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パチンコパチスロ小説
2023.09.13
パチスロ青春小説 マーベリック 第18章「稼働の無力化という最大のダメージ」
【登場人物】
エリート
店のクセを見抜いて状況を瞬時に読み取る、仲間を率いる若き司令塔
キャバ
美貌と強運をあわせ持つ紅一点、破天荒ながら3人をつなげるムードメーカー
ヲタ
驚異的な記憶力と忍耐力を持つ、彼らの稼働と収支を支える執念の獣
【前回までのあらすじ】
ホール側が入場時の混乱を何とか収めようとしていた時、次々と台やパーソナルシステムへの破壊行為が報告される。
それは明らかにグランドオープンを狙った嫌がらせ、宣戦布告とも呼べるものだった。
夜22時近く。
エリート、キャバ、ヲタのうち打っているのはヲタだけ。
エリートがヲタの肩を叩く。
ヲタはクレジットボタンを押して台のメダルを出すと、下皿に残るわずかな量と共にメダルをパーソナルシステムに放り込む。
何も語ることなく、2人は帰り支度を始めた。
あの時に押さえた台はどれも打つことができず、一時的に3人とも台にあぶれた。
その中で他の客のマークが薄いアクロス系に戻ったが、結局最後まで打ち切ることができたのは1台だけ。それもわずかにプラスになっただけで、全員が初日の貯玉をほとんど使いきって2日目は終わってしまった。
日ごろ設定狙いをしているホールならば、おおよそ当たりが捲れても他の台もライト層や読み違えている設定狙いの客によって回される。
しかし、今日は朝イチに軍団らしき集団に潰された台は電源を落とされたままで、露骨な高設定挙動を示した台だけがこの時間まで打ち続けられていた。
つまり低設定はほぼ回されず高設定だけがぶん回されている状態で、あきらめて店を去る負け組と一方的に出玉を得る勝ち組が明確に分かれた状態。それは一握りの勝ち組だけが幸せな状態で、大多数の他の客と店側にとって決して不快なものでしかなさそうだった。
(それは当たり前だけど、これは露骨すぎる。今、抜いてる奴らのための仕業なのか、それとも?)
エリートはまだ、今日起こった事件を整理できず胸中で自問自答を繰り返していた。
ホールの外、すでに台数の少なくなった駐車場の片隅で、キャバは独り声を荒げていた。
耳にはスマホが当てられ、話し相手に対し怒りをぶつけているようだった。
「なんでじっちゃん今日は来てないのよ……お得意様に呼び出された? っていうか、こういうのすぐ直しに来るものでしょ?……ううん、別に頼まれたわけじゃないけど。目の前で親父の会社の機械がぶっ壊されたのよ、黙ってられるわけないでしょ!」
キャバは周囲を気にしつつ、自分に湧き上がるテンションを抑えきれず話し続ける。
「……だからって、別にアタシじゃなくても文句を言いたくもなるでしょ! そりゃあこうして話してるのは特別っちゃ特別だけど……もういいよ、じっちゃんもサラリーマンなんだよね……あ、ゴメン。そういう意味じゃなくて……」
ホールからエリートとヲタの2人が出てきて、こちらに向かってくるのが見えた。
「何かゴメン、我慢できなくて。また連絡する……うん、そのうち家にも顔出すようにするよ……じゃあ」
キャバは通話を切り上げ、近付いてくる2人に視線を向けた。
「お疲れ~、どうだった?」
笑顔を作り、手を振って2人を迎え入れる。
エリートは首を横に振り、一方ヲタは軽くうなずく。
「今日は……仕方ないと思う」
「アレ、何かいつものヲタくんに戻ってる」
「……いつもの?」
ヲタは首をかしげてキャバを見上げる。
あのトラブルの時に見せた、凛々しく語りかけてキャバの手を引き導いた姿は、今は無い。
「あー自覚無いんだ。それよりエリちゃんご機嫌斜め?」
