３、ある女性の飲み会

この物語はフィクションです。実際の人物、団体とは一切関係ございません。

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ジョッキを持つ。
ジョッキにはビールが残り半分ほど入っている。
飲んでしまいたい。

グイっと飲み干してしまいたい。
しかしそれはできない。
なぜかって？
今はいわゆる合コンの席だからだ。
合コン、死語だろうか？
最近あまり聞かない単語だ。
私がそういう場に行かないからだろうか。
耳慣れない。

第一、合コンって合同コンパの略なんでしょう？
そもそもコンパが略語なのに。
違和感しかない。
最近の若い衆は日本語の使い方がなってないな。
マジで。チョベリバ。超ベリーバッド。

少しだけビールを口に含み、
思いっきりのど越しを楽しむ。
さっきからそれの繰り返し。
ゴクゴクさせろ。
牛乳のＣＭばりにゴクゴクさせろ。

さてさて、
なぜ私がこんな不似合いな席にいるかというと、
一年くらい彼氏のいない私を見かねて、
休みの日はパチンコにしか行かない私を見かねて、
友人のレイコが連れて来てくれたのだった。

あんた最近パチンコ行き過ぎ！
飲みに行くよ！

ありがとう。
有難う。
有難迷惑。

前の彼氏とクソみたいな別れを果たし、
女として終わっている私を心配したのだろう。
パチンコに行く頻度が
最近増えてきた私を心配したのだろう。

本当はすごく断りたかったのだけれど…

てか断ったんだよな？私。
うん、断って、
じゃあ普通に飲もうって言われて来たら
男が三人いたんだよ。
怖いですねぇ。
あー怖いなー、怖いなー。

まぁ私も友達のメンツをつぶす程
傍若無人ではないし、
無粋ではない。
ブスだけど。
性格ブスだけど。
なんでちょっと顔はそこそこだと思ってるんだ。
ふざけんな私。
ともあれ、
安く飲めるのならそれもアリだ。
と思って一杯目を一気したら、
レイコに怒られた。

男性陣引いてるからやめて、と。

私とてマイナスイメージを持たれるのは好ましくない。
だから冒頭に戻る。
グイっと飲み干してしまいたいが
我慢する。
我慢して、少し飲んで
たこわさを貪る。

皆それぞれのグラスやジョッキをもって
歓談している。
私は聞いているふりをしている。
聞いていないので、
私的、今日のメンバー紹介でもしようか。
暇だし。

机を挟んで３対3で飲んでいる。
店内に入って一番奥の席
壁に寄りかかっているのが私だ。
化粧もほぼほぼしてないぞ！
何故ならこんな飲み会と知らされてないからだ！
知っててもしないけど！

そして私の隣、
高校からの友人、レイコだ！
世話焼きが趣味で、三日に一回はＬＩＮＥが来るぞ！
できる女子に憧れる今どきの女の子だ！
ネイルも月一変わる！
お前の爪は装備品なのか！

レイコを挟んでその隣！
レイコの職場の後輩、サキだ！
清楚系ゆるふわ女子！
私との相性は最悪だ！
まぁ初対面なんですけど、
さっきからしゃべり方がウザい。
早く持ち帰られろ。
テイクアウトされろ。

