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もしもA-SLOT偽物語が"自分自身"を語る企画をしたら(仮)
もしもA-SLOT偽物語が"自分自身"を語る企画をしたら(仮)
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マグさんさん
初めての20スロはクレアちゃん2でした。クレアちゃんの可愛さを知れました。いやあ、クレアちゃんかわいいですよねえ。 - 投稿日:2019/09/13 23:31
001
「話に入る前に、一つ注意置きをしておくが……、お前様よ。嫉妬するなよ?
いや、こんな所にいる儂の話を聞いて嫉妬することもないかもな……」
かかか、と僕に対して笑ってみせた彼女であったが、しかし、それが虚勢を張っているだけということは誰が見ても明らかだろう。
うだるような暑さの、空調も効いていないこの倉庫の中では時にして幻覚が見えることがある。
埃の匂いと、蒸れたコンクリートの匂い。トリップしてしまいそうなこの空間で彼女は僕に話しかけてきたのだ。
「……儂は、今よりも前はここよりも煌びやかな場所にいた。
それはもう、こんな場所なんかよりも快適な場所じゃった。
お前様の熱視線を独り占め……どころか、他の者も儂に夢中じゃったよ。まさしく雄共を骨抜きにしおったわ。」
彼女がホールに来た日のことは僕も覚えている。
パチンコホールの版権機種なんて言ってしまえば"偽物"に他ならない。
著作者の意図も考慮も汲み取らない、金を集めるために作られた副産物的な創造物。それがパチンコ・スロット台なのだ。
今までそんな"偽物"をいくつも見てきた。食傷気味だった。高カロリーなものを食べ続けて胃もたれを起こしているのではない、そもそも、料理として成立していない、例えるのであれば、レシピを参考にしない料理が下手な人が作った歪な何かなのだ。そんなものを、各メーカーが立て続けに出されれば食傷気味になるとも言える。まず料理じゃないしな。
でも、彼女は僕からしたら"本物"だったんだ。間違いなく"ホンモノ品質"だったのだ。
「儂を作り上げた従者たちはエラく優秀じゃったのかもしれんのう。
中身、だけではなく、外見にも色々と気を使ってもらったみたいじゃったし。」
言葉の比喩ではなく、くるくると周りながら自分の姿を見る。さながら、子犬が自分の尻尾を追いかけているような印象を受けた。
その筐体は、彼女自身の現実離れした美しさを象徴するかのようであった。
パネルは幼子の姿でありながらも、元は齢500歳をゆうに超えてる吸血鬼。その姿は妖艶そのものである。
筐体左部はステンドグラス風となっており、忍野忍が描かれている。が、チャンスリプレイが成立すると、たちまちステンドグラスからキスショットの姿が映し出される。
ステンドグラスの光の当て方によってキスショットが映し出されるのだ。
この台において、そこまで重要ではないが、キスショットがいてこその忍野忍であると表しているようで僕は少し嬉しかった。
002
「…というかお前様よ。今回の企画は"歴代機種“自身”に思い出を語らせる"のじゃろう?お前様の独白で進めおってからに。」
「おい、僕が一生懸命、筐体であるお前がまるで現実世界に忍野忍がいるかのように錯覚させるためのレールを敷いているのに企画とかメタメタしいことを言うな。」
「無駄な足掻きを。お前様の文章能力じゃとそのミスリードは難しいと思うぞ?いいから儂に喋らせろ。」
フンと、鼻を鳴らすと彼女は続ける。
「つまりじゃな。クレアとかいう褐色幼女が儂は気に食わんのじゃ。」
「おいヤメロよ他社のオリジナルキャラクターに触れるのは!!」
「別にネタではない、マジじゃ。"ホンモノ品質"のマジじゃ。本気と書いてマジと読むのじゃ。」
「今度は高橋留美子先生にも飛び火!?マジでやめろよ、最近うる星やつらとかもパチンコで出てるんだから。というか僕の独白部分から引用するんじゃない!」
「ちなみにお前様よ、本気と書いてマジと読むのは高橋留美子先生が初出じゃないぞ。落語の噺家さん達らで"真面目"を"マジ"と表したのが初出じゃ。」
お前元は古風な吸血鬼キャラっていう設定忘れるなよ!どれだけ俗世にまみれているんだ。
「ライバルじゃったよ。あの褐色幼女は。なんせ儂がホールにデビューして一ヶ月後に新台として現れたからの。」
会話のアクセントに出しただけではない、本当にクレアのことをライバル視していたのだ。
「ま、結果は明らかなものじゃったよ。儂は負けたんじゃ。設置台数も、機械割も。そして、今現在ホールに残っている台数もな。」
外伝とはいえ、歴史ある秘宝伝シリーズの作品。本物の作品。偽物の忍野忍に出来ることはなく、ユーザーが選んだのは、本物の台だった。
「確かに、完成度の高い台じゃったよ……ただの……。あいつ公式設定では1万歳を超えとるババアじゃからの!?
