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パチンコパチスロ小説
2023.10.04
パチスロ青春小説 マーベリック 第25章「女を助ける立ち回り」
【登場人物】
エリート
店のクセを見抜いて状況を瞬時に読み取る、仲間を率いる若き司令塔
キャバ
美貌と強運をあわせ持つ紅一点、破天荒ながら3人をつなげるムードメーカー
ヲタ
驚異的な記憶力と忍耐力を持つ、彼らの稼働と収支を支える執念の獣
【前回までのあらすじ】
潜入していたキャバクラで金髪の半グレ・城之内と遭遇してしまうキャバ。
詰められるも身バレを避けるため、キャバは城之内の言われるままにする。
一方、それを知らず入店したヲタは、ハンドサインを見てキャバの危機に気付くのだった。
英雄なんていない。
何人もの敵をなぎ倒し、囚われのお姫様を救出する英雄はフィクションの存在だ。
そんな存在に人は憧れるからこそ、物語で描かれる。
自分にできることは何か。自分が秀でているのは何か。
ビル最上階のスイートルームに殴り込み、キャバを連れ出して脱出するというシナリオは即座に自分の中で却下された。
ビルから外に出るのには、先程までいた地下1階のキャバクラから地上への出口、1階に大きく開かれているホテルのエントランス、ビルの裏手にある従業員出入口、そして地下駐車場の4つ。
全てを見て回ったが、そのうち3つは人通りの多い場所で、最も人の気配がないのが地下駐車場。
どれを選ぶかはもはやギャンブルだったが、最も確率の高い選択肢を極限まで厳選し、最後の最後を運否天賦に委ねる。それがヲタの、そしてキャバやエリートの戦い方のはずだ。
そういった思考の結果、近くの深夜営業をしているディスカウントストアでパーカー、コンビニでマスクを買い込み、ビルの地下2階にある駐車場の物陰に身を伏せていた。
本当はディスカウントストアにサバゲー用のフェイスマスクも売っていたのだが、そこまですると“これから犯罪をする予定です”と主張するかのようで自重した。
(出てくるなら、ここからのはず)
ヲタはそう信じながら、常にスマホのラインを開けっぱなしにしている。キャバが金髪野郎、城之内と共に姿を消してから一切返事はない。
何時間でも待ってやる。
出入りする奴は絶対に見逃さない。
俺に取り柄なんてそれくらいしかない。
地下駐車場にはどんよりとした下水道のような匂いが立ち込め、むき出しのアスファルトにはひび割れが目立つ。床の境界線はペイントが剥げて番号もほとんど読み取れない。
どこかに監視カメラは付いているだろうが、それがまともに機能しているかは怪しい。
ヲタはパーカーのフードを被り、物音を一切させず闇に身を隠し続けた。
駐車場に入ってくる車はなく、時が経つに連れてエレベーターから現れる人影が車に吸い込まれ、屋外へと出ていく。誰もが怪しい様子はなく、ホテルやキャバクラの従業員のようだった。
どれくらい時が過ぎただろうか。
ヲタが張り続けて初めて、駐車場に車が入ってきた。
それは黒のワンボックスバン──ヲタの胸の動悸が高まった。
(覚えている。あの日、ホールの駐車場に停まっていた車だ)
車から人は出て来ず、エレベーター近くに停められてエンジンは点けたままだ。
そして、ヲタの視線が一点に注がれる。
エレベーターのフロアランプが動き、最上階で止まる。
単なる乗り降りにしては長い時間そのままの状態が続き、やがてランプが動き出した。
ランプは一つ、また一つ階下へと移動し、1Fを通り過ぎて最下層となる地下2階にたどり着く。
そして、エレベーターの扉が開き、地下駐車場の床に光が差した。
その扉から現れた人影を確認した瞬間、ヲタはスマホをタップすると尻ポケットに突っ込んだ。
身構えたヲタの片手には、赤い鈍器のようなものが握られている。
エレベーターから降りる人影に気付いたのか、運転席から男が降りてきた。スマートキーで後部座席のスライドドアを開け、人影に近付いていく。
エレベーターから降りてきたのは城之内と、その肩に担がれて力なくよろよろと歩くキャバだった。
「どこ行きますか?」
「いつものとこだ、分かってんだろ」
運転手と城之内が短い会話を交わしたその時、ヲタは背後の壁にあるスイッチを強く押し込んだ。
ジリリリリリリリリリリ!
