パチスロ界における『供給過多』の始祖。悲報伝となってしまった『秘宝伝～太陽を求める者達～』のしくじり物語。

元・店長カタギリ元店長カタギリのしくじり機種～歴代パチンコパチスロ事件簿～

機械に過度な期待を抱かない、それがパチンコ業界で学んだ私の経験則に基づく教訓であります。小規模ホールでも新台を大量導入すれば数百万円、大規模チェーン店となればその桁がひとつ増えてしまう程の導入費用を投じても稼働しなければ投資は水の泡。負担はユーザーが背負うこととなり、さらなる稼働低下を招き最悪、店舗の存続にまで影響を及ぼします。

今回ご紹介する機種もまた、ホールが過剰な期待を抱いて導入してしまった典型例。看板機種として稼働してくれるであろうと多くのホールが大量導入に踏み切った結果、大多数のユーザーがついて来られずに早々に通路となってしまった事実は、私が教訓を得た出来事の中のひとつであります。では、さっそく参りましょう。

★今回のしくじり機種は『秘宝伝～太陽を求める者達～(大都)』

▲秘宝伝～太陽を求める者達～（大都技研）

本機のホールデビューは2012年12月。前年の2月に導入された『秘宝伝　～封じられた女神』の後継機。前作が純増1.4枚のマイルドなART機だったのに対して本作は純増2.8枚と尖ったスペックの疑似ボーナス搭載型AT機仕様でのリリース。一撃大量出玉の狙える激荒マシンだったのですが……。

しくじりポイント1：年末商戦に向けた大量導入からの『供給過多』

本機は圧倒的な早期の客飛びにより、機種名の秘宝伝にちなんで『悲報伝』と揶揄されていたのは当時のユーザーやホール関係者の記憶にも残っていることでしょう。

5号機屈指の『しくじり機種』となってしまった最大の理由はズバリ『圧倒的な供給過多』でございます。太陽さんの販売台数はなんとビックリ、12万8千台。数ある5号機の中でも歴代4位を記録した圧倒的な数字です。2012年当時のホール軒数が約11,700軒ですので、全国のパチンコ店1店舗あたり約11台の導入となりますね。現在のホールの状況と比較するとまだまだ景気が良かったようですね、この頃は……。

ま、ホール側も当然ながら事前に本機が大量に販売される事実を知った上で導入を決定しています。それでも強気の勝負に出たホールが圧倒的多数を占めたのは、同メーカーから前年の2月にリリースされた『秘宝伝～封じられた女神～』が好調だっただけでなく、同年10月導入の『押忍！番長2』も13万6千台の大ヒット。4号機時代の終盤にホールを支えた番長や秘宝伝に対する信頼が絶大だったため、誰もが失敗など予想さえしていなかったのです。重ねて言いますが、景気が良かったんですねえ。

で、いざフタを開けてみたらアッと言う間にオレンジ色の通路の出来上がり。機種の出来映え云々の前に、圧倒的な供給過多。数十台規模で導入したホールの光景は正に地獄絵図となっておりました。ええ、もちろん私が勤めていた店舗も新台コーナーとは思えぬ客飛びぶりでしたよ。真冬なのに汗が止まりませんでした、もちろん冷汗が。

しくじりポイント2：見た目やイメージにそぐわない爆裂仕様

では機種自体がダメだったかと言えば、そこまで悪い出来映えでは無かったように思えます。前作の『封じられた女神』はレア役を契機とした高確ゾーンからART突入を目指すゲーム性で、リアルボーナスも搭載。純増枚数も1.4枚と遊びやすい仕様で人気を博しました。

その後継機である本機も基本的な流れを継承しており、純増枚数が2.8枚となったため一撃の瞬発力もアップ。その分、初当りが重くなった印象を受けますが、実はボーナスとARTの初当り確率が約188分の1であった前作に対して、太陽さんは約186分の1とほぼ遜色無し。設定1の出玉率も前作が96.8％で太陽さんは97.5％です。そう、スペック面の問題とは考えにくいのです。

