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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.08.29
痛恨のミス~パチスロ蒼穹のファフナー②~
枕元の昭和レトロな置時計に目をやると、午前9時を少し回った頃だった。今にもオバケが出そうな室内を、忘れ物がないか指さし確認して回る。すでにまとめた荷物を肩に担いで、建付けの悪いドアを開けた。
廊下はホラーゲームのそれのように薄暗い。キュッキュと寂しげに鳴くエレベーターで1階に降りた。フロントにカギを置くと、空耳を疑うボリュームの「ありがとうございました」が微かに聞こえた。このユルい接客も気に入っている。
このホテルにも慣れたもんだ。
この日の実戦ホールは、誌面企画や番組収録で頻繁にお邪魔している某店。自宅からは約1時間半の道のりで、どうにか当日入りも可能だが、あまりに乗り換え回数が多すぎる。
実戦前に疲れ果ててしまっては困るため、移動時間が1時間15分以上かつ乗り換え3回以上なら前乗り(前泊)と決めている。
このホテルは2年ほど前からのお気に入り。
清潔感はお世辞にもあると言えないし、いつ心霊現象が起きても不思議でない雰囲気だが、宿泊料が格安なので文句はない。
企画や番組によるが、こうして自腹で前乗りすることも珍しくない。〝いかに安い宿を探せるか〟も、フリーライターにとっては重要なスキルと言える。加えてどこででも寝られる図太さを備えていれば尚ヨシだ。
ホテルを出ると、目の前は駅前のロータリー。短い横断歩道を2つほど渡ると、およそ1分で駅に着く。そして3分も電車に揺られれば、実戦店のある目的地へと到着する。ホテルのある街はとりたてて何もないが、この利便性が気に入っている。
予定通り集合時間の5分前に到着すると、すでにスタッフ陣が機材を組み終え待っていた。
蚊帳の外。
――「おはようございまーす!」
スタッフ陣「おはよ~」
――「よろしくお願いしま~す」
ディレクター(D)「じゃあSくん、ラッシーのカメラ担当ね」
Sくん「はい、よろしくお願いします」
――「お願いします。でも、いいんスか? 今日の俺、長いスよ?」
D「お、ヤル気だな! 最下位のクセにw」
――「いやいや、言い方な!」
「今日は遅くまで粘る」と〝かまして〟みたが、スタッフ陣にはしっかりジョークだと伝わったらしい。この日はバトル企画の収録で、演者・ライターは計6人。
バトルは半年(6戦)にかけて行われ、純粋に総収支で順位が決められる。俺以外の参加者は元スロプロのガチ系攻略ライターと、誌面やCS番組に引っ張りだこの超売れっ子ライターだ。俺の役目など改めて書くまでもない。
制作陣の期待に応えるように、4戦を終えた俺の順位は最下位。そして、参加者唯一のマイナス収支。まさに匠の業ともいえる負けっぷりである。もちろん、わざと負けているわけではないし、ふざけているわけでもない。
強いて敗因を挙げるならば、この頃の俺は時代に合っていなかった。バジリスク絆や北斗転生の登場で、5号機もすっかりAT機時代を迎えていた。しかし、俺が好きになる機種はファフナーや戦国乙女西国といったART機ばかり。
このバトル企画に限らず、プライベートでも苦しい戦いが続いている。しかし、こういった少々ニッチな機種を打つライターがいてもいいのではないかと思っていた。もちろんそう自分に言い聞かせ、ギリギリメンタルを保っていたフシも否めないが。
参加者の中で唯一のマイナス収支といっても、その額はわずか-16,000円。十分にプラス域浮上を狙える位置だ。視聴者には申し訳ないが、今日の目標はムリせずプラス域への浮上。そして大量出玉を狙うのは、次回の最終戦でいい。
身の丈。
午前10時、開店――
前に並んでいた常連客は、案の定、北斗転生に一直線。当然それに付いていくのが定石だが、普段打たない機種を背伸びして打って、一体なにを残せるだろうか。たしかに勝てるかもしれないが〝俺らしい実戦〟を見せることはできない気がする。
ならば、やはりコレしかない……
1台目に選んだのは、昨日のデータが1番〝マシ〟なファフナーだ。変更挙動が多くみられるホールだが、ホールの隅にあるファフナーまで全リセとは限らないハズ。据え置き狙いだから、リセット挙動が見られたら移動すればいい。
