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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2020.03.31
浮気合体のカイカン~パチンコのアクエリオン~
「――発進!!」
チッ、またこれか。小さくひとりごちて煙草の箱に手を伸ばした。これを外したら諦めて別の店に移動すべきか…
「ビービービービー…」
警報と同時に液晶の上下からせり出すギミック。
――「え!? ま…」
ギミックは液晶の前で「合体」し、1つの大きな人型ロボットを形成した。俺の口は情けなく開いていたに違いない。
――「ヤベーこれ!」
ふと我に返ると、鼓動が早くなっていることに気が付いた。この程度で興奮するとは、俺もまだまだチョロいプレイヤーなのかもしれない。
口の端だけで小さく笑い、さあ当たってみせろと液晶を睨んだ。
意図せぬ出会い。
その日は1時間半ほど電車に揺られ郊外のホールへ。目的は「赤ドン」のデータ採り。どんなデータでも構わないなら近所のホールで事足りるが、5000G超の勝ちデータとなると店を選ぶ必要があった。
しかし入場抽選の結果が振るわず、ほぼ最後尾から入場。導入から1ヵ月以上経っているとはいえ、赤ドンは爆裂好きのプレイヤーに人気がある。早足でシマへと向かったが、案の定、空き台はなかった。
しかし1時間半もかけて来たのだ。簡単には諦めきれない。なにか適当な機種に腰掛け、赤ドンに空きが出るのを待つとしよう。そう思い周囲を見回したが、隣のシマは「パチスロ戦国無双(以下、無双)」だ。軽い気持ちで腰掛けられる機種ではナイ。そして運が悪いことに、赤ドンのシマはパチスロフロアの端にあった。つまり、赤ドンのシマを常時監視するためには無双のシマにいるほかないのである。
赤ドン打つ前に金が無くなるじゃねーか! それに無双は精神的なコンディションが万全でない限り打つべきではない。悩んだ末、苦しまぎれで座ったのがパチンコの「創聖のアクエリオン」だった。
「CRF創聖のアクエリオンMF-TV」(SANKYO)
2007年の夏に登場。SANKYOのアクエリオンシリーズの初代で、スペックは甘デジを含む3種類。俺が適当に座ったこの台は、ややマイルドな仕様だった。
大当り確率…1/309.1 確変中確率…1/30.9 確変突入率…63% 大当り割合…通常37%、確変45%、2R確変 18% 時短性能 …全大当り後100回転 大当り出玉…約1500個 |
選んだ理由は以下の2つ。
①赤ドンのシマ全体を見渡せる
②テレビCMを見たことがある
当時の俺は年間280日ほどホールにいたが、パチンコにはとんと疎く、まともにハンドルを握るのは1年前にデビューした「ジョーズ」以来。そんな俺でも打ってみたいと思ったのは、かの有名なテレビCMの影響だ。
ビルの屋上にいる綺麗なお姉さんがカメラ目線をキメると、あのキラーフレーズ「あなたと合体したい…」の音声とテロップが流れる。もちろんBGMは、あの有名な主題歌だ。
現代では新機種のCMなどほぼナイが、当時はさほど珍しくなかった。その中でも、ひと際強く印象に残ったのがこのCM。パチンコを打たない人にも強烈なインパクトを与えたようで、人気芸人がトーク番組で話題にすることもあった。おそらくPS史上最もインパクトを与えたCMだろう。
スペックすら確認せずに打ち始めたため、当然アツい予告やリーチなど分かるはずもない。だが、それで十分だ。ただの暇つぶしなのだから。赤ドンが空くまで繋いでくれたらそれでいい。
ギミックの破壊力。
後悔するまで1時間もかからなかった。なかなか思うように回らないのである。それもそのはず。この日は海物語のイベントだったらしく、常連と思しき客は一様にそちらへ流れていた。アクエリオンもなかなかの人気機種だが、さすがに「海の日」には勝てないらしい。
投資は開始1時間で14000円。明らかに暇つぶしの範疇を超えている。これなら無双を打っても変わらなかったのでは!?
2万入れてダメなら諦めよう。そう決心してハンドルを強く握ると、ほどなく予告の会話ウインドウが出現。しかし色がいつもと違うような? ピンク…いや、これがウワサの桜柄ってヤツでは!? にわかに騒ぎ出す盤面右のギミック。これはいよいよ期待できるのでは――!?
液晶を見守っていると4と5でダブルリーチが掛かり、さらに上位のリーチへと発展。しかし、ここで見慣れた男性キャラが出現した。こう言っちゃ失礼だが、いかにも期待度の低そうなツラである。ここまでは何度も見てきた流れだ。
男性キャラ「発進!」
ココから冒頭のシーンへと至る。
ギミック完成後の液晶には赤いロボットが出現した。原作を知らないため詳細は分からないが、明らかに主人公の面構えである。
あれだけド派手にギミックが合体したんだ。ハズれるわけがない!! すると、ロボットの拳が3絵柄を粉砕し、見事4絵柄が揃って大当り確定。どうにかボウズは免れたが、通常大当りとはツイてない。その後に発生した昇格演出も実らず、通常大当りがスタートした。
脳に響くいい仕事。
静かに始まった主題歌を聴きながら、先のことを考えた。5千円ほど返ってくるが、このまま打ち続ける理由はない。時短を抜けたら即ヤメし、あとは休憩所で…
「ビービービービー」
突如鳴り響く警報! その刹那、液晶前のギミックが合体して巨大ロボが完成!!
