甘美～設定6を打つこと

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

「さて、どう言い訳すべきか」

昼時を少しすぎたが空腹感はなかった。2～3Gに1度は額に手を当て、深くため息をつく。しかしレバーを叩く手を止めてはならない。手を止めることは投了と同義。レバーを叩かずして、ボーナスは成立しないからだ。ことこの日に限り、負けは許されなかった。

2001年頃、俺は映像の専門学校に通っていた。一般的な専門学校とは違い、教室での「授業」はほとんどない。1年の大半は取材や撮影といった「実習」に費やし、関東中を飛び回っていた。学校側が公式にアルバイトを禁止していたわけではナイ。しかし、数週間自宅に帰らないことも珍しくない生活なので、アルバイトができるのは実習の合間のわずかな期間。もしくは実習で仕事量の少ない役割を担当した場合だけだった。言わずもがな万年金欠で、奨学金や仕送りが底をつくと、米と塩だけで数週間を凌ぐこともあった。

そんな俺にも彼女がいた。歳は一緒で、別の専門学校に通っている。学業の合間にアルバイトもこなす働き者だった。そして彼女と初めて一緒に過ごす冬が訪れる。街は緑や赤のリボンで彩られ、広場の木々も鐘や星の付いた衣装を纏った。ヤバい、金が無い――。彼女はきっと、俺にプレゼントを用意しているハズだ。「俺も要らないから、お前にもあげない」と言えば解決するのかもしれないが、そんな格好悪いことを言えるワケがない！　とにかく手っ取り早く金が要る！！　幼いうえに馬鹿な俺は、1つの方法しか思い浮かばなかった。

中段ラインに六角形のBARが揃い、椅子の背もたれに崩れ落ちた。朝イチから打っていたのは「大花火」。彼女は金の掛かるタイプではないので、高設定である必要はない。BIGが少しでも連チャンすれば、すぐにプレゼントの予算額に達する。なのに、頭上のデータ表示器にはBIG2回、REG4回とある。総投資額は、すでに2万円に迫っていた。

そもそもこんなホールに打ちに来たのが間違いなのだ。店内BGMこそ元気でポップだが、スロットフロアの客は俺ともう1人しかいない。対して店員は3人。冷静に考えれば、こんな店を選んだ時点で勝てる可能性は低い。それでも大花火ならなんとか…と思ったが、やはり設定1で戦うのは厳しい。そんなことを考えていると、遠くから聞き慣れた重低音が響いてきた。

「ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン…」

また当たってやがる！　聞き間違えようがない。アステカのBIG入賞音だ。もう1人の客は、朝イチからアステカを打っている。恐る恐る柱の陰から様子を窺うと、すでに3箱を積んでいた。3千枚は超えているだろう。…はは～ん、そうか。朝イチからピンポイントでアステカに座り、そのアステカが出っ放し。そして他に客はいない。なるほど。これが噂に聞くサ○ラというヤツか。これだから都会のホールは怖い。そうと分かれば、もうこんなホールに用はナイ。別の店に移動しよう。大花火に戻り、帰り支度を整えていると…

「ジャララララッ…」

エッ！？　メダルを流す音…？　スロットフロアの客は、俺ともう1人だけ。つまりコレは…。アステカのシマへ急ぐと、やはり件の台が空いている！！　CTに入らず、BIG終了で即ヤメしたようだ。サ○ラじゃなかった！　客は俺1人だけなのに、反射的に下皿へケータイを投げ入れてしまった。冷静にデータ表示器をチェックすると、250GすらハマらずBIGが続いている。チラとジェットカウンターに目をやると、表示は4000枚を超えていた。4号機の初代アステカは、BIGとCTが上手く絡むと3000枚超も珍しくない。それがたとえ設定1だとしても。とはいえ朝から目立ったハマリが1度もなく、出っ放しのまま4000枚超は少し出来すぎ。もしかしたら本物の高設定かもしれない。しかしスロットフロアに俺1人しかいないようなホールに、高設定などあるだろうか…。迷っている余裕などナイ。別のホールに移動しても、これほどソソられる台があるとは到底思えない。当然このまま帰れば投資分の約2万円は戻って来ず、プレゼントも用意できない。この台に賭けるほかなかった。

打ち始めると、わずか4000円で初BIGがヒット。しかしCTに入らず、スグにまた追加投資を強いられた。1000円札をサンドに入れるたび「たまたま低設定が爆裂しただけでは?」という疑念に襲われる。だが、これほど好条件の台を簡単に手放すわけにはいかない。BIG出現率は約1/190。プレゼントを用意できるか否かはもちろん重要だが、何より「パチスロ打ち」として、この台を打ち切った際の結末に興味があった。