地下駐車場に火災報知器のけたたましい音が鳴り、閉鎖された空間で強烈に鳴り響く。
「何っすかコレ!?」
「知らねえよ、とっとと女乗せてずらかるぞ!」
「聞こえないっす、何て言ってるんっすか!?」
「だからこいつを……ったく使えねえな!」
「えっ、だから何て──ごはっ!」
城之内は肩に担いでいたキャバをドアの開いた後部座席に横たえると、うろたえる運転手をその場で殴り倒しスマートキーを奪い取った。
「馬鹿が、このくらいでパニくりやがって」
城之内は運転席に乗り込み、後部座席のスライドドアを閉じようと右手のスイッチを押そうとする。
その時、バックミラーに映っていたのは横たわるキャバではなく、消火器を手にしたヲタの姿だった。
「俺の太陽は返してもらう」
ヲタが放った言葉と共に、車内は一気に白い煙に包まれた。
「誰だおま──ブハッ、ゴホッゴホッ!」
視界と新鮮な空気を奪われた城之内は運転席でのたうち回った。
ヲタは消火剤を存分に車内に吹き込み終えると、消火器を放り捨てる。
そして後部座席から担ぎ出してアスファルトの床に寝かせていたキャバの手を引き、しゃがみ込んで背負った。
「……うう……だれ……ヲタ……くん?」
「キャバ、何もしゃべるな。俺にしがみついてろ」
ヲタはキャバの両足を力強く両脇に抱え込み、出口の方向へと走り出す。
地下2階の駐車場から地上への道は長く、車ならすぐに追いつかれるに違いない。
それでもヲタは走るしかなかった。
(まだか、早く来てくれ!)
そう祈りながら息を切らして走り続け、両足の筋肉が引きつりスピードがだいぶ落ちてきた時、ヲタの目の前が真っ白になった。
それは進行方向から照らされたヘッドライト。
急ブレーキと共に1台のセダンがヲタの前に止まった。
すぐに運転席から1人の男が降りてくると、ヲタの手をつかんで車に引き寄せる。
「待たせました、早く彼女を」
「すぐに追ってくる。とにかく安全な場所へ」
「市外に出てしばらく流しましょう」
「頼む」
ヲタが後部座席にキャバを横たえて乗り込んだのを確認すると、男は手際よくステアリングを操り、タイヤを鳴らしながら切り替えして出口へと発進させる。
ヲタは後部座席で膝枕をするように横たわるキャバの肩から頭を抱きかかえた。
呼吸はあるが、意識が朦朧としているようで低い呻き声を時折漏らしている。目はうっすらと開いているように見えるが、視点は定まっていない。
「シートベルトを。落ち着くまでは多少荒くなります」
バックミラー越しに運転席の男がそう言うと、合わせたかのように横Gがかかりヲタの姿勢が崩れた。地下駐車場から地上へと登る車線は必然的にカーブの連続で、ヲタは素直に従うとキャバの体を抱きかかえてシートに座らせる。キャバ、そして自分と順にシートベルトを装着して後方を確認した。
まだ距離はあるだろうが、わずかに車のエンジン音とタイヤの鳴る音が聞こえてくる。
「来ている」
「佐山さんに連絡をお願いします」
「分かった」
ヲタはスマホを取り出すとすぐに通話を始める。
「助けた。出口に向かってる。追っ手もすぐ出てくる」
「了解、そのまま出て」
3人を乗せたセダンは次々とカーブを曲がり続け、ヲタは片手にキャバの肩、片手にアシストグリップをつかんで激しい横Gに耐える。
何度も繰り返される横揺れがようやく収まると、スピードが緩み前方に出口のバーと料金支払い機が見えてきた。
アクション映画のように突進してバーを破壊したまま車道に飛び出すなんて真似はしない。運転席の男はセダンを止めると、ごく普通の動きで料金を精算する。
その時、1台の二輪車がセダンに近付いてきて助手席側の窓を叩いた。
「キャバちゃん大丈夫?」
窓を開けると、そこには原付にまたがる碧の姿があった。
「息はある。具合は悪そうだが」
「オッケー、今は逃げて。適当に足止めしとく」
「感謝する。この借りは必ず返す」
「そういうのは後で。絶対にキャバちゃんを守るのよ」
