『タナボタ』～アラエボ～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

朝の山中は静かで、原付のエンジン音だけが響いていた。街の中心から15分ほどしか走っていないが、故郷の山形かと錯覚するほどの景色だ。山道を20分ほど走ると、大通りの交叉点へと行き着いた。赤信号のうちにグローブを外し、かじかんだ両手を温める。吐息は濃い白。信号が青に変わるとアクセルを捻り、ハンドルを左へ大きく切った。ここから長く緩やかな下り坂が続く。それを下りきれば、目的の街だ。

俺はこの下り坂が好きだった。これから向かう街の全景を一望できる。とある鉄道会社が開発したその街は、とりたてて都会ではない。そばに大きな川が流れ、田舎のような雰囲気も併せ持つ。2年ほど前、彼女(現・奥さん)と花火大会を観に訪れた思い出の街でもある。

街に入るやスグに右折し、小さな路地に入った。ここまで来れば目的のM店は目の前。店舗前に並び客の姿はナイ。予想通りだ。店舗の地下にある小さな駐輪場に原付を入れ、自販機でホットコーヒーを買ったのち、正面入り口の前へ座り込んだ。

朝イチの入場は並び順。つまり、パチスロコーナーへ1番乗りだ。人が集まらないのも無理はない。今日から2日間は「アラエボ」対象イベントで、かつ朝イチの変判対策もなされている。要するに、プロからすれば旨みがナイのである。

▲4号機「アラジン2エボリューション」(サミー)

2005年の晩秋にリリースされたAタイプストック機。通称「アラエボ」。ボーナス放出抽選契機は①月星・リプレイ以外の全役、②リプレイ3連以上時、③ラクダ3回成立時、④天井到達時の4種類で、①の当選率は滞在モードによって大きく変化。モードは通常・高確ショート・高確ロング・SACの4つで、通常以外へ移行すれば①でのボーナス当選率が跳ね上がる。この高確・SACが、アラジンシリーズ伝統の「状態」の役割を担っている。

私的な意見になるが、アラエボは「名機」ではない。ご存じの通り若き日の俺は「アラジンA」にどっぷりハマっていたので、ナンバリングタイトルが出ると知るや、期待は大いに高まった。しかし、アラエボは想像とかけ離れた仕様だった。

アラジンなのにAT(集中)がナイ。
アラジンなのにスペックが低い。

「アラエボ」の出玉率
設定1… 95.2％
設定2… 97.4％
設定3…100.4％
設定4…102.9％
設定5…105.2％
設定6…110.7％

かつてのドット演出は液晶演出へと進化。既述の通り「状態」も受け継いではいるが…。スペック面がアラジンAに比べ大幅にダウンしたのは4.7号機だから仕方がないが、とはいえ「これがアラジン?」という気持ちはあった。従来のアラジンファンも同じ気持ちだったのかもしれない。設置台数こそ多かったが、ヒットしたとは言えない稼働状況だった。

★試練のはじまり。

ではなぜ俺が原付で30分もかけアラエボを狙いに来たのか。理由は実戦店の傾向と客層にあった。

M店のパチスロは250台程度で、人気機種は例に漏れず北斗・吉宗・番長。ホールの名を冠した看板イベントなら、遠方から打ちに来るプロも珍しくない。しかし実際は、看板イベント日より通常営業日のほうがチャンスなのだ。

便宜上、通常営業日と書いてはいるが、毎日必ず「何かしらの機種が対象となるイベント」が行われていた。しかし、この街のプロも遠方から来るプロも、北斗・吉宗といった看板機種にしか興味がナイ。現代風に言うならば「北斗・吉宗キッズ」のようなプロしかいなかったのだ。

ゆえに、北斗・吉宗が対象外となるイベントは客が少ない。対象機種にはしっかり高設定が使われているにもかかわらず、常に閑散としているのだ。つまり、機種にさえこだわらなければ、高い頻度で高設定をツモれるのである。これに気が付いたのは、かつて鬼浜を打ちに通っていたときだった。鬼浜の人気が落ち着くと、鬼浜を狙う客は極端に減ったが、対象イベントでの高設定投入比率は変わらなかった。お陰で設定5・6と思しき台を容易にツモることができた。

開店時の並びは10人強。アラエボのシマに入ると、数人があとに続いた。一応、この店は内角(ほかの機種に接する角)が強い傾向があるため、まずはそこの1台を確保。その後、ライバルたちの台選びを観察した。