「いろいろあったけど、僕たちが負けてるのは事実だ」
エリートの表情は、あの時以来終始曇ったままだった。
「ヲタくんの言う通りだよ、あんなのアタシたちじゃどうしようもないじゃない。ま……悔しいけどね」
「そういう感情はないが──いや、どうにかできなかったのかというのはあるか。それより仕事は大丈夫なのか、キャバ? 電話していたようだけど」
「うん、前もって伝えたシフトさえ守れば融通利くから」
嘘ではない嘘は得意だ。それに話す必要はない。これは2人には関係ない、アタシの問題、意地みたいなものだ。
そんな思いでキャバは答えたのだった。
深夜、宇都宮駅から徒歩5分ほどのシティホテル。
すでに眠りについている真由美を部屋に残して、浅野はホテルのロビーから外に出た。国道を走る車はまばらで、通りを歩く人影はない。
屋内で吸うことができない煙草に火を灯して一息吸うと、美味しそうに噛みしめてから星空に向けて紫煙を吐いた。
しばらく夜風に吹かれながら独りを楽しむと、浅野はスマホを取り出した。
「うーす」
「おうよ」
「何だ、思ったより元気そうじゃないか」
「開き直りだよ、ここまでされたらな」
「今はまだ店だよな」
「ああ、今日は泊まりだ。事務所で仮眠しようとしてたとこだよ」
浅野が電話した相手は瀬戸口だった。
「常連連中も途方に暮れてたよ。余り物のノーマルかディスクアップ漁るしかないって」
「今日は6号機祭だったんだよ。他にも単品は散らしたけどな」
「そうだったかあ、あの修行のような通常時を過ごした後のバトルで勝てばおめでとう、ってタイプが当たりかと思ってたが」
「結果的にはそれに近くなるか。今日は分かりやすく最近の台を打ってくれる客に勝たせたかったんだけどな」
「そう言えば、朝イチ偽券で確保してから台潰さずにそのまま打ち切った奴らのメダルは流させたのか? 俺は午後には帰ったから見てないんだが」
「上手いことやられたよ。台間カメラの顔認証で裏取ってから没収しようと思ったが、とっとと打ち手変えられて不正確保で剥がせなかった。まあ、最悪それはいいんだよ。出玉を見せることには変わらないから」
「それよりも潰された台の方か」
「生活安全課の対応を副店長に任せたんだが、『基盤までやられてる可能性がある』って公安委員会の承認待ちにしやがった。アイツ本当に俺と違って慎重派だからなあ、まあ正しいんだが。メダル口から接着剤ぶち込まれただけなんだが、基盤やらハーネスやら光ファイバーやらのゴトと比べて超アナログなやり方が、結果的に無茶苦茶ダメージが大きいっていうな」
「自分の得より相手の損を優先する嫌がらせってのは、手軽で効果抜群なのが多いんだよ。それにしても、その副店長は良く分かってるよ。お前と組んでた時、俺がどれだけ肝を冷やしたことか」
「吹かしてんじゃないよ。おまけに何島かメダル回収システムも逝っちまってなあ。こっちは店長が対応してるんだが、業者来るのは明日とかで終わってるわ」
「じゃあ動かせる台は、今日の騒ぎの後と同じだけか。ジェットカウンター用意してメダル補給も手入れとかダメなのか?」
「すぐに準備できるもんでもないし、いろいろと連動してるから無理なんだよ。しかし、脆いもんだよなあ。たしかに一気にイカれるハードウェアも考えものだな、お前の言うとおりバックアップも考えておこう」
「しかし、それじゃあ明日は大変だろう。対策はしてるだろうが」
「今から頭が痛いわ。明日の朝イチは俺もオペレーション入るよ。ビス子さんも呼んでるからな」
「そりゃまた難儀というか最悪のタイミングというか……これ以上邪魔しても悪いな、切るよ」
「今回は無理だが、落ち着いたら飲もう。真由美さんによろしく」
「ああ、じゃあまた」
通話を終えると、煙草の火はすでにフィルターにまで差し掛かっていた。地面でもみ消し携帯灰皿に収める。
