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学生ぱちんこ組織「学遊連」を追え! 大学生とぱちんこ
2024.05.29
これからは「スマートPLAYスタイル」! PAA主催「依存問題勉強会 ~学生と考えるぱちんこ依存問題」レポート
パチ7編集部 学生ぱちんこ組織「学遊連」を追え! 大学生とぱちんこ ゆる調~パチンコパチスロゆるゆる調査隊~
昨今、世間を騒がせるギャンブルに関する事件がありました。「世界的に知られる立場の人間がギャンブルで2ケタ億円もの負けを抱えて不正な送金を行った」という出来事はあまりにスキャンダラスで、世界はもちろん日本国内でも連日ニュースやワイドショーをにぎわせました。
事実関係の確認や捜査などは現在も進行中ですが、そんな一連の報道で気がかりな点が一つありました。それは「ギャンブル依存症」という言葉の一人歩きです。“依存症”というあやふやな言葉で一括りにして短絡的に原因を求める傾向は、真摯に現在の依存問題に取り組む現場の人たちにとって必ずしもプラスではありません。
こういった状況の中、毎年5月14日~20日の厚生労働省が定める「ギャンブル等依存症問題啓発週間」に合わせて、2024年5月20日にPAA(一般社団法人 ぱちんこ広告協議会)主催による「依存問題勉強会 ~学生と考えるぱちんこ依存問題」が開催されました。
なお、PAAでは昨年も同様の勉強会を開催しているのでくわしくはパチ7記事「『パチンコ業界って意外としっかりしているんですね!』大学生といっしょに依存問題を学ぼう! 業界初(?)学遊連向け依存問題勉強会をレポート!」をご覧ください。
「ギャンブル障害」という考え方
今回の勉強会では、認定NPO法人ワンデーポート 理事・施設長:中村努氏、公立諏訪東京理科大学 教授:篠原菊紀氏お二人による講演、そして学生たちとのディスカッションが行われました。
その中で共通した内容として、“依存症”ではなく“障害”という言葉が多く用いられた点がありました。これは2022年2月に世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第11版(ICD-11)で、「ギャンブル障害(Gambling Disorder)」の診断要件が厳密に定められたことによります(※)。
この“障害”という考え方を前提として、中村氏や篠原氏の講演を紐解いていきましょう。
※リンク:厚生労働省発表「国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が公表されました」
※リンク:ICD-11(International Classification of Diseases 11th Revision)英語原文
安全な失敗から学ぶ
初めに講演した中村氏が施設長を務めるワンデーポートでは、「ギャンブル依存は病気ではなく生活・人生の問題」と捉えて電話相談や家族・本人への個別相談、社会啓発を目的としたセミナー開催、生活の作り直しを目的とした入所施設の運営や通所支援を行っています。
▲自己の経験談も含めてワンデーポートの活動内容を語った中村氏
中村氏自身も過去ギャンブルにハマるも立ち直った経験があり、2000年4月に日本初のギャンブル依存支援施設として設立されたワンデーポートに携わり、以後24年間支援を続けてきました。
個人ではなく社会によって作られた問題
中村氏は障害者基本法にある障害の定義を引用し、「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態」とある中のギャンブル障害における“社会的な障壁”に注目しました。
現在の障害に対する取り組みとして、障害を個人の問題と捉える「医療モデル」と社会によって作られた問題とみなす「社会モデル」がありますが、その中でワンデーポートは主に社会モデルの視点で活動しています。
社会モデルでは、性格・特性・能力といった「個人要因」と暮らし・仕事・余暇・不安とストレスといった「社会的要因」「環境要因」の相互作用がギャンブルへののめり込みにつながると考えており、この中の社会的要因に向き合い改善することを問題解決としています。
現在の若者における「社会的要因」とは?
