クソ台じゃないよ！ ちょっとしくじっただけ！ 元ホール店長が語る「CR A-gon昭和物語(A-gon)」のしくじり物語。

「自分にとって理想のホールって、どんな店だろう？」

皆さんも一度くらいはあるでしょう、そんな妄想をした経験が。ビジネスマンなら学生時代に好きだった台がズラリと並んでいるホールでしょうか。スロプロなら技術介入度の高い機種ばかり設置している店ですかね。勝負師ならやはりギャンブル性の高い台しか置いていない鉄火場ですよね。特に勝ち負けにこだわらない人なら、露出度の高いユニフォームに身を包んだ女性店員しかいないハーレム空間かもしれません。ま、人それぞれの回答がアニマルの森のように飛び出してくることでしょう。

私の理想のホールはズバリ、遊技機の選択肢が多い店です。パチンコであればハネモノに始まりデジパチ、アレパチ、一発台、権利物といった幅広いジャンルの機種構成で、その日の気分や懐具合によって全く違ったタイプの台が遊べる環境なら最高ですね。それはアンタの若かりし頃の話ですよね、と言われたら返す言葉はありませんが……。

現在は遊パチでも実質ミドルと変わらない台も多く、たまに見かける役モノ機も時間をかけてじっくり遊ぶタイプよりも一撃出玉に特化したような台がメインなので、たまには半日かけてじっくり遊びたい日に打てるような台が見当たらないのが実に残念です。

手持ちは少ないけど時間はあるから、たまにはゆっくりパチンコ打つか。そんな感覚では店に入りにくくなってしまった今日この頃。もしも今回ご紹介する機種が大ヒットしていたら、現状は少し違っていたのかもしれません。今回はまあ、そんなお話でございます。
 

★今回のしくじり機種は『CR A-gon昭和物語（A-gon）』

本機の導入時期は2015年の12月。最大のセールスポイントは約40年振りとなる『手打ち式』の復活。つまり自らの手指を駆使して1発ずつ玉を打ち出すパチンコの原点を体感できる遊技機としてホールデビューした訳ですな。

ちなみにこの年、最も売れたパチンコ台は大当り確率が約399分の1の『CR牙狼　魔戒ノ花』でございます。いわゆるマックスタイプが人気を博していたタイミングでのホールデビューが、その異端ぶりを際立たせておりました。

 

しくじり.1：平成パチンコのホール事情にそぐわないゲーム性

私が若かりし頃のパチンココーナーといえば低交換率・1回交換（又はラッキーナンバー）制というのが基本的な営業形態。

それゆえにホール側はお客様に遊技機本来のゲーム性を楽しんでいただける調整で提供することが可能でした。同様にスロットコーナーも低交換率・メダルを持っての台移動不可にすることで、低設定台をほとんど使わなくても十分に営業できる余裕があったのです。ま、とんでもないボッタクリ店も多数存在していましたが……。

ところがいつしか出玉の途中交換不要な無制限営業が主流となり、高交換率のホールも急増。いつしか出玉を持っての台移動も可能になり、さらには貯玉で翌日以降の再遊技までオッケーと、かつての常識が非常識に感じられる時代へと変化を遂げました。

その結果、ホール側は出玉率100％を超える調整の台をお客様に提供することが困難となりました。すなわちユーザーは「打てば打つ程に玉やメダルが減っていく」台を打たされる機会が圧倒的に増え、結果的にパチンコ・パチスロの面白さを感じにくい状況となったのです。そう、昔よりも気軽に足を運べなくなってしまったのですよ、パチンコ店に。

手打ちパチンコの魅力はユーザーが少ない投資額で充実した遊技体験を味わえる点にあります。そういった意味では唯一、ホールで気軽に遊技できる機種であり、長い目で見ればパチンコ人気回復の起爆剤にすら成り得たかもしれません。しかしながら今なお続く高交換率・無制限営業の中では微小な赤字だけを垂れ流す厄介な台としか評価されませんでした。

事実、私が勤務していたホールに設置された本機も最終的には、パチンコ上級者だけしか遊技していない典型的な赤字機種となったため、早々に撤去せざるを得ませんでした。

もしも『昭和物語』を定量制で運用するホールが多数存在していたら。あるいは1回の遊技時間に制限を設けて、より多くのユーザーに対して遊技機会を与えていたら多少は設置期間も伸びていたのかもしれません。しかしながら時間と手間をかけるよりも、撤去して新台を導入したほうが手っ取り早いと考えるのがホール側の悪しき習慣。こうして昭和物語は多くを語られることなく静かにホールからその姿を消すことになってしまったのです。
 

★元店長カタギリと昭和物語

私が初めてホールでパチンコを遊技したのが平成2年ですので、既に電動ハンドルが導入されて15年以上の時間が経過しておりました。つまり私自身がホールで実際に手打ちパチンコを遊技した経験は残念ながら皆無です。当然ながら本機が導入された際に感じたのは懐かしさではなく不安感でした。

さながら現役人気アイドルグループの中に、かつて一世を風靡した高齢の大御所女性シンガーが新加入したような違和感といったところでしょうか。

事実、導入当初に遊技していたのは当時を知る還暦オーバーの年配層、もしくは好奇心の強い若い世代のみ。明確に二極化されたシマの遊技層を眺めながら「やっぱ、ゴリゴリのパチンコユーザーには響かないよな……」と妙に納得してしまったのを覚えております。

私自身もやはり完全な時間消費型遊技となる本機には食指が動かず、また近隣店舗にも導入されていなかったために遊技する機会はありませんでしたが、この先もう二度とホールで手打ちパチンコを打つチャンスは無いだろうと考えるとやはり、一度は打っておくべきだったなあと後悔の念が先立ちます。
 

★まとめ～昭和物語から得た教訓～

冒頭で理想のホールについてお話しましたが、果たしてどれだけの人が『手打ちパチンコの設置してある店』を思い浮かべたのでしょうか。……悲しいかな、それがユーザーのリアルな反応なのです。

9年前に手打ちパチンコが導入され、瞬く間に姿を消した後。パチンコ台にはデータランプすら覆い隠してしまうほど巨大な台枠が搭載され、台は激しく振動するのが当たり前となり、遂には大当りしても玉すら出てこないスマートな遊技機へと進化を遂げました。

ハード、ソフトの両面で過去のパチンコの常識はことごとく覆されていますが、残念ながらホールやユーザーにとってのパチンコの常識である高交換率・無制限・貯玉再プレイ可といった「パチンコやパチスロの面白さを制限してしまう縛り」には変化の兆しすら感じられません。依然として新規ユーザーや休眠層にとって、パチンコ店の敷居は高過ぎる状況が続いています。

もはや手打ちパチンコのように小投資で長く遊べる台など、ホールとユーザーの双方にとって需要の無い代物なのかもしれません。お金を使わず、長く遊びたいなら低貸しコーナーで事足りるのでしょう。

それでも玉を弾き出す力加減を調整しつつ、自らの力量で玉を増やしていくパチンコ本来の遊び方を提示してくれた本機の存在は、我々ユーザーに「パチンコの面白さって何だっけ？」をいまいちど考える貴重な機会を与えてくれました。自らの手で弾き出した玉の動きに一喜一憂する、これこそがパチンコの醍醐味であり、原点でもあるのですから。

ならば、手打ちパチンコが評価されなかった今のホールは、もしかしてパチンコ店とは呼べないのではないかしら。時々はそんなことをぼんやりと考えながらも、結局はホールに入った瞬間に全てを忘れて射幸心に抗えない私なのです。