【第2回】お題～もしパチスロに出会っていなければ～元クズ田中編

クズと虫クズと虫～お題共有コラム～

　結果的にパチスロライターになれたからこそパチスロとの出会いは自分の中でプラスだったと捉えているが、高校生のころの自分を振り返ってみると、パチスロとの出会いは自分にとって毒でしかなかったのかもしれない。

　学校に行かなくなったのも、親の財布からお金を抜くようになったのも、その根底にあるのはすべて「パチスロが打ちたいから」。それだけ熱中できるものがあるというのは幸せなことではあるけれど、熱中するがあまり他人への迷惑を顧みず自分の欲求だけを追い求めたわけで、多くの人に迷惑をかけてきた。ギャンブルで借金を背負って強盗をしたバカが捕まったと、遊ぶ金ほしさに犯罪に手を染めた人間のニュースを目にするたびに、それは自分にとっては関係のない話だと、世の中にはダメ人間がいるもんだなと聞き流してきたけれど、冷静に考えると、一歩間違えればニュースで報道されていたのは自分だったかもしれないという思いはある。

　人生にはいくつもの転機がある。もしパチスロと出会わなければという問いと同じように、もし部活動でバスケを選んでいなければ、中学校の恩師に出会っていなければ、ショートカットの似合う同い年のあの子を好きになっていなければ。人生はまた、まったく別のものになっていただろうと思うけれど、自分の人生の根底にいまも強くある「とにかく自分の好きなことをして生きていく」という思いだけはきっと変わらないだろうし、それをはっきりと意識したのは中学生のときだった。

　日曜日は近所に暮らす親戚一同がうちに集まって、一緒に晩メシを食う。祖父の取り決めによって物心ついたころからずっと恒例となっていたこの行事の中に突如として入ってきたのが、「ダウンタウンのごっつええ感じ」というコント番組だった。これを見て、お笑いをやりたいと思ったわけではない。単純に、こんな無茶苦茶なことをやっていて、それが仕事として成り立つことに驚いた。自分の好きなことをやってお金をもらえたら、それが一番。そう強く思うようになったのだけど、当時、特にやりたいものがなかった自分にとって、その対象というのが日曜日に観るそのコント番組しかなかった。そんなこともあって中学2年になるころには高校卒業後に大阪へ行って吉本興業の養成所に入るんだと、自然とそういう考えに至ったのだけど、もしもそのタイミングで「課長　島耕作」を読んでいたらきっと自分はサラリーマンにやりがいを見出しただろうし、「仁義なき戦い」を観ていたら、やくざに憧れを抱いていたかもしれない。当時の自分は成長期の乳首よりも敏感だったわけで、触れるものすべてに反応をしていた、そんな時期だった。

　そんなこともあるから、たとえパチスロに出会わなくても高校卒業→大阪で吉本の養成所に入るというところまでは変わらなかったと思うが、それから先の人生というのはパチスロによって大きく変わることになったわけで、もしもパチスロに出会わなければどうなっていたのか、少し考えてみよう。

