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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2018.07.10
『タネ銭』~素寒貧からの脱出~
定規を握った左手は、じっとりと湿っていた。編集長に頼まれた配当表を手描きで作っているが、手の湿気でレイアウト用紙が丸く歪む。緊張は無理もなかった。今まさに先輩が、俺が書いた文章を校正してくれている。どんな反応が返ってくるだろう――。
Fさん「五十嵐くん、ちょっと」
――「はい」
Fさんはベテランの編集部員だ。新人なら1ページで1~2日かかるラフを、一晩で何ページもこなす。また、当時は1冊丸ごと1機種だけを扱う「1冊本」や、たくさんの機種の解析数値をポケットサイズにまとめた「文庫本」もよく作られていた。Fさんはそういった月刊誌以外の編集も担っており、編集部から絶大な信頼を得ていた。
Fさん最大の特徴は、その生活スタイルだ。昼はホールに入り浸り、夜になったら編集部で仕事をこなす。そう、全く家に帰らないのだ。自宅があったか否かすら分からない。Fさん宛ての郵便物は、全て編集部に届いていた。
★商業誌のプロ
Fさん「キミさ、ライター目指してんだろ?」
――「はい、そうです」
Fさん「文章の内容は問題ないんだけどさ、プロになるんなら改行位置考えないとさ」
――「改行位置?」
Fさん「たとえば…ここ」
『RT解除率にかかわるモードは4
種類存在し、モード移行抽選はボ
ーナス放出時に行われる。…』
Fさん「この『4種類』は1つの単語と認識して」
――「はぁ…」
Fさん「なるべく途中で改行しないように」
――「…はい」
Fさん「こっちの『ボーナス』も一緒ね。行の頭が音引き(ー)から始まったら気持ち悪いでしょ?」
――「たしかにそうですね」
Fさん「たとえば…」
『4つのモードはRT解除率に
影響 し、モード移行抽選は
ボーナス放出時に行われる。…』
Fさん「これなら意味は変わらないけど改行位置が綺麗になるでしょ?」
――「はぁ~、なるほどっすね!」
Fさん「俺らは商業誌を作ってるんだから、読みやすい文章にしないと」
――「はい、ありがとうございます!」
Fさんは某大学の文学部卒で、趣味は読書。文章へのこだわりは人一倍強かった。
編集長「おい五十嵐! 配当表まだか?」
――「す、すいません! 今すぐ」
編集長「たかが配当表に何分掛かってんだよ!」
――「すいません! Fさん、ありがとうございます」
Fさん「おう、頑張って」
今振り返ると、俺の成長は遅かったように思う。ラフをきるスピードはなかなか上がらず、入社してスグに昼夜を問わず仕事するようになった。仕事が遅いせいで、夜中も作業をしないと間に合わなかったのだ。
キツい生活に見えるだろうが、当の俺はそう思っていなかった。大好きなパチスロに囲まれているし、周りは話が合う人間ばかり。まだ給料が振り込まれていないため金はないが、編集部にいれば先輩たちが奢ってくれるので、喰いっぱぐれることはない。当時は4号機のストック機全盛期で、編集部員の大半がパチスロで大きく勝っていた。みな金に余裕があったのである。
終電時間を回ったら、やっとブレイク。ページを作ってくれるデザイン会社の動きが止まるためだ。そこから翌朝にデザイン会社へと送る表や写真のデータを準備し、それが揃ったらやっと就寝。とはいっても編集部のイスを並べ、その上に横になるだけだが。
★脱出の糸口
編集長「おい五十嵐、起きろ!」
――「あ…はぁ…おはようございます」
編集長「おはようて、何時だと思ってんだよ」
――「えっ!?」
まだ開ききっていない瞼をこすりながら時計を見ると、まもなく15時になろうというところだった。
――「わあぁぁぁ、す、すみません!」
編集長「いいから早く電話出ろって」
――「俺にですか?」
編集長「そうだよ、Mさんから」
既述の通りMさんは当編集部で2番目に偉い人で、この編集長はMさんの部下にあたる。俺は状況を掴めぬまま起き上がり、受話器を握った。
――「お待たせしました、五十嵐です」
Mさん「おう、今からスグにAってホールに来てくれない?」
――「A? あの駅前のですか?」
Mさん「そうそう」
――「でも、今から校正が…」
Mさん「Cくん(編集長)とはもう話ついてるから大丈夫」
――「えっ!? どういうことですか?」
Mさん「いいから早く来て、お願い」
――「分かりました」
受話器を置いたものの、まだ寝ぼけていて状況を整理できない。
――「Cさん、ホントに行っても…」
編集長「今のキミ、いてもいなくても一緒でしょ。行ってこいよ」
――「は、はい。分かりました」
急いで身支度を整え、Mさんが待つ「A」へ。ちなみにこの当時は怖かった編集長も、今ではすっかり優しくなっているのでご安心を。
Mさんはホールの正面入り口前で待っていた。
――「お待たせしました」
Mさん「おう、お疲れさま!」
――「ご用件は何でしょう?」
Mさん「アステカ代打ちしてくれない?」
――「アステカ? ああ『リターンズ』ですね」
Mさん「そう、ストック機の。設定6ツモったんだけど、編集部戻って仕事しなきゃいけなくて」
――「はあ…」
▲4号機『アステカリターンズR』
2004年の年明けスグにエレコから登場したアステカシリーズ第3弾。アステカといえばCT機の代名詞だが、この「リターンズ」はCT非搭載のストック機だ。ボーナスはBIGのみで、BIGはノーマルとスーパーの2種類。平均獲得枚数はノーマルBIGが405枚、スーパーBIGはほぼ711枚となっている。最大の特徴は「確変機能」。BIG終了時はルーレット演出が発生し、WINに止まれば確変に突入。確変中は内部リプレイ成立時(表面上はハズレ目orリプレイ揃い)の1/4.4でRT解除=BIG放出となる。なお、通常時は成立役に応じRT解除抽選(BIG放出抽選)が行われ、規定ゲーム数消化によるRT解除はナシ。当時、当たり前になりつつあった天井機能も非搭載だった。
|
――「なんで6だって分かったんですか?」
Mさん「挙動がモロに6だから」
設定 | RT解除率 | 確変突入率 |
1 | 1/722.3 | 50.0% |
2 | 1/482.3 | 33.6% |
3 | 1/666.1 | 50.0% |
4 | 1/438.6 | 37.5% |
5 | 1/613.2 | 50.0% |
6 | 1/288.3 | 17.6% |
※RT解除率は非確変時の実質的な値
※確変突入率はBIG終了時の値
設定6は他設定に比べ初当たりが軽く、極端に確変に入りにくいという特徴がある。これだけ特徴的であれば、たしかに5時間ほどで設定6と断定できるだろう。
Mさん「今、休憩とってあるから」
――「代打ちなんて大丈夫ですか?」
Mさん「この店は共有OKだし、代打ちしても何も言われないよ」
――「分かりました。ただ…お金がなくて」
Mさん「出玉3000枚あるから大丈夫」
――「そんなに!?」
M「もしノマれそうになったら連絡して」
――「分かりました」
ホールに入ると、中はガラガラだった。こんな店で、ホントに設定6が使われているのか? しかしリターンズのシマへ行くと、そこには異様な光景が広がっていた。
6台設置で、別積みしている台が4台――!!
