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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2017.06.13
『深淵』~軍団、打ち子、サクラ
まるで悪夢だ。
頭上のデータ表示器を睨みつけ、煙草を灰皿で乱暴に揉み消した。朝イチから2時間ほどは「いかにも高設定」といった挙動だったが、徐々に雲行きが怪しくなり、トドメの700Gハマリ。幸い投資は少ないが、序盤の展開が良かっただけに、天国から地獄へ叩き落された気分だった。
打っていたのは山佐の4号機「コングダム」。
ゲーム性はベーシックなノーマルAタイプだが、多彩な演出と豊富なリーチ目を搭載し、長期にわたり打ち手から愛された名機である。最大の特徴は「テトラリール」と呼ばれる演出用4thリールだ。初めてテトラリールを搭載した「シーマスターX」が好評を博し、演出面をさらに強化したのがこの「コングダム」だった。ちなみにテトラシリーズ第2弾は「おいちょカバX」なので、「コングダム」はテトラシリーズの第3弾ということになる。山佐のテトラシリーズを語り始めると長くなるので、それはまた別の機会で触れることにしよう。
この日は久々の休みだった。実習で制作している短編映画がクランクアップしたばかりで、数日後からは仕上げ作業が待っている。パチスロをゆっくり打てのは2・3日だけだ。是が非でも楽しみたい俺は、ガラにもなく前夜に下見まで行ったのだが――。
席を立ち、狭いパチスロフロアを見て回る。「大花火」は人がまばらで出玉もサッパリ。「ハナビ」や「ニューパル」は稼働が良く、1~2箱積んでいる台もチラホラある。そして肝心の「コングダム」は…3台隣が2箱目に手を伸ばすところだった。
「コングダム」を選んだのは、ボーナス出現率の優秀な台が連日あったため。当時はイベント日でもない限り、あまり設定5・6を期待できない。中間設定なら御の字といった感覚だった。それでもこのホールには、高設定と思しき台が連日ある。中でも顕著だったのが「コングダム」だった。
よりにもよってノーマークの台が「当たり」だった。中間設定以上は確かに投入されてそうだが、その傾向・クセが全く読めない。悪い店ではなさそうな気がするが…。
そのとき、ふと足が止まった。「コングダム」で箱を積んでいる彼…たしか昨日も「コングダム」で箱を積んでいたような…。気になって「ハナビ」と「ニューパル」も見に行くと、やっぱり! 昨夜の下見の際に出玉を積んでいたメンツが、今日も中間設定以上らしき台を打っている!! ジグマか、それとも…。
ホールを出て「明日は別の店にするか」などと思っていると、ポケットの中でケータイが震えだした。
「おう、今なにしとんの? 遊び行こか!」
声の主は専門学校同期のT。明るくて口も達者。絵に描いたような関西人だ。同期ではあるものの年齢は2つ上。大学を中退してウチの学校に来たらしい。俺から見れば「明るいお兄ちゃん」だ。場所を告げると、スグに車で迎えに来てくれた。
T「おう、お待たせ~」
Tは学生とは思えないほど大きくて立派な車を転がしている。大学時代に必死にバイトをして買ったそうな。「ナンパはクルマと話術や」とはTの弁だ。
俺「どこ行く?」
T「せやなぁ~シモキタでも行こか?」
俺「いいね」
俺を助手席に乗せると、車は大通りへと向かった。
T「午前中なにしとったん?」
俺「パチスロ」
T「はは、ホンマ好きやな~」
Tはパチスロを打たないが、パチスロの知識はそこそこある。昔、ゲーセンでバイトをしていたときに覚えたらしい。設定が6段階あることはもちろん、仕組みや技術介入のことも知っている。
T「どこで打ってたん?」
俺「駅前のE」
T「あそこか! アイツらおったやろ?」
俺「アイツら?」
T「軍団や。まさか知らんの?」