続いては男性陣だ！
左から男性Ａ男性Ｂ男性Ｃ
以上のメンバーでお送りするぜ！

雑？
え、興味ないし。
酒が飲めればそれでいい。
あービールうまい。
ビールと付き合いたい。
見てこの泡、
包容力やばくない？

すると男性Ｂが話を振ってきた。
ビールにも劣るオスめ
なんだ。
聞いてなかったぞ。

はるなさん、ビールに夢中すぎですよ～！

とサキにからかわれる。
うるせえ。
夢中なんだ。
というか下の名前で呼ばれるほど
仲良くなったつもりはないぞ、若人。

どうやらサキ曰く、
恋バナで盛り上がっていたそうだ。
出たな、略語。
恋の話、恋バナ。
小堺さんかな？
見てなかったけど、サイコロでも振ってた？

どんな瞬間に異性にトキメクか

そんな議題だったらしい。
そうだな、最近の私の記憶の中で
一番ときめいたのは――――

んー、慶次が城門突破した時かな。

ぽっと口から出たのは、
パチンコ屋の、
しかも液晶の中の異性の姿だった。

沈黙。
私の言葉に続く者はいない。
賛同も、否定もない。
あるのはレイコからの怒りの視線と
サキ、男性Ａ、Ｂ、Ｃの疑惑の視線。

―――――――あ、し、知らない？
慶次、前田慶次郎利益。

なんの弁解にもならない言葉が出た。
すると、男性Ｂが反応する。

もしかしてはるなさんって歴女？

歴女？
いや、パチ女ですけど。
つか、また略語かよ。
辟易するわ。

とっさにレイコがフォローする。

そうそう、はるなって歴史が好きなんだよね
本とかよく読んでるもんね！
歴女じゃなくて読女なんだよ

なんだ、その略語の数々。
読女なんて初めて聞いたわ。
読女、読書好きな女性か。
独女、独り身の女性。
こっちの方がしっくりくるな。

へぇ～知的だね

男性Ｂがさえずる。
なんだ、私のなにを知っているのだ、貴様は。
そこで会話は終了し、
新たな議題に移ったようだ。
私は解放されたので、
またビールをちびちび飲み始める。
いいんだよ、私の話なんか
ちっとも面白くないし。
振らないで。

つけっぱなしのテレビのように
周りの会話を聞いていると、
次は好みのタイプの話をしているらしい。
まったく、そんなこと話し合って
楽しいのかね。
おうおう、それよりプレミア画像の見せ合いしようぜ。

耳から入って来た情報によると、
レイコは守ってあげたくなる男性。
サキは守ってくれる優しい男性。
男性Ａはやさしい女性。
男性Ｂは一緒にいて楽しい女性。
男性Ｃは家庭的な女性。

ふむふむ。
ここで、私なりの解説をしよう
暇だし。


レイコは付き合いも長いので、よくわかる。
要はダメ男につかまるタイプだ。
私が居なきゃダメなの、彼。
という言葉をよく聞く。
共依存。
世話を焼いている自分が好きなタイプだ。
そう。
だから今までレイコと付き合った彼氏は
全員、もれなく、私の敵だ。
パチンカーに例えると、
ハマり台を好んで育てるタイプ。
え、私の友達やばくね？

さて、サキ。
守ってくれる優しい男性。
これは間違いなく、
自分に尽くしてくれる男性を指している。
金銭面でも、生活面でも。
だいたい守ってくれるってなんだ。
普通に生活していたら、
この日本で命の危険など、まずないぞ。
襲われるかもって思っているのなら、
明るい街を歩きなさい。
変なところに行くんじゃあない。
パチンカーに例えると、
人の金で打とうとするタイプ。
あー、合わないね、私とは。

男性Ａ、優しい女性。
ざっくりすぎる。
なんだ優しいって。
踏みつけられたタンポポに祈りを捧げるような女子か？
ホームレスに炊き出しを毎週末行う女子か？
こえぇわ。
すべてを慈しみすぎていて、こえぇわ。
はい、つまりこれはですね、
優しい女性と言っておけば、
誰にでも当てはまるから言うんですね。
お持ち帰りしたい女子がいるわけではなく、
お持ち帰り出来そうな女子を狙っているから
そう言っているんですね。
どこかのタイミングで

●●ちゃんって、優しいんだね。
俺さっきも言ったけど、優しい子ってタイプなんだ。

こう言って相手を意識させる布石なんです。
結論、やれる女子が良い。
パチンカーに例えるなら
エナ専。この一言に尽きます。

はい、
男性Ｂ、一緒に居て楽しい女性。
一見素敵なことを言っているようにも思えます。
残念、違います。
結構、こういう男性は我が強いタイプです。
一緒に居て楽しい。
つまり自分が楽しいかどうかが大事なわけです。
自分基準なわけです。
相手を楽しませようなんて
これっぽっちも考えてない。
自分勝手な男性です。
自分のことばかり考えているような男性です。
結論、言いなりになる女子が良い。
パチンカーに例えるなら、
ドヤ離席しちゃうタイプ。
自己顕示欲、自己愛のかたまり。