原因は高設定台と低設定台のどちらも体験した私が後述しますが、おそらくは『通常時の無理ゲー感』でしょうね。

低設定台であれば低確滞在時の消化ゲーム数が必然的に増えてしまいますが、その通常時の「何も起こりそうに無い感」がハンパ無い。これが明快な一撃フラグを搭載したGODシリーズや、中段チェリーや強スイカを引けば盛り上がってくる北斗シリーズであれば何とか耐えられるのですが、秘宝伝シリーズにはそういった「大量出玉までのイメージ」が弱い。ツボにハマれば大量出玉に繋がるにも関わらず、そこまでのイメージが湧いてこないのです。

つまり過去の秘宝伝シリーズのファンと、荒い機種を好んで遊技するユーザーの双方が、タイトルとゲーム性のアンバランスさを感じてしまったのです。内気だけど性格の良い高校生時代の女友達が、大学生になって突然ギャル化。それでいて可愛くも無いけど、実は昔より性格はさらに良くなっているのにほとんど誰も気付けていない。そんな感じでしょうか、自分でも書いていてよくわかりませんが……。

★元店長カタギリと『秘宝太陽』

時は2012年の年末、その日の私は新台の『SLOT牙狼』を打つために早朝から地元のパチスロ専門店の店頭に並んでおりました。その日の抽選番号はなんと『2番』で、シマの入り口に落とし穴でも掘られていなければ2台導入される牙狼に着席できることがほぼ確定。黄金戦士のような気分で開店時刻を今や遅しと待ち構えておりました。

唯一の不安点は牙狼の設置場所ですが、先頭の男性の後についていけば大丈夫だろうと完全に油断しておりました。

そして、いざ開店。先頭を歩く男性の背後霊のようにピッタリとついて行ったのですが、シマの奥まで駆けて行った彼が着席したのはなんとニューアイムジャグラーEX。とんだピエロ野郎じゃないですか、アンタも私も。慌てて人の群がるシマへと駆け戻ったものの、当然ながら牙狼も準新台のバイオハザード5も満員御礼。数字の2が印字された紙キレをゲットした時はウキウキだったのに、朝イチから稲垣潤一のように途方に暮れる始末。

すると景品カウンターの傍らで売れない地下アイドルみたいな表情で牙狼とバイオのシマを眺める私を見かねたのか、おそらく時間帯責任者と思われる40代後半ぐらいのねずみ男に似た主任さん（？）が私の耳元でこう囁いたのです。

「実は今日、秘宝伝がオススメですよ……」と。

店の入り口、一番目立つ場所に10台以上も導入された秘宝伝のシマに先客はゼロ。決して大きくないこのホールでの大量導入はキツいだろう。月に数回しか来ない客にまでオススメしてくるということは、なんとかして稼働を上げたいってことだよね。

ま、ここは素直に座っておくか。

結論から言うとこの日は朝から19時頃まで稼働、初当りから追加投資不要で最終的には4,000枚近い大量メダルを放出してくれた太陽さん。忘年会の約束があったため泣く泣く高設定台とおぼしき台を打ち切ることなくリリースしたのですが、私の台以外もしっかりドル箱を使用している太陽さんのシマは、その時間帯でも空き台が半数以上。牙狼の新装に合わせて太陽さんの稼働回復を目論んで平均設定をガッツリ上げて営業していたようですが、それでも厳しい稼働状況でした。何故だろう、メチャクチャ面白い台なのに……。

その理由は、後日キッパリ判明。ウキウキしながら太陽さんとの再戦に挑むため再び先日の店に足を運んでみたら、やはり昼過ぎにも関わらず先客ゼロ。データランプで履歴をチェックしても意味が無さそうだったので適当な台に座るも、前回とはまるで別挙動の不感症台でチャンス目が全く仕事をする気配ナッシング。同様に先日のねずみ男みたいな顔をした推定主任さんも仕事を放棄したかのように無表情。色々な意味でダメだこりゃ、そう思ってトボトボと帰路についたのでした。恐るべし、秘宝伝ショック！！

★まとめ～秘宝伝ショックの顛末～

稀代の大コケとなってしまった太陽さんですが、秘宝伝シリーズ自体は6号機時代となった