【第3回】お題～過去一番好きな機種とその思い出～鈴虫君編

クズと虫クズと虫～お題共有コラム～

クズと虫。
元クズ田中氏と鈴虫君氏が同じテーマをそれぞれの視点で語るという連載企画。第3回は「過去一番好きな機種とその思い出」です。あなたの場合はどの機種ですか？

鈴虫君氏の一番好きな機種とは？

　

　パチスロを打ち始めたころの胸のドキドキと、勝ち方を覚えて打ち込んだ時間、それに甘酸っぱいエピソードが加われば、思い出はできあがる。自分の思い出の機種は4号機のハナビだ。

　打ち始めたきっかけは単純にハナビのシマが出ていたから。しかし、そのころは、小役狙い、リプレイハズシ、設定判別と、ハナビにおける3大攻略法をすべて無視した養分で、勝った記憶はほぼない。今のようにネットが普及していない時代だから頼りになるのは攻略誌だが、当然、打ち始めのころは攻略誌の存在すら知らなかった。

　どうやったら勝てるのか悩んだ自分は、他人の技術を盗むことにした。いつも勝っているお兄さんの打ち方を見て、特定の位置を狙うことはすぐに気づいた。さらに、友達が攻略誌の存在を教えてくれて、ハナビの打ち方を説明しているページを読んだときは目からウロコだった。これで勝てる…と。

　今思うとただの勘違いなんだけど、ドラクエでベホイミを覚えたときのような無敵感があって、今すぐ回復魔法を試したい、心と身体を癒したいと、ハナビのことばかり考えていた。

　顔や下半身をはじめ、神様は自分に生まれ持って試練を与えたが、ありがたいことに目押しの才能だけは水準以上のものをくれたように思う。初打ちから3回目ぐらいにしてボーナスは揃えられたし、特定の場所を狙うことに苦労はなかった。

　この才能を活かし、以前より負けは減った。狙う楽しみを知り、パチスロのおもしろさもわかってきた。ただ、あとワンピースが足りない。勝利を確実に引き寄せる決め手が足りないのである。それを埋めてくれたのが設定判別の存在で、はぐれメタルの剣を装備したときのような高揚感を覚えた。この武器を手にパチンコ屋を切り裂く自信がついたのだ。

　ちなみに、当時の設定判別と呼ばれるものは、今のツール判別などとくらべてぬるいものではない。今の時代でも「判別」という文字を目にするが、微差の小役をカウントしたり、チャンスゾーンなどの突入率から設定を見ようとする行為は判別ではなく「推測」である。設定判別の詳細をここで説明するにはくどくなるからググってもらうとして、特定の手順（もちろん合法）を踏むことによって設定5以上が高確率で見抜けたのである。

　これにてフル装備が完了。無敵艦隊とはスペイン軍のことではなく、俺のためにある言葉ではないか。いや、ホールからお宝を盗むという点を考えると、大泥棒のルパンだろうか。はぐれメタルの武器、防具を装備したルパン…想像しただけで鬼に金棒だが、相手だってバカじゃない。どちらかといえばバカなのは俺のほうだった。肝心の高設定に座れないのである。

　夕方から夜にかけてリカバリーできることもあったが、それでは時すでに遅し。回せば回すほど収支が伸びていくわけだから、開店から高設定を掴んで閉店までブン回すのが勝利への近道なのに、なかなかそのルートに乗っかれないのだ。日に日に自信を失い、お金も減っていった。

　当時、地元の釧路を離れ、札幌に住んでいた専門学校に通う彼女のもとでヒモみたいな生活をしていたわけだけど、ついに所持金が2万円になった。このお金で切符を買って、地元に帰ろうか…。しかし、それでは彼女から離れなくてはならない。

　悩みに悩んで出した答えは、ハナビとの勝負だった。負けたら本当に最後。彼女にお金を借りて地元に帰って働こう。どうせ最後だし開き直って今まで選択肢になかった台選びをしてみた。基本的に初見の店で、打ち手が座る台は前日出ていない台だろう。3日ぐらいヘコんでいる台が理想的か。逆に前日出ている台は候補からハズしたくなるが、据え置きを多用するホールなら無視するわけにもいかない。第3候補としては中途半端な結果で終わった台。

　もちろん、これらはすべて試した。稀に該当することもあったが、翌日に肩すかしを食らうパターンで、なんの確証を得られないまま所持金が2万になったというわけだ。さて、これらのパターン以外で、プレイヤーがもっとも敬遠する台はどんなデータの台か。ずばり、前々日に出て、前日にヘコんだ台ではないか。つまり、2日前に高設定で、昨日は下げて、今日になってまた戻してくるわけねーだろという心理が働くわけで、こんな台はまず座りたくない。

　この流れで結果、間違ってました、そんなはずはない。ずばり大正解で、設定5を掴んで崖っぷちから8万の勝利。一気に所持金が10万円になった。その日の夜、これまでノートに書き溜めておいた全台の過去データを見返してみると、前々日に出ていた台の法則が見事に合致しているのだ。喜びと驚き、そして、今まで発見できなかった情けなさ、いろんな思いが重なった。

　この日を境に確実に収支は上向き、地元への強制送還は免れたわけだが、彼女の通う専門学校は1年間という短期コース。ようやくこれから貯金を増やしていこうかという時期だが、一緒に地元へ帰ることになった。設定投入パターンが読めたホールを捨てるのは辛いけど、優良店とハナビがあればどこでもやっていける。同時に胸の中でざわざわしていた夢に近づいてもいいような気がして地元に帰ってすぐ、彼女に告げた。

「パチスロ必勝ガイドのライターになりたいから一緒に東京行かない？」

「やだ。行くなら別れる」

　10秒でフラれた。どうしても夢が諦められなかったから、彼女と別れる決心をして、小さなカバンとわずかなお金を持って上京したのが13年前。あのとき、ハナビがなかったら、今の自分はいない…それは大げさにしろ、何らかの影響を与えたのは間違いない。人は過去を美化する生き物だから、昔を懐かしんだりするし、青春の思い出のようなものがある。

　自分の大事な思い出というか、人生の転機に大好きな女性がいて、あの歌が流行っていて、あの人物がテレビに出ていて、そしてハナビがあった。ああ、素晴らしい日々だった。もう一度来ないかなぁ。むしろ、迎えにいくぞ。

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クズと虫: 代表作：クズと虫～お題共有コラム～

ライターである元クズ田中と鈴虫君。ガイド時代に最も近しき先輩後輩関係で、とても仲良しな二人。競艇好きという大きな共通点もある。

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