ファフナーの変更判別は割と簡単。前日閉店時の状態にもよるが、朝イチが高確挙動なら変更された可能性が高まる。また、111Gや222Gといった3桁ゾロ目ゲーム数からCZ「乙姫覚醒」が当選した際は、設定変更濃厚と考えていい。
ただし、3桁ゾロ目ゲーム数がレア役によるCZ中やその本前兆中なら、ゾロ目ゲーム数によるCZ抽選は行われない。こういった優しくないところもウイークポイントに思われるが、長く打ち込んでいると、その〝不完全さ〟すらも愛おしく感じてしまう。
111Gのゾロ目はレア役によるCZに潰され、そのCZもクリアできずスルーするというキツい展開。もちろん据え置きの可能性は潰えていないため、当然ながら勝負続行。しかし次ぐ222Gのゾロ目からCZが当選し、据え置き濃厚となってしまう。
そのCZもART非当選で終えたところで、流れるように隣の台へ。そして2台目を打ち始めると、すぐさま高確移行確定の強CBが成立し、またしても朝イチの高確挙動をチェックできない状況に!
変更判別は割と簡単と書いておきながらこのザマだが、この思い通りにならないところも愛らしい。ならば、この高確中にCZを射止めるまで! そう思い気合いを入れてレバーを叩いていると、数ゲーム後に引いた弱チェリーからCZ「乙姫覚醒」が引っ掛かった。
前回紹介した「Vバトル」は言わば上位CZで、スルーした場合でも規定ゲーム数がリセットされてしまう。対するこの「乙姫覚醒」は下位CZにあたるが、スルーしても規定ゲーム数がリセットされない。
要するに「勝負の決定打にはなりにくいが、大ハマリを回避する役割」を担うのが、この「乙女覚醒」なわけだ。下位CZと言えどART期待度は約40%と十分。ここでARTを射止め投資をストップさせたいが…
〝スルメ〟すぎるCZ。
乙姫覚醒中のART抽選システムは極めて難解。表面上は毎ゲームでボタン獲得抽選が行われ、獲得したボタンは液晶上部に左から並べられていく。
そしてCZのラストでは、ボタンPUSH1回ごとにART抽選が行われる。簡単に言えば5個のボタンを獲得すれば、5回のART抽選が受けられるわけだ。
ちなみにART当選時後の残りボタンでは、ARTゲーム数決定ゾーン中の7揃い保証回数の上乗せ抽選が行われる。間接的なARTゲーム数上乗せ抽選と解釈して構わない。
ここまでは割とありがちだが、難しいのは毎ゲームで行われるボタン獲得抽選だ。詳細を伝えると長くなるため割愛させていただくが、成立役が同じでも、獲得するボタンの数やART期待度は〝ショートフリーズの回数〟で大きく変化する。
ボタン獲得時は必ずショートフリーズが発生。1G(1つの成立役)で発生するショートフリーズは最大4回なので、1Gにおけるボタン獲得数も最大4個ということになる。
たとえばボタン獲得率100%の強チェリーを引いたとしよう。
①強チェリー成立時 ボタン獲得数振り分け |
|
---|---|
1個 | 30.0% |
2個 | 66.5% |
3個 | 2.5% |
4個 | 1.0% |
②強チェリー成立時 獲得ボタンのART期待度 |
|
---|---|
1個目 | 20.0% |
2個目 | 45.0% |
3個目 | 100% |
4個目 | 10.0% |
同じ強チェリーで獲得したボタンでも、そのゲームで獲得した〝何個目のボタンか〟によってART期待度が大きく変化する。「もう意味が分からない!」と投げだしたくなるが、これを理解していると乙姫覚醒の面白さがまるで変ってくる。
導入当初、乙姫覚醒の評判はすこぶる悪かった。ボタンをたくさん集めたのにARTが当たらない。そのくせ最終ゲームのボタンPUSHシーンでは、すべてのボタンが液晶いっぱいに広がる〝デカボタン〟になる。
おそらくパチスロ史上、最も安いデカボタン。
「なんだこの台?」という反応も頷ける。
しかし、解析をしっかり把握すれば見方が変わる。既述の通りボタン1個あたりのART期待度は約9%だが、これはあくまで平均値。実際はボタン1つ1つでART期待度が全然違うわけだ。
慣れてしまえば「左から4個目のボタンは期待度25%」とか、「左から6個目は40%だからアツい」と、叩きどころを正確に把握できる。これを知れば頻繁に当る下位CZで毎回アツくなるわけだ。楽しくないわけがない!!
