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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.01.31
意図して外した設定推測~ホール潜入調査③~
※はじめにお読みください
当エピソードは2015年頃のお話です。実話ではございますが、半ばフィクションとして捉えていただけますと幸いです。現存するホール・法人とは一切関係ございませんので、具体的な店舗名を挙げるなどの行為はお控えいただくようお願いいたします。
前回のあらすじ
現代より8年ほど前のお話。広告宣伝規制後も札イベントを続ける怪しげなホールで、その札の信憑性を検証中のラッシー。しかしこの店は札イベントどころではなく、さらにヤバいサービスを行っていた。あまりの破天荒ぶりに逃げ出そうとするラッシーだったが、運悪くロングフリーズが発生したうえ、店長と思しき男に顔バレしてしまう。
▲5号機「新鬼武者」(ロデオ)
男「あんた〝H〟のラッシーさんだろ?」
――「……ふぁ、ふぁい」
詰んだ。
ホールにバレるのはマズい。なにせアウトなことをやっているホールなのだ。あまり無下にするわけにもいかないし、逆に親密になるわけにもいかない。
〝攻略誌ライター、違法営業店と黒い関係!?〟
瞬時に浮かぶスレッドタイトル。いやいや、俺ではさほど話題にならないだろう。とはいえ媒体(攻略誌H)に迷惑をかけることは避けねばならない。ここはこの男を怒らせず、かといって仲良くなるでもなく、無難に乗り切るほかない!!
台「うらぁ~、蒼剣ラッシュ!!」
――「………」
いつもなら胸が高鳴る蒼鬼の声も、まるで死刑宣告のように聞こえた。なぜ、なぜこのタイミングで!? パチスロとは、なぜこうもムダな奇跡を起こすのか。そう己が運命を呪っていると……
男「いや~、感激だな~」
隣の席にどっしりと腰を下ろしたパンチパーマの男に目をやると、その表情は、まるで菩薩のようだった。腕を組み、ゆっくりうんうんと頷いている。
同じ青春。
男はいかにも話を聞いてほしそうにコチラを向いている。無視するわけにもいかず、フィギュアのような硬い笑みを返した。
――「どうされました?」
男「いや~、俺の〝夢〟だったんですよ」
――「夢?」
男「そう。俺ね、ずっとHのファンなんですよ」
――「ああ、それはありがとうございます」
男「若い頃は色んなスロ雑誌買ったけど、結局H派に落ち着いてね」
――「それは嬉しいなぁ」
我が攻略誌Hも老舗ではあるが、いわゆる三大誌の中では後発だ。オールドファンの中には頑なに後発のHを認めない人もいるため、こういったファンに出会うと素直に嬉しい。
男「だから、いつかウチの店にライターさん遊びに来ないかなって思ってたのよ」
――「ああ、なるほど」
男「その夢が今まさに叶ったんです! 嬉しいな~」
そう熱く語る男は、ビシッと整った髪型に反し、無垢さを感じられるほど頬を緩めきっている。さながらカブトムシやゲームについて熱く語る少年だ。
男「そうだ、ラッシーさんなに飲む?」
――「えっ!?」
男「ジュースなに飲む?」
――「いやいや、受け取れない」
気持ちはありがたいが、お客さんからの差し入れとはワケが違う。『ライターだから特別扱いを受けた』などと噂されてはたまらない。
――「お気持ちだけで……」
男「いやいや、ウチはお客さん全員に1本サービスだから」
たしかに周りのお客さんの頭上には、漏れなく小さな缶ジュースが置かれている。出玉や新台導入では他店に敵わないので、これもこの店なりの営業努力といったところか。自意識過剰のような形になり、少しだけ頬が熱くなった。
男「ブラックでいい?」
――「じゃあ、ありがたく」
偏見にまみれ勝手に身構えていたのは俺のほうかもしれない。たしかに、ここの営業方針は褒められたものではない。加えてこの男の〝いかにもな風体〟。しかしその実、俺らと変わらない〝こじらせたパチスロ好き〟が作った店なのかもしれない。
男「じゃあ上に置いとくから、ゆっくりしてって」
――「ありがとうございます」
歳は俺より少し上だろうか。機種ラインナップが彼のセンスかどうかは分からないが、Hで俺の記事を読んでいるあたり、ほとんど同世代と思っていい。
同じ時代に、同じような青春を過ごした者同士。
案外、俺だってホール経営をしていたら、こんな店をやっていたかもしれない。今は媒体所属という事実がブレーキの役割を果たしているが、どこかで道を踏み違えていれば、彼のように狂乱の時代を忘れられず生きていたかもしれない。
店に顔バレしたことは好ましくないが、とはいえ敵意が無いことを確認できただけでも収穫だ。とあるフリーライターの先輩は、4号機時代に裏モノで有名な某店へ潜入取材に赴き、素性がバレて事務所に連行されたらしい。そんなことにならなくてよかった。
ホッと胸を撫でおろし、改めて筐体に向き直った。
――「さて、毒を喰らわば皿まで……だな」
やはり長居するような店ではない。このARTを取りきったら帰るという気持ちに変わりはないが、顔がバレてしまったのだから、もうコソコソ打つ必要もないだろう。
このARTで限界までブッコ抜く!
