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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2020.03.17
ホールでおやつ~ライター引退危機~
小箱には寂しげに千円札が入っていた。5千円札もあるはずだが、妙に厚みがある。大きく溜め息をついたのち掴みあげると、案の定、千円札が8枚だった。5千円札を切らしているらしい。
――「とことんツイてねえ…」
朝イチから「2027」の高設定を狙ったが、正午頃には早くも投了。昼過ぎから高設定と思しき「シェイク2」に座れたが、閉店の3時間前から大ハマリ→シャケ(REG)を繰り返して出玉が崩壊。総投資48000円、回収8000円の大敗だった。
「ワァンワァンワァンワァン…」
近くで事故でもあったのだろう。いつもなら気にならないサイレンの音が、今日はやたらと耳につく。
「チッ、るっせーな…」
千円札を乱暴にポケットへ押し込み、薄暗い路地を早足で抜けた。街はすでに眠りかけで、駅に人気はない。ただサイレンの音だけが構内に響いていた。
異変。
――「ただいまー」
カミさん「おかえり~」
出迎えてくれたカミさんは、すでに寝巻姿だった。23時を超えているのだから無理もない。
カミさん「ずいぶん粘ったね」
――「う~ん、まあね…」
カミさん「すぐご飯にする?」
――「うん、ありがとう。自分で温めるから」
カミさん「それくらいやってあげるから、手と顔洗っておいで」
――「ありがとう」
詳しいことは訊かないが、俺の声や表情から勝敗を察したのだろう。俺は促されるまま洗面所に向かった。 1日の収支など気にしていられない。明日もオフで、6の付く日だ。気を取り直し、攻めるべきイベントを精査する必要がある。候補はP店とN店、並びで高設定を使うS店も捨てがたい…
「ワァンワァンワァンワァン…」
またサイレンだ。大きな火事や事故でもあったのだろうか。それとも、容疑者が逃亡でもしたのだろうか。
居間に入ると、テーブルにはすでに夕飯が並んでいた。
――「ごめんね、遅くに用意させて」
カミさん「いいよ、温めただけだから」
――「ありがとう、いただきます!」
カミさん「食べたら流しに出しておいてね。私は寝るから」
――「うん。しかし…こんな夜中なのにサイレンうるさいね」
カミさん「サイレン?」
目を丸くするカミさん。
――「このワンワン鳴ってるヤツ。これ何のサイレン?」
カミさん「は? どの音?」
すかさずTVのリモコンの「消音」を押した。カミさんも目を閉じ耳をすます。
――「パトカー? 消防車かな?」
カミさん「しっ………何も…聞こえないけど」
――「は?」
カミさん「えっ…!?」
沈黙は10秒ほど続いただろうか。その間もサイレンはゆっくり鳴り続けていた。
――「ほらコレ! ワァンワァンワァンってやつ」
カミさん「…いや…何も聞こえないって」
――「いや、何のホラーだよ!」
ハッ!? これは一種の「モスキート音」では!? 26の俺には聞こえるが、9つ上のカミさんには聞こえない。これ以上言うと、カミさんを傷付けかねない…。
――「いや、いいんだ。寝ちゃって」
カミさん「…耳、おかしいんじゃない?」
――「え? 俺の?」
カミさん「前に耳鳴りするって言ってたよね?」
――「たしかに言ってたけど…」
俺が音声さんになることを諦めた理由の1つに耳鳴りがあった。就職して音声アシスタントをしているとき、ずっと耳鳴りがしていたのである。症状が軽度のため「障害」と認定されないが、俺はきっとコレが理由で音声さんになれない。当時は真剣にそう思っていた。
その耳鳴りの原因が「ホール」だと気付いたのは、編集部員になってからのことである。校了作業で1週間ほど稼働できないと、耳鳴りはほとんどなくなった。ライターになり再び稼働量が増えたが、耳栓をするようになったため、もう耳鳴りに悩むこともなくなっていた。
カミさん「明日、耳鼻科行ってきなよ」
――「ええ? ヤダよ! せっかく6の付く日なのに」
カミさん「6の付く日なんて、また10日後に来るでしょ! 身体は1つなんだから」
――「…そうだけど」
コレが耳鳴りのワケがない! 俺の耳鳴りは文字で表すと「ピ――――」や「キィ――――ン」だ。対して、いま聴こえているのは「ワァンワァンワァン…」である。
――「もし…もし明日起きても続いてるなら耳鼻科に行くよ」
カミさん「続いてなくても行くの!」
――「分かった、分かったって。ほら、もうオヤスミ!」
カミさん「ったく、オヤスミ…」
夕食を終えてもサイレンは鳴り止まない。不気味な響きは布団に入っても止まなかった。
無慈悲な宣告。
医師「メニエール病ですね」
――「はい?」
翌朝もサイレンは鳴り止まず、渋々近くの耳鼻科へ。その診断結果がコレである。
医師「ご存じない? メニエール病」
――「はじめて聞きました」
医師「脳に『蝸牛(かぎゅう)』ってあるのご存じ?」
――「はぁ…なんとなく。カタツムリみたいな形の?」
医師「そう、それです」
医師の説明によればこうだ。
普段は蝸牛の中をリンパ液が流れている。しかし、その通り道に何かが詰まったりして流れが堰き止められると、内圧が上がって「めまい」や耳鳴りを引き起こす。メニエール病の原因は諸説あるためコレが正しいと断言できないが、俺を診た医師の説明はこうだった。
――「はぁ…脳で何かが…」
医師「めまいや平衡感覚の喪失はナイんですよね?」
――「ええ、特になんとも」
医師「なら軽度ですね」
――「どのくらいの期間で治るんでしょう?」
医師「一生治らないこともあります」
――「エッ!?!?!? …不治ってこと?」
軽い気持ちで耳鼻科を訪れたのに、まさかの宣告である。
医師「治すことはできませんが、治ることはあります」
――「ど、ど、どういうことっすか?」
医師「言ったでしょ。なにかがリンパ液を堰き止めていると。その『つかえ』が自然と取れて、ある日突然治ることもあるんですよ。逆に言えば取れなきゃ治らないけど」
――「はぁ…マジか…マジかぁ~」
医師「とりあえず症状は抑えられます。リンパ液の分泌を抑えれば、耳鳴りは無くなると思いますよ」
――「はぁ…」
医師「ゼリー状の薬で…まあちょっと不味いですが」
――「ゼリー状ですか」
薬なんて不味くて当然だ。子どもじゃあるまいし、薬が不味いくらいでガタガタ言うわけがない。
医師「とりあえず1ヵ月ぶん出しておきます。1日3回食べてください」
――「ええ!? 毎食後?」
医師「食前でも構いません。まあ、慣れるまで大変でしょうが」
――「そんな大げさな」
医師「帰りにコーヒーフレッシュを買うことをオススメします」
――「スジャータ的な?」
医師「そう。はじめはアレがないとキツいかと」
――「…はぁ。分かりました」
こうして先の見えない治療が始まった。
薬剤師「五十嵐さん、帰りにコーヒーフレッシュを…」
――「マジで!?」
どんだけ不味いんだよ!!