前日の稼働が低すぎて参考にならないが、上げ狙いで前日凹み台を確保している人が多い印象。M店の上げ・据えの傾向はまだ読み切れていないので、これは少し参考になりそうだ。まあ、アラエボイベントの1日目なのだから、上げ狙いがメインとなって当たり前だが。

設定変更後は必ず通常モードからスタートし、ラクダやチェリー回数はリセットされる(天井は3連チェリー15回)。なお、ステージは電源OFF/ONでも砂漠or夕方となるため、変判には役立たない。ちなみにこの店の朝イチはリール上に7が並べてあるため、いわゆるガックンチェックも使えない。要するに、この店のアラエボは変判不可ということになる。

だが、攻めづらいアラエボだからこそライバルが少なく、ホールも大胆に高設定を使うのでは!?　北斗や吉宗に比べれば、設定6の出玉率も怖くない。アラエボの総台数は12台。イベント日の北斗・吉宗の設定状況から察するに、設定6が4台以上使われていてもおかしくないハズ!!

★怪物の末路。

アラエボの設定推測は一見簡単そうだが、その実そうでもナイ。その難しさを少しばかり紹介しよう。

設定推測のメインとなるのは、単チェリー(単チェ)からの高確ショート・ロング移行率だ。チェリーが成立すると、まずは3連チェリーor単チェに振り分けられる。現代風に言うなら3連チェリーが弱チェリー、単チェが強チェリーだ。そして単チェは3つの役割に分けられる。まとめると以下の通り。

通常モード滞在時　チェリー成立時の振り分け
3連チェリー　　　　　　　…約72.4％
モード移行単チェ　　　…約16.7％
前兆経由放出単チェ　…約 8.2％
ボーナス即放出単チェ …約 2.7％

チェリー成立時の約28％(1/3.6)が単チェとなり、そのうちの約4割がボーナス放出、約6割がモード移行抽選となる。このモード移行率に大きな設定差が存在するのだ。

【モード移行単チェでの移行率】
設定	高確ショートへ	高確ロングへ	合算高確移行率
1	2.34%	2.34%	4.68%
2	2.73%	2.73%	5.46%
3	3.52%	3.52%	7.04%
4	4.30%	4.30%	8.60%
5	5.08%	5.08%	10.16%
6	13.28%	13.28%	26.56%

高確のショートorロングへの移行割合は1：1。これを合算すると、一番右の数値となる。

モード移行単チェでの高確移行頻度は、設定6なら約4回に1回、設定1なら約21回に1回。これだけ見れば設定差は極めて大きい。しかし、高確へ移行したか否かの判断が難しい。

前兆経由放出単チェやリプレイ3連以上・ラクダ3回でボーナスが当選すると、最大32Gの前兆を経てボーナスが放出される。その際、およそ6割はキッチリ32Gが選ばれるが、残る約4割は4～31Gに均等に振り分けられる。

つまり単チェ出現後4～32Gの間にボーナスが放出されると、それが高確経由のボーナスなのか、前兆経由放出単チェによるボーナスなのかを完璧には見抜けない。単チェの次ゲームから数え、33G以降の放出であれば高確ショートorロングと断定できるが…。また、高確ショート・ロングへ移行したのに、1度もボーナスを放出せず通常モードへ転落する恐れもある。ロングであればなかなかナイが。

ついでに言えば、設定6は高確ロングが存在しないに等しい。高確ロングの実質的な通常モード転落率は概ね1/236～1/280だが、設定6だけは約1/72となっている。設定6は「高確へは上がりやすいが、転落もしやすく連チャンが伸びにくい」といった挙動になるわけだ。

設定差は絶大なのに、高設定と見抜くまでには相応の時間と投資が掛かる。この難しさも、プロを容易に寄せ付けない要因だったと思われる。しかし、だからこそ狙い目になる！人が狙わないからこそ、高設定をツモる確率は高くなるのだ！

そう自分に言い聞かせながら、黙々と設定推測を続けた。その結果、投資額は雪だるま式に増えていった……。

★果てに見た突破口。

イベント初日の収支は－73000円。それはそれは無様な大敗だった。

朝イチの内角台は昼過ぎに見切ったが、2台目で長く引っ張られ投資が6万円を突破。そして半ばヤケで打った3台目で投資が8万円を超え、どうにかBIG1発分を回収したところでギブアップ。