それでサヨナラだ。
強烈な一発。
1セット目は上乗せナシで駆け抜けたが、難なく継続して2セット目へ。まあ、89%継続が確定しているのだから、そう易々と終わられては困るのだが。
89%継続確定の状況
REG中の斜め7揃いからARTがスタートしたため、継続率は最高の89%確定。詳しくは中編を参照。
そして2セット目消化中、レバーONで敵キャラの赤ガッチャが出現。
小役ナビの敵キャラは足軽とガッチャの2種類で、基本的にはガッチャのほうがチャンスとなる。赤や緑といったレア役対応のガッチャは上乗せの期待大だ! 強チェリーや中段チェリーなら上乗せ確定だが、ここは残念ながら弱チェリー。しかし……
台「ガコーン♪」
――「っしゃ+30G!」
弱チェリーでも割と上乗せるのが、新鬼武者のART「蒼剣ラッシュ」のいいところ。ART中にも低確・通常・高確・超高確といった〝状態〟が存在するが、低確・通常といった下位状態でも上乗せ頻度はそこそこ高い。
弱チェリー成立時_上乗せ当選率 | |
---|---|
低確・通常 | 25.0% |
高確 | 50.0% |
超高確 | 100% |
※全設定共通
【低確・通常】弱チェリーでの上乗せ時 上乗せゲーム数振り分け |
||
---|---|---|
上乗せ ゲーム数 |
奇数設定 | 偶数設定 |
+10G | 75.0% | 99.9% |
+30G | 20.0% | 各0.01% |
+50G | 3.0% | |
+100G | 1.0% | |
+200G | 0.5% | |
+300G | 0.5% |
――「やっぱり奇数設定か」
奇数設定と偶数設定では、低確・通常での上乗せゲーム数振り分けが大きく異なる。雑にいえば偶数設定は上乗せしても最小ゲーム数がほとんどで、対する奇数設定は大きく乗りやすい。低確・通常の上乗せを2~3回ほど見れば、設定の偶奇は概ね見抜けてしまう。
その後も通常以下と思しき状況下で弱チェリー⇒+30G以上を複数回確認し、早々に奇数設定が濃厚の状況に。そうこうしているうちにボーナスも当りはじめ、出玉もメキメキと増えていく。継続も危なげなく続き、迎えた7セット目――
――「キターッ、燭台!!」
液晶に上乗せ期待度の高い燭台が出現。興奮を抑えつつ左リールを止めると、スベって上段にスイカが停止した。
――「く~、キツいけど通ればデカい」
演出から察するに現在の状態は通常以下。スイカの上乗せ期待度は10%しかないが、上乗せればデカいのがスイカの特徴。上乗せ時の75%は+50Gで、残る25%は3ケタだ! 第3停止で燭台の炎が燃え上れば上乗せだが……
台「ドゴォ~~~ン!」
――「乗ったーーー!!」
上乗せ確定に気をよくし、反射的にMAX BETを押すと…
――「えっ………」
+300の文字に固まる俺。脳が状況を把握するまで4秒ほどを要した。成立役はスイカではなく1枚役。その確率は1/4096で、同時当選期待度は約94%。
【全状態共通】 1枚役成立時_上乗せ当選率 |
|
---|---|
同時当選時 | 0.01% |
非同時当選時 | 100% |
※全設定共通
同時当選ならほぼ上乗せしないため、約6%の非同時当選を引いたらしい。ちなみに非同時当選なら3ケタ乗せ確定だ。
非同時当選1枚役の 上乗せゲーム数振り分け |
|
---|---|
+100G | 50.0% |
+200G | 各25.0% |
+300G |
※全設定共通
――「ちょ待っ…え? 1/4096のうちの約6%引いて、さらにその25%引いたの?」
もはや俺の脳で計算できる確率を超えている。
――「はじまった……完全にィ!!」
89%継続に加え、残りゲーム数が382G。これだけでも大事故といえるが、新鬼武者の恐ろしいところはそれだけではない。BIGを引けば20%でART初当たりをストックする。つまりBIGを5回引けば1度くらいはストックする計算になる。
――「無事に帰れるか? コレ」
少しばかり不安がよぎったが、頬は緩んだまま戻らなかった。
意図して外した設定推測。
REG中のフリーズから5時間が経った頃、例のパンチパーマの男が再び姿を見せた。
男「出てるな~! さすがっスね!!」
――「いや~、なんかスミマセン」
男「ほら~、いいでしょ? ウチの店!」
――「はあ……はいまあ」
こういう状況でうまいことを言い相手を気持ちよくできないところが、俺のダメなところだ。
男「で、予想設定は?」
――「は?」
男「この台の予想設定は?」