俺「ああ、あのジグマの?」
T「はは! そんな生易しいもんとちゃうで」
俺「エッ? なんか知ってんの?」
T「俺Eの近くのゲーセンによう行くやんか?」
俺「そうだね」
T「そこでアイツらと知り合って、たまに一緒に飲んだりしてんねん」
俺「そのコミュニケーション能力、マジ感心するわ」
T「俺のこと誰や思てんねん! 大阪人やぞ!」
俺「それで?」
T「アイツら、ずっと昔からEでスロプロやってんねんて」
俺「やっぱりジグマじゃん」
T「ま、ジグマ言えばそうかもしれんな」
俺「どういうこと?」
T「アイツらEの高設定の位置、全部知ってねん」
俺「は? な…なんで?」
T「俺が『パチスロ興味ない』言うたらボスが教えてくれたんやけど、実はEの店長と繋がってて、開店前に高設定を教えてもろてるらしいで」
俺「つまりサクラってこと?」
T「んー、ニュアンス的にはどうかな。店長がアガリの何割かを貰ってれば完全なサクラやけど、店長に金は渡してないらしい」
俺「えっ? 店長にメリットなくない?」
T「せやな。単純に怖いだけちゃうか」
俺「怖い?」
T「あの店、アイツら以外は若い客おらんやろ?」
俺「たしかにじいさん・ばあさんばっかだね」
T「アイツらおらんかったら、たとえ高設定を入れても、出てないように見えてしまう。さらにアイツらは、じいさん・ばあさんから好かれてんねん。目押ししてあげてるやろ?」
思い返せば「ハナビ」を打ってた強面の男は、頻繁に老人たちの目押しを手伝ってあげていた。
T「イベント日だけ荒らしに来るプロも、アイツらがおるから寄りつかへん」
俺「アイツらがいると、店にもメリットがあるってことか」
T「もちろんそれだけやない。アイツらのナンバー2知ってっか?」
俺「いや、知らないけど」
T「目が細い優しそうな人がボスや。ナンバー2は紋々入っとるから、夏場でも長袖着とるハズや。あと長髪やね。知らんか?」
あの「ハナビ」の男と符合する。
俺「ああ、なんとなく分かった。ヤ○ザなの?」
T「正確に言えば元ヤ○ザらしい。俺も怖いから詳しくは訊いてへんけど。もし店長が『もうこの関係やめよう』なんて言い出したら…無事では済まんやろなぁ」
俺「……」
T「それもあって、あの状況が続いてるってわけや」
俺「なるほどね」
T「3人くらい若いヤツもおったやろ? ナンバー2がその教育係や。パチスロの技術を仕込んで、アガリ回収してんねん。いわゆる打ち子ってヤツやな」
ちなみに当時はまだ「ノリ打ち」という言葉が一般的ではなかった。
T「打ち子は勝ち額の2~3割を貰う感じやな。相当抜かれとるけど、その代わり負けるリスクはほぼナイわけや。堅い立ち回りとも言えるな」
俺「まさかEがそんな風になってたとは…」
T「お前も相当パチスロ好きよな。どや? お前さえその気なら紹介したるで?」
俺「は? 俺も軍団に入るってこと?」
T「せや。ボスとは仲エエからな。たぶん入れてくれると思うで」
軍団に入れば、好きなパチスロを思う存分打てる。金に困ることもナイ。ちょうどこの頃は目押しに自信がついた時期だった。今の自分の技術がプロでも通用するのか試したい気持ちがある。
T「もちろんハズシミスったらボコボコやで」
俺「エッ!?」
T「ナンバー2が執行人や」
俺「Vシネかよ」
T「あとあの店の全機種の機械割を、設定1から6までソラで言えるくらい知識は入れておかんとアカンな」
俺「それはムリだよ。他の店で見たことないようなマイナー機もあるし」
T「ははっ…そうや、ヤメといたほうがエエ」
俺「俺にはできないってこと?」
T「お前の実力なんて知らんもん、それは分からん。そうやない」
俺「……」
T「アッチに踏み込んだら、もう真っ当には生きられんくなるで」
俺「怖くて軍団を抜けられなくなるってこと?」
T「それもあるかもしれんが…俺らは将来、映像業界で生きてこうと思っとるわけやろ?」
俺「そうだね」