料金の精算が終わり、出口のバーが上がる。
セダンはゆっくりと動き出し、屋外の車道に合流していった。
碧はそのテールランプを見届けると、原付から降りて車体を出口のど真ん中に停めた。
やがて、地下の奥底から乱暴に吹かされたエンジンとタイヤの鳴る音が聞こえて、ヘッドライトの光と共に黒のワンボックスバンが現れた。
そのバンは全ての窓が開かれ、中から白い煙が漏れ出している。
ライトを何度もパッシングさせてくるのを無視すると、運転席から白い粉まみれの城之内が出てきた。
「邪魔だどけ、ボケカスが!」
碧はその城之内の姿を見て思わず吹き出す。
「あっは、何その爆発した博士みたいな──あ、ゴメンゴメン。原付壊れちゃって、タイヤがロックしちゃったみたいで動かせないの。お兄さん手伝ってくれない……っていうか、お兄さんの方こそ大丈夫? 何かやばいベルも鳴ってるけど」
深夜ゆえに火災報知器のベル音は周囲にも遠く響き、少しずつ野次馬が集まり始めている。
「もしかしてお兄さん何かやらかした? 原付動かすの手伝ってくれたら黙ってあげててもいいけど」
碧はそう言いながらわざとらしく周囲をキョロキョロして見せる。
「クソが!」
城之内はそう吐き捨てると、ワンボックスバンのボンネットを拳で叩いた。
「……ここはどの辺りだ?」
ヲタが運転席の男に尋ねる。
どれくらい走っただろうか。車は市街地を抜け、田畑と林の間にところどころ民家が見える閑散とした道を進む。
明るければ少しは違うのだろうが、見知らぬ土地の夜道では何も分からない。
「北上してもうすぐ鬼怒川温泉です。車が少なければ宇都宮からは1時間もかからないんですよ」
「そうか……今日のことは……本当に感謝している」
「ん? 口調が違いますが、そんな恐縮しないでいいですよ。元はと言えば、うちの店や瀬戸口マネージャーに絡んだのが発端なのですから」
「キャバにも前に言われたが……これが普通だ……何かヤバい状況の時は人並みに話してるみたいだが……自分では分からない」
ヲタは少し困った様子で、バックミラー越しに話しかけてくる男の視線から目をそらした。
「……それよりなんか変な気分だ……ホールで顔は見たことあるし覚えていたけど……こうして話しているのは」
ヲタとキャバを救い出し、今こうしてセダンのハンドルを握っている男。
その正体は、マーベラス宇都宮店の副店長だった。
城之内に連れ去られるキャバを目撃して店を出た後、ヲタはエリートに連絡した。
最初に誰に助けを求めるべきか悩みはしたが、こういう時にはオーダーが必要だと直感的に判断した。
エリートはすぐに現場の状況を理解してエリアマネージャーの瀬戸口に連絡。瀬戸口は東京にいたが、宇都宮の店舗で閉店業務をしていた副店長に話をつないだ。
そしてエリート自身も碧と連絡を取ってヲタ・副店長・碧の宇都宮現地組を構成。まだ作っていなかった関連メンバーのグループチャットを即座に作り、以降の判断は現場に委ねた。
そしてヲタは地下駐車場、副店長は車を出して正面エントランス前、碧は原付でビルの裏口に待機。
結果的にはヲタの読み通り地下駐車場に城之内たちが現れて、こうしてキャバを救い出すことができた。
副店長は運転をしながら話し続ける。
「自分も君の顔は覚えていました。フロアでも見かけましたし、監視カメラでも確認しています。瀬戸口マネージャーから聞いていましたが、たしかグランド前日の縁日でトラブルに巻き込まれたとか」
「あの金髪野郎……城之内と言ったか……店にゴトを仕掛けたのも奴だ……今日すべてがつながった」
ヲタは隣の席で意識を失ったまま起きないキャバを心配そうに見つめていた。
寝息を立てているので最悪の状態ではないだろうが、額から汗を垂らしてうなされ続けている。
「込み入った話は後にしましょう。そちらの──呼び名はエリート君だったかな、彼にはもう連絡はしてあるのでしょう?」
