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パチンコパチスロ小説
2023.10.31
パチスロ青春小説 マーベリック 第34章「ホールvs打ち手、真の戦い」
【登場人物】
エリート
店のクセを見抜いて状況を瞬時に読み取る、仲間を率いる若き司令塔
キャバ
美貌と強運をあわせ持つ紅一点、破天荒ながら3人をつなげるムードメーカー
ヲタ
驚異的な記憶力と忍耐力を持つ、彼らの稼働と収支を支える執念の獣
【前回までのあらすじ】
グランドリニューアル側で行動していた一行がキャバと合流する。
再会を喜び合ってたのも束の間、自暴自棄になった店長が車を暴走させて浅野が巻き込まれてしまう。
その夜、キャバはエリートにあの事件の時に何があったかを明かしたのだった。
「大丈夫よ、てっきり死んじゃったかと思ってあの時は取り乱しちゃってごめんね。当たり所が良かったみたいで、気を失ってたけどMRI検査も受けて異状なかったし。いろんなとこ打撲してたりヒビ入ってたりするけど、本人は痛がってるだけでピンピンしてるから気にしなくていいわよ。たぶん、あなた達をたぶらかした罰が当たったのね。楽しんでらっしゃい」
病院で夫の容態を見守り続けていた真由美から早朝に連絡があり、浅野の無事が知らされて心残りなくホールに向かうことができた。
グランドリニューアル2日目。やっとこの日が来た。
エリート、ヲタ、キャバの3人がウィークリーマンションからタクシーで到着すると、ホール前には明らかに昨日より多くの客であふれていた。
その中心には花魁姿のビス子の姿があり、ファンたちに囲まれてサインや写真撮影の対応をしている。
ただ、今日はそれだけではない。ビス子の経営するfebbrileの演者たちが社員旅行──という名目で勢ぞろいして来店しており、抽選前の駐車場はコミケのコスプレ広場のような様相を呈している。
それでも日付が変わってから一気に各演者がSNSで具体的な店名を公開したので、今いるのは事前に察したか情報に間に合って駆け付けた地元系の客だけに過ぎない。これも午後になれば他店舗で設定にあぶれた打ち手が押し寄せてくるだろう。
キャバが遠くからビス子に手を振って見せる。ビス子はそれに気付くとキャバのショートヘアに驚いていたが、手を振り返して軽くウィンクするとファン対応へと戻った。
ビス子も昨日から今朝にかけての顛末はすべて知っている。
その上で、今日はビス子たちは集客とファンサービスに努め、エリートたちもそれを意識することなく3人で攻める。昨日で害虫駆除は終わったのだ。
「アタシはもう打てればそれだけで大満足なんだけど、やっぱり作戦はナシ?」
キャバは久しぶりの稼働で昂ぶりが止められない様子だった。
「無いな。昨日の全系を外すというのはあるが、それさえ何の保証もない。全系の翌日を2分の1にしたり、1台だけ残すというのも常套手段だ」
「……クセや流れは……リセットされたようなものだから」
エリートの言葉にヲタも同意する。
「本当だったら……3人とも最初は見の方がいい……」
「いーや、絶対にいや! 打つったら打つの!」
「……キャバ……痛い」
反抗の証としてキャバは背後から両手でヲタの頬を引っ張る。
「さすがに今日は朝イチからキャバは座っていい、そこまで僕も鬼じゃない。ヲタと僕も散って、取れるなら台は取った方がいいだろう」
「……それは?」
「想定より客が多い。それに日出会館も今日は営業できないだろうし、ビス子さん効果で午後も打ち手は減らないだろうから、朝イチは全員座ろう」
「それってオーダー無しってこと?」
キャバはヲタの頬から手を放してエリートに尋ねた。
「最初から全員がオーダー、実質的には情報共有するピン打ちの感覚で。素人臭いが今日はそれがベストだろう。プラン無しがプランということで」
「たしかに……それが俺たちの……唯一のアドバンテージだろう」
それは昨晩に遡る。
コンビニに出かけたエリートとキャバがウィークリーマンションに戻ると、待っていたのはヲタだけでなくもう1人、警察署からの帰りに立ち寄った瀬戸口の姿があった。
