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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2022.02.15
ライターの仕事と悲しい結末~エージェントクライシス~
最後の1Gを回し終え、力なくカメラのレンズに目を向けた。
――「お手上げです。ほかの台を探しましょう」
朝イチから3台の「ツインエンジェル3」を渡り歩いたが、高設定と思しき台は1つもなかった。投資はすでに3万円に達し、出玉は2台目をヤメる際に流した200枚強ばかり。
まだ差枚数プラス域への浮上は可能だが、対人戦の勝敗は見えている。対戦相手は朝から好調が続いており、午後1時には決着がついた。
対人戦でボロ負けなら、せめて差枚数だけでも……。
当然そう思ったが、打てそうな台を探しパチスロフロアを歩いていると気が変わった。ケチな自分の勝敗など、視聴者にはほとんど関係がナイ。
それよりも、今の自分にとって“すべき仕事”はコレではなかろうか。
――「じゃあ、コレ打ちましょうか」
下皿にケータイを投じ顔を上げると、カメラマンが隠すでもなく苦笑いを浮かべた。それはそうだろう。今の時期に演者が打つ機種といえば、緑ドンVIVAやパチスロ「モンキーターン」と相場が決まっている。
それでも俺は、この機種に“ある種の可能性”を感じていた。逆転勝利とか、そういった小さな話ではナイ。
爆裂ART機の登場で賑わいを取り戻しつつあるパチスロシーン。それをさらに一段階押し上げてくれるような、そんな期待を抱いていた。
面倒な機種。
確保したのは導入から2週間と経っていない「エージェントクライシス」。
▲5号機「エージェントクライシス」(エレコ)
2011年の晩夏に登場したART機。ARTの前段階にあたるATも搭載しているため、厳密に言えばAT+ART機になるだろうか。いわゆる“一般的なボーナス”は搭載しておらず、基本的にはARTのみで出玉を増やすタイプだ。
最大の特徴はART「エージェントラッシュ」。それまでの5号機ART機は、概ね純増2.4枚/Gが限界。しかし、エージェントクライシスのARTは3.0枚/Gと、従来の限界を突破したのである! |
カメラマンの言いたいことは聞かずとも分かる。たしかにエージェントクライシスはメジャー機種でもなければ、世間的に見れば注目機種ですらない。個人的には不本意だが、やはりマイナー機と言わざる得ないマシンだ。
押し順ARTが当たり前になりつつあるなか、3色ある7絵柄を全リールで目押しするという面倒さ。加えて業界初の「ゼロボ(出玉が増えないボーナス)」を採用した難解なシステム。
4号機「獣王」や「インディージョーズ」を好んで打っていた玄人層には痛いほど刺さりまくるが、初~中級者からは敬遠されがちな仕様だった。
“だからこそ”だ!
そういった機種を分かりやすく説明し、楽しさを伝えるのもライターの仕事。特に俺のような古臭いライターこそ、こういった機種の打ち方・楽しみ方を広めるべきだ。
それを見たスターの演者さんが、さらに魅力を広めてくれるかもしれない。俺にはエージェントクライシスが点けた小さな火を消したくないという思いがあった。
未完成の雰囲気。
エージェントクライシスは、その純増の高さから導入前こそ話題になったが、導入直後から稼働にかげりが見られた。ART中の目押しの面倒臭さもその一因だが、やはり難解なシステムがネックになったと思われる。
実際、ライト勢からよく聞かれたのが「なにをさせられているのか分からない」という感想。ARTはゲーム数管理で、ゲーム数を消化しきると白BAR(ゼロボ)を揃えてミッション演出へ。
ミッション成功なら引き戻しで再びAT→ARTへと復帰するが、失敗ならART終了→通常時へ転落という流れを辿る。
このゼロボを揃えるというのが、ライトなプレイヤーを混乱させた。揃えると、しばらく出玉の増えないボーナス(ミッション演出)が続く。
ならば揃えないほうが得なのでは? そう考える人も少なくなく、その難解さからライトなプレイヤーが離れたのである。
実際ホールで打っていると、見知らぬ隣の人から質問されることも多かった。まだインターネットも今ほど盛んではなく、情報を集めにくい環境だったせいもあるだろう。
「損をしたくないから打ちたくない」という気持ちは分からなくもない。
実際にやるべきことはシンプルだ。液晶上に白BARが表示されたら素直に揃える。それだけでいい。
