夏の幻

２００２年の熱い季節、自分は当時勤めていた会社の本社で野暮用をすました後、パチンコ店に良く行っていた。

支社勤務の自分にとって月に数回の息抜きである。

ただ当時は【FIFA　２００２年　日韓W杯】のまっただなか、パチンコ店は全面的に新装自粛中。

パチンコ好きの自分にとっては、正直ちょっと迷惑なイベントという認識だった。

そんな中、T都S区にある劇場付近の某店に新台が導入されていた。

周りの店は新台を入れられないのに、果たしてどんな魔法を使ったのか謎である。

店に入って地下がスロットコーナーなのだが、階段に○○日○○番台１万枚・１万５千枚・２万枚と現実味のない張り紙が貼られていて、この店は何を導入したのかとドキドキしながら新台を探しに行くと、まさに鉄火場といった空気の中にその台は鎮座していた。

あのミリオンゴッド（初代）との初顔合わせであった。

時間は２０時過ぎ、初めて見たゴッドは今まで見たどの台よりも異質な存在感があった。

平気で万枚を飲み込むから、平気で万枚を出す。

判り易い、そして新装自粛期間に退屈していた心が動き出した。

財布の中には３～４万程度しかなかったが、空き台の中で当りを多く引いている台にワクワクしながら打つと、１５分もしない内に１万円が溶けた。

恐怖を感じながら、負けるものかと自分を奮い立たせるように２万円を纏めて両替し続行（このお店のサンドは１０００円専用）

今思えば、この時から自分は何かに憑りつかれていたのかも知れない。

２万円が無くなるギリギリのタイミングで、赤い数字が液晶に揃う。

ATは純増１０枚で５０Gワンセット連荘性あり

そう、ワンセットで約５００枚が出るのである。

５セット続き、良く判らないまま約２５００枚を獲得して終了、ただやめ時が判らなかったので、１００G程回し２１００枚程交換

憑りついた何かの引きは強かったのか、見事な成功体験を植え付けられた。

翌日会社でシフト調整

ある程度自由に休める立場ではあるが、今月来月と、とにかく休めるように、夏休みと有給を取りまくった。

そして迎えた休日に朝から某店へ出撃

まだ浸透していないのか、並びは１０人程

財布の中には１５万円分の千円札を詰めゴッドに向かう。

まだ何かに憑りつかれていたのか、１万円程で【パオン】の音と共にブラックアウト

リールを止めると、今ではおなじみのテンパイ音からゴッド揃い

魂を持っていかれた

何が起こったのか判っていないがAT数は５００G

繰り返すが純増は１０枚

つまり、５０００枚確定！？！？！？

ホール中央にあるドル箱を４箱持ってくる（当時は一箱１５００枚程度入った）

物凄く気持ちがいい、そして周りからの視線が痛い。

その後も連荘し、ほぼひと波であれよあれよと言う間に１万５千枚を獲得。

１０時開店の店で、１４時前にである。

この日は怖くなったので退散

１万円が半日で３０倍

それからも時間を作っては勝ったり負けたりを繰り返しながら自分は確信していった。

この台は、入れれば出ると。。。。。。

狂気

何が怖いって、新装自粛期間なので雑誌にもゴッドの情報なんか筐体写真くらいしか掲載されていない。

この店にいるゴッド打ちは、ほぼ恐らく全員解析情報も知らないまま、只管にお金を突っ込んでいるのである。

狂気は狂気を呼び周囲に伝播して行きながら、遂に自分にも運命の時は訪れる。

【１日で２７万負け】

因みに２０１９年現在でも超えられない自分のワーストレコードでもある。

この台は簡単に万枚を飲み込むからこそ、万枚を吐き出す。

初日に確認したのに、自分が体験するまで、その事を本気で理解出来ていなかった。

今までにない強い恐怖を感じる。

だがまだ勝ち金は残っている。

伊達にいままで打ち続けていた訳ではない

いい加減自分なりの押し引きの判別材料が揃っている。

天井はそこまで期待できない、注目すべきはやはり初当り

マイルールをいくつか作り、立ち回りを修正

これが旨い事当たって、気が付けばそこそこ勝ちを積み上げる事に成功。

謎はすべて解けた。

しかし姿は大人、頭脳は子供とあざ笑うかのように、新装自粛期間が終了しゴッドの解析情報が出回る。

自分の解析予想と内部数値が驚くほど違っていた。

点数を付ければ、０点である。

その時が訪れ、ようやく何かから解放されたのか、自分はゴッドを打つことは無くなった。

２０１９年現在あのホールは無い、あれは夏の熱い日の幻だったのかもしれない。

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