浅野が店長の神内によって轢かれ、神内はさらにその車でホールに突っ込み今回の件の黒幕である漆原に復讐の一撃を決めた──のだが、そんな事情を警察は知らない。
放っておいたら“我が社の社員がライバル店で縦横無尽の大暴れをしました”で終わってしまうわけで、瀬戸口は自ら警察に出頭してひたすら事情説明をしてきたのだ。
そしてそれは明日のグランドリニューアル2日目も続くとのことだった。
だが、それを話すためだけ直接会いに来る必要もない。
瀬戸口が訪問してきたのは
『明日は最初の約束通り、戦える舞台を用意する。ただし俺は話した通り動けないので、全ては副店長に任せてある』
ということをわざわざ伝えに来たのだ。
つまりこれは、グランドリニューアル初日は瀬戸口が設定を組んだが明日は事情が違うよ、というメッセージだ。
これは瀬戸口の矜持であり、彼から送られた許される範囲でのお礼でもあった。
抽選が終わり3人で集まる。
東京で打っている時は、できるだけ軍団やグループにばれるのを避けるために互いに離れてラインで連絡を取り合っていた。
だが、ここではそんなことは気にせず、周囲に声が漏れることもいとわないで会話していた。目立つことの危険性やそうなった時のリスクが少ないというのもあったが、それよりも“そんなことより大切なこともある”という意識が3人の間に自然と芽生えたからだった。
そして今までとの大きな違いは、ヲタが宇都宮に滞在し続けて地元の常連や専業たちと少ないながらもコミュニケーションを取っていることだ。
ヲタは今日も何人かの打ち手たちに声を掛けられ、朴訥ながら予想や支障のないレベルでの情報を話している。
それはヲタの店選びや立ち回りが周囲に一目置かれていることや、えげつない台確保やエナ周りをせず時には他の打ち手に台を譲っていることなどが評価されてのことだった。
ヲタの方から積極的に話しかけることはなかったが、以前までただよわせていた他人を寄せ付けないオーラのようなものが薄れたこともあるだろう。
「エリート……昨日は今までと全然傾向が違っていて困ってる……と専業たちが言ってた……公式サイトやSNSも更新はされているがヒントらしきものも見つからない……と嘆いてる」
情報とも言えない情報をヲタが口にする。それでもエリートは深くうなずいた。
「そうだろうな。昨日は結果的に裏をかく設定にせざるを得なかったから、常連たちも頭を抱えただろう。そのクセに配分は強いのだからたちが悪い。ただ、あまり裏切りすぎると客足が遠のき、せっかく入れた高設定も打たれなくなる」
「ふ~ん、どんな感じなんだろ」
キャバは気になってスマホでツイッターを開く。
『本日はグランドリニューアル2日目! 昨日はたくさんのお客様の笑顔をいただき、当店も大満足です。昨日のスーパーな景色に負けないよう、今日はパワーアップしたプライムな姿をお見せできればと従業員一同お待ちしております!』
「たしかに何もないね。がんばりまーす、って言ってるだけ」
「分かりやすくするために全系はやるだろうが、それだけとも思えない──いや、そういった思い込みも危険か?」
「ヲタくんみたく当たり台空くのアタシは待てないしな~」
「最近は……いくら遠くからでもガン張りするのは避けてる……もっと視野を広げた方がいいし店や他の客にもイメージが悪い」
「じゃあ、どんな感じでがんばってるの?」
「……今までより台と人を覚えることに集中している……それで駄目なら……無理はしない」
「ヲタくんがまた大人になっていくな~エリちゃんは?」
「できることをやるだけだな。データや挙動を見て、法則性を見い出してリスクリターンが伴うなら戦いの場に立つ。僕はヲタのような能力やセンス──嗅覚みたいなものはない」
「ねえねえ、じゃあアタシは?」
「キャバは……天才型」
「コミュ能力の高い天才は無敵だ。正直、嫉妬する」
ヲタとエリート、2人の評価にキャバは口をとがらせた。
「何それ、褒められてる感じしな~い」
エリートが肩をすくめ、ヲタがわずかな苦笑いを浮かべていると、再整列の時間になり群衆が動き出した。
開店後、数時間。
「どや、楽しんでますのん?」