ARTゲーム数消化後に白BAR絵柄が表示されたら、白BAR(ゼロボ)を揃えるない限り引き戻す可能性はないし、ゲームも進行しない。
なのに、白BARをあえてハズして抵抗する人も散見された。結果的に損することも知らずに……。
正直にいえば「エージェントクライシス」からは“未完成の雰囲気”を感じた。
液晶演出に出現するキャラクターも一応名前などはあるものの、どことなく時代遅れな雰囲気を漂わせている。あくまで個人的な感想だが、当時のユニバ系機種と比べると、なんとなく手抜きされている気がした。
繰り返しになるが、“だからこそ”俺らライターや玄人のプレイヤーがしっかり喰らいつく必要があった。
謎の使命感。
たぶんエレコもプロトタイプ(お試し)のつもりでこの機種をリリースしたに違いない。これが受け入れられれば、いよいよ本格的にチカラを入れた本命機種を出してくるハズだ!
逆にこの機種が大失敗に終われば、他メーカーも含めこのゼロボシステムを諦めるかもしれない。純増2.4枚の壁を超える夢のシステムが、ここで終わってしまうかもしれない。
そうはさせまい!
俺にはU先輩やA先輩ほどの知名度はないが、それでもこの番組を観てくれている視聴者くらいには届けられるハズ! 少しでもエージェントクライシスの稼働に貢献し、次世代のARTに繋げるんだ!!
パチスロライターとは、ときにこういった勝手な使命感を背負う生き物なのである。昨今話題のステマでもなく、シンプルに「流行ってほしい」という気持ちだけで、勝手な使命感に駆られるのである。
今日の勝負は捨ててくれよう!
まずは、この斬新なシステムをできるだけ分かりやすく伝える。仮に編集でカットされても、せめて打ち方だけは正確に伝えよう。白BARが表示されたら大人しく従って気持ちを切り替える。それだけでも伝えるんだ!!
思わぬご褒美。
すると、打ち始めて7,000円で強チェリーからCZへ。
通常のCZ
■継続ゲーム数は10・20・30・100G ■消化中に7揃いすればART当選しゼロボを揃える |
すると、CZを15Gほど消化したところで見事7揃いを達成。ここで通常時に保持していたゼロボ(白BAR)を揃えると、そのゼロボ中が23G継続の「エージェントミッション」になる。
エージェントミッション中は3択チャレンジが頻繁に発生。左リールの色当て3択に正解すると、ARTゲーム数を10G以上上乗せる。ここでは1回だけ正解し10Gを獲得。
そして23Gを消化しきると、やっと準備状態にあたるAT「エージェントタイム」に移行。ここは30G固定で、消化中の純増は1.8枚/G。レア役でARTゲーム数の上乗せ抽選が行われるが、上乗せナシで駆け抜けた。
そしてATを消化しきると、いよいよ純増3枚のART「エージェントラッシュ」がスタート。ARTは30G+α(上乗せぶん)継続で、上乗せ特化ゾーンも存在する。
プライベートでもよく打つため慣れてはいるが、やはり3色の7を全リールに狙うのは、カメラ前だと少しだけ緊張してしまう。うっかりミスして15枚を取りこぼせば、きっとネットで袋叩きにあうだろう。
出来うる限りのスピードで慎重に目押しをこなしていく。
――「最近のART機と比べると面倒ですが、むしろこの面倒さが逆に心地いいんですよね~」
そんなことを喋りながら、あっという間に40Gを駆け抜けた。もちろんART中にもゲーム数上乗せのチャンスはあるが、純増が高いためそう簡単には射止められない。
――「で、ここからが肝心です」
ARTゲーム数を消化しきったら、抵抗せず速やかに白BAR(ゼロボ)を揃える。最悪それだけでも伝わればいい。このゼロボが23G継続の引き戻しゾーンとなる。
3択に正解するほど引き戻し率がアップ(※)し、不正解でも液晶上で正しいパスワードを入力できればART引き戻しとなる。パスワードの入力については、まだ詳しく分かっていない。
※5回正解で引き戻し濃厚
実戦上、3択を当てまくらない限り、あまり引き戻しは期待できない。しかし、やはり3択は振るわず正解は2回のみ。まずここで終わりだろう。そう腹をくくったが……
――「え、マジ!?」
意外にも正しいパスワードをすんなり入力し引き戻しに成功! 再び30GのATへ移行し、AT後のARTへ移行すると……
――「き、キター! ESCAPE!!」
『ESCAPE』はロックバンド「MOON CHILD」の代表曲。1997年にリリースされ、テレビドラマの主題歌として一躍注目を集めた。オリコンシングルチャートでも1位を獲得する大ヒットを記録。20世紀末に青春を過ごした世代には、まさに特別な歌なのである!
