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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.12.19
新台導入初日の惨劇~5号機トータル・イクリプス①~
広報さん「こちらが新台の『トータル・イクリプス』です」
編集一同「おお~~~」
暗幕が外され筐体が露わになると、あえて暗めにしてあるショールームに控えめな歓声が響いた。
ゴールドをベースとした重厚感のあるボディーには、これでもかと贅沢にLEDランプが散りばめられていた。巨大ロボットをそのままパチスロにしたような見た目に、男心がくすぐられる。
『パチスロ蒼穹のファフナー』のようなド派手な役物こそ見られないが、それでも金色に輝く筐体は、鼓動を早めるのに十分な存在感を放っていた。
――「………(く~っ、ソソりやがる)」
最高ループ率が94%超にも上るART。この美しい筐体で〝それ〟にブチ込めば、一体どれほどの興奮になるだろう。この頃の俺はSANKYOの機種を何作も連続で担当しており、すっかりその魅力にとりつかれていた。
This is SANKYO.
▲5号機「パチスロ トータル・イクリプス」(SANKYO)
2016年の春頃に登場したボーナス+ART機。ARTの純増は1.5枚/Gで、ARTとボーナスを絡めて出玉を伸ばしていくタイプだ。
最大のウリは言うまでもなく最大ループ率が94%超にも上るART。ARTは1セット最大30GのSTタイプで、消化中に擬似ボーナス「レールガンチャンス(RC)」かリアルボーナスが当選すれば次セットに継続する。
リアルボーナスはスーパーBIG・BIG・REGの3種類で、スーパーBIGなら300枚、BIGなら180枚、REGなら60枚を獲得できる。もちろんリアルボーナスからのART突入も期待でき、BIG以上ならチャンスとなる。
重要なのはART中のRC当選率が大きく変動する点だ。
ARTには3つのレベルと5つのランクが存在しており、その15通りの組み合わせによってRC当選率が変化する。たとえば最低のレベル1×ランク1はRC当選率が低いため、ARTの実質継続期待度=ループ率も46.8%と低めになる。
対して最高のレベル3×ランク5なら実質継続期待度は94.3%。つまり、ARTの最高ループ率は94.3%となるわけだ。
ランクはART継続時(RC消化中)にアップする可能性があり、レベルはART中のリアルボーナス当選時にアップする可能性がある。
当然、ART初当り時は低レベル×低ランクからスタートしやすい。消化中にRCやリアルボーナスを引き、ARTを継続させながらレベルアップ・ランクアップを目指していくゲーム性となっている。
レベルとランクを育て上げれば超ロング継続を期待できる、言わば「育成型ART」だ。
広報さんから一通り説明を受け、さっそく俺らは試打を始めた。
――「ARTのゲーム性はなかなか面白そうだね」
編集U「そうすね! ただ、ART初当り確率が重いスけど」
――「え? どんくらい?」
ART初当り確率 | |
---|---|
設定1 | 1/626 |
設定2 | 1/597 |
設定3 | 1/562 |
設定4 | 1/509 |
設定5 | 1/469 |
設定6 | 1/425 |
――「重すぎぃぃぃ!!」
設定4ですら1/500を下回るという、なかなか重めの設計だ。なるほど。リアルボーナスを引きながら凌ぎ、たまに入ったARTで一気に出玉を増やす…といった仕様なのだろう。かなりトガった出玉バランスと言えそうだ。
正直に言えば得意でない部類。第一印象はそんな感じだ。しかし、あの大好きだったファフナーを作ったSANKYOの〝ロボットもの〟だ。必然、このトータル・イクリプスにも期待してしまう。
編集U「お、強チェリーからリラックスステージ行きましたね」
――「ああ、CZの前兆ステージね」
ARTへの突入ルートは主に2つ。1つは既述の通りリアルボーナス経由だ。ボーナス成立時にART抽選が行われ、その当選率はボーナス成立時の状態(低確・高確・超高確)で変化する。
そして、もう1つがCZ経由。CZは15G継続で、消化中は毎ゲームで成立役に応じART抽選が行われる。ちなみにCZ中にボーナスが成立した場合はART確定だ。CZ1回あたりのART期待度は、概ね30%となっている。
液晶上では水着姿の女性キャラが文字通りリラックスしており、少しもCZが当りそうな気配はない。レア役からのCZ当選率も状態の影響を受けるようなので、おそらく低確での強チェリーだったのだろう。よくあるフェイク前兆か。そう思ったのだが…
――「え? なにこれ!!?」
「ピリリリリ…」と、いかにもアツそうな効果音を伴い、液晶に赤満月が出現。そこから赤背景のスーパーリラックスステージへと移行した。
編集U「おお、より期待度の高い上位前兆ステージですね!」
――「マジか! 刺さってたか!」
ほどなく連続演出に発展。当然、CZ告知に期待するが…
――「なんか…チャンスアップっぽいのナイね?」
編集U「いやいや、言うて上位前兆ステージですよ?」
しかし、連続演出はあっけなく失敗。
――「マジかよ。まあ、こんなこともあろう」
編集U「ですね」
が、次ゲームのレバーを叩くと…
――「うおぉぉぉ、まだ前兆ステージにいる!」
編集U「な~るほど、よくある本前兆濃厚パターンすね!