ロリっ娘大好きなお前様よ、言ってやれ。言ってやれ。ビシッと言ってやれ、サディスティックに!"僕はロリっ娘以外は性的に受け付けない"、とな。」
「僕のことをなんだと思っているんだ!」
というか、お前は500歳じゃないか。人間からしたらどっちもどっちだぞ。と、言うのはあまりにも可愛そうだからやめることにした。目の前にいる500歳の幼女は悔しさからか、まぶたには涙を浮かべ、頬を膨らまし、あと少しなにか風でも吹けば感情が爆発しそうになっていたからだ。
「もうちょっと、お前自身の思い出とかないのか?さっきから"マジ"のうんちくやら、他社メーカーの悪口ばかりで、これこそまさに企画倒れも甚だしいぞ。」
「無いの。」
「え。」 ・・・・・・・・
「だーかーら、儂自身に思い出なんてあるわけないじゃろ。あるのは、いつもお前様との思い出じゃ。お前様と儂との思い出。これこそが今回の話に相応しいんじゃないかの?」
思わず呆気に取られてしまった。企画倒れ所じゃない。企画轢きだ。トラックに乗って企画を轢きに来たぞ。
003
「思い出せ。儂と会った日のこと。お前様みたいな色んな娘に尻尾を振っている薄情者だから儂と会った日のことなんて忘れているかもしれんがの。儂はしっかりと覚えているぞ?」
「この"偽物"を愛したお前様は、1ゲーム、1ゲームなんてことない演出にそれはもう胸をときめかせて打っていたぞ。変態的にな。」
「チャンスリプレイ成立時の演出や解呪ノ儀、<化物語>解呪ノ儀、和解ノ儀。すべて写真に収めておったろう?ちと恥ずかしかったぞ。」
「設定示唆が出た時も写真を撮っていたのう。まったく、懐かしいわい。」
「……して、お前様よ。こんな倉庫にまで儂を追いかけに来て何がしたいんじゃ?ストーカーっていうのは本当に怖いのう。かかっ。」
さっきまでの幼女の顔はそこには無かった。何人もの雄を骨抜きにし、欲しいものは全て意のままに手に入れることの出来ていた吸血鬼の笑みが僕に向けられていた。
そして、僕がこんな夏の暑い日にここにきた理由、それは……
「どう?決まった?」
背後から煙草の匂いと共に男が話しかけてきた。
「この倉庫は今月末に解約しちゃうから、欲しい台があったら言ってよ。」
この倉庫は廃業したパチンコホールが行き場を無くした台達を保管していた場所なのだ。
そして、この倉庫を解約……つまり、行き場を無くした台達は、台そのものの形が残らなくなってしまう。元ある姿に、と言ってしまえば聞こえはいいが有り体に言ってしまえば産業廃棄物として処理されることになる。
この倉庫で幻覚を見た理由。うだるような暑さと埃の匂いだけではい。この倉庫にある台達の叫びが幻覚を見せていたのかもしれない。
「分かりました、では-----。」
004
後日談というか、今回のオチ。
それから1ヶ月が立った。倉庫は解約され、今は他の人が契約をしている。
あそこにあった、大量の台達がどうなったかは分からない。きっと、色んな人たちの手に渡ったことだろう。
あの時期にあそこの倉庫に来ていたものは、皆、ホールで出会って台に魅了された人達ばかりだ。
そして、僕もまたその1人であった。
「というか、設定6を打っているんだぞ。なんで5000gでボナ合算が1/150なんだのぶえもん。」
「人を藤子不二雄先生の作品みたいた呼ぶな。やはりお前様の運が相当に悪いのか、儂への愛が足りないんじゃないのかな。」
なんだと。
「ちなみに、お前様が儂で3万負けた日の設定は5じゃったぞ。お前様はあの後1人で1だ1だと騒いでおったが中々に滑稽だったわい。」
なんだと。
パチンコ・スロットは「遊偽」であって「遊戯」ではないと思っている。あの空間にいる人達は間違っている、間違っているからあそこにいる。
・・
そして、この台も、語り部をしているボクでさえも偽物だ。
だけれども、誰かが言っていた。「偽物の方が圧倒的に価値がある。そこに本物になろうという意志があるだけ、偽物の方が本物より本物だ」
ボク達は偽物が蔓延る空間で偽物同士が巡り会った。その仲で生まれた奇妙な友情こそが、ボクと彼女を繋げる絆であろう。
本物にはなれない僕達だけれども、本物には憧れとリスペクトだけはある。今ばかりはこの奇妙な縁を楽しむことにしよう。
「あ、お前様、それ1枚役の取りこぼしじゃ。本当に下手っぴじゃのう。」
いい感じに締めたんだからもう何も言うなよ!
遊物語 閉幕
7
マグさんさんの
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このコラムへのコメント(2 件)
などと思いながらも僕は一言も発さず、静かに書きこんだ。