　吉本の養成所に行かなくなったのも、愛媛に戻ったのも、きっかけはもちろんパチスロ。ということは、パチスロがなければ少なくとも養成所にはマジメに通い、吉本所属のお笑い芸人にはなっていただろう。だけども、自分の同期はキングコングにノンスタイル、ウーマンラッシュアワーにダイアンといった面々がそろう当り年。そんな中で、そもそもネタの作り方すらよくわかっていない自分のような人間が世に出ることはなく、当時、長渕剛に風貌が似ているからというだけでナガブチくんと呼ばれながら働いていた夜のお店にどっぷりと浸かり、カタギかどうかすら疑わしい、自分をカワイがってくれていたその店の専務。彼に誘われて正社員として入社することになっていたことだろう。その後、数年間は使いっ走りのような仕事をしていたのだけど、専務がデリヘル業を始めるということでそこの店長に抜擢されることになる。そこで実習と称して面接にきた女の子に手を出しているなかで、面接にきたアケミという幸の薄そうな痩せ型の女を好きになってしまってそのまま結婚したわけだが、家庭を持って幸せな生活を送っていたのもつかの間、アケミがとんだ金食い虫ということが発覚。もっと金がほしいということで、当時、4号機の終焉で流行りはじめていた闇スロの開業を専務に提案し、コイン1枚50円、爆裂4号機を取り揃えた闇スロ屋の店長に就任したわけだが、これが大当り。売り上げの大半は専務が持っていくものの、月80万円の給料をもらってそれなりに良い生活を送っていたのだけど、とある日の明け方。突然、「動くなっ‼」の怒号と共に警察の手入れが入り、賭博開帳図利罪で現行犯逮捕される。初犯ということで懲役10月、執行猶予3年と刑務所行きは免れたものの、もう真っ当な生活には戻れないということで、2015年現在。執行猶予のつく身ながらもぼったくりバーの店長を務めながら、ミナミの繁華街で生きていたことだろう。

　もしくは。

　数年間、吉本所属の芸人として活動したものの、これは食っていけないと見切りをつけて25歳のときに愛媛の実家に戻り、就職探し。とはいえ、たいした就職先もない愛媛で、しかも高卒。そんな男に仕事が見つかるはずもなく、毎日のように繁華街で飲み歩いていたら、飲み屋で仲良くなった男から「金になるんだけど一緒に仕事やんない？」と持ちかけられる。で、最初は雑貨や古着をアジアで買い付けてきて売る仕事だと聞かされたいたわけだが、いざ始めてみたら雑貨や古着はカモフラージュでしかなく、やっているのは要するに脱法ハーブ屋。繁華街の飲み屋連中に脱法ハーブを売ることになったわけだが、ハーブを買いにきたキャバクラの女、サヤカ。そいつを好きになってしまい、気を引くためにタダでハーブをあげるばかりか、いつしか自分も一緒になって手を出すようになる。で、実はサヤカは脱法ハーブだけでなく、違法のドラッグ。いわゆるシャブにも手を出しており、「シャブやってセックスするとスゴい気持ちいいんだよ」という誘いに乗って、越えてはいけない一線を越えることになる。そんな生活を半年ばかり続けていたのだけど、サヤカは以前から実は警察にマークされており、サヤカの逮捕と共に芋づる式で、自分も覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕。初犯ということで一度は実刑を免れるも、関係を断とうと思っていても近づいてくる昔の仲間の誘惑に負けて再び手を出した結果、二度目の逮捕。執行猶予期間中の逮捕ということで今度は実刑をくらい、2015年現在。栃木県の黒羽刑務所にて刑期を8か月残して収監中である。

　わりと本気で、現実的な範囲でシミュレーションをしてみて、これである。もちろん、どうなっていようと自分で選択した人生。中2のときの「自分の好きなことをして生きていく」という決意のもとで生きているわけで、ぼったくりバーの店長をしていようが、黒羽刑務所に収監されていようが、そのなかで最大限に楽しんでいるとは思う。思うけれど、ひとつだけ言わせてほしい。助かった……。

　高校生のときに出会ったパチスロは、やっぱり自分にとっては毒だったかもしれない。だからこそ、パチンコ屋への入店は18歳以上と限定されていると思うのだけど、いま自分が楽しく生きられて、あたたかい布団で寝られているのもまた、パチスロに出会ったおかげ。

　NPO法人をやっている中で頭のカタい人間が、自分がパチスロ業界の出だときいて顔をしかめることは、たしかにある。だけども、パチスロでつまずき、パチスロに救われもした人生。この先も、パチスロとは切っても切れない関係が一生、続いていくはずである。

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クズと虫: 代表作：クズと虫～お題共有コラム～

ライターである元クズ田中と鈴虫君。ガイド時代に最も近しき先輩後輩関係で、とても仲良しな二人。競艇好きという大きな共通点もある。

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