「それはもう任せてある……今はキャバを休ませたい」
「間もなく着きます」
気付くと鬼怒川温泉の駅前を通り過ぎ、夜の車道からは点在するホテルのネオンが垣間見えた。
「……着く?」
ヲタの問いに答えることなく、副店長はセダンのスピードを緩めると脇道へと入っていく。
街灯の数が少ない小道を進み、2階建ての家屋の前で止められた。
窓越しに外を眺めると、旅館らしき看板が見えた。
副店長は運転席に座ったままスマホで通話を始めると、間もなく真っ暗だった旅館の玄関に光が灯った。
「泊まれる……のか?」
「瀬戸口マネージャーは何かと強引で自分本位ですが、その人脈と使いどころは見習うべきところがあります。まあ、大人の力ってやつですよ。さあ、彼女を部屋まで運びましょう」
副店長は運転席から降りると外から後部座席のドアを開き、まだ意識の戻らないキャバのシートベルトを取り外した。
鬼怒川の宿にたどり着きキャバも無事だと連絡が来ると、エリートは大きく息を吐いて緊張を解いた。
自室の机上にはデスクトップPC、ノートPC、スマホが並んでいる。情報のハブとなりつつ分析を行い、現場の動きを指示する。
オーダー──司令官的な仕事は慣れているつもりだったが、仲間の身の安全がかかっているとなるとプレッシャーはまるで違った。
その中で最も心配だったキャバの容態については、予想外の人間からの助言に救われた。
「たぶん酒に何か混ぜられたんじゃないかな? 時間的に急性アル中では無さそうだし、注射痕も無いのならハルシオンとか睡眠導入剤の類を飲まされたんだと思う。呼吸してて脈拍も正常なら、回復体位って言うんだけど横向きに寝かせて30分ごとに向きを変えること。どんな姿勢かはググって見てみて。もし容態が急変したら、ためらわず救急車呼んで面倒事は大人に押し付けていいから」
そうグループチャットでアドバイスをしてくれたのは、エリートたちにも瀬戸口たちにも親交のある、パチスロ動画の演者であるビス子だった。くわしくは教えてくれなかったが、医療関係の職歴があるらしい。
どちらにせよ、夜が明けたらすぐに病院に連れて行くように念を押された。
ヲタの連絡から、城之内と言う男がゴトグループを率いているらしきことは分かった。
エリートはその顔を見たことは無いが、あのグランドオープン前日の縁日で騒動を起こした連中の頭らしく、面は間違いなく割れただろう。
あとは、キャバがもし店で接客をしたなら何かをつかんだかもしれない。ただ、それも彼女の容態次第。今度のグランドリニューアルも無理はさせない方がいいと考えている。
これで探偵ごっこは終わりだ。もちろんお遊びでこんなことをしていた訳ではないが、そろそろ瀬戸口たちにバトンタッチして自分たちの本分に戻ってもいいだろう。
そんなことを言うと「伊吹の本分は勉強じゃないの?」と碧に怒られそうだが、一線を越えて自分たちの領分を侵された以上、借りは返さないといけなかった。
「早く打ちたいな、3人で」
不意に口から漏れる。その自身の一言に、エリートは苦笑した。
次回予告
一線を越えて己の領域を踏みにじられた時の、“大人”は怖い。
次回「ホール業界“アベンジャーズ”結成」。
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- じく
- 代表作:パチスロ青春小説「マーベリック ─ホールの異端児たち─」、遊技林、ゆる調
元ゲームメーカー勤務、現在フリー。前職ではシナリオ・マニュアル・キャッチコピーなどのライターとして過ごし、パチスロを題材とした小説も執筆している。
e-sports系やMリーグ観戦が大好き、たまにTwitchで雀魂やウマ娘やフロムゲーを配信したりもするスロ系でもありゲーム系でもあるオジサンです。
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