――「イイねぇ~! こういうの好きよ」
しかし、その数ゲーム後、連続演出に発展することなく通常ステージへ移行してしまう。
――「は?」
編集U「………一筋縄ではいきませんね」
編集Uが慎重に言葉を選んでいるのが面白かった。
――「いや~、今作も全開だな…だが、それがイイ!」
俺も後輩を見習い言葉を選んだつもりだ。我々おじさん世代からすると、SANKYOのマシンはいささか演出が多く派手に感じる。しかし、この頃になると「それも1つの持ち味」とすっかり受け入れられていた。
――「ふふふ、それでこそ探り甲斐があるってもんよ」
変わった依頼。
その後も取材を続けると…
編集U「この台、めっちゃスイカから当りますね!」
――「だね! リアルボーナスのメイン当選要因っぽいね」
他機種ではすっかり働かなくなってしまったスイカ。それがトータル・イクリプスでは、これでもかと活躍する。この弱めのレア役がきっちり仕事をする点は、とても好感が持てた。
――「しかし、ARTはムズいなぁ」
編集U「まったく高ループ率まで持っていけないっスね」
――「だね。苦労して入れてんだけど」
期待通り演出面は申し分なかった。ARTの当否を告知するBIG中のバトルは面白いし、逆転パターンで液晶手前に飛び出してくる役物もカッコイイ。
ART中のRC当選時もそうだ。前兆は長くても5G程度と短めだが、同一系統演出の連続に強めのチャンスアップが絡んだりと、これでもかと期待感を煽ってくれる。しかし…
――「ARTのレベルアップがマジでムズいな」
編集U「初当りでいきなりレベル2スタートもあるようですが」
――「今のとこ全部1スタートだし…」
編集U「ART入れた直後にリアルボーナス引きまくるしかないスね」
――「いやいや、要求が高すぎるよ」
編集U「ですよね~」
――「ART中、スイカ引くたびアツくなれるのはイイんだけど」
結局、この取材はロングARTを体験することなく終了を迎えた。散々な結果ではあるが、面白さの一端くらいは掴めた気がする。ST方式のARTはやはり燃えるし、RC中に自力でランクアップを狙っていくシステムも面白い。
それでも難しい機種だと思った。
実際、取材段階でハッキリ「面白い」と思える機種は少ない。トータル・イクリプスは珍しく面白いと思えた機種だったが、ARTのループ率を育てるハードルがあまりにも高すぎる。誰もが育てきるまで耐えられるとは思い難い。
取材を終えてからの数週間は、導入に向けたページ作りが続いた。ARTの継続システムが難解なため、しっかり伝わるよう、いつも以上に注意しながら原稿を書いた。そして導入が間近に迫った頃、生配信の運営会社から一本の電話が入った。
運営P「導入初日にトータル・イクリプスを打ってもらえませんか?」
――「もちろん喜んで! 生配信ってことね?」
運営P「そうなんですが、今回の企画は少し変わってまして」
――「ほうほう、どんな?」
運営P「芸人さんのお金で打ってほしいんです」
――「はいい???」
企画内容はこうだ。
売れてないコンビ芸人さん(※)が、自腹で10万円を用意する。それを演者である俺が預かり、トータル・イクリプスで増やしてあげる…というわけだ。俺に入るのは出演料のみで、勝ち分・負け分は完全に芸人さんのものとなる。早い話が〝代打ち〟だ。
※書き方がキツいですが、そういう企画コンセプトなのでご了承ください。
――「俺は構わないけど…簡単に勝てる台じゃないスよ?」
運営P「分かってます」
――「普通に10万くらい入りそうな気がするし」
運営P「はい、そんな台のほうが盛り上がるんで」
――「www鬼畜かよ」
芸人さんが用意する10万円は、番組内で「血銭(ちぜに)」と呼ばれていた。文字通り、彼らがバイトなどで必死にかき集めた〝命のカネ〟である。すべてノマれるのもオイシイ展開ではあるが、若者が集めた大切な10万円を溶かすわけにはいかない!