社会的要因、特に現在の若者でギャンブルやその他への問題行動の要因は以下が挙げられます。
・多様化した社会への不安
・多様な遊び(スマホ決済やスマホでの遊び)
・奨学金返済への不安
・自己決定が必要な社会への不安
特に過去と現在で大きく異なるのはスマホの存在で、スマホを持つことで自分をコントロールできなくなってしまう恐れがあります。
また、上記のように過去と現在では状況が異なる中で、50代の親が20代の子供に対して「なぜ自分はできたのにお前はできないんだ!」といった世代間の不理解も発生します。
安全な失敗から学ぶ
こういった社会的要因がある中で、中村氏は「失敗から学ぶ」という視点を挙げました。現代社会は問題行動を「障害や病気の結果」と考える傾向があり、失敗に対して寛容でなくなっていると述べられました。
そこには親世代の「失敗をするな」「失敗をさせない」というプレッシャーゆえに、本来「失敗した」と打ち明かすことで楽になり学びにつながるはずの失敗を言い出せない、という問題があります。
この“失敗”を考える中で、中村氏は「パチンコは安全な失敗ができる遊び」と捉えることができるのではないかと話されていました。パチンコは掛け金に上限があり時間も制限されたコントローリングギャンブルです。それと青天井の上限が無いギャンブルを同等に扱うことはできず、のめり込み対策も異なります。
風営法でも著しく射幸心をそそる恐れのある行為は規制されており、安全な失敗ができることはパチンコの魅力の一つであり、他のギャンブルとの違いです。本記事の冒頭に挙げた一連の報道についても、パチンコとそれ以外のギャンブルが同等に扱われている点を問題として中村氏は挙げられました。
「スマートPLAYスタイル」のすすめ
続いて公立諏訪東京理科大学教授の篠原氏の講演では、学生の視点に立ち学術的な観点を述べながら、正しく知って楽しく遊ぶ「スマートPLAYスタイル」についての解説が行われました。
▲忌憚ない意見で舌鋒をふるったオンライン参加の篠原氏(画面右の黄枠)
篠原氏は健康科学や脳科学を専門としており、パチンコ・パチスロファンの間ではよく聞かれる「脳汁」をエンドルフィンやドーパミンといった脳科学の視点で研究・実験・発表している方です。
学生へのアドバイス
はじめに篠原氏は日頃パチンコ・パチスロを楽しむ学生に対して、金銭的に負けすぎてしまういわゆる「養分」にならないようにする打ち方はいくらでもあり、それ自体は構わないと肯定しました。
一方、時間の浪費・借金の隠蔽・多重ギャンブリングなど、ギャンブルにリスクが無いわけではないことも同時に挙げました。例えば、パチスロで高設定が示唆されたので授業をさぼって打ち続けてしまう、完全確率の遊技であるにもかかわらずサンクコスト(※)を考慮せずに取り返そうとしてしまう、などの危険性です。
※これまでに費やして取り返すことのできない金銭・時間・労働コストを指し、「もったいない」「これまでが無駄になる」と非合理的な行動を取ってしまう心理的効果を「サンクコスト効果」という。
そういったリスクに対し、いわゆるギャンブル等依存症の予防を目指した遊技業界がすすめる「自己申告・家族申告プログラム」と「スマートPLAYスタイル」を篠原氏は紹介しました。
「自己申告・家族申告プログラム」と「スマートPLAYスタイル」
「自己申告・家族申告プログラム」は、自身で遊技金額・回数・時間や入店自体を制限したり、家族からの申し込みで入店制限できたりするプログラムです。
しかし、大手ホールの会員カードデータなどの調査の結果、これらはあまり有効ではなく効果が薄いことが分かり、より予防的であるという研究に基づいた「スマートPLAYスタイル」の提案へとつながりました。
「ギャンブル障害」と「危険な遊び方」は異なる
「スマートPLAYスタイル」は、前述した世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第11版(ICD-11)に基づいています。
ICD-11では、これまでアバウトだった「ギャンブル障害」の診断要件を厳密に決めて「危険な遊び方」との区別を求めており、「ギャンブル障害」と「危険な遊び方」の違いは以下のとおりとなっています。
リスクが高まる主な行動として挙げられる「危険な遊び方」は、
①遊び方をコントロールできない
②人生の関心事や日常生活よりパチンコ・パチスロを優先してしまう
③人間関係や健康・経済面への悪影響があるのに続けてしまう
の3点です。
以上の①~③の全てが長期間(例えば1年以上)続いており、これらが原因で生活に顕著な障害が発生したり本人や周囲が苦痛を感じていたりする状態を「ギャンブル障害」としています。
世にあふれるチェックリスト等で「依存症かも?」と思われる状態のほとんどは「危険な遊び方」であり、「ギャンブル障害」には当てはまりません。
日本ではこの「ギャンブル障害」と「危険な遊び方」の区別があいまいになっており、ギャンブル等依存症対策基本法では「ギャンブル障害」を指すと読めますが、ギャンブル等依存症疑い調査では「危険な遊び方」以下も含む調査となっており過剰な結果が報告されています。
そこでWHOの診断要件に基づいた「危険な遊び方」を減らす試みとして、「スマートPLAYスタイル」が提唱されました。
「スマートPLAYスタイル」とは?
「スマートPLAYスタイル」は、危険な遊び方をしている、またはそれ以前の段階の人に勧められており、以下の「スマートPLAYスタイル3ヶ条」を掲げています。
上限金額を決めよう!
自分に負担のかからない範囲で、「今月はいくらまで」と決めた上で楽しもう!
空いた時間で遊ぼう!
時間に余裕のある時に遊び、誰かとの約束などは破らないようにしよう!
周りの人に話そう!
負けを取り戻そうとしてウソをついたりせず、勝っても負けても正直に周りの人に話そう!
