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星が眠る夜明け前に 前編
星が眠る夜明け前に 前編
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岡井モノさん
「ダメです」「反応ありません」「完全に沈黙しました」 サーバーが不安定な時は使徒に襲われたネ○フみたいな雰囲気になる愉快な編集部です。 - 投稿日:2020/02/20 00:05
「ウチも慈善事業じゃないんだからさぁ、困っちゃうんだよねぇ」
アラキ店長が大げさにため息をついて言う。これを見てよと示された台ごとの週間稼働時間のデータと俺の顔を交互に見ながら、かれこれ一時間も小言が続いていた。原因ははっきりしている、俺が売った台が設置2週を待たずに稼働貢献せず、いわゆる客トビしてしまったからだ。
営業の自分としては自社台の評判は既に知っていたし、厳しいことを言われる覚悟もしてきたつもりだ。しかしこんな針のむしろに長時間座らされてはさすがに厳しく、愛想笑いがぎこちなくなっていくのが自分でもわかった。
「キミが画期的な疑似リール演出で注目されていますなんて言うから入れたんだよ、それともウチ以外の店じゃ大人気なのかい?」
店長のわかりやすい嫌味が続く。この人も不人気台を買ってしまったことの責任を問われているのだろう、だからこうして矛先をメーカー営業に向けているんだ。法人営業というのは長い付き合いを前提としている、今後も取引を継続してもらうために売りっぱなしは許されないし、自社へのクレームを聞くのも営業の務め、そう自分に言い聞かせて耐え続け、結局会社に戻れたのは予定を大幅にオーバーして20時を過ぎていた。
■
「またアラキ店長んトコでしぼられたのか?」
2年先輩であるリュウジさんが向かいのデスクから話しかけてきた、社内には営業資料まとめのために残業をしている自分とリュウジさんのふたりだけだ。新台が動かないとしぼられていた事を話すと、リュウジさんがキーボードを叩きながら言う。
「まぁ、営業だって人気台になって欲しいと思って売るし、細かくダメ出しされても開発したの自分じゃないしなんて思うこともあるけどさ、お客様からしたら一つのメーカーだからねぇ」
営業はお客様と一番近い位置にあるが、売りたいものだけを売ればいいわけではない。販売目標は常に上がり続けるし、人気が見込めない台もなんとか導入してもらうために毎日四苦八苦している。そして今回のようにイマイチな結果が出ると真っ先に矢面に立たされるのも営業なのだ。
はぁ、明日はホリマネージャーの店に販促品を届ける約束か、ホリさんはあまり口うるさく無い方だけど、データ至上主義の人だから何か言われるのは間違いないだろうな。
「そう落ち込むなよ、黙ってても売れまくる新台が出る可能性だってあるんだから」
リュウジさんはデスク上に鎮座するライオンのマスコットをつつきながら言った。俺はおごってもらった缶コーヒーを傾けながら、不景気な内容の報告書をまとめた。
■
「入れ替え!? しかも他社機って、どういうことですか!?」
事務所で話を進めるうちに、俺は思わず大きな声を出してしまった。対照的にホリさんは落ち着いた口調で返してくる。
「どういうこともなにも、言葉通りですよ、おたくの台をはずして他社の定番機を増やします」
今月入れたばかりの新台がもう撤去対象となり、そればかりか他社との入れ替えが決まっていた。撤去もまずいが、それ以上に他社に設置シェアをとられるのがまずい。あわてて営業カバンに手をつっこみ自社機種のカタログを探す。
一般的に人気機種をかかえる大手メーカーは設置台数も多く、中小メーカーはそれなりという設置率になっている。そしてA社機の入れ替え対象はA社機が入るという具合にホール内でのメーカーテリトリーのようなものが存在し、よほどの大ヒット機が出ない限りこのパワーバランスは変わらない。だから設置シェアの拡大は困難でありどのメーカーも課題にしているし、逆に自社シェアを減らすことは絶対にあってはならないのだ。
「いや、ちょっと待って下さいよ、確かに先日の新台はイマイチだったかもしれませんが、次回導入機種で必ず巻き返しますから、申し訳ありませんがここはなんとか……」
「私は別に怒っているわけではありませんよ、納得して導入して、データをみて、そして納得して入れ替えるんです」
「いや、次回機種でなんらかの優遇も検討させていただきますし、どうか入れ替えを弊社のノーマル機種にしていただければ」
「その次回機種が出来たら、お話を聞かせていただきます」
取り付く島もないとはこのことだろう。関係性だけで商売が成り立つほど甘い世界じゃない、正直に言えば自分が店だったとしても入れ替えを考えるだろう。導入時に人気が出なかった機種が後になって人気が出る例なんてほとんどないし、あったとしても攻略ネタが出た時や“裏返った”時くらいだ。もちろんメーカー営業の俺はそんなところには絶対に関与しないし、できない。
新台、とにかく面白い新台が出てくれ、そしたら寝る間も惜しんで売りに行ってやるのに。開いた手帳に並ぶ開発中の機種情報を確認しながら、その横に書かれている「発売日未定」の文字を恨めしく眺めた。
■
「市況を鑑みて新台を前倒しで発売する」
緊急の社内発表があった。やはり会社としても今の状況に危機感を覚えているんだ。しかし緊急の決定だったこともあってろくに情報もまわってこない、あるのはモニタに表示された急ごしらえの社外秘インフォメーションだけ。
なんでもいい、外に出せる情報を早く解禁してくれ。そう思っていると課長が資料の束を持って現れた。
「まだ仮資料だけど新台情報更新されたぞ、コレでホリマネージャーの店のシェア取り返すんだもんな、がんばってくれよォ」
激励を装ったプレッシャーがすごい。だが俺はやらなくてはいけない、いずれにせよあんなに望んだ新台という武器が出来たのだ、今動かないでどうする。
はやく、はやく確認したい。奪うようにして配布されたA4用紙を目を皿にしてチェックする。とは言っても本当に急ごしらえで用意された資料なのだろう、大きめのフォントで断片的な情報しか掲載されていなかったが、それでも俺には救世主に思えた。
なになに、少年漫画タイアップのストック機で……Cタイプ?
【星が眠る夜明け前に 後編に続く】
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岡井モノさんの
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このコラムへのコメント(10 件)
ちょ、待てよ。
ありがとうございます。次回もぜってぇみてくれよな!
演出としてはパチンコ向きの動きでしたよね、ちょっとかみ合いませんでした。
おっと、ラクダの悪口はそこまでだ。
発想は良かったんですよ、発想は……
上のリールみてエナしてたな。懐かしいなあ。後半楽しみ