■はじめてのひとり飲み

　今回は、初めて行ったBARでお漏らし――そんなネタを書いていこうと思う。
　……我ながら狂ってるような気がしなくもないが、すべて事実なんだからしょうがない。


■オムツ教への道のり

　その日は、『ドラゴンギャル 修羅の野望』で4万円勝ったこともあり、とてもいいテンションだった。
　いいテンション過ぎて、晩飯を食いに出ただけのつもりが街を徘徊したあげく気がつきゃBARに。
　なぜかひとりでBARにいた。

　ぼくももういいオッサンなんで、気の利いたBARやスナックの1つや2つ行きつけにしててもおかしくないと思うんだけど、ない。
　友達と知らない店開拓するのは大好きだけど、ひとりで気軽に行ける店、それも食事じゃなくて飲みってなったら、そりゃあ難しい。

　そこには、壁がいくつもあるよ。
　ひとりでも耐えられる空間かどうか、客層、スタッフ、そして味……これらがカッチリ噛み合わないとお気に入りにならないわけじゃん。

　だもんで、いままでは躊躇してた。

　でも、このときはなんか勢いがあったんだよね。
　雑居ビルの4Fにあるその店のドアを開けられたんだから。

　中は、店名が表すとおりアメリカンな雰囲気でさ、壁には馬の蹄鉄やドル札が飾ってあんの。

　入り口近くの席に座り、1杯目を注文。
「マスターの刺青、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなんですね。かっけー」
　と言うと、
　右に3席離れた場所にいるルックス60点くらいのキャバ嬢が、
「あー、それ知ってる！　ジョジョだぁ～」
　と返してくれた。

　一応書いておくと、レッチリはロックバンドで、ジョジョは漫画ね。
　そして、どっちもいい作品を作る。ぼくは両方大好きだ。
　
「軽く2杯くらい飲んでメシ食ったら帰ろう」
　当初はそう思ってたんだけど、やっぱね、酒は気を大きくさせるよ。

　スタッフはもちろん、周囲の客ともわりかしすぐに仲良くなれてさ、結果から言うと2時間半いた。
　長時間だよ。映画より長いよ。

　晩飯のつもりだったのに、食べ物はフィッシュ&チップスしか頼まず、酒だけガバガバ飲んでた。

　だって、自分の知らない酒って興味あるじゃない？
　しかも、プロが作ってくれるわけで、美味くないわけないんだよ。

　隣に座った、少々ふくよかな姐さんも「あたし、MIDORIを使った大人のメロンジュース」なんて小粋な注文してるの。
　
　で、すぐにゲーム機取り出してね。発売されたばっかのモンハン4やり始めた。
　スタッフに向かって、「タクヤくん(仮)も早く買おうよー」なんて言いながらさ。


　次に来た客、このひとがぼくを長居させたキーマンなんだけど、このへんの話を広げるとあまりにもとめどなくなってしまうから少しだけ。
　彼は推定55歳くらいのオジサンで、通称まめさん。

　
　ぼくがこの店に初めて来たこと、ドア開けてメニューを見せてもらってから椅子に座ったことを話すと、
「ふふん。私は扉開けた瞬間の空気で座っちゃうよ。1万円渡して、“これで飲ませてくれ”なんてね。……ま、男なんだから大きく出たほうがいいんですよ。無理してでも」
　って、粋なことを教えてくれた。
　あと、タバコの交換したね。3本ずつ。意味はわからないけど、うれしかった。

　まめさんとタクヤくん(仮)を中心に1時間くらい話したあと、トイレに行ったらあるちょっとした事実に気がついた。

　あ、今日オムツ穿いてるじゃん。


　……えーと、これはさすがに説明が必要だろう。

　ぼくは、オムツを愛してる。
　だから、日によってはオムツで外出し、“好きなタイミングでおしっこをする”。
　これはもうホント最高の瞬間。
　
　そうだね、例えば高速道路の渋滞にハマったとき。
　ほかのひとたちは我慢するしかない尿意から自分だけが解放される。
　例えば映画館で、例えば音楽フェスの会場で、いや普通に街歩いているときでもいい――この優越感ったらない。
　なにしろ尿意より優先させたいことがあるときに使うといいんだな。

