SENZIN伝：第7話身近な先人「親父」

タイルまん SENZIN伝

あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いします。

今回は誰も望んではいないお正月スペシャルとして、身近なある先人との連れ打ちを紹介します。

2017年1月2日。

テレビで箱根駅伝で往路を青山学院大学が1位のゴールテープを切った瞬間から話は始まる。

部屋でダラダラと横になりあぁ…年賀状代わりに400万円送ってくる奴いねぇかなぁ…。

なんて有りもしない事を願っていると突然部屋のドアが開いた。

タイルまん家にはノックという紳士的な風習など無い。

我が家にプライバシーという言葉は今の今まで存在しないのである。

タイル「あのさ…ノックくらいしなよ」

父「行くぞ」

は？ノックしなよと言って、その返事が行くぞ？

いい歳にはなったが、とうとう認知症になってしまったか？

タ「どこに？」

父「パチンコ屋」

タ「正月だぞ！？」

父「行かないのか？」

タ「行く…。」

父「早くしろ」

バンッ！と威勢良く閉められるドア。怒ってるの？

タ「なぁ…風呂入りたいんだけど…」

父「はぁ？店閉まるわ！」

閉まんねーよ！！

風呂に何時間入れる気だよ！ふやけちゃうわ！！

風呂は諦めて着替えながら親父と打ちに行くのは何時ぶりだろうと思い出していた。

そうだ…あれは確かパチ7で漫画家のゴルシさおりさんが東京の秋葉原でまどスロオフ会を開いていた当日が最後だったな。

その日は休みだったが東京行くまでの持ち金と時間は無かった。

ツイッターで楽しそうに呟いている参加者を見ながら…

魔法少女にぼったくられろ！！

大雨が降って服が濡れて生乾きの匂いで気分を害せ！！

最悪なにかの拍子で靴に穴開け！！

負けろ！負けてくれ！！

そんな行けないというだけのヤッカミで呪いをかけていた。

俺も連れ打ちしてぇな。そんな事を思いながらふと頭の中に過ぎった人物。親父！

茶の間に行くとボヘーっと猫背で正座しながらテレビを見ていた。

後ろ姿だけ見れば立派な好々爺だ。

タ「父さんさ、今日暇？」

親父はゆっくりこちらを振り向いて睨みつける様に俺を見た。好々爺は後ろ姿だけ。

前向いちゃうと極めた道の人みたいな顔つきだ。

昔、人混みを親父を前に歩かせたらモーゼが海をパッカーン割ったという逸話の如く目の前に道が拓けた事をよく覚えている。

極めた道の人みたいではなくモーゼだ。

因みに親父は正真正銘のカタギである。

モーゼ…いや親父は黙って頷いた。

タ「パチンコ行かね？」

父「言っとくけどな？金貸さないからな？」

タ「いきなり！？借りた事ないじゃん！」

父「大体お前と行きたくないんだよ。なんか勝てる雰囲気出さないべ？それがこっちに移って俺まで負ける感じがなぁ…」

タ「なら行かないの？じゃあ俺1人で行くわ」

父「行かないなんて言ったか？」

どっちだよ！！

父「牙狼を打つぞ」

タ「え？」

父「俺は牙狼を打つからお前も牙狼を打ちなさい」

いきなり牙狼打つ宣言かよ…しかも俺まで機種指定されたし！！

タ「俺牙狼はそんなに…」

父「大丈夫だ。俺は牙狼で6万発出した事あるんだぞ！」

だからどうしたんだよ！！なんの大丈夫なんだよ！！

自慢しただけだろ！凄いけど…だから！どうしたんだよ！！

父「だからお前も牙狼打ちなさい」

何も繋がらないんだよ！！！

自慢からの牙狼を打ちなさい…理不尽！

行きの車中で俺は延々とその時の話をされた挙句に今までの勝ち自慢をされた。そして

父「『私とパチンコの50年の軌跡』という題名でお前がクオカード貰った所で書いてみようかな…」

などと半分本気で言ってきたが、そこは綺麗に無視した。

若干うんざりしてきた所で店に着いた。

店に入る前に親父にいつも言われる事がある。

父「いいか？お互いどちらかが出ていたとしても話しかけるなよ！」

出ている時に人に話しかけられると連チャンが止まるらしい。