これらは前述したWHOの診断要件における「危険な遊び方」に対応しています。
では、この「スマートPLAYスタイル」が守れなかった場合はどうする? という考えに対しては、それが「ギャンブル障害」のリスクの高さを示し、注意すべきサインになるとのことでした。
上記のような「スマートPLAYスタイル」などの健全遊技傾向の方が効果も高く予防に有効だと考えられ、こういったスタイルで遊ぶ高齢者は認知機能が高いという調査結果も得られています。
なお、講演の最後には「ギャンブル障害の遺伝率は50%程度」「反社会的行動、アルコール使用障害、大うつ病性障害と遺伝的脆弱性が共有されている」などギャンブル障害の遺伝率や併存性が挙げられ、リスクに濃淡がある障害ゆえにリスクがある人にこそ「スマートPLAYスタイル」を届けることが大切であると述べられました。
学生を交えてのディスカッション
中村氏、篠原氏の講演の後、学生を交えてのディスカッションが催されました。
ディスカッションには講演の両氏に加えて学遊連の浪岡将史氏、中村ターリック氏、鈴木康太氏、そして株式会社ニラク 総務法務部の武田裕明氏が参加し、ハニートラップ梅木氏(パチ7)と大石大氏(PAA依存問題WG)の司会で進行しました。
ここではその中で挙がったいくつかのトピックをご紹介します。
「依存」とはどういうイメージ?
ホール店長の経験もある武田氏は「依存というものをプラスに考えている」と語りました。例えば「私は妻に依存しています」と言えばプラスに捉える人が多く、依存という言葉は使い方次第と解釈しています。
▲ホール側の人間として時に私見も交えて意見を述べた株式会社ニラクの武田氏
一方、学生の浪岡さんは「TikTokやInstagramにはいろんな依存系の動画もあり、薬物やアルコールなど依存には怖いイメージがある」と述べました。
ワンデーポートの中村氏は、「家庭問題など誰にも打ち明かせない嫌なことをホールに行くことで忘れることができた。パチンコに逃げ続けて最後に気付くことができた」と自己の経験談を語られました。
また、篠原氏は「依存症(dependence)という言葉はWHOでも使われていないもので、その時に熱中して一過性で熱くなるのは障害でも危険な遊びでもない。人の脳はいずれ順応して落ち着いていく」と、言葉の一人歩きに釘を刺しました。
のめり込んでいる友人やお客様を見かけたら?
武田氏は各従業員のホスピタリティ次第としつつ、お客様が普段と違う行動を見かけたタイミングなどに「今日は帰られて落ち着いたらまたご来店ください」とお声がけをするそうです。
学生の浪岡氏は「パチンコには負ける上限があり、周りで苦しんでいるのは掛け額が青天井のギャンブルをやっている子たち」と例に挙げ、鈴木氏も「予定上限を越えて苦しそうな顔をしている子には『飯奢るからそれくらいにしよう』と声をかける」と述べました。
勝ち負けに対する意識
学生のみなさんからは「勝つつもりで打ちに行っている」という意見が多く、特に中村ターメリック氏は「設定や期待値を気にしない“平打ち”はとてもできず、救済機能の存在は助かる」と具体的な例も挙がりました。
▲学生の立場で率直な意見を発言する学遊連の3人
一方、武田氏は「自分で打ちに行くときは3万円負けるつもりで打ちに行っている」とのことでした。パチンコ・パチスロは基本的に勝つことが難しい遊びであり、それでも勝つ人は厳しい会社勤め以上に労力を割いているという認識を持たれています。また、「高齢者のお客様は、勝ち負けよりも従業員や友人と話すのを目的としていることが多い」と現状を語られました。
▲左より学遊連 浪岡氏(学生理事)・中村ターメリック氏・鈴木氏、株式会社ニラク 武田氏、ワンデーポート 中村氏(理事・施設長)、PAA 嶋田氏(理事長)・松丸氏(理事)、パチ7 ハニートラップ梅木氏
「正しく知り、楽しく遊ぶ」ということ
ここからは筆者の感想になりますが、今回の依存問題勉強会は「単純に依存を問題視してパチンコ・パチスロを拒絶するのではなく、ギャンブル障害や危険な遊び方を認識して、特に学生のみなさんに正しく知ってもらう」というのが本旨であったと思います。
自分の周囲にはそれぞれの立場や距離感を保ってパチンコ・パチスロと付き合っている人が多く、安易に依存問題を理由にパチンコ・パチスロの存在自体を否定する風潮は好ましく思いません。好きなキャラクターや作品が出る台を休日だけ楽しむ、家庭を持つサラリーマンが月のお小遣いの範囲でノーマルタイプを打つ、など適度な遊び方で楽しんでいる人も大勢います。
一方、そういった自分も含むパチンコ・パチスロ好きの認識は、バイアスやエコーチェンバーの可能性があります。危険な遊び方で身を持ち崩したりギャンブル障害に陥ったりする人の存在も否定できず、ギャンブルに関する事件や報道が全て偏ったものであるとも言い切れません。
今回の勉強会では、そういったギャンブルに伴うリスクは誰にでも起こりうるものである一方、そのリスクをできるだけ避けるために「ギャンブル障害」や「危険な遊び方」というものを正しく認識する必要性を感じました。
おそらくパチンコ・パチスロを打つ人で「失敗」を経験しなかった人はいません。学生のみなさんはいわば「失敗」の初心者であり、ギャンブルの中では安全な失敗が許される遊びとしてパチンコ・パチスロを楽しみ、時に失敗して学んでほしいと筆者は思います。
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