もう1本吸おうとしたが、ホテルの客室を見上げてその手を止めた。
少し考えしばらくスマホをいじり、顎に手をやって画面を見つめる。
「お手並み拝見だが……さすがにキツイよな」
浅野はそう独り言をこぼしてホテルの入口へと戻っていった。
「何か……違う」
グランドオープン3日目の朝、それがホール前に着いた時のヲタの第一声だった。
「薄い感じ? 目ギラギラさせた奴らが少ない気はするな」
キャバも同じ意見らしく、徐々に集まってくる客を眺めている。
あくまで目に入ったサンプルに過ぎないが、エリートにもそれは感じられた。
初日からいた専業、2日目にいた軍団らしき人間たちの姿はない。もっとも、昨日の今日で器物損壊罪の当事者たちが現れるとは思えない。それよりも地元の専業らしき者たちがいないのが気にはなる。
昨日の騒ぎで今日は期待できないと手を引いたのだろうか。過度な期待はせず危うきには近づかない、彼ららしい判断ではある。
正直、今日は出たとこ勝負ではあった。昨晩の段階で稼働停止された台がそのままだったのは確認している。それらが修理されて復活しているかは分からないが、今までの経験ではほとんどの場合、そのまま数日間は修理中のままなことが多い。
そして、そういった場合にホール側が設定を入れてくるかは未知数だ。ただ、同系列の首都圏の店では修理明けで履歴に空きができた台に設定を入れる傾向はあった。
それにしても、狙い機種も位置も何も読めない。店のクセは、店がわざと客に伝えようとしているから分かるものであって、これまでの流れがリセットされては分かりようがない。
昨日から自分が機能していない。2人が咎めてくることは無かったが、自分が役に立ってないことは感じていた。
その時、誰かに背中を叩かれた。
自分の視野には、キャバもヲタもいる。浅野夫妻かと思って振り向いたが、それは違っていた。
「碧!?」
「よっ、伊吹」
そこにはグランドオープン前日に久しぶりに再会した、エリートの幼少期からの姉貴分である碧が立っていた。先日会った時の清掃員の制服ではない私服姿で、その飾り気のない出で立ちは懐かしく、どこかふわふわとした今のエリートの心を落ち着かせてくれるかのようだった。
「へーっ、ほーっ、なるほどー」
キャバは目の前に立つエリートとその傍らに立つ碧を見比べて、それはもう嬉しそうに取り繕うことなく感じたことそのままを漏らしていた。
「この人がエリちゃんの現地妻ね~」
「伊吹をたぶらかしてるそうで、お世話になってます」
「“伊吹”かー」
「“エリちゃん”ねえ」
キャバと碧はニコニコしながら互いに顔を突き合わせていた。
2人の間に火花が散っているようにさえ見える。
エリートは2人の間に入って距離を開けさせた。
「いや、だから説明したとおりそうではなくて……」
「冗談よ、エリちゃん。たぶんアレ、ビス子さんだろうからヲタくんと挨拶してくるわ。碧さん、また後で」
ふだんは決して見せないエリートの困り顔を堪能してから、キャバはヲタを連れていつの間にかでき上がっていた人だかりの方へとこの場を離れていった。
「いい子たちみたいじゃない。気取ってるわけでもないし」
「頼りにしてるよ。それより碧は仕事明け?」
「夜勤だったんだけど、仕事始めまでだいぶ待たされちゃってね。何か昨日大変だったみたい」
「──!」
碧の言葉にハッとさせられ、エリートは思わず息を吞んだ。
それは、その先を聞いていいのかという躊躇だ。
『できれば勤務中にホール関係者以外の方との会話は控えていただけると助かります』
3日前の碧と再開した日、このホールの副店長らしき男性が碧に言った言葉を思い出したのだ。
ここで碧から何か有益な情報を聞き出せるかもしれない。しかし、それはやっていいことなのだろうか?