面倒な闘病生活。
カミさん「ねえ、いつまで時間かけてんの?」
――「ちょ…待ってって。マジで不味いんだって!」
カミさん「もう30分かかってるじゃん。こんな小さいの、たかが1個で」
――「いや小さいけど破壊力ヤバいの! クッソ甘くて苦いの!!」
カミさん「子どもじゃないんだから…」
――「ヤダ! 口に入れたくない!!」
見た目は小さなコーヒーゼリー。コーヒーフレッシュをかけると、もはやただのコーヒーゼリーだ。しかしながら、噂に違わぬ不味さである。甘さを極限まで高め、一周回って苦くなった。そんな感じだ。実際は苦さを紛らわせるため甘くしているのかもしれないが。
お子様ランチに付いてくる小さなミニゼリー。そんなサイズなのに、完食までに40分を要した。
カミさん「これを最悪一生か…」
――「ヤメて。気が遠くなる」
そして、この薬のもう1つの難点が「大きさ」である。1個は子どもが好きなミニゼリーサイズだが、仕事や稼働で終日出掛けるとなると、3つ持ち歩くことになる。コーヒーフレッシュをかけるとなれば、食器とスプーンも必要になる。さながら「いいところの坊ちゃんのデザート」だ。
――「くぅ~、不味かった~。じゃあ…抽選に行ってきます」
カミさん「はい、帰り遅くなるかもだから2個持って。コーヒーフレッシュとスプーンも」
――「…はい」
こうして不本意ながら「デザート」を持参してホールへ通う日々がはじまった。
フリーランスの生き方。
虎さん「ちょ~ラッシー、デザート持ち込みとかヤメろて~」
――「ち、違うんす! コレ薬なんですって!」
虎さんも俺も高設定の可能性はあったが、2人とも設定6の可能性は薄い。ヤメるか続行するか微妙なラインゆえ、昼休憩で頭を冷やそう…というわけである。
虎さん「薬? そのコーヒーゼリーが?」
――「こんな色気のないパッケージがありますか!」
虎さん「おう…たしかに。また病気か?」
――「そうなんす。メニエール病とかいう」
虎さん「おお、聞いたことあるな。芸能人とかなってるヤツ」
――「そんなメジャーなんすね。ウチの叔母さんもなってるみたいで」
虎さん「マジか…遺伝もあんのかな? 分からんけど」
――「さあ、どうすかね。治るかどうかも分からないらしいです」
虎さん「マジか…嫁さんもいるのに大変だな」
――「ええまあ…編集部の人間には秘密でお願いします」
虎さん「もちろん言わねーけどよ。フリーだもんな」
――「ええ。くも膜下出血のあとにメニエール病なんて知れたら、健康に不安があるヤツってことになちゃいますからね」
虎さん「…だな」
会社員なら真っ先に報告すべきだろう。しかし、俺はフリーランスなのだ。健康に不安があると判断され、あっけなく捨てられる恐れもある。結婚してスグのいま、それは是が非でも避けねばならない。気付かれてはいけないのだ。
虎さん「パチスロなんか打ってていいのかよ?」
――「医者曰く、ある日突然治るかも…らしいので。運っすね。だから普段通りでいいでしょう」
虎さん「運か…ニューパルVで現在400ハマリのラッシーが言うと不安になるけど」
――「ちょ…イヤなこと言わないでくださいよ」
虎さん「ハハハ…ほら、早く食えよ。休憩時間終わっちまうぞ」
――「いや~。それがコレ、マジでマズいんすよ~」
虎さん「ガキかよ! チュルってイケよ、ひと口で」
――「そんなイケたら苦労しね~んすて!!」
ゴールの見えない闘病生活。編集部に隠し通すには、コーヒーフレッシュやスプーンを持ち歩くわけにいかない。なるべく身軽に、自然体で…。
救いは症状が軽かったことと、薬がキッチリ効いたことだ。もし症状が重く平衡感覚にまで影響が出れば、仕事を続けるのは困難だったかもしれない。俺は親にも言うべきか迷っていた…。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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