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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2019.07.09
『イッパツ』~無念の途中降板~
室内は不快な薬品の臭いで満ちていた。首からPHSをぶら下げた医師はキーボードをカタカタと叩き、モニターを睨んでいる。無言に耐え切れず背後に目をやると、6つあるベッドに4人が横たわっていた。通常の診察室であればパーテーションで仕切られているはずのベッド。しかしココは…。この光景を見ただけで、普通の診察室でないことが分かる。片時も目を離せない者が入る部屋なのだ。
発症理由。
通されたのは急患専用の診察室だった。
俺を不安にさせたのはこの医師だ。歳は30代前半に見えるが、頭髪は少し寂しく白髪も目立つ。加えて目の下には大きなクマがあり、立ち上がるたび小さくよろめく。この医師こそベッドに横たわるべきだ。そう思ってしまうほど、医師は疲れた様子だった。
医師はカルテをトントンとペンで叩き、俺のほうへ向き直った。傍らで姿勢を正した彼女から緊張が伝わってくる。
医師「たしかにくも膜下出血ですね」
――「…感触は軽度ですが」
医師「おっしゃる通り。でも油断してはいけません」
――「はあ」
医師「一般的に動脈瘤(脳血管のコブ)が破裂するとくも膜下出血となります」
――「ええ、知ってます」
医師「五十嵐さんの場合、場所はくも膜下ですが、破裂したのは毛細血管の先っちょです」
――「それで症状が軽いんですね」
医師「そうですね。しかし、なぜ毛細血管が破裂したのか。そこが重要です」
――「え?」
彼女「そ、それは…」
彼女の緊張が動揺へと変わったのが分かった。
医師「血圧は…高いですねぇ~上が158、下が128」
――「そうなんですか?」
彼女「そんなに高かったの?」
――「低血圧だと思い込んでたから、塩分多めに摂ってた」
彼女「もうバカじゃないの!」
――「血圧上がれば寝覚めも良くなるかと」
彼女「なるかっ!」
医師「まあまあ奥さん。血圧が高いだけじゃ、この若さでそう簡単に毛細血管は破れません。なにか原因があったはずです」
彼女「それは…」
医師「発症の瞬間は何をやられてました?」
――「え~と…その…」
チラリと彼女を見たが、スグに目を逸らされた。
――「運動…運動です」
医師「なるほど。具体的に?」
医師はカルテにペンを走らせた。ドイツ語なのだろう。内容は分からない。
医師「サッカー、バスケ、柔道…」
――「え~と…それは…」
医師「何か頭に衝撃を受けたとか?」
――「いや~記憶にありませんね」
医師「外傷性も疑わねばならないので明確に…」
――「え~」
――「S〇Xです」
彼女がプイと横を向いたのが分かった。医師は縁の細いメガネをクイっと上げる。
医師「なるほど。S〇Xと」
――「…はい」
これまで親戚はもちろん仕事仲間にも隠し通してきたが、くも膜下出血の発症タイミングはS〇X中だった。より厳密に言うならば「果てた瞬間」である。わざわざ書く必要もないのだが、あえて書いたには理由がある。世間には同じようなリスクを抱える人がたくさんいるからだ。血圧が高めの人はS〇Xにリスクを伴う。行為の最中や行為を終えたあとに頭痛がするようなら、平時の血圧を測ってみることをオススメしたい。腹上死は小説や漫画ならネタにもなるが、現実では笑えない。相手の心にも大きな傷跡を残してしまうから。
カルテの上でペンが踊る。おそらくS〇Xだとか性交渉だとか書かれているのだろう。筆記体のドイツ語で。
医師「ふむ、ポピュラーな発症理由ですね」
彼女「えっ!?」
――「ぽ…ぽぴゅらー?」
医師は眉一つ動かさず、ペンを走らせながら話を続けた。
医師「S〇X中の発症は多いんです。興奮状態になり血圧が上がるのでね」
――「は、はあ…」
医師「特に若い人の発症理由は、だいたい外傷性かS〇Xですね。恥ずかしがることではありません。ごくごく一般的な発症理由です」
――「なるほど…」