「どうしたの、伊吹?」
「──いや、何でもない。昨日はイタズラした奴らがいて、打てなくなった台がいっぱいあったんだよ」
「何かもうドタバタしてたなあ。わたし達が掃除した後も、開店前だっていうのに店長が1台1台チェックしたりしてて。いつもはそんなこと無いのにね」
「そうだったのか、夜勤明けなのに引き止めてしまってゴメン」
「いいのよ、わたし時給で待機時間も含まれるからむしろラッキーだったし。それよりさ……」
「何だよ、碧?」
「“エリちゃん”って呼ばれてるんだ? それに何なの、あの話し方。伊吹が一番気取ってる感じじゃない?」
碧の興味津々といった碧の問いに対し、エリートは答えに窮するのだった。
『今日はよろしゅうおたのもうします、でもお呼ばれはあらへんさかい、許しとぉくれやす』
キャバとヲタが向かった人だかりの中央では、花魁姿のビス子がファン対応に勤しんでいた。サインや握手、写真撮影などその場で何にでも対応している。
その傍らにはアテンドらしき人間もいたが、群がる客たちを制する様子は無かった。
「開店前ってビス子さんこんなにサービスしてたっけ? たしか動画だと時間決めてるからそれ以外はやめて、とか言ってた気がするけど」
「分からない……俺の時は向こうからだった」
「ああ、マムシお呼ばれか。そう言えば今日は無いって言ってるみたいだけど」
キャバとヲタが遠巻きに様子をうかがっていると、ビス子がこちらに気付いたらしく目くばせをしてきた。
「少々かんにんな~」
そう言うとビス子はゆっくりと歩いて人をかき分け、こちらに近付いてくる。
「あら~前にも見たお客様どすな~」
「……どうも」
ヲタはぶっきらぼうな返事で素っ気ない態度を示す。
偶然にもそれは、既知の間柄であることを悟られない効果があるようで周囲の他の客が怪しむ様子も無かった。
ビス子はキャバに対しては軽くウィンクだけして見せると、ヲタに顔を寄せて耳打ちした。
(ごめん、今日はまともに打てないと思う。昨日の騒ぎで打てなくなった台、まだ直ってないんだって)
その囁きにはヲタも反応し、白塗りで化けたビス子の顔をまじまじと見つめた。
「わっちは今日打たへんさかい、好きな時に遊びに来とぉくれやす」
今度は周りにも聞こえるような声で話すと、ビス子はファン達のもとへと戻っていく。
「ビス子さん何て言ってた?」
キャバが気になって尋ねると、ヲタは黙ったままエリートたちがいた方へと歩き出す。
「ちょっと、今度はそういうパターン!?」
キャバはあわててヲタの後を追った。
その時、2人は気付いてなかった。
昨日の朝、黒のワゴンから降りてきて開店後まもなくホールを去っていった集団のうちの1人が、スマホを確認しながら人を集めている。そして各々に指示を出して人が散っていったのを。
昼過ぎには決着した──してしまっていた。
一言で言えば、強い。
昨日からの稼働停止が多い中、残された台の3分の1近くがすでに反応している。
そして、バラエティコーナーが強い。
何かやってると気付いた時には、すでに空台は無かった。
稼働台数が少ないこともあり、朝イチはエリート、キャバ、ヲタ、3人ともあえて機種や島を変えてバラバラになりつつも台を押さえた。もちろん、周囲の観察も怠っていない。
しかし、3人が3人とも自身の台の動きが芳しくなく移動を余儀なくされた頃には、他の台が分かりやすいくらいに反応して空く気配はない。
キャバ、ヲタの2人は台を空けて徘徊に回り、エリートも傾向をつかもうと必死に頭を巡らした。だが、どう考えても今日やっているのはバラエティ、他は均等に散らしているようにしか見えない。それ以上は、何を考慮に入れても希望的観測になる。
その中で、ホールとして初の来店イベントであり今日の華である演者のビス子の姿は島にない。動画で演じている花魁姿のまま休憩スペースに腰かけてファン達に囲まれている。
ヲタが朝に聞いた言葉どおりで、おそらく事前にホール側から状況を伝え聞き、他の打ち手を考慮して自分は打たないと決めていたのだろう。
あの言葉を重んじて見が良かったのか。しかし、ここまで遠征してきて、何も得るものがないまま終わるのか。
昨日とは異なる、実力で“詰んだ”という屈辱。
当たりと思わしき台の挙動の強さと速さ、反比例しているようなそれ以外の台の弱さ。ピンロクくらいのメリハリ設定にしていると言っても過言ではない。3人でひたすら徘徊を続けて空台を待つにしても、この状況では夕方以降になるだろう。
朝イチ運試しの椅子取りゲームに頼るしかなく、それに敗れた末路がこれか。
「河岸を変えないかい、若者よ」
その時、目の前の現実を認めるしかなく肩を落としていたエリートに声がかかる。
それは朝には見かけなかった浅野夫妻だった。
次回予告
あの時、何が起こっていたのか。
単なるゴトとは思えない意図を、若者は感じ始める。
次回「集団ゴトを越えた陰謀の影」。
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- じく
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元ゲームメーカー勤務、現在フリー。前職ではシナリオ・マニュアル・キャッチコピーなどのライターとして過ごし、パチスロを題材とした小説も執筆している。
e-sports系やMリーグ観戦が大好き、たまにTwitchで雀魂やウマ娘やフロムゲーを配信したりもするスロ系でもありゲーム系でもあるオジサンです。
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