しかしながら、ガセイベントだったかと言えばそうでもない。19時には実戦を終えたものの、その後もホールに居座り続け、アラエボのシマを観察していた。22時には高設定の一部発表があり、予想通り4台に設定6を示す「金塊の札」が刺された。

4台のうち3台は明らかな「上げ」。朝イチの常連客の動きは、やはり正しかったと言えそうだ。上げ狙いとなると、明日の候補は3台。本命は6000G以上回されたのに、全く良いところナシで沈んだ台だ。明日はなんとしてもソレを確保し、今日の負けを取り戻す!!　この日はシャワーで丁寧に身を清め、夜更かしせずに床に就いた。

翌日――

やはりこの日も俺が先頭だった。1番乗りでアラエボのシマに入り、奥から2番目の台を確保！上げ狙いが正解ならば、まず間違いなくこの台がド本命。そして俺は見逃さなかった。俺の後ろに続いて来た常連らしき男が、明らかに俺を見て「取られた！」という表情をしたのである!! この瞬間、この日の勝ちを確信したのだった。

さて、あとは昨日の投資額73000円を回収できるか否かだ。最上位モードであるSACへ捩じ込むのは容易でないが、設定6であれば高確へは頻繁に上がるハズ。そこでボーナスを大量に吐きだ…

「ドゴ～ン！」
――「は!?」

2台隣から聞こえてきた爆発音に思考が遮られた。一体何が起きたのだろう。遠巻きに件の台を見てみると、液晶にはすでに「BONUS」の文字が！すぐさまその台のデータ表示器に目をやると…現在のゲーム数は驚愕の「8」!!

朝イチ8Gだと!?
早いっ！早すぎる!!

ボーナス放出抽選は通常モードでも頻繁に行われるが、当選率は薄く現実的ではない。基本は単チェ経由となるハズだし、単チェを引いたあとも少し時間が掛かるハズ。その台を打っている本人も、しきりに首を傾げている。

しかし…妙だ。

単チェを引いたのであれば、首を傾げることなどない。つまり「予期せぬ当たり」を引いたということだ。ボーナス即放出単チェでもナイとすれば……

――「あっ！」

そのとき、前日閉店時の光景を思い出した。件の台は前日の発表台、すなわち設定6濃厚台だ。閉店直前まで粘られ、出っ放しのまま閉店を迎えていた。つまり……

高確中に閉店したんだ！

そして今日、高確中からスタートしたと考えれば、早すぎるボーナス放出も納得できる。設定変更後は必ず通常モードからスタートだ。要するにアノ台は……

設定6の据え置き!!

朝イチたった8Gで設定6の据え置きが濃厚になるとは!! てか、全然上げ狙い傾向じゃないじゃん！据え置きあんのかーい!!

1時間後――
件の設定6濃厚台を打っていた人が、ホクホク顔でジェットカウンターへ。言わずもがな即座に確保した。打っていた人からすればワケも分からぬまま1Kで当たり、高確ロングで大量出玉を獲得したのだ。十分満足したのだろう。

よかった。前日夜に帰りたいのを我慢し、閉店まで居座り続けた甲斐があった！

ありがとう！
いただきます!!

その後も念には念を押し、全力で設定推測を実践。序盤こそ単チェが引けず苦しんだものの、挙動は文句ナシの設定6！当然22時過ぎまで粘り倒し、この日の差枚数は＋3500枚だった。前日の負債の完全回収は叶わなかったが、なにより簡単に6をツモれたことが嬉しかった。いや、ツモれたと言うよりも、転がって来たと言うほうが適切か。

ちなみに朝イチ確保した本命台は見事に撃沈。あのまま打ち続けていたら、2日連続で大敗でしたわ。前日設定6だった台の半分、つまり4台中2台が据え置きだった。

この日以降、頻繁にM店へ通い詰めて分かった傾向がある。メイン機種以外のイベント日は据え置きが多い。そのため、2日連続イベントなら1日目より2日目のほうが遥かにアツい。前日高設定と発表された台の据え置きを狙うだけで、ツモ率が急激に跳ね上がるのだ。こうして自宅から50分ほど離れたM店は、しばらく俺のマイホとなった。

1日で大きく負けると、冷静でいるのは案外難しい。でも、帰りたい気持ちをグッと堪えて情報収集に徹すれば、それが活きることもある。さすがにこのケースは出来すぎだけど、負けたときこそ次に繋がる情報収集をしたいものですね。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。