医師「さて、五十嵐さんにはこれから集中治療室に入っていただきます」
彼女「集中治療室!?」
――「あのドラマで見るような?」
医師「そう、ICUですね。2日ほどそこで治療してから一般病棟へ移って頂きます」
――「分かりました」
医師「もちろんICUに入ったら外部と連絡を取れなくなるので、今のうちに連絡しておきたいところはありますか?」
――「…はい、2ヶ所だけ電話させてください」
医師「分かりました。車椅子をお貸ししますので、電話が終わりましたら奥様とともにICUまでお越しください」
――「分かりました」
脳内をよぎったのは、かつてくも膜下出血で倒れた母の姿。頭蓋を開けて手術したため、しばらく頭に管が刺さったまま入院生活を送っていた。母に意識はあったものの、会話は全くかみ合わず支離滅裂。俺もあんな入院生活を送るのだろうか…。後遺症が残れば仕事や結婚は…。
親不孝。
彼女に車椅子を押してもらい、ケータイを使える休憩所へ。まず報告すべきは実家の両親だ。ちょうど昼食を終え、畑仕事の前に昼寝をしている頃だろう。長いコールののち、やっと繋がった。
母親「はい五十嵐です」
――「ああ俺。ごめんね、寝てた?」
母親「うん、大丈夫」
――「あのさ、落ち着いて聞いてほしいんだけど」
母親「え!? 何?」
――「この前帰ったどぎ頭痛いって言ってだっけべ?」
母親「ああ、んだね」
――「検査してみだら、やっぱりくも膜下だったんだ」
母親「は?」
しばらく沈黙があった。無理もない。整理するのに時間が掛かっているのだろう。
母親「ほんて?」
――「んだ。ただ動脈瘤んねくて毛細血管の先っぽ破れだだげだがら、ほだい深刻んねみだい」
※訳:そう。ただ動脈瘤じゃなくて毛細血管の先っぽが破れただけだから、そんなに深刻ではないみたい
受話器の向こうから声が聞こえた。「おい、お父さん起ぎろ! やっぱくも膜下だど」と。
――「もしもーし、聞こえてる?」
母親「聞こえっだ! どどど…どうすんな?」
――「とりあえず集中治療室さ入らんなねがら、2日ぐらい連絡でぎねぐなるど思う」
母親「なんだて! 〇〇さん(彼女)は?」
――「いま隣さ居だ。明日がらは〇〇さ連絡取ってけろ」
母親「わらわら準備して行ぐがら」
※訳:急いで準備して行くから
――「あー、そんな大ごとんねげんとよ」
母親「集中治療室さ入るのに大ごとんねわげねべ!!」
――「ごめんね、昨日の今日で」
母親「病院の名前おしぇでけろ」
――「〇〇大学附属病院。場所はあとで〇〇(彼女)さ訊いで」
母親「分がった」
電話を切ってひと呼吸。重要なのは、むしろここから。編集部への電話だ。実際に復帰できるかは分からないが、無事に回復する可能性も考えられる。仕事のダメージは最小限に抑えたい…。
途中降板。
通話ボタンを押すと、わずか1.5コールで編集長が出た。
編集長「はい、〇〇出版です」
――「お疲れ様です、ラッシーです」
編集長「おう、どうした?」
――「ちょうどNさん(編集長)にお話が」
編集長「俺に? 何よ?」
――「冗談に聞こえるかもしれませんが、くも膜下出血になりまして」
編集長「は? 親御さんが?」
――「いえいえ、俺が、です」
編集長「言ってる意味が…」
――「俺がくも膜下出血になりまして、これから入院するんです」
編集長「ちょ…くも膜下で本人が電話するとか有り得んの?」
――「それがマジなんすて! 今から2日ほど集中治療室に入ります」
編集長「は? マジ?」
――「ええ、このあと入らなきゃいけなくて」
編集長「ま…マジか…」
会話をしている相手が「くも膜下出血なう」だ。そう簡単に受け入れられるわけがない。
――「で、仕事なのですが…」
編集長「お、おう」
――「しばらくお休みさせてください」
編集長「そりゃな…手術とかすんの?」
――「おそらく…まだ分かりませんが」
編集長「そうか、頑張れよ」
――「ご迷惑をお掛けしてすみません」
編集長「そりゃしょうがねーよ」
――「すみません…」
編集長「じゃあ、いま抱えてる仕事教えて」
――「担当機種は〇〇で、あと〇〇での連載。あとは…本誌のバトル企画ですね」
