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パチンコパチスロ小説
2023.09.10
パチスロ青春小説 マーベリック 第17章「不正行為を越えた“テロ”」
【登場人物】
エリート
店のクセを見抜いて状況を瞬時に読み取る、仲間を率いる若き司令塔
キャバ
美貌と強運をあわせ持つ紅一点、破天荒ながら3人をつなげるムードメーカー
ヲタ
驚異的な記憶力と忍耐力を持つ、彼らの稼働と収支を支える執念の獣
【前回までのあらすじ】
グランドオープン2日目。
3人が入場すると、偽造されたらしい台確保券で座れない客が多数発生する混乱が発生していた。
ホール側も後手に回りながら必死に対応して営業を続けようとする。
「では、専業たちも喰らった側だと」
「彼らも相当頭に来てる。店員に突っかかってるのはほとんど地元の専業連中だよ。早くあいつらを剥がして台を空けろって詰めてる」
浅野とエリートは店外の喫煙所も兼ねた休憩スペースで話していた。
開店してまだ1時間も経ってないこともあり、他に人の姿はない。
「あいつらも多少は小技を使うことはあるけど、ここまであからさまなことはしない。ホールに生かされてるって分かってるんだよ」
「生かされてる?」
「ホールあっての専業、他の客からかき集めた金のおこぼれを自分たちが頂戴しているってこと。最近の若いのはそういう考え無しに抜くことだけ考えてたりするけどな。君はどうなんだい?」
「生かされてる、という一方的な感じではないですね。ホールも客がいなければ成り立たないし、客がいる以上、より勝ちを目指して行動する者が現れるのは当然です。専業なのか副業なのか趣味なのか、は客側の都合でありホールが勝手に分類しているにすぎません。強いて言うなら、生かし生かされている、ではないかと」
エリートの言葉に浅野は口角を上げてうなずく。
「なるほど。君はそっち方向で一段階上に行ってるのか」
「そっち方向?」
「まあ、その話はまた今度で。とにかく分かっているのは、昨日はいなかったグランド狙いの軍団、それも不正上等の輩が現れたってことだ。でも、防犯カメラだってあるし昔と違って今のホールはセキュリティもトラブル対応もしっかりしている。あとは時間の問題だから、様子を見てるといい」
「ならばいいのですが。しかし、ここまで状況を教えてくれるとはありがたいです。正直、驚きました」
「余計な口出しをする気は無かったが、この状況はさすがにな。店を推した手前もあるし」
「そう言えば奥さんはどちらに?」
「真由美さ──彼女はまだホテルだよ。ゆっくり起きて昼に食べる餃子の店を探しておくって言ってた」
「昼って、休憩取るんですか?」
「若い頃とは違うんだよ、おじさんの体力を甘く見るなよ?」
昼休憩など取らずホールで立ち回るのが当たり前、という姿勢は理解しつつも浅野は苦笑いしてそう答えた。
駐車場奥に停められていた黒の大型ワゴンは、開店後まもなく数人の男を回収して後に敷地内を出た。
どこにも立ち寄らず真っすぐに宇都宮駅へと向かい、ロータリーで停まると先ほど乗り込んだ男たちが降りて改札へと向かっていく。
そしてワゴンは再び動き出し、先ほどまでいたホールへと走り始めた。
車内にはサングラスにマスクを付けて運転する男が1人、後部座席ではシートにいくつものスマホを並べては手に取り素早い動作でメッセージを送り続ける男が1人。
そして、それに向かい合う形で金髪の男、城之内が足を組んで自分のスマホを眺めていた。
「城之内さん、ほぼ全員座れて打ててるっす。こぜ6の報告もいくつか」
「うっせえな、今OLしてるっていう女とマッチングしたから待ってろ」
「それプライベートっすか?」
「いいだろ、オレだって堅気の女とヤりてえんだよ」
「どうせ飽きたら捨てるか風俗にまわすんでしょ? 城之内さんすぐに女ボコボコにするから」
「それ以上言うとテメエをボコるぞ、ああん?」
「すんません。それより、そろそろ設定有り無しの報告挙がってきてるっす。もちろん打ち子の言うことだしチョロっと打っただけなんで、いい加減なもんですが」
「それでいいんだよ、そっちはオマケなんだから。上っぽい台は予定通り、打ち子変えて閉店まで打たせておけ」
「じゃあ、そろそろっすか?」
城之内は腕時計をじっと見つめて指示を出す。
「早くしねえと店も対応しちまうだろうしな。10分後にすっか」
「分かりました、現地の親に連絡します」
「時限爆弾仕掛ける奴って、こんな感じなのか。たまんねえな!」
窓のスモーク越しに流れていく街並みを眺めながら、城之内は不敵な笑みを浮かべた。
『そうか、じゃあ今の台は空けて開放されるタイミングを張るか』
『アタシも次のバトル終わったら止めておく。あの不動産屋のオッサン、なかなか顔が利くのね』
『僕も中に戻る。各自の判断で空き台を押さえよう』