T「ラクして金稼ぐ方法を覚えたらアカン」
俺「そりゃ正論だけど、金は欲しいわ」
T「まあな。でもアノ状況がいつまでも続くわけがない」
俺「どういうこと?」
T「これまでEの店長はアイツらとあの関係を続けてきた。今の店長だけやない。前の店長も、その前の店長もな」
俺「うん」
T「でも次の店長がヤメるかもしれん。もしくはEの本社が気付いてヤメさせるかもしれんし」
俺「……」
T「そうなったとき、アイツらが同じだけ稼げるか?」
俺「それはさすがにムリだろね。みんなで打って勝つくらいはできるだろうけど」
T「数年のあいだ半サクラのスロプロやって、店の都合でその生活が破綻したとき、普通に社会人になれるかっちゅう話や」
底なしに陽気なTだが、さすが2歳年上なだけはある。一瞬でも目先の金に目が眩み、軍団入りに傾いた自分が恥ずかしかった。
T「上手い話には必ずオチがあんねん。お前はまだ若くて社会も知らんやろうけど、そのうちアノ店見とったら分かるで」
俺「Tだってまだ学生じゃん」
T「ハハッ、せやった!」
俺「そうだな…パチスロではいっぱい勝ちたいけど、やっぱり人に監視されながらじゃ楽しくない。楽しく打ちてーわ」
T「それがエエよ。趣味にしとけ」
もし俺が件の軍団と別の出会い方をしていれば、足を踏み入れていた可能性もある。当時の俺は、まだ技術も知識も足りなかっただろうが。件の軍団ではナイが、実際に軍団入りを誘われたことは何度もある。もちろん、その都度丁重にお断りしてきた。そもそも俺は1人で打つことが好きだ。そして収支云々より、純粋に楽しみたかった。おそらくスロプロには不向きの人間だろう。当然できる範囲で勝つ努力はするが、それは高設定をツモって機種の面白さを最大限まで引き出すためである。
なにも俺は、スロプロを否定しようというわけではない。スロプロなら知り合いにもたくさんいるし、いずれ当コラムにも登場する師匠的な存在の先輩も、長らくスロプロをやっていた。ただ俺はプロの道を選ばず、楽しむことに特化して良かったと今になって思う。4号機に比べ出玉面の魅力は落ちたが、今でもパチスロへの興味は尽きない。もし収支にこだわるプロになっていたら、今の機種を好きになる自信がない…かも。
やっぱりパチスロは「適度に楽しむ遊び」であるべきかなと。そしてより楽しんで頂く方法を提供していくのが、俺やパチ7の仕事でしょう。
若いうちならプロでも結構。でもおっさんから少しだけアドバイス。状況は必ず変わる。良い状況はずっとは続かず、例外なく必ず終わりが訪れます。しかもある日突然、前兆ナシの突当たりで。それへの備えは用意すべし! 最近の若いスロプロは賢いから、俺が言うまでもないけどね。近年は「勝った金はその日のうちに全部使う」なんて人、見たことないもの。
余談になるが、件の軍団は数年後に解散した模様。以下はTから聞いた話です。やはり本社にバレ、店長がクビになったらしい。もちろん軍団は勝てなくなり、見切りをつけたボスは即時撤退。すでにEとの関係でウン千万を貯めていたらしく、スグに起業して社長をしているそうな。この人はスロプロでなくても成功するタイプだったのでしょう。そしてナンバー2は…あまり詳しくは書けませんが、解散後に1度塀の中へ入ったらしい。パチスロとは全く関係ない罪ですがね。貯め込んだウン千万はスグに使い切り、その後いろいろとヤラかしたようです(ココが書けない)。打ち子たちのその後は分かりませんが、若かったのでどうとでもなるでしょう。
「今」だけでなく「将来」も見据え、パチスロと付き合っていきましょう。昨日18時から3万負けた俺が言っても説得力ないけど!!
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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