――「どっちみち初日から稼働するつもりだったんでお受けします」
運営P「よかった! ではホールの許可取っておきます」
――「お願いします! じゃあ、あとで実戦店と時間だけ教えてください」
こうして代打ち生配信への出演が決定した。
想定外の展開。
導入初日、生配信当日――
この日の流れは以下の通りだ。
生配信そのものは16時からスタートする。しかし、台を確保できないようでは話にならないため、演者の俺は朝イチから実戦を開始。その配信前に使うカネも、もちろん芸人さんが用意した「血銭」の中から出す。
当然、配信前に大負けという展開も考えられるが、なにより心配なのは台の確保だ。さすがに導入初日だと厳しいのではと懸念したが、意外にもあっさり朝イチからの確保に成功。
これだけ難なく取れるのだから、このホールの新台の設定状況は察しがつく。当然イヤな予感は拭えないが、幸いと言うべきか、この機種において重要なのは設定ではない。少ないチャンス(ART初当り)を、いかに大きく伸ばせるかの勝負だ!
そもそもパチスロほど優しい勝負事など存在しない。最低の設定1でも、出玉率は概ね97%前後だ。理論上、終日打ったとしても2万円すら負けない。設定1の勝率も概ね30%超なので、適当に打っても3回に1回は勝てる計算になる。
そうそうヒドい展開にはならないハズ。それに、仮に配信開始までに負けていたとしても、3万程度の負債であれば丁度良いスパイスになるかもしれない。配信開始時点で4,000枚とか出ていたら、それはそれで興ざめだ。
運営スタッフの入り時間は15時で、芸人さんは16時の少し前に入る予定と聞かされている。目指すは芸人さんの入り時間までに±1,500枚以内。
〝置きにいった目標〟のようでカッコ悪いが、やはり芸人さんの血銭を減らすわけにはいかない。それでいて番組をブチ壊すような大勝ちもダメ。勝ちすぎず負けすぎず、絶妙なラインを目指す必要がある。
加減しようにも、思い通りにいかないのがパチスロというもの。そんなことは分かっているが、俺だってキャリア10年超えの中堅ライターだ。+1,500枚から-1,500枚の〝3,000枚の範囲〟に収めることくらい難しくない。
迎えた15時――
運営P「おはようございます!」
――「……おは…ざ…ます」
運営P「あら~、3台中2台が空き台ですか」
――「……そうスね」
運営P「で、どうスか調子は?」
――「どうもこうも……」
震える手で頭上のスランプグラフを指さした。
運営P「え……冗談スよね?」
運営Pの表情は、〝驚き〟などという生易しいものではなかった。瞬時に思い出したのは、中学時代のバスケ部の練習試合。42対6で完敗した際に見たチームメイトの顔と一緒だった。
まさに絶望!!
――「ど、ど、ど、どうしよう……」
運営P「い、いくら使ってんスか?」
――「63K。もう〇して~~~」
運営P「ろ、ろくじゅうさん………???」
公開裁判が始まろうとしていた。
つづく
5
102
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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