次、
男性Ｃ、家庭的な女性。
でました。
これは確定です。
巨乳好きです。
間違いないです。

結論、巨乳。
パチンカーに例えるまでもない。
カグラ打っとけ。

そんな穿った見方で彼ら、彼女らを考察する。
いやな女だなぁ
なんて考えていたらやっぱり聞かれた。

はるなさんはどんな人が好きなんですか？

沈黙。
今度は私が沈黙してしまう。

考える。
私？
私のタイプ？

緑髪のマッチョ。
サムだよ。
会えるだけで幸せになれるとか
やばくない？

さすがにここでは言わないけれど。
もうあの空気には耐えられない。
っていうかこの場の空気にも耐えられない。
あぁ、ちょっと打ちに行ってもいいかな、
サムに会いたい。
たぶん会えないけれど。

思案する。
タイプの、男性。

元カレとかさ！
どんな人？

男性Ｂが追い打ちをかける。
黙れ、自分基準野郎。
こういう奴ほど、一回激アツ外すだけで
あの台演出バランス無茶苦茶とか言うんだよ。
くそ。


元カレ。

略語。


略すと物事の本質を見失いそうになる。
略語にちょっとした嫌悪感があるのは
そこに理由がある。

どんどん言葉の印象が変わってしまいそうで
怖いんだ。
略語を生み出すのは、
言葉を言いやすくするためだけのものではない。
時に言葉を軽く、
時に言葉を薄くさせる。
もちろん、全部が全部じゃないけれど。
もとの言葉と印象が変わってしまうんだ。

前田慶次郎利益。
慶次。

恋の話。
恋バナ。

歴史が好きな女子。
歴女。

元彼氏。
元カレ。

元々のフレーズよりも
どこか、ポップで軽い印象を受ける。

そういえば、私は浮気くそ男のことを、
元カレとは言ったことがない気がする。
あいつはあいつなりに私を傷つけはしたけれど、
それなりに楽しい交際だった。
今思えば、だけれど。

そんなポップな言い回しで彼を表現したくなかったんだろうか。

嬉しさも
悲しみも

愛しさも
憎しみも

楽しさも
怒りも

特に男性Ｂ、お前みたいなやつには言われたくない。
自分勝手、傍若無人。
そんな言葉とは真逆な奴だったよ。
浮気くそ男は。

え？てかなんで私はあいつをかばっているんだ。
別にどうでもいいのに。

私が沈黙を貫いていると、
レイコが

そろそろ、飲み放のラストオーダーみたい

と救ってくれた。
ありがとう。
ただし、飲み放題と言ってくれ。



会計を男性陣に任せ、店を出た。
街路樹には電飾がなされ、
街はすでにクリスマスムードだ。

まだ飲みましょうよぉ～

遠くでサキの声が聞こえた。
どうやら二次会に行きたいらしい。
私はごめんだ。
お持ち帰りですか？
この子をお召し上がりですか？
というブラックジョークが
のどまで出かかった。

レイコに断りを入れ、一足先に帰る。
時計を見ると、まだ２１時だ。
ガンガン飲めなかったせいで、
全然酔ってない。
まぁガンガン飲むと、
吐くんだけど、私。

そういや飲みすぎて立てなくなった私を
介抱してくれてたのもあいつだったな。
常に周りに気を配って、
常に人の心配をしていた、
あいつだったな。

街路樹の電飾は期間限定だけれど
年中電飾の輝いている、ホールの看板を見つけた。
酔ってもないし、少し打っていこうかな。
飲酒をしてのパチンコはダメだと聞いたけど、
まぁ、問題ないだろう。

そうだ、今日はあいつが教えてくれた、
閉店間際、８００ハマった海は閉店まで出続ける
というオカルトでも試してみよう。

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