エリートが通路を歩いてると、背後から京都弁で声をかけられた。
振り向くと花魁の姿。
演者として営業中のビス子が、こちらを見て小さく手を振っていた。
エリートは気付いて歩み寄ろうとしたが、ビス子だけで通路の横幅が占められてしまっていたので、反対側の島端に出てビス子の方から近付いてくるのを待った。
常に周囲の目を集め続けるビス子は、数歩歩くごとに声をかけられたり握手を求められたりしている。ホールの中に入った演者は意外に遠巻きにされて孤立するものだが、ビス子は例外のようだ。
ビス子は通路を抜けてようやくエリートの待つ島端にたどり着くと、煙管をまな板帯に差して手で顔を仰いだ。
「お疲れ様です。今日は打たれないのですか?」
エリートから差し出したされた手に当たり前のように指を添えると、それを支えに近くの休憩用の椅子に腰かけた。
「今日のうちらは客寄せパンダどす。空き具合によっては打つけど、たぶん必要あらへんやろ。それより、あんたはもうお茶を挽いてるんどすか?」
「僕はこれが平常運転です。ただ、楽しんでいるかと聞かれれば、今のこの環境を楽しんではいますね」
そう言いながらビス子の隣に座るエリートの表情は、憑き物が取れたように晴れやかだった。
「ほお、そらええこっとすなぁ。遊びでも仕事でも、楽しいのが一番どす」
「正直、今日は楽しんだ上でできれば勝ちたい、という気持ちです。勝つことが楽しいという僕の信条とは異なりますが」
「そうどすなぁ、やっぱし勝負事やさかい勝ちを目指すのは当然どす」
「ただ、全系こそ怪しいのはもう見えてますが、それだけとは思えないし、あとは分からないんですよ。確定系もいくつか目撃できて、情報も入ってきてるのですが」
「もう少しくわしゅう聞かしてもらえると嬉しおす」
「あえて言えば、台番号が若い方が強く見えるのですが。まるでサイコロ振って決められたような感じですね」
「やけど、そらおもろないどすなぁ」
「何か仕掛けているとは思うのですが──失礼、連絡が」
エリートがスマホの通知に気付いて立ち上がる。
「ええどすよ、早う行っとぉくれやす」
一礼をすると、エリートは早足で島中へと向かっていった。
それを見届けたビス子はまな板帯に差していた煙管を手にして口にくわえる。
(そうよね、私から見てもそんな感じだもん。若人たちよ、がんばれ~)
若気の至りか勢いか、気持ちの赴くまま渦中に飛び込んでいった若者たちが自らの力で勝ち取った場所。そこでもがき苦しむ姿をビス子は温かく見守り、胸の中でエールを贈った。
「これ意外に面白いね♪ 2400枚で終わっちゃうの残念だけど、このツブツブも戦コレとかウマ子の台みたいなシナリオだし、それもレア役で何とかなる感あるし」
「……キャバが楽しそうで……俺も嬉しいよ」
朝から座った絆2が絶好調のキャバは、上機嫌でヲタから渡されたスマホをサイド液晶に映されたQRコードにかざした。
「これも面白いよね、ミッションのクリア具合で前回テーブルが分かるのって。たしかオリ平にそんなのがあったような?」
「銭形……かな……俺はその頃は打ってないから後から知ったけど……」
「でもさ、テーブル分かったとして設定判別できる? もう4以上は確定してるけど」
キャバは最初のBT初当たりでロングランし、いきなり枚数による完走が確定した。
その連絡があった時、ヲタはあわてて駆け付けてストックがある事を確認し、わざとベルをこぼして枚数調整して設定示唆画面のサンプルを稼ぐことを教えた。
その結果、運よく女性キャラ集合の画面を出すことができたのだった。
「判別は……確定系以外は難しい……推測もだけど……」
「打ちながら調べたけど、裏ストックとか超高15Gとかいろいろあるのね。ステージチェンジにレア役が絡んだりしたG数を数えながら、モードや契機をアレコレ考えるのも面白そう。あと、謎当たりとか赤LEDハズレとか初代からのもあるし」
「モードC以下のBT当選で初戦の絆高確の多さとか……いや……もういいか。テーブルも小役も押し引きには使えないし……たぶん絆2は全系だろうし……もうキャバが好きなだけ打てばいい」
「うん、そうする! アタシ頑張っていっぱい出すから、男の子軍団も好きに打っていいからね♪」