なるほど。全台系か、1/2で設定6といった感じか。
前作「アステカレジェンドR」は少しだけ打ったが、リターンズを打つのは初めて。代打ちとはいえ胸が高鳴った。Mさんが打っていた台の休憩を解除し、いざ実戦スタート!
なるほど、この台はなかなかどうして…。
液晶演出は「アステカレジェンドR」を踏襲している。しかしながら、その演出が不評だった。プレイヤーはダンジョンを歩き回るドギー(犬のキャラ)を、ひたすら眺めることになる。リーチ目も存在するが、もちろんRT解除後にしか出現しない。
ボウシ | 解除抽選ナシ |
内部リプレイ | 0.08%~0.25% |
サボテン | 3.13% |
上チリ | 1.54% |
下チリ | 50.00% |
デカチリ | 100% |
完全ハズレ | 100% |
※設定6なら内部リプレイによるRT解除も期待できるが、基本的には上チリやデカチリ頼み。
しかし…これは仕事なのだろうか。どう考えてもMさんの私的な代打ちである。現代なら「パワハラだ!」と言われかねないが、当時の俺にとってはありがたかった。先日の愛知遠征で、所持金はたった4千円に。とてもじゃないが、プライベートで稼働する余裕はない。パチスロの勝ち方を知っていても、それを実践するタネ銭がなかった。
仕事ではない久々のパチスロ。
しかも新台の設定6(推定)。
楽しい…楽しすぎるッ!!
分け前を貰えるかどうかなど、どうでも良い。私的な理由とはいえ、俺にパチスロを打たせてくれる機会を与えてくれた。それが嬉しかった。
この出玉をノマれないように頑張ろう。
完璧な小役狙いで、1枚でも多く出玉を増やしてあげよう!
そんな思いでレバーを叩き続けた。
閉店後――
俺はMさんが待つ居酒屋へと向かった。
Mさん「お疲れ! どうだった?」
――「最終的な出玉は8000枚ちょっとになりました」
Mさん「マジか! スゲえな!」
――「では、コレが勝ち分で…」
Mさん「おう、ありがとう!」
勝ち分のお札を揃え、Mさんに手渡した。
Mさん「じゃあ…コレがキミの取り分ね」
Mさんから手渡されたのは、なんと10万円!
――「いやいやいや、さすがにこんなには!」
Mさん「いいから取っとけって」
――「そんな! 楽しませてもらったのに…」
Mさん「そんなにリターンズ面白かったか?」
――「いや…その…正直ちょっと…」
Mさん「ハハッ! 6は安定してるし分かりやすいけど、確変に入らないんじゃつまんないよな?」
――「そうですね。確変ループしてる隣の台が羨ましかったです」
Mさん「そうなるよね。まあ、その金は取っとけ」
――「ホントですか?」
Mさん「だってあそこでヤメたら、どうせ誰かに渡ってたお金だから」
――「たしかに…」
Mさん「最近、金ないんだろ?」
――「はい、給料日までどうしようかと思ってました」
Mさん「もうウチの編集部員なんだ。それを元手に増やしてみせろよ」
なるほど。俺はまだ編集部員として一人前じゃない。会社からすれば仕事もできていない新人に、たくさんの給料を渡すわけにはいかない。だから、こうやってMさんが私的に…。
――「では、ありがたく頂戴します」
Mさん「おう! 立ち回りは先輩たちに訊けよ」
――「ありがとうございます」
Mさん「ほら、腹減ったろ。何でも食いたいもん頼め」
――「ええ?」
Mさん「心配すんなよ、飯くらい奢るから」
――「何から何まですみません!」
Mさん「こちとら中間管理職だっつーの。飯ぐらい奢るわ」
――「ありがとうございます!!」
こうして残金4千円だった俺は、ひょんなことから10万円を手にした。10万円という額は小さな額ではないが、とはいえ人生を変えるほど大きな額ではない。しかしコレがなかったら、俺は満足に編集部員としての生活をスタートできなかったかもしれない。
這い上がろう、この10万円から。
大手攻略誌編集の名にかけて――!!
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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