――「うわぁぁぁ!! なんだ!?」
目を丸くしたまま液晶を見ると、確変へと昇格しているではないか!! しばらくパチンコに触れていなかったため、ラウンド中の確変昇格などすっかり忘れていた。状況を把握し冷静になったあとも、まだドキドキはおさまらない。
そして確変がスタートしたが、10回転もしないうちに通常図柄が揃った。これも大当りスタート前の昇格を逃したが、またラウンド中の昇格があるかもしれない。今度は絶対に驚かない。俺はビビらないぞ――。
しかし、昇格演出がないまま最終ラウンドへ。まあ、そう甘くはないだろう。1万円くらいは返ってきたんだ。時短を取りきったら即ヤメして…
「ビービービービー」
――「おあああぁ~~~!!」
またもやギミックが合体し、最終ラウンドで確変に昇格! このあとも1発の確変大当りを射止め、一気に5000発超の出玉を獲得した。その結果――
19時頃までアクエリオンを打ち続け、およそ8000発を獲得。もちろん何度となく赤ドンは空いたが、俺は玉の射出をヤメなかった。否、ヤメられなかったと言ったほうが正しい。
意表を突くタイミングで合体する、あのカッコいいギミック。それにすっかりヤラれてしまったのである。帰りの電車の中でも、俺の脳内ではずっと主題歌が再生されていた。
アツけりゃいいだろ。
かくしてアクエリオンにハマった俺は、隙あらばパチンコを打つような生活に。もちろんパチスロの稼働が優先だが、空き時間ができればハンドルを握っていた。
しかし、少しばかり後ろめたさも感じていた。パチスロライターとして駆け出しの身分なのに、本業のパチスロではなくパチンコにハマっている。そんなことが編集部に知れたら「担当機種を打ち込んでこい!」と怒られるかもしれない。そんなわけで、編集部がある新宿近辺ではアクエリオンを打たないというマイルールを決め、頑なにそれを守っていた。が――
ある日の夕方。
編集部での仕事を終えると、地元へ向かう私鉄に飛び乗った。もちろん真っ直ぐ帰るつもりはない。途中下車し、アクエリオンの設置が多い某ホールへ。ここなら編集部からも離れているし、2万発程度の貯玉もある。さあ、今日も閉店近くまで楽しませてもらいましょうか!
が、1時間が経過しても当たりはナシ。というか、ストーリー系リーチへの発展すらない。ボーダーはギリギリ超えているが、台移動を決断するなら稼働が上がる前がいい。釘読みなどできないが、一応空き台を見てみよう。そう思い立ち上がると…
――「あっあ……」
編集長「おう、なにしてんだ?」
あろうことか編集長と遭遇したのである! 完全に失念していた。編集長も途中まで同じ路線だということを。
――「いや、あの…アクエリオンを少々」
編集長「ラッシーもか」
――「え? ラッシー『も』?」
編集長「新宿、稼働よくて空いてねんだよ」
――「で、ですよね~」
編集長「なに? ヤメんの?」
――「いや、どうしよっかなと…」
編集長「せっかくだから、隣座っていい?」
――「もちろん」
こうして編集長との並び打ちがスタート。しかし、2人とも当たる気配はない。貯玉はみるみる減っていく。さすがにそろそろ引き揚げるか。そう思ったが、ここで左右の図柄テンパイ時に効果音が発生。擬似連発生の合図となるチャンス目予告だ。
実戦上、4連目まで続けばギミックの合体が発生して激アツとなるが…惜しくも3連でリーチに発展。3連でスカは珍しくない。
――「くぅ~、やっぱ3連止まりか」
編集長「リーチ次第じゃね?」
予想通り、見慣れたベクターリーチに発展。ベクターとは合体前の機体のことで、戦闘機のようなものだ。ロボットが戦うアクエリオン系リーチやストーリー系リーチならチャンスはあったが…。
――「ベクターじゃムリっすね」
編集長「ん!? おま…アツいじゃん!!」
――「え? ベクターっすよ?」
編集長「バカ! 機体が赤なら信頼度20%くらいあんぞ」
――「え? マジすか? ホントだ赤い」
編集長「あー、しかも敵の攻撃で被弾した! アツッ!!」
――「被弾しても結構ハズれますけど」
編集長「機体が緑か青ならな。赤は信頼度30%くらいあんぞ」
――「マジすか! めっちゃ詳しいっすね」
編集長「当たり前だろ! 今は1番面白い台コレだもん」
祈るように液晶を見ていると、見事3図柄が揃って確変大当りがスタート!
――「マジか~! ベクターで初めて当たった」
編集長「ウソだろ? まあまあ当たるぞ」
――「え? ベクター=終わりのイメージですが」
編集長「打ち込みが足んねーんだよ!」
――「ハハ、たしかに…そんな打ってんすか?」
編集長「最近はな。休みの日は朝から行くし」
――「パチスロ誌の編集長なのに?」
編集長「関係ねーよ、そんなもん。アツけりゃパチでもスロでもどっちでもいいだろ」
――「フフ…そうっすね」
編集長「俺はスロ打ちだからとか、そんなプライド要らねーっしょ。お前もライターなんだから、流行のモンはひと通り経験するくらいじゃねーと」
――「たしかにおっしゃる通り」
編集長「あー、俺も擬似連きた!」
それまでの俺は、変なプライドを持っていたのかもしれない。パチスロだけに集中し、パチスロにストイックであるほどカッコイイと思っていたフシがある。現代風に言えば「パチスロキッズ」だったのかもしれない。
俺より少し上の世代はちょっと違う。「面白い」や「勝てる」に敏感で、パチンコ・パチスロにこだわらない。実際にパチスロライターの先輩にも、パチンコの一発台にハマっていた人がたくさんいる。
パチンコが喰える・面白いと見るや、本業そっちのけでそっちに行く。そのある種の野性味・行動力こそ、ライターには必要なのかもしれない。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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