**【4号機アステカのBIG確率】**
設定	BIG確率
1	1/315.1
2	1/273.1
3	1/244.5
4	1/221.4
5	1/202.3
6	1/180.0

※ボーナスはBIGのみ。CT当選率はBIGの50％(全設定共通)

アステカの設定推測要素は少ない。通常時の小役確率に設定差はあるが、小役補正機能(小役カウンター)により確率が変動するため、設定推測には役立たない。また、BIG中のサボテン確率は高設定ほど高いが、設定6でも1/819.2とかなり低め。設定6を終日回しても、1度確認できるかどうかだ。つまるところ、頼れるのはBIG出現率しかない。高設定特有の挙動もなければ、昨今の機種のような特定の設定を示唆する演出もナイ。BIG出現率が全てと言っても過言ではないのだ。

追加投資4000円で再びBIGを射止め、そこからCTに突入した。このCTを100Gほど消化したところでBIGが成立し、またもCTに突入。出玉はあっという間に800枚を超えた！　その後も中ハマリすらなく、BIGとCTが繋がっていく。打ち始めてから3時間が経った頃には、出玉は2500枚を超え、高設定の「予感」は「確信」に変わっていた。

設定が6段階であることはもちろん知っていたが、それまで高設定を確信して打った経験はなかった。金がなかったので少し勝てばスグにヤメ、長時間粘ることもなかった。まともに設定推測することもなく、出れば「高設定かもしれない」と思う程度。当時は設定確認OKのホールもあったが、そういったヤル気のあるホールは1店舗も知らなかった。

今ヤメれば、収支的には2万円以上のプラス。プレゼントを買ってもお釣りが来る。でも、こんなアステカを打てるチャンスが今後あるだろうか。なにより見たい。この台を閉店まで打ち切ったときの景色を！　多くのユーザーを熱狂させたCT機の実力を！

結局閉店まで打ち切り、流した出玉は7000枚超だった。高設定と思しき台をこんなに粘り倒したのは初めてだったし、獲得枚数が5000枚を超えたのもこの日が初めてだった。既述の通りアステカは、設定1でも瞬間的に3000枚くらい出ることはある。でもこの日打った推定高設定は感触が全く違った。大きなハマリが一切なく、CT非当選が続いても、出玉は大きく削られない。安定感が全く違ったのだ！

これがホンモノの高設定か！

これまで打っていた「高設定かもしれない台」は、全てニセモノだったかもしれない。高設定は出玉が出るだけじゃない。面白さだってケタ違いだ。ハマることなくスグにリーチ目が出現し、CTに入ったかと思えば難なくBGMが停止しBIGが確定する。この日の実戦は、それまでの実戦とは比べ物にならほど甘美で濃密だった。

また高設定を打ちたい。
あの興奮を味わいたい。
低設定では得られぬ、あの圧倒的なまでの愉悦！

それまでは「高設定だったらいいな」といった、他力本願的な考え方だった。「高設定を狙う」という、ごくごく当たり前の立ち回り。この日打ったアステカは、その重要性と高設定を打つ楽しさを俺に教えてくれた。

この日以来、俺は今日に至るまで高設定狙いを続けている。もちろん4号機のAT機・ストック機時代は天井狙いやゾーン狙いもしていたが、やはり「高設定狙いこそ王道の立ち回り」だと思っている。ちなみに「機種の真なる面白さは高設定を打ってこそ分かる」と思っている。

また、この日は俺の高設定狙いにも大きな影響を与えた。

どんなに高設定が入っても、ライバルが多くてツモれないなら意味がない。高設定の絶対数は少なくても構わない。極端に言えば、自分さえツモれればいいのだから。ライバルがいない店で、少ない高設定をいかに正確にツモるか。これが俺の立ち回りスタイルの基となった。

ちなみにこの日は10万円ほど勝ったわけだが、プレゼントの予算に変更はなく、彼女が欲しがっていた1万円チョットのパーカーを渡すことに。4号機時代から活躍する有名ライターなら、みな1つや2つは豪快な浪費伝説を持っている。一晩で〇百万使っただの、宵越しの銭は持たないといった話だ。一方俺は、どんなに大きく勝っても豪快に使うことなく、必要最低限の出費にとどめていた。このセコさこそ、今の「脇役の生き方」に繋がっているのかもしれない。

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。

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