◯◯とパチスロの奇妙な因果関係 『と』

今回のお題はガラムさんからいただいた「ときめきメモリアル」。



恋と変は二画違い。さよなら三画また来て四角。四角は豆腐、豆腐は白い、白いは恋人。世界は繋がる。





気づけば12月、坊さんも走る今年最後の月となってしまった。毎年この季節になると、森見登美彦の「太陽の塔」を思い出す。京大の冴えない大学院生達が己が道を邁進しつつ、最終的にクリスマスを滅茶苦茶にするという頓痴気な小説なのだが、冬の寒々しい空気感が巧みに描かれており独特の雰囲気を放っている。読んだ当時の自分のうだつの上がらなさと重ね合わせてしまい、図らずも心に残る一冊となってしまった。


この時期、如何に目を背けようとも視界に抉り混んでくるクリスマス。2017年前に産まれた面識の無いイスラエル人の誕生日を祝うくらいなら、遥かに年齢の近い自分の生誕を祝ってくれてもいいじゃないかという嘆きはさておき、街中は徐々にしかし確実に浮かれたムードになっている。



チキン、シャンパン、ケーキにプレゼント。食欲と物欲とその他の欲に塗れた恋人達の性なるもとい聖なる夜クリスマス。今年も日本中で恋の悲喜交々が巻き起こるのだろう。奇しくも今回のお題も「ときめきメモリアル」、コナミが生んだ世界に誇る恋愛シュミレーションゲームである。本題に戻るが、ここで断言しておこう。パチスロとは恋愛だ。



最初は打ち方も何も分からなかった。逢瀬を重ねる毎に、その娘の事を少しづつ少しづつ知っていく。何気ない通常時に、虫の居所が悪いのか一切登ろうとしないスランプグラフに、不意に見せる煌めく様なリーチ目に、心が通じ合えた事を祝福する歓喜の音に、心を鷲掴みにされていく。



時間が二人の愛を深め、掛け替えのない日常になる。もう何度、二度と打たないと思ったことか。胸が引き裂かれる様な経験をしても尚、あの娘の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。パチスロ無しでは生きられない、パチスロもきっと俺無しでは輝けない。然るに恋である。




季節が移ろおうとも、その都度違った表情を見せてくれる。


四月。春、始まりの季節。浮かれる心に拍車をかけるべく『ドキューン』を打とう。何だか気持ちがざわついたなら、それはきっと不整脈。

五月。慌ただしい生活の気怠さを胸にしまい込み、五日に『ゴーゴージャグラー』を打とう。優しく淡い光と共に、心の靄は霧散する。

六月。降りしきる雨に耳を傾け、『ニューパルサー』を打とう。蛙が愛おしく思えたなら、湿気もきっと気にならない。

七月。照り出す太陽に感謝を込め、『エウレカセブンAO』を打とう。強請らずとも勝ち取れなかったら、一足早い納涼と割り切ればいい。

八月。来たる夏と過ぎ行く夏に想いを馳せ『HANABI』を打とう。死臭漂う危険な火遊びも、この時期ばかりは許される。

九月。涼しい夜風を浴びながら『ナイツ2』を打とう。秋の夜長の静寂には、「月明かりの夜に」が身に沁みる。

十月。神が出払う月。社を離れた神はホールに集う。迷える子羊よ、『ミリオンゴッド』を打ちなさい。主は言った、ハマりも時には救いだと。

十一月。ゾロ目を重んじる我らスロッターの聖日が存在する月。担げる験は担ぐべきだ。盲目的に『ワンバーワン』を打とう。

十二月。寂しさを堪え、クリスマスに『ハローサンタアルティメットマシンガンバージョン』を打とう。理由なんて要らない、だって『アルティメットマシンガンバージョン』だもの。それでも駄目なら三重に行こう。大丈夫、今年が最後とか言ってるけど、きっと来年もバスが出る。

一月。一年の計は元旦にあり。手堅い勝負が求められる。『ハイパーリノ』を打とう。低設定に怯える心配はない、右も左も一段階だ。

二月。節分。圧倒的節分。二月のイベントとか節分しか無い。『まめ』だ。『まめ』を打て。話はそれからだ。

三月。年度の変わり目、終わらせなければ始まらない。全てを覆す為『大逆転』を打とう。四月から本気出す、本気出すから逆転をくれ。



日常はパチスロに彩られ、その輝きを増す。ときめく思い出は心の奥の小さい箱に丁寧にラッピングされて大切に保管される。取り出す度に顔が綻び、愛しいあの娘の元へ足繁く通ってしまう。熱気と高揚感が臨界点まで膨張し、意識がパチスロと渾然一体となった時、恋は愛に変わる。いつの日か、死と投資上限が二人を別つまで、蜜月の日々を送る不変の約束を交わそうじゃないか。




パチスロを愛して止まない。パチスロに愛されたいと願って止まない。いっそパチスロに成ってしまいたいとは偶にしか思わない。



寂れた店の片隅で、愛深き故にパチスロと文字通り一つとなった自分を見かけた際は、どうか台パンだけはご遠慮願いたい。























ひっそりと、しかし確実にお題募集中です。お題をくれた皆様に、心安らかな年末が来る祈りを捧げておきます。次回は「な」から始まる言葉で。

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