「夜道が怖くなったその代わりに」(2013→2017remix ver.)

　今回は、弱肉強食の話。ぼくは食われる側だ。
　勇敢なヒーローは出てこないし、奇跡も起こらない。


　その日、ぼくは師匠と連れ打ちをしていた。

「どこかのシマが全6あるだろう」ってことで朝から探し、『攻殻機動隊S.A.C.』で間違いないだろう、と目星をつけた。目星つけたのはもちろん師匠だよ！

　シマの後ろに立ち、ただ待つだけのお仕事がスタート。

　が、いつもと違って一向に空かない。

　しばらくして気がついた。

「軍団にほぼ占拠されている」
　これに気づいたのはもちろん師匠だよ！

　軍団以外で打っているのは、おそらく2人。

　でも、シマで待っているのもぼくら以外にいないからチャンスだとも言える。

　そして、2時間後。

　会社員風の男性がドル箱を持って立つ。

　すかさず師匠が小走りで向かう。

　しかし、すんでのところで隣の台から少量のコインが投げ込まれてしまった。

　残念～！

　師匠は、「コラムのネタになるんで、モリタさんにあの台打ってもらおうと思ってたんですが、惜しかったです」と言う。
　そう、彼は誰に対しても敬語を使う。
　まあまあ、自分で取った台なら自分で打ってよ。って、まだ取れてないんだけどね！

　仕方ないから残った1台を待つか、それともハイエナできそうな台を探すか……そう考えていたんだけど、5分くらい経ってもさっきの台がそのまんま。

「これ、掛け持ちってことにならないのかな？」

　そう師匠に訊くと、「店員に言うといいかもしれないですね」という返事が来て、早速通りかかったスタッフを呼び止める。

　その若い店員は、コインを入れた男性に声をかけ、無事回収。
　師匠が携帯を放り込み、ぼくのところへ戻ってきた。

「取れました(笑)。モリタさん、打ちますか？」

　そのとき。
　空き台へ走ってきた男が自分の携帯を置き、現金を投入した！！

　えええええええええ！？
　ちょちょちょちょっと待ってよ！
　下皿に携帯2つあるんだよ！？

　が、ニラミをきかせてきたため、師匠は自分の携帯を回収。

「トラブルは嫌いです」

　ぼくも嫌いだ。
　でも、ちょっとこれは納得いかない。
　なんせ、ぼくのために取ってくれようとした台だ。

　さっきの店員がまだそばにいたから、もう一度呼び止め、経緯を話す。

「はい……はい。ちょっと私じゃ判断できませんので、上の者を呼んでまいります」

　マネージャーがやってくる。

　もう一度同じこと言うのか……と、ちょいうんざりしながら話し始めたら、

「おまえ、なんなんだよっっ！！！！」
　とぼくに向かってかかってくる男が。

　強面ってわけでもなくいたって普通の若者。
　小っちゃな布袋寅泰って感じ。
　だが、剣幕はものすごい。

「なんで店員に言ってんだよ！　オレに話せばいいじゃねーかよぉぉぉぉぉっっっ！！！！！」

　誰ですか？　っていうか、顔が近いなー！

「こいつらまとめてるモンだよ！　これが掛け持ちになるわけねーだろ。隣のアイツが打ってるわけじゃねーんだからよぉぉぉおぉっ！　いいからオレに話してみろって！！！！」

　掛け持ちかどうかはともかくとして、そんな勢いで食ってかかるひとと怖くて話せないでしょ。どうやら仲間もいっぱいいるみたいだし。

「うるせーなーーーー！　だいたいオレの見える場所でこんなことやってんじゃねーよっっ！！！！」

　ああ、じゃあここ離れますよ。それでいいでしょ？

　ってことで、マネージャーと2人遠くのシマへ避難。
　怖いなぁ、もー。

　最初から経緯を話し、でもマネージャーは「それが掛け持ちになるかどうかは微妙なところだと思うんです」と言う。

　そこへ師匠がやって来て、理路整然と話し始めた。
　ぼくより断然わかりやすい！

　決着。

　ポイントとして、掛け持ちかどうかはともかく、一度師匠がキープした台を無理矢理取り上げたことはマナー違反。それを認めてもらった。

　マネージャーが言う。
「では、私が注意という形で話してきます。ちなみに、あの台のご遊技を希望されますか？　すでに現金を入れてしまっている以上、難しい部分もあるかもしれませんが」

　これにぼくらはきっぱりと答えた。
「怖いから結構です！　だって12台中11台が彼らの仲間なんですよ」

「あと、できれば、店の外でもトラブルを起こさないように言っておいて欲しいです。バッタリ出会ったときに言いがかりつけてきたりしないように」

「わかりました。では、結果報告についてはまた店内でお見かけしたときにさせていただきます。本日お帰りになるようでしたら後日にでも」と言って、マネージャーは『攻殻機動隊』のシマへと歩いていった。

　この件は終了ということで、さあ、回遊だ。
　今日はすでにけっこう負けているけど、こういうトラブルのあとって突然ツイたりするからね。

　ぼくは、『ゴルゴ13 -薔薇十字団の陰謀-』の420ゲームやら『北斗の拳 世紀末救世主伝説』のジャギステージやらを打ち、全部ダメ。
　師匠も高設定っぽい『北斗の拳』で単発地獄。

　なんだよ、運悪いままじゃねーか……。

　さっくり6万ヤラれ、お先にギブアップしたぼくは、一番近くのコンビニで現金のほとんどを預け入れし、帰宅の途へ。
　襲われたときの被害を最小限にしないとね。

　その晩、師匠からメール。
「閉店時、『マクロスフロンティア-はじまりの歌、銀河に響け！-』に1,250ハマリがありました。全台リセットのはずですが、万が一のことを考えて打ってみてはどうでしょうか？」

　おおー、じゃあ朝だけ行ってみようかな。

「そしたら、ぼくも『バジリスク〜甲賀忍法帖〜2』の6狙いをやってみます」

　え？　行けるんだったら自分でマクロス打てばいいじゃん。

「いえ、ご迷惑かけたんで」

　いやいや、トラブルにしたのはぼくでしょうよ。
　でも…………お言葉に甘えようかな。せっかくの厚意だ。

　翌朝。
　休日だからか、軍団と遭遇することもなく、無事マクロスを確保。
　えらく簡単に3,000枚出してしまった。


　なんだろう。
　師匠とはずいぶん古くからの付き合いだけど、今回の一件はすごくよかったなぁ。
　もちろん、そんなことを語り合ったり感謝の気持ちを改めて伝えたりはしないけどね。なんとなくさ！！

出典：マスクド･モリタ「ぱちんこ　えいりあん」（スポニチアネックス、2013年02月15日）



【マスクド･モリタ Twitter】
https://twitter.com/maskdemorita_2

5