気が散って集中力が欠けて運気を逃してしまうんだとか。

親父なりのジンクスらしく毎回言われる。

へいへいと返事をして店に入り牙狼の島に辿り着いた。

親父が角はいつも出ているぞと耳打ちをしてきたので、

打ちたくもない牙狼をネタとして打つ事にした。

牙狼を打てとか言うから打ったらこんな有様だ！！と、

負けて文句をブチまけてやろうと思っていた矢先。

投資1kで当たった。

初当りが早くても単発だろ…。

そんな事を思って哀しい川を翔ぶ人がドヤ顔で『かかったな！』という台詞を言うのを確認して半ば諦めていると警音が鳴り…台の上で牙狼がこんにちはしてきた。

え？親父の方を見ると苦虫を潰した様な顔でこちらを見ていた。

喜べや！！

そして…一撃8000発を吐き出した。

更に通常に戻り数回転後…引き戻した。

単発だったがまぁいいでしょう。

そして1時間後…ラッシュ中に肩を叩かれた。

父「調子いいなぁ！」

うん…調子いいけどさ…貴方自分で話しかけるな言ってたじゃん！！

父「あのよぉ！」

おぉ！まだ話しかける気か！

父「金貸してくれ！！」

貴方は裏切りの神か！

打ちに行く前にはお前に金は貸さない！

店に入る前には打ってる時は話しかけるな！

全て！貴方の口から発せられた言葉を自ら裏切るかね！！

最後に大どんでん返しがあるコントかよ！！

俺は9k入っていたカードを渡した。

まぁさ、打ってる時に話しかけられても終わる事は無いってのを証明できるしいいか。

直後STを駆け抜けた…。

そこは裏切らないのかよ！！

何故マイナスのジンクスだけ残して金借りに来てんだよ！！

おま…おい！おいいぃ！！打ちながら親父を捜し睨みつけた。

親父は当たっていた。

息子の金のお陰だぞ！息子は終わったからな！どうなってんだ！！

でもよくあるさ…うん。ほら、勝ってくれれば金は戻ってくるしお小遣いも貰えるかもじゃん？

そう！プラスに考えよう！数十分後…。

俺はまたしてもST中に肩を再度叩かれた。

父「あと1万貸して！！」

はぁ！？

タ「さっき当たってたろ！？」

父「単発で飲まれちゃった☆」

飲まれちゃった☆、じゃねーよ！！

しかも狙った様にまたST中に話しかけたな！

さっきこれで終わったからな！？

渋々俺は財布から諭吉を出して渡した。

父「もう出るから！勝てる！」

なんの根拠でだ！！なんの根拠があって言い切れる！

…いや落ち着け。俺はまだ勝っている。そしてST中。

タイルまんよ…このまま出玉を伸ばせばいいだけだろ？

直後STを駆け抜けた…。

デジャヴかよ！！

そして親父を見ると当たっていた。デジャヴだな！！

もういい…。なんか感情の起伏が激しくて疲れてきた…。

俺は勝ってる内に止めた。

親父にあとは任せよう…。当たっているし…。

車で俺は寝て待っていた。しばらくして親父が車に乗ってきた。

父「帰るか」

タ「どうだった？」

父「負けた」

タ「でも当ててたろ？」

父「全部単発だ…。10回当たりを引いて1度もSTに入らなかった…。」

タ「……」

父「全部飲まれて全部借りた金使って帰ってきた…。」

少し悲しそうな声で収支報告をされた。

そして家に着き、悲しそうな顔で借りた分を返された。

いやいらないよ！などと俺は言わず毎度あり！と、

ひと言投げかけると親父は深いため息を吐いて

父「1回も入らないって有りか？」

ブツクサと独り言を呟きながらテレビを付け、相撲中継を見始めた。

その猫背の後ろ姿は好々爺でもなんでもなく……世に疲れきった先人の後ろ姿だった。

そしてツイッターを開くと…カタギリさんがまどマギで大敗していた。

どうやら俺の呪いは先人予備軍のカタギリさんと身近な先人の親父に降りかかったらしい。

……親父との連れ打ちは、

あの日以来かと思い出して着替え終わり、

あの日と同じ様に車に乗った。

タ「何打つの？牙狼？」

父「いや…打ちたいものがある」

次回に続く…。