2人にラインで報告し終えると、エリートは店内へと戻った。
通路や休憩スペースには打つ台が無く途方に暮れた客や、自分たちと同じような考えで空きを狙っている眼光の鋭い者たちの姿が目立つ。
自身もそれを見逃すまいと警戒していると、いま状況が動き出そうとしている前兆に気付いた。
周囲に点在している店員たちが同じタイミングで耳に手を当て、インカムからの指示を確認している。
そして個々の店員が移動し始め、そのうちの1人が従業員の出入口に向かう。間もなくその扉からは、店員の制服とは異なるスーツを着た男性たちが姿を現した。
エリートは視線を変え、ヲタとキャバを探す。すぐにその姿は見つかり、目でサインを送ると共にうなずいてきた。2人とも気付いているようだ。
(よし、これなら機先を制せる)
エリートは胸中に高まる期待と興奮を感じていた。
「もうすぐっす。あと1分」
「お、早いな。生で見てーけどなあ……そりゃさすがに無理か。誰か動画撮らせとけよ」
「そんな急に言われても」
「ああん?」
「分かりましたよ……今、ライン送っときました」
ホールの裏手の路地に停められた黒のワゴンの車内で、城之内は人差し指のシルバーリングをいじりながら腕時計を見た。
「ぼちぼちか。3、2、1──」
城之内はわざとらしく両手の掌を上にぱっと広げてみせる。
「──ボーン!」
店員たちの動きを注視していた隙だった。
図ったかのように続々と席を立つ人間が現れる。
「え──」
エリートは思わず声を漏らした。
島中は一気に人であふれ、その異変を察知した通路にいた客たちは空台を漁ろうとそこに群がっていく。
想定していたシナリオと違う。
ホールの人間が台を不正確保した打ち子に声をかけて剥がされる。台が開放されるところをすぐに店員に声をかけ、次に打つことを伝え口頭で約束させるか、何も無ければその場で台を押さえる。そのはずだった。
異なる状況にエリートは身を動かすことができず、その場で立ちすくんでしまう。
「エリート、何してる!」
ヲタの声で我に返る。キャバはすでに空いた台の一つを押さえて座り込み、エリートたちの様子をうかがっていた。
「す、すまない」
島中から通路に出ていこうとする者に逆行して、ヲタと共に人をかき分けて空台を探す。
すでにほとんどの台は人が入れ替わるような形で埋まってしまっていたが、それでも一般客よりは状況の変化を気にしていた分、早く動くことができて残りわずかな空席にたどり着けた。
(何があったんだ……いや、軍団が設定推測を済ませただけかもしれない。慎重に打つようしないと──)
エリートは自分自身に諭して冷静さを取り戻そうとしようとした時だった。
「ちょっと、何よこれ!」
やや離れた場所でキャバが大声を挙げている。目の前の台を指さして騒ぎ、データランプの呼び出しボタンを押していた。
エリートは自分の座った台に向き直ると異変に気付いた。
席の右手、出玉を入れるパーソナルシステムの蓋が開けられ、そこにコーヒーの空き缶が突っ込まれている。プラスチックのノズルの隙間からは茶色い液体がこぼれ落ちていた。
さらに、右隣りの台に座る客がメダル詰まりに苛立ちながら、イジェクトボタンを何度も押している。そしてそれは、左隣の客も同じだった。
エリートはすぐに会員カードを挿入して持ち玉を払い出し、メダルを投入口に入れる。すると聞き慣れたベッド音は聞こえず、数枚も入らずに詰まってしまった。
思わず投入口を覗き込む。すると、そこからは嗅ぎ慣れない刺激臭がただよいエリートの鼻をついた。
「これは一体──」
エリートはその場で立ち上がり、周囲を見渡す。
そこは台の故障を訴える客たちと店員を呼び出すデータランプの絶え間ない点滅の数々。
そして、先ほどまで打っていた者たちがホールを出ていく姿だった。
遅番である副店長が電話で呼び出されてホールに到着すると、バックヤードに人の気配は無かった。ただ1人、ソファに横たわってうなされている店長を除いて。
「遅くなりました。朝入場で不正があったと聞きましたが」
副店長は見下ろすような形で店長に尋ねた。
「ああ……副店長……もうオシマイだよ……」
うつろな目で天井を見上げたまま、店長は言葉を絞り出す。
「そんなものはカメラで確認して退店させればいいのでは?」
「それどころじゃ……ああ……」
「ところで店長、体調が悪いのですか?」
本来最初に聞くべきであろうことを最後に聞くあたり、副店長の店長に対する評価が表れていた。
「あまりのことに眩暈が……」
「そうですか。マネージャーは?」
「フロアに出てるよ……少ししたら私も行くと伝えてくれないか」
「いえ、無理せずにそのまま休んでいてもらって結構です」
副店長は素っ気ない態度で店長を残し、バックヤードでインカムと台鍵のホルダーを身に付けると従業員出入口からフロアへと向かう。
通常なら休憩中の店員がすべて出払っているのは気になったが、それでも完全新規のグランドオープンならば多少の輩は湧いて出るものだし、あのマネージャーならば事もなく対応するだろう。
