あのときオレはクズだった　第35回　~第2部ガイド編~

田中（クズプロ田中→クズ田中→田中）あのときオレはクズだった~田中の回胴回顧録~

異国の地で出会った甘いニオイのするあいつに抱かれて……

　プロなら納得できる。百歩譲って実業団や大学の強豪チームであっても、なくはないかなと思えるが、おっさんが集まってわーわーやっているだけの草野球チームが合宿を行う。それだけでもおかしいのに、その行き先がサイパンだなんて、まったくどうにかしているとしか思えない。思えないが、たとえ草野球チームといえどもガイドの先輩たちが多数所属しているなかで、後輩の返事はイエスの一択のみ。暮れも迫る2006年の12月15日に急いでパスポートを申請し、明けて2007年1月末。人生で初めての海外の地、サイパンへと飛び立った。

　草野球の合宿なのだから、サイパン行きの目的はもちろん野球の試合。どこで見つけてきたのか知らないけれど、こういうときにだけ異常な行動力をみせるチームの宴会部長が現地日本人の草野球チームをすでに見つけてあり、ホテルにチェックインしたのちに、すぐさまその人たちと合流。日本食屋で鍋をつつきながら、前夜祭という名の飲み会がスタートした。……ねえ、これじゃあ日本で飲み会やっているのと、なんにも変わんないよ？

　しかし、わざわざ日本を飛び出して海外の地で仕事をし、生活をしている人たちというのは順応性が半端ないというか、細かいことを気にしない豪傑が多いというか、初対面にもかかわらず、あっという間に打ち解けて、がぶがぶ酒を飲んでいく。結果、一次会のうちにすっかりと仲良くなって、二次会へと繰り出すことになった。二次会の行き先は、フィリピンパブ。……ねえ、ここはサイパンだよ？　これじゃあ錦糸町で飲み会やっているのと、なんにも変わんないよ？

　はっきり言って、フィリピンパブなんて行きたくなかった。自分は外国人にはまったく興味がなく、恋愛の対象となるのはジャパニーズのみ。だったら、異国の地にきて浮かれている日本人女子に声をかけたほうがいいじゃないかと思いながらイヤイヤ店に入ったわけだが、大音量の中で激しいダンスを繰り出すフィリピン人と、次から次へと運ばれてくる大量のテキーラを浴びているうちに、ここが桃源郷に思えてきた。強烈なテキーラをがぶがぶ飲みながら、甘いニオイのするフィリピン人に体を預けるこの時間。めまぐるしい日本での生活を吹き飛ばしてくれる、夢のような時間に思えた。

　……い、田中。おいって、早く起きろよ。誰かの声で目を覚ますと同時に、強烈な吐き気と頭痛が襲ってきた。どうやら昨晩はあのまま寝てしまったようで、ふらふらになりながらホテルに戻ったようだけど、まったくこんな朝早くから起こすなんてどうにかしている。もっと寝かせてくれよ……。

　よし、野球やるからそろそろ行くぞ。

　朝の6時に叩き起こされたかと思うと、気持ち悪いままバイクの後ろに乗せられて球場へ向かっていた。そして、強烈な日差しの中でプレイボーール‼

　正直、野球の結果がどうだったのか。勝ったのか負けたのかすらまったく覚えていない。とにかく守備につきながらゲロを吐き、打席をハズしてはゲロを吐くような、野球を冒とくしているとしか思えない地獄の2時間を終えて、ホテルに戻ってきた。ああ、やっと解放される。今日はもう、1日中プールサイドで寝て、お酒は飲まずに早目に寝てしまおう。そう思っていたら、相手チームのリーダーがこう言った。

　それじゃあ、今日は試合の打ち上げするんで、このあとロビー集合でお願いします‼

　アイスペールにマッコリ、ビール、泡盛といったお酒を大量にぶち込んで、一気をしながら次の人に回していく暴力的な飲み会がスタートしたのは、まだ昨日の酒が抜けきっていない時間帯。そして、その飲み会が終わって外に出ると、誰も何も言わないのに、当たり前のように例の店へと移動していくわけだ。結果、テキーラとフィリピーナに抱かれて、今日も記憶をなくしていくのである。

　こんな生活、まっぴらごめんだ。そんな気持ちがある反面、こんなに人間らしい生き方はないなとも思った。日々のしがらみの中で己を犠牲にしながら生きる東京での暮らしも、生活するために大切だとは思う。だけど、そんなものをすべて投げ捨て、異国の地で本能的に生きるのも、人間らしくて悪くないじゃないか。このサイパンでの数日間が、自分にとってフィリピン行きを決断するにあたって後押しをした要素であることは間違いない。自分を解放することに対する枷をハズしてくれた、そんな旅だったように思う。

　まったく、人生というのはなにがきっかけになるかわからない。わからないが、この旅をきっかけに自身の海外欲に火がつき、時間を見つけては海外旅行へ行き、歌舞伎町のフィリピンパブに通う、そんな日々が始まったのだった。

あのとき打っていた「南国美人」

【メーカー】オリンピア　【販売年月日】2006年1月　【タイプ】ノーマル+RT
サイパンへ行く直前に導入されたのが、オリンピアの5号機『南国美人』。筐体上部に配置された大きなパトランプが特徴的なマシンだったわけだが、それから1週間後にサイパンの地でモノホンの南国美人に寄り添いながら、心のパトランプをきゅいんきゅいん鳴らすことになるとは、まさか思っていなかった。

クズの成績表：★★★☆☆（テキーラとアイスペール）

わざわざ日本を飛び出して海外の地で仕事をし、生活をしている人たちというのは順応性が半端ないというか、細かいことを気にしない豪傑が多いというか

これは本当によく分かる。全くもってその通り。
そしてヤツらは例外なく酒が強く、例外なくテキーラが好き。メンタルも強く、バイタリティもハンパない。その強さに憧れを抱く反面、私は彼らがちょっと苦手です(笑)

クズ氏の物語もそろそろセブへ辿り着きそうですね。

田中氏の素晴らしき活動はコチラから！

共有する

田中（クズプロ田中→クズ田中→田中）: 代表作：あのときオレはクズだった~田中の回胴回顧録~

パチスロ好きが高じて21歳の時にパチスロ必勝ガイドにてライターデビュー。若手時代は勝ちキャラだったものの徐々にクズっぷりを発揮し、昼はギャンブル、夜は酒をモットーに活動を行う。30歳で思い立ってフィリピンに英語留学へ行き、2012年の2月より世界の子ども支援を行うNPO法人セブンスピリットを設立。フィリピンのセブ島でNPO活動をしながら執筆も行っている。