――「くぅ~、こんな簡単にESCAPEを聴けるとは!!」
ほかのART機で歌付きBGMを聴くには、薄いところを通して大量上乗せやロング継続を勝ち獲る必要がある。しかし、エージェントクライシスはARTを引き戻すだけ! そのライトさも、俺ら世代のハートを掴んだ一因だった。
先ほど「手抜きでは?」とやや辛辣な表現をしたが、このBGMに『ESCAPE』を採用したところだけは、開発陣の強いこだわりを感じられた。スパイ(エージェント) モノにはESCAPEのハードボイルドな雰囲気がよく合う。
「どこにチカラを入れてんだよ」とは少しだけ思ったが、それでも俺ら世代にとってはとても嬉しい計らいだった。
カメラ前ながらESCAPEを堪能し、ゲーム数消化で再びゼロボ揃いの引き戻しゾーンへ。
――「はい、こうなったら速やかに白BARを揃えてください。じゃないと、いつまで経っても……」
案の定、引き戻しナシでゼロボ終了。その後も押し順リプレイ不正解までART復帰のチャンスとなるが、それもスルーししばらくすると、すぐに実戦終了時間が訪れた。
獲得した出玉は540枚。簡単にシステムと打ち方を伝えるつもりが、まさか負債まで減らしてくれるとは!
世間の評価はイマイチでも、 やっぱり俺はこの機種が好きで堪らない!!
まさかの結末。
実戦の結果は散々だった。差枚数は-1,073枚で、対人戦でもボロ負け。
それでもエンディングを終えたあとの気分は晴れやかだった。演者としては相変わらずポンコツだったが、攻略誌のライターとしてはいい仕事ができた。そう思っていたのだが……
ディレクター「ラッシー、ちょっと……」
――「はい……?」
急にディレクターから呼ばれた。番組の趣旨と異なる解説をしたせいで怒られるのだろうか。
ディレクター「大変申し訳ないんだが……」
――「え……な、なんすか?」
緊張で強張る体。
ディレクター「午後からずっと、お前の音声録れてなかった」
――「は? ……今、なんて?」
ディレクター「だから後半戦の音声、全部録れてないわ…スマン」
――「な、なんですってーーー!!?」
CS番組はたくさんあるが、エージェントクライシスを解説している番組はほとんどないハズ。短い尺ではあるが、貴重な解説資料として残せた。ライターとしての仕事ができた。そう思っていたが……。
どれだけ注意していても、機材トラブルやヒューマンエラーは起こりうる。だから誰も悪くない。自分がスタッフとしてカメラを回す際も、いつも「音声ちゃんと録れてるか!?」と不安になりますから。
結果、エージェントクライシスの解説は幻に……。
いやね、世間では「〇〇台だ! 〇〇台だ!」と言われてますが、ほんとイイ台だったんですよ! ちょっと大味で、時代も付いてきてなかっただけで。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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