◯◯とパチスロの奇妙な因果関係 『つ』

今回のお題は岡井モノさんからいただいた「つま(刺身のつけあわせのアレ)」。




酔い覚めの 水飲みたさに 酒を飲み、
毒消しの つま食いたさに 刺身食う。





とうとう秋の訪れを無視出来ない気候になってしまった。ついこの間年が明け、花粉症に苦しみ、夏の到来に心躍っていたのが遥か遠い過去の様に感じてしまう。光陰矢の如しとはよく言ったもの、一月後には「今年もあとニヶ月で終わる」と一切の生産性が無い愚痴を零していることだろう。




食欲の秋だなんだと宣っても、めぼしいものは梨と秋刀魚ぐらいと言って過言では無い。紅葉など幾ら見ても腹は膨れない。真後ろの席の確定音をわざわざ振り返って、ショーウィンドウのトランペットを眺める少年の様な心持ちで物欲しそうに見つめたところで、気前の良い足長おじさんは現れやしないのと同じ様に。何時だって現実は自分が座る目の前の台にしか転がっていない。




数少ない秋の楽しみの一つは、鰹を肴に熱燗を空ける瞬間だ。生姜をたっぷりと乗せた鰹を山葵醤油につけ一口でいく。脂の乗った身を噛み締めながら、人肌に温まった日本酒で喉を潤すその幸福感は、至高の一言に尽きる。一切れ、もう一切れと食べ進めば終焉はもう間近。儚さ残る皿に佇むのはただ「つま」ばかりだ。




つま：刺身や吸物に用いられる付け合わせ。生臭さを消す為や、抗菌作用による傷みの防止として添えられる。白髪大根の「ケン」・海藻などの「ツマ」・山葵などの「辛み」などを総称して「つま」と呼ぶ。





酒呑みならば納得の意を示されるだろう。肴は粗方食い尽くした後に、まだ何か口寂しさを感じる。しかし新たに注文する程は空腹でない。そんな時、つまをチョイと摘んで酒のあてにする。下らない駄洒落の様なこの行為が、どうしようもなく己を満たしてくれるのだ。本来口にするはずのなかった存在に、狂おしい程の魅力を感じてしまう。何かに似ていやしないだろうか。そう、パチスロである。





無いなら無いで構わない、別にどうってことない。最初はその程度の楽しい娯楽だった。単調な生活に刺激を与えてくれる、最高のスパイスだった。しかし何時しか無くてはならない愛おしい存在となり、取り憑かれたかの様に打ち続けてしまっている。




身体を休める筈だった休日は打ちに行く為の一日に変わり、日常の息抜きに本気になり過ぎて息が詰まりそうになる事も屡々だ。だがそれが堪らなく心地いい。この命はパチスロを打つ為に在るという盛大な勘違いすらしてしまう。まっこと罪作りな奴だ。





毒消しであった筈のそれには身も心も狂わせる猛毒が潜んでいた。其れでも尚その歯触りを、その喉越しを、その存在感を、何度でも何度でも反芻したい。




捨て難く離れ難い人生の「つま」、パチスロ。この毒消しを食すならば、その身に巣食う毒すらも皿ごと喰らい尽くす気概が必要だ。




恐れるなかれ、君は決して孤独ではない。ここに確かに一人、毒にやられた虚ろな目の半死人が存在する。


命尽きるその日まで、共に胃をキリキリさせようではないか。
































懲りもせずお題募集中です。お題を下さった皆様に、秋の味覚が3倍美味しくなる祈りを捧げておきます。次回は「て」から始まる言葉で。

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