　それでだ。
　この日オムツを穿いてたのはホントたまたまなんだけど、相当飲んでたぼくはトイレから戻ってから「いつオムツを披露しようか」――それがずっと頭にあった。

　別にね、見せなくていいんだよ。
　秘め事として自分の中だけに取っておいても。

　だけど、つい最近できた目標が「オムツ教の教祖になる」だからさ。
　布教活動はしなければなるまい。

　しかるべきタイミングは来た。
　流れがトイレの話になり、ぼくも参加。
　この店のウォシュレットが性能いいこと、それを伝えてからポツリと話した。

「ぼく、いまオムツしてるんですよ」

　シーンとなったね。
　店のBGMも止まった気がしたね。

　でも、さすがまめさんは食いついてきた。
「なんでなんでー？」
「……排泄の快感について考えつくしたら辿り着いたんです、ここに」
　そして、ズボンの前を開け、大人用紙オムツを見せた。

「ドッハーーーーーーー！！！ｗｗｗ」
　のけぞり返りながら、まめさんがこの日一番のリアクションを見せてくれた。

　よかった！　ウケた！

「ぼく、この店すごく気に入ったんで、ここでさせてもらっていいですか？」

　そしたら、タクヤくん(仮)が、
「一応ここは飲食店なんでちょっと……ｗ」
　つったんだけど、まめさんが
「おまえはだからダメなんだよ！　無粋なことばっか言ってさ」
　とフォロー。

「たしかにそうですね。なら、こっそりやってもらえばいいんじゃないですかｗｗｗ」

「ありがとう、タクヤくん(仮)。なにしろポリマー最高だよ！　高吸水性ポリマーーーーー！！！」

　ゲーム姐さんも、3DSLLをテーブルに置き、乗ってきた。
「オムツって履き心地どうなんですか？」

「特に違和感ないですよ。でも、女性の方は太って見えるのが気になるだろうから、その場合は、“まるで下着”っていう商品を使えばいいと思います」

「ちょｗｗｗ　なにこのひと、ホンモノ！」

「いや、ぼくなんてまだまだなんです。大の方は未体験だしｗ　でも、将来の目標は“オムツ教の教祖になる”なんですよねー」

「えｗ　教義とかあるんですかー？」

「おー、それは初めて訊かれた。そうですね、いま作りましょうか……“キモチイイを追求すること、そして広めること”。こんなとこ？ｗ」

「ｗｗｗ　ちなみに、それで何回分できるんですか？」

「2～3回って書いてますけど、そのときの量で変わりますよねー。最近思うのはどうせなら5回分のやつにしたいなって。やっぱり取り替えるの面倒だし。あと、紙パンツ専用尿取りパッドってのがあるらしく、これがあるともっとたくさんできるなーって」

「なにウケる～！ｗ　話、止まらないんだけどｗｗｗ」

「ｗｗｗ　ごめんなさい。オムツのことになるとついｗ」

　と、謝りながら“した”。
　おしっこを。
　ゲーム姐さんと合わせた目をがっちり離さずに。

　そしたらさ、さっきトイレ行ってそんな経ってないのに、ずいぶんとたくさん出たのよ。やっぱ酒飲んでるからだろうね。
　そして、ニコニコしてるまめさんにこっそり「いましましたｗ」と報告。
　まめさんも「ふふ……ププ…プププププッｗｗｗ」と噴き出すのをこらえられない模様。

　でも、ぼくは大きなミスをしていた。

　完全に漏らしてたんだよね。
　あとから分かったんだけど、オムツの向きを前後間違えてたのと、立体ギャザーを内側に巻き込んでいてぜんぜん機能してなかった。

　30cm大の染みがにじむズボン。
　立ち上がりながら、タクヤくん(仮)に
「ごめん！　おしぼり貸してー。ぼくに教祖の座はまだ早かったみたい」
　って言うと、なんだかもう慣れたのか
「もしかして漏らしたんですか？ｗｗｗ」
　と笑って、おしぼりを3本出してくれた。

　ちょうどここらが潮時でしょう、とお会計をし、タクヤくん(仮)に
「今晩はありがとうね。勇気出して来てよかった。あと、本当にごめんなさい！」
　と言いながら握手したところ、まめさんとゲーム姐さんからも求められた。
　さっきおしっこ拭いた手なんだけどな。

　いやー、いい店だったなー。
　でも、このズボンで帰るの恥ずかしいからちょっと暗がりを通ろう――その考えのせいでこの夜はまだ終わらなくなる、そのことにぼくはまだ気づいてなかった。



　次回予告。
「ドラゴンギャル 修羅の野望」(後編)――台湾ギャルとの死闘
　ある意味、こっちのが本番。お楽しみに！

出典：マスクド･モリタ「ぱちんこ帝国データバンク」（スポニチアネックス、2013年09月23日）


■後編はこちら
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