編集長「はぁ…分かった。なんとかしよう」
本誌のバトル企画。これが1番悔しかった。 過去に何度も書いた通り、我が編集部は毎月4誌を発刊している。本誌とは、その中の冠雑誌「H」を指す。Hのバトル企画に出場するということは、駆け出しライターの俺にとって夢であり目標だった。バトル企画といえば攻略誌の花形企画。表向きは単純に収支を競う戦いだが、もちろんそれだけではない。たとえ無様に負けたとしても、いかに面白い文章で読者を楽しませるか。そこが重要だ。そのメンツに名を連ねてこそ、やっとライターとして認められる。俺にとってバトル企画とは、それほど特別なものだった。
ライターデビューから9ヵ月。やっとその舞台に立てたのに途中降板する羽目になるとは…。そもそも仕事に穴を開けるのはフリーランスにとって致命的。「アイツは身体に問題がある」。そう思われても仕方がない。信用を大きく落とすことになる。
あのS〇Xイッパツで…。
編集長「担当機種は他のライターに頼もう」
――「すみません、お願いします」
編集長「〇〇の連載は、そこの編集長と相談するけど休載かな」
――「仕方ありません」
編集長「バトルは代打だな。…誰か指名ある?」
――「指名していいんですか?」
編集長「まあ、一応聞いてやるよw」
バトルの収支はどうだっていい。どうせ優勝争いを演じられる立ち位置になどいないのだ。体調不良による離脱。そんな暗い話題を吹き飛ばせる人、面白い文章で読者を納得させてくれる人が相応しい。ならば…
――「Sさん、受けてくれますかね?」
編集長「ふはは、そこ行くか!」
先輩ライターのSさんは、俺と同じく編集からの転身組だ。あまり誌面に露出する方ではないが、文章の面白さという一点において右に出る者はいない。俺が尊敬・信頼し、憧れる人物の1人。病床で読むなら、Sさんの文章がいい。きっと欠場の悔しさを忘れられるほどのモノが出来上がるハズだ。
――「Sさんには無茶ブリになりますが…」
編集長「分かった。伝えておくよ」
――「集中治療室は2日ほどで出られそうなので、出たら直接Sさんに連絡します」
編集長「そうしてやってくれ」
――「では、よろしくお願いします」
編集長「見舞いは? どこの病院?」
――「いえいえ、すぐに退院するんで大丈夫です!」
編集長「ホントかよ。また連絡してくれな」
――「ありがとうございます! 失礼します!」
純度の高い強がりだった。確証なんて1つもない。もし後遺症もなく仕事に復帰できるなら、何ごともなかったように復帰したい。そのためにも、仕事関係の人物にこんな姿は見せられない。見せてはならない。俺が彼女を支えていかねばならないのだから。
入院費用は嵩むのに、その間、収入は途絶えることになる。彼女はたまにダンス講師をしていたが、まとまった収入は期待できない。25にして初めてフリーランスの危うさを実感したのだった。もしも入院生活が数か月に亘り続いたら。ウチの生活はどうなるだろう…。
――「じゃあ行こうか」
彼女が頷くと、車椅子はゆっくり動き始めた。エレベーターを降り、短い渡り廊下を通って隣の棟へ。徐々に増えるバタバタと行き交う看護師たち。邪魔をしないよう壁に沿いながら進むと、薄暗い集中治療室の入り口が見えた。ドアの前には透明なビニールカーテン。
看護師「五十嵐さんですね?」
――「はい、そうです」
看護師「中に入ったら治療プランを説明します」
――「はい」
看護師「それと…奥様ですか?」
彼女「いえ、入籍はまだでして」
看護師「ここからはご家族でないと入れませんのでご了承ください」
彼女「…分かりました」
――「じゃあ行ってくるよ」
彼女「お母さんたちが来たら連れて来るね」
――「ありがとう、じゃあ」
彼女と軽く握手を交わし別れた。毎日一緒にいたから、改めてこんな場面になると照れくさい。看護師に車椅子を押され、俺はいよいよICUの中へと入った。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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