みは起きたらいただくよ」
カミさん「分かった。何時に起こせばいい?」
焦点の合わない目で壁掛け時計を睨んだ。現在時刻は8時をまわったところ。普段なら5時間も寝られれば御の字だが、連日の仕事疲れですんなり起きられる自信がない。
――「う~ん、15時に起こして。20時には編集部向かうから」
カミさん「あら、大変ね。分かった!」
できれば夜まで寝ていたいが、娘と遊ぶ約束がある。せめて帰ってきたときくらいは、父親らしい姿を見せねばなるまい。
――「じゃあ、おやすみなさい」
カミさん「おやすみ~」
娘「おやしみ~」
一人で寝室に向かった。案の定、ベッドに入るとアラームをかける間もなく一瞬で眠りに落ちた。
ダメな父親。
娘「ぱぱ、おちて~! おちて~」
――「ん、んん~」
娘「ごはんのじかんですよ~、おちて~」
――「いでで、いでででで……」
娘は優しくさすっているつもりのようだが、子どもの力は意外と強い。おそらく力加減が分からないのだろう。ギュウゥゥ…と力いっぱい押し込むように、両手で体重を乗せてくる。たまらず目を開けた。
――「ありがとありがと! 起きた、もう起きたから」
娘「ごはんのじかんですよ~」
――「ごはんのじかん?」
メガネをかけて時計を見ると、すでに16時近かった。
――「やば、結構寝ちゃったな」
娘「きっちんいくよー」
――「キッチン?」
どうやら〝おままごと〟をしたいらしい。手を引かれるままついていく。
カミさん「ごめん、起こすの遅くなっちゃった。ご飯は?」
――「う~ん、まだ大丈夫」
お腹は空いたが、まずは娘に付き合わなけらばならない。促されるまま木製のキッチンの前に座った。調理台の上にはA先輩からお祝いとしていただいた、これまた木製の野菜・果物セットが準備されている。
野菜や果物は各々2つに分かれているが、内蔵されたマグネットで強く繋がっている。
娘「じゃあ、さらだからつくるね」
――「ありがとう」
木製の包丁で、野菜と果物をトントンと切る。黙々と作業を行う小さな背中を、あぐらをかきながらボーっと見つめた。
娘「ぱぱ! ねないで!!」
――「んー? 寝てないよ」
娘のためにと夕方までに起きたが、やはり数日にわたりチカラを貯め込んだ睡魔は強力だ。8時間弱は寝たはずだが、まだ寝足りないらしい。
娘「ぱ~ぱ! 目開けて!!」
――「ゴメンゴメン、大丈夫」
娘「はい、さらだできたよ」
――「ありがとう! いただきまーす」
ボウルに乱暴に盛りつけられた野菜と果物のサラダ。食べるふりをして、少しずつ体の横にポロポロと落としていく。
――「ごちそうさまでした! おいしかった」
娘「じゃあ、つぎははんばーぐね!」
――「ありがとう! じゃあ焼きあがるまで寝て待ちます」
娘「だめ! ねないで!! やくとこみてて」
――「うん、見てる見てる……み……てる」
娘「ねないで! おきなさい!!」
こんな時間が1時間ほど続き、娘がひと通り満足すると仕事の準備をはじめた。予定は1泊2日。校了作業さえ終えれば帰ってこられるハズだ。まあ、明日の夜からは、また別の原稿が待っているのだが。
オーバーキル。
シャワーを浴びて身支度を整え、19時からは久々に家族と食卓を囲んだ。こんな生活を送っているが、可能な限り家族全員で手を合わせ「いただきます」を言いたい。そんな希望を、カミさんはしっかり理解してくれている。
人と話しながらの食事は久しぶりだった。娘は拙いながらも、俺がいなかった間のことを話してくれた。ばあばと行った教育番組のイベントのこと。公園で仲良くなった子のこと。俺がいない間に、どんどん思い出が形成されているらしい。
本音を言えば少し寂しいが、この時期に仕事のペースを緩めるわけにはいかない。来店や収録に引っ張りだこだったスターたちでさえ、収入は減少傾向にある。俺のようなタレント性の低いライターが喰っていくには、地道に原稿執筆と編集を続けていくしかない。
楽しい食事の時間はあっという間に過ぎ、また出掛ける時間が訪れた。俺がリュックを背負うと、カミさんと娘が玄関まで見送りに来てくれた。
カミさん「お帰りは明日だったね?」
――「その予定。明後日の朝には〆切あるからね」
カミさん「分かった」
――「じゃあね、マナちゃん。おやすみなさい」
俺は別れを惜しむように娘の頭を撫でた。
カミさん「ほら、マナちゃん。パパにいってらっしゃいして」
娘「ぱぱ、またあそびにきてね!!」
――「えっ……!?」
雷に打たれたような衝撃を受け、俺は玄関に立ち尽くした。『またあそびにきてね』。まるで遠くに住む隠し子のような口ぶりだ。
カミさん「ま、マナちゃん。パパのお家もここなのよ?」
――「そ、そうだよ! パパはマナと住んでるんだよ!」
娘は不思議そうに首をかしげている。その様子を見て確信した。
『ぱぱは、たまにあそびにくるおにいさん』
どうやら娘は、そう認識しているようだ!!
――「うそ……違う。パパはマナと一緒に住んでるんだよ!」
カミさん「そうだよ! ちょっと忙しくてお出かけが多いだけだから」
娘「………」
娘は少し困ったように首をかしげ、カミさんの後ろに隠れた。どうやら理解が追いついていないらしい。
カミさん「ほら、パパにいってらっしゃいは?」
娘「………」
――「……もう、電車乗らなきゃだから行くね」
カミさん「うん……気をつけて」
――「いってきます」
力なく呟いて部屋を出た。そっとドアを閉め、とぼとぼとエレベーターへ向かう。懸念した通りだった。娘はパパと住んでいるという認識がない!
娘と住むために買ったマンション。それなのに……
俺は「夢中で働くことこそ家族のため」だと思っていた。いや、正直に言えば内心どこかで「父親として大事なものを失っている」という感覚はあった。
それでも無理矢理「忙しいは正義!」と自分に言い聞かせ、見て見ぬふりをしていた。その代償が、遂に形になって表れた。
辞めよう。
編集部に出向いてやる仕事はもうヤメだ。取材や収録は仕方ないとして、あとは在宅でできる業務に絞ろう。そうでないと、子どもの1番カワイイ時期を見逃してしまう。そして、パパとの思い出がない子に育ってしまう。
俺みたいな脇役が仕事を選んでいい立場なのかとは思ったが、それでも意思は固まった。ちゃんとパパとして認識されたい! カッコよくなくてもいい。ごく普通のパパでいい。
すっかり涼しくなった夜道を、また人の流れに逆らって歩いた。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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