痛恨のミス。
たかだか下位CZの解説に熱くなってしまったが、話を本題に戻そう。2台目を打ち始めてスグに引いた乙姫覚醒。獲得したボタンは全部で4個とかなり少なめ。加えて期待度が25%を超えるようなアツいボタンもなかったが、どうにかラスト1個でARTが引っ掛かった!
その後、レア役から細かい上乗せを重ねるも、ARTは173G継続の378枚獲得であっけなく終わってしまう。
ここからは設定があるかどうかだ。
「ファフナーの設定推測は共通ベルさえ見てればいい」という人も多いが、俺は天国移行率も重視している。その移行抽選も複雑なので一概には言えないが、これまでの経験上、低設定は終日天国に行かないケースも珍しくない。
100以内の規定ゲーム数からART or Vバトルが当れば高設定期待度アップで、何度も確認できれば高設定の可能性大…くらいのラフな感覚で構わない。まあ、そもそも簡単に高設定が入る機種ではないのだが。
しかし、ここでは天国のゾーンを確認する間もなくレア役から乙姫覚醒へ。そしてボタン6個から難なくARTが当選! さらにARTの初期ゲーム数決定ゾーンで7が揃いまくり、いきなりの120Gスタート!! それでも俺は浮かれない。
――「まあ、これでも絆で1~2セット上乗せた程度の感覚です」
たしかに120Gスタートは嬉しいが、なにせARTの純増は約2.2枚/Gだ。まだまだ勝ち確には程遠い。そのまま冷静に打ち続けると、ほどなく同化ベル(MB中のレア役)で20Gを上乗せ。さらに強チェリーを引くと…
――「で、出たー! サクラ柄だ!!」
リールの透過液晶部分にサクラ柄が出現! これが擬似ボーナス(最大30G継続)に繋がり、さらに擬似ボーナス当選による30Gの上乗せも獲得。その後は特に何事もなくARTゲーム数を消費していくが…
――「あん? ちょ、ちょっと待って!」
ART残り20Gからストーリー演出が発生! ART終了間近でストーリー演出が発生すれば「後乗せアリ」のサインで、ストーリーが長いほど大量ゲーム数を期待できる。
――「残り20Gは、さすがに長くね?」
興奮を抑えつつ最終ゲームでPUSHボタンを押すと…
――「で~、でっか~~~!! 130G乗ってました~!」
まさかの後乗せ130G!! まだまだ大事故とは言えないが、このあと特化ゾーンに捻じ込めば2,000枚~3,000枚も射程圏。バトルの総収支をプラス域に持っていけるのはもちろん、順位を1~2つ上げることも不可能じゃない!
――「SNSで4,000枚報告とか見るんでね、今日は俺が狙います!」
ファフナーで4,000枚は至難。そんなことは分かっているが、これが今シーズンのバトルにおける唯一の見せ場になるかもしれない。ピエロ役ならピエロ役らしく踊ってやろうじゃな―――
――「あ…あああ!!!?」
カメラマンSくん「ちょ、なにしてんすか!?」
ここで痛恨の押し順ミス! 俺は液晶に表示された「復帰中」の文字を茫然と眺めた。
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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