「……がんばる」
キャバから激励と共に自分のスマホを渡され、ヲタは気まずそうに徘徊へと戻っていった。
それは、キャバの朝イチツモが結果的に全系だったというだけで、他2人はスカってから台を離れて打てないでいからだった。
エリートと話しあったわけではないが、ヲタも今日は勝利至上主義でなくても構わないと内心思っていた。特に最初のうちはキャバがツモって楽しそうに打っているのを見て満足できた。
しかし、時間が刻々と経過する中で自分が打てず、高設定にたどり着けない状況が続くと胸の中がモヤモヤしてきた。
自分だけならそんなことは気にしない。宇都宮にしばらく滞在してピンで打ち続けている時は、たとえツモれなくても早めに切り上げてデータ収集や下見をするだけでストレスは感じなかったのだ。
普通に東京で打っているだけならあり得なかった数々の経験をして、こうしてやっと久しぶりに3人で組んでリベンジの舞台に立てたのに何の力にもなれないのは嫌だ。
それに俺は生きるための金を稼ぐためにパチスロを打っているのだ。
仲間のため、自分のため、生きるため。
いくつもの想いがヲタの中に交錯して、諦めることを拒絶していた。
(分からない時は、もう一度いま分かることを確かめて整理しよう)
自分の中に浮かぶ仮説を頭からすべて捨て去って、ヲタはパチスロ島を歩いて高設定と思わしき台を1台1台確認して記憶していく。
その途中で、ヲタは意外な人物に肩を叩かれた。
「よっ、昨日はその……ありがとな、止めてくれて」
それは昨日まで城之内の下で打ち子グループの親を務め、ヲタに一目置いて何かと頼っていた男だった。
「あれから城之内さんと一切連絡取れなくてよ……あのまま金突っ込んでたら破産してたわ。それでもだいぶ喰らったけどな」
ヲタはふと気になって尋ねた。
「そうか……大変だったな……貯玉は交換したのか?」
「いや、怖くなってもう触ってない」
「……それがいい」
交換しに行って足が付き、警察に捕まる必要もない。城之内以外の人間が必要以上の罰を受ける必要も無いだろう、とヲタは胸を撫でおろした。
「ところでさ、今日って本当に設定入ってる台メチャクチャじゃねえか? 全系は絆2だろうけど、他はバラバラで角とかの場所でもないし。末尾が奇数っぽい気がするけどハズレもあるし、機種1ってわけでもないし、不規則でわけわかんねえよ。ツイッターでもスーパーとかプライムとか意味ねえことしか言ってねえし」
自分が感じていたことは、この男も分かっている。
ならば、それを超える何かに気付かなければならない。
「そうだな……もし何か分かったら教える」
「ああ、マジで頼む!」
元親の男は両手を合わせてヲタに頼み込むと、良さげな空台はないか探しに行った。
ヲタはもう一度、台の確認に戻る。
機種、位置、台番号を丹念に記憶する作業を続けていき、それはパチスロ島の端から端まで行われた。
たしかに当てはまるような規則性は見当たらない、が──
(……奇数……不規則?)
ヲタはどこかに引っ掛かりを覚えて、もう一度島を巡る。
──!
その引っ掛かりがおぼろげに形となっていく。
(これ、どこかで……)
ヲタはつかみかけた何かを確かめるために、エリートのもとへ急いだ。
次回予告
ホール側の仕掛けを見抜く3人。
その姿は、見守る大人たちにも影響を与えていた。
次回「気付くこと、気付かせること、それが“仕掛け”」。
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- じく
- 代表作:パチスロ青春小説「マーベリック ─ホールの異端児たち─」、遊技林、ゆる調
元ゲームメーカー勤務、現在フリー。前職ではシナリオ・マニュアル・キャッチコピーなどのライターとして過ごし、パチスロを題材とした小説も執筆している。
e-sports系やMリーグ観戦が大好き、たまにTwitchで雀魂やウマ娘やフロムゲーを配信したりもするスロ系でもありゲーム系でもあるオジサンです。
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