――「え~と、それは……」
ずっとART中ゆえ設定推測は難しいが、設定差のある共通ベルがまったく落ちないところから察するに〝下〟であることは間違いない。奇数設定の下。つまり〝お察し〟だ。
しかし、出玉は4,500枚を超えている。いくらお世辞が下手な俺でも「1だろ!」などとは言い難い。
――「奇数設定は間違いないんスよ」
男「ほお~、ほんで? ほんで?」
男の期待するような視線が痛い。
――「う~~~ん、5ですかね?」
男「いや~、さすがだ! 正解!!」
――「ははは……(んなわけねーだろ!!)」
男「やっぱライターさんはさすがだな~」
男は満足そうに腕を組みながら、うんうんと深く頷いている。わざと予想設定を外したが、この状況下ではこれこそが正解だろう。まさか意図して設定推測を外す日が訪れるとは。
もちろん営業中に客に設定を教えるなど言語道断だが、こうもウソ濃厚だと笑ってしまう。平気でウソをつきまくっていた4号機時代のホールが懐かしく思えた。ちなみに設定6確定らしい化物語は万枚を突破している。どうやらアレはホンモノらしい。
男「じゃ、俺はもう帰らなきゃいけないから」
――「ああ、そうなんスね!?」
男「頑張って出して、また遊びにきてください」
――「……ありがとうございます」
男「ほかのライターさんも連れてきてくださいよ!」
――「はははは……(絶対ムリ)」
こうして男は満足そうに帰っていった。腕時計に目をやると、まもなく21時を迎えるところだった。閉店まで残り2時間弱。できれば取りきって帰りたいが、初当りストックも2発あるため叶いそうにない。
――「さて、閉店まで頑張るか」
こんな店で閉店まで粘ることになるとは露ほども思っていなかった。もう1度姿勢を正し、改めて新鬼武者に向き直った。この店で打つのはこれが最後。そして新鬼武者を打つのも、これが最後になるかもしれない。
鬼武者ほどの名機は、そう易々と生まれてこない。その大事な最終戦になるかもしれないんだ。一打一打を大切にしよう。そんな心持ちで再び回し始めた。
知らぬところで。
その後も勢いは一向に衰えず……
3ケタ上乗せを連発! そして遂に……
店員「いや~、さすがに取り切れませんでしたね」
――「ハハ、もう覚悟はしてましたから」
残りゲーム数は40Gまで迫ったが、鬼武侠の水晶玉(後乗せ)を残したまま閉店を迎えた。初当たりストックも残したままだと思われる。
流した枚数は6,538枚。予想通り交換率はやや悪かったものの、総投資額が少なかったおかげで十分すぎるほどの大勝ちだった。
店員「ぜひポイントを貯めにきてください」
――「ハハ……そうスね」
「また来ます」とは言えなかった。パチスロライターなんて高尚な職業ではないし、特に俺は社会性の低い人間だと自覚している。清廉潔白じゃないのだから、こんな店に出入りしていてもおかしくはないのかもしれない。
けれども、やはり媒体所属のライターには相応しくない店だとは思った。この店のことは桃源郷にでも迷い込んだと思って忘れよう。そんなことを考えながら、厚みを増した財布をポケットに捻じ込み駅を目指した。
罪を犯したわけではないのに、自然と顔を伏せ、背中を丸めて早足で歩いた。
数週間後――
近所のホールで稼働していると、偶然〝あの店〟を教えてくれた先輩ライターに会った。
先輩「おうラッシー、お前あの店行ったんだってな?」
――「は? なんで知ってんスか?」
先輩「ハハハ、やっぱ知らねーのか」
――「え? なにをスか?」
先輩「この前、近く通ったからあの店覗いたら『Hライターのラッシーさんも遊びにくる当店! ラッシーさんも選ぶ当店で、どうぞごゆっくりお楽しみください!!』って、めちゃくちゃマイクアナウンスしてたぞ!!」
――「は?」
先輩「お前、もう広告塔みたいになってたぞw」
――「ちょ、ま……ウソやろオイィ!!!」
みなさん、もう1度言いますね?
本当に1度しか行ってません!
ポイントも貯めてませんからね!!
組合に非加盟でもホールはホール。それをどうこう言えるほど俺は偉い立場ではないし、人によってパチスロの楽しみ方も違っていい。だから、あの店に通っていた常連さんの気持ちも分かる。
ただ、やっぱり周囲の競合店と歩調を合わせ、真面目に営業しているホールを応援したいと思ったエピソードでした。
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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