副店長はそんな想定をしながらフロアに出たが、マネージャーの瀬戸口の姿を探しながら島の様子を確認していくうちに、状況が決して芳しくないことに気付き始めた。
何より客がいない。
開店後は盛況を極めていたはずだが、まるで平日の閑散店のような客足の少なさだった。
メイン機種の半数におよぶ台の電源が落とされ、整備中の札が置かれている。
島によってはボックスまるごと閉鎖され、客の立ち入りが禁じられている区画もある。
副店長はその区画の奥、島端の液晶コンソールに対して険しい表情で向かい合っている瀬戸口を見つけた。
「マネージャー、これは?」
瀬戸口は副店長に気付くと、大きく息を吐いてみせる。
「テロだよ、これは」
「テロ?」
「現状を伝える。一度、事務室に戻ろう」
瀬戸口は疲れ切った様子でそう答えた。
設置数の4分の1近くの台が、メダル投入口に接着剤らしき液体を流し込まれて稼働停止。
パーソナルシステムのメダル投入口にジュース類が放り込まれ、いくつかのボックスのメダル回収システムがエラーを起こし、そのボックス自体が稼働不能。
それらの行為をしたと思われる者たちによる台確保券の偽造と、それによる朝イチの台不正確保。
以上が、瀬戸口により副店長と店長に状況整理として告げられた。
「台はともかく、メダル回収は俺たちじゃ直せない。業者への報告は?」
瀬戸口は先程まで倒れていてようやくソファから起き上がった店長に確認した。
「それが……早くても明日になると」
「本気か!? 新規導入したクライアントだぞ、うちは。最優先で駆け付けるべきだろう!」
「メンテナンスの人間は全て他店舗に出払ってるらしく……物理的にどうにもならない、と。早くても客を入れた後の到着になりそうです」
店長は申し訳なさそうにそう答えた。
「そうか──せめて今日の閉店後でもいいから来てもらえないか、もう一度連絡を」
「わ、分かりました」
店長はあわててスマホを取り出して電話をし始めた。
それを横目に、副店長が質問を切り出した。
「警察への届けは?」
「第一報はすでにしてある。ただし、所轄の生活安全課の方にだけだ」
想定された質問として瀬戸口は間を置かず答える。
「なぜ? すぐにでも被害届を出した方がいいでしょう」
「営業中に来られたら実地検分や事情聴取で手が回らなくなるし、お客様の前で警察官がうろつくことにもなる。閉店後に来てもらうよう話はつけた」
瀬戸口の回答にうなずきつつ、副店長は質問を続けた。
「それは明日も営業するということですか?」
「当然だろう。事前整理券を配っておいてグランドオープン期間の日曜に営業してない、とかありえん」
「営業割数は昨日今日が分岐越えの12割、明日が15割の設定だったはずです。稼働台数が減ってしまう明日にそれをやっても、アウトは稼げないし客層から見て地元のライト層が勝ちにくく印象が悪くなるでしょう。明日は休業にして、後日リニューアルオープンをすべきです」
副店長は臆することなく自らの意見を瀬戸口にぶつけた。
「君は本当に正論をぶつけるのが得意だな」
「正論を唱える者がいなくなったら、組織は腐って暴走するだけです」
「悪いとは言ってない。俺みたいなヤンチャ系には、君のような人間の意見が大切だとは分かってるよ」
「では、どういった判断で?」
「台をどこまで直せるかと生活安全課の判断次第だが、接着剤をぶち込まれた台は明日までには動かせるようにする。たとえ、直せなくて回せる台が減っても、割数は予定通り、出玉もお客様に見せる。店を開ける、やっていると見せるのが大事だ」
「それは分かっています。だから、なぜ?」
「なぜってなあ──」
瀬戸口は歯ぎしりしながら答えた。
「──戦争を仕掛けてきてる奴がいるってことだろ、これは。敵に白旗見せるわけにはいかねえだろ」
今までに見せたことのない怒気に満ちたその言葉に、電話中の店長は身を震わせ、副店長も黙ってうなずくしかなかった。
次回予告
ホールに仕掛けられた“テロ”。
その傷は深く、即座に癒えるものではなかった。
次回「稼働の無力化という最大のダメージ」。
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- じく
- 代表作:パチスロ青春小説「マーベリック ─ホールの異端児たち─」、遊技林、ゆる調
元ゲームメーカー勤務、現在フリー。前職ではシナリオ・マニュアル・キャッチコピーなどのライターとして過ごし、パチスロを題材とした小説も執筆している。
e-sports系やMリーグ観戦が大好き、たまにTwitchで雀魂やウマ娘やフロムゲーを配信したりもするスロ系でもありゲーム系でもあるオジサンです。
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