佐藤さん中編

タイルまん SENZIN伝

前編はこちら
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父親が渋い顔で口籠もりながら佐藤さんの事を語り始めた。

「白蠟病(振動病)のせいで、本業としていた木こりの仕事は出来なくなったんだ。その代わり障害者年金が入ってな。俺は他人事だから何も言えないが……その障害年金を夫婦揃ってパチンコに使ってたんだよ。」

私はその場で白蝋病の事を調べた。主な症状は手足の痺れ、疼痛など。

パチンコには向いていない病気ではないだろうか？と、父親に伝えると

「木こりの後はパチンコを生業にしてたから、案外大丈夫だったんじゃないか？負担かからないし。」

パチンコを生業にするなら、新しい仕事を見つけるべきである。

「まぁこの辺じゃ有名なパチプロ夫婦って所だな。」

夫婦揃ってパチンコ店に入り浸っていたのか。

話を聞いていた母親がハッとした顔で私の方を向き、

「佐藤さんって糖尿病じゃない？確か目も患っていたはずよね？そのせいで車も運転出来なくなったんだよね。」

両親につくづく感心する事は、最初は誰か分かっていなかったのに人物を思い出すと湯水の如く、情報が湧き出てくる。

「あー…んだんだ！だから三鉄で通ってたんだ！よく診療所で婆さん達が文句を言ってたな！」

三鉄とは、三陸鉄道の略である。

数年前に『あまちゃん』という朝の連続テレビ小説で一躍有名になった。詳しく言うと、ドラマの三陸鉄道は三陸鉄道北リアス線という。

私の住んでいた地域の方は三陸鉄道南リアス線である。北リアス線に乗車した事が無いから違いといえば、区間が違うだけ位しか分からないが、大抵の駅は無人駅である。なので、運賃はバスの様に下車する際に運転手に払う。基本的に1両編成だ。ごく稀に頑張って2両編成の時がある。

あとは、車内にジュースの自販機がある。トイレもある。ネックなのは、1時間に1本しか走らない。2時間に1本の時間帯もある。通学時に1本乗り過ごすという事は、脳内でレインボーの文字色で『遅刻』と出る。パチンカー・スロッターの皆さんならお分かりだろう。つまり遅刻確定だ。

さて、話が脱線してしまったので戻そう。

そもそも何故、診療所に集まるSENZIN達にパチプロとバレていたのか？私は疑問に感じた。

三鉄の区間内でパチンコ店がある駅は2駅。

そのうち、1駅はタクシーを使用しなければ最寄りのパチンコ店に辿り着く事が難しい。

もう1駅は、駅近だが細い脇道にポツンと建っている。1万発出したら店員の給料がカットされるのではないかと心配してしまう程、地元民だけが知る寂れたパチンコ店がある。

そこに足繁く通っていたらしい。

因みに、2017年現在もそのお店は営業している。都会では珍しい100円からパチンコが打てるお店である。

寂れたパチンコ店に毎日の様に同じ時間に三鉄で通っていてもバレる様に思えない。

父親に疑問を投げかけると、父親は口を大きく開けて口角をカリカリと手で掻きながら間抜けな顔でこう答えた。

「そんなの、自分でバラしてたからに決まってっぺど。」

父親は珈琲をズズッと飲んでひと息ついた。パチンコ帰りの三鉄内で、人目も憚らず夫婦揃って財布の中身を出し、勝ち分を数えていたんだとか。知り合いに「景気がいいなー」などと声をかけられると、ニタッと笑う。

そして「『こっちが調子良いからな』って言ってパチンコのハンドルを握るジェスチャーするんだってさ。障害年金を貰っていてパチンコで遊んでるなんて周りの人間からしたら面白くねえべ。」

確かに。

「しまいにはよ、『あいつの糖尿病はパチンコして甘いコーヒーとジュースばっかり飲んでたせいだ！』なんて言われててな？」

とんだ偏見である。もしそれが原因なら私も糖尿病を患わねばならない。

「ただ、凄いのは多分勝ってたんだな。毎日パチンコしに行ってたみたいだし、借金もしていないと思う。実際の所は分からんよ？けど、悪い噂はそれぐらいしか聞こえてないもんな。」

田舎で過ごすには十分過ぎる程の悪い噂だと思うが……。

「少し可哀想な人だよ。一緒に打っていた奥さんもかなり前に亡くしているし、周りからは陰口叩かれ過ごしてきたんだろ。体も弱って入院したとは聞いていたが……お前ん所にいるとはな。」

なるほど。佐藤さんの人物像が大分掴めてきた。障害年金と恐らく貯金を種銭にして、毎日パチンコをしていたとなれば、周りからの印象は大分マイナスだろう。

田舎のSENZIN達からすれば、仕事もしないで朝から晩までパチンコ三昧で遊んで暮らしてる風にしか見えなかったのかもしれない。

しかし、誰にも迷惑をかけてはいない。迷惑をかけていないから良いのかと言われれば……。

私にはどうにも答えが出せなかった。

後日、豪腕先輩と食事に行った時にその事を話した。

豪腕先輩はハイボールをグイッと飲むと眉間に皺を寄せ

「そうか……。」と、一言。

「俺らが、何かしてやれるかって考えがそもそも烏滸がましいのかもな。」

ん？私は訊き返した。

「佐藤さんが苦しんでたって俺らに出来る事なんて少ないじゃん？医者や看護師じゃねえんだから。でも素人目から見ても分かるよ。あの苦しみ方は多分、治療法が違うんだよ。でもな？介護士がどうこう出来ねえんだよ。」

豪腕先輩は自分の飲んでいるハイボールが入ったジョッキを一点に見つめながら呟いた。

「俺やタイルが何か出来るとすれば……。」

次の日、豪腕先輩と夜勤が一緒だった。

その日も佐藤さんは夜中に「母さーーん！助けてくれー！苦しいーー！」と、叫んでいた。

ナースステーションで待機中だった豪腕先輩は、険しい表情を見せながらカツカツと佐藤さんの居室へと向かっていった。

後編へ続く

※編注
前回、後編へ続くと記載させて頂きましたが、中編を加え、全3回とさせて頂きます。

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タイルまん: 代表作：SENZIN伝-僕らもいつかSENZIN-

祖母から父へ、父から自分へと脈々と受け継がれてきたギャンブルの血筋。何故か博才だけは受け継がれなかった哀れな駄目人間。
今日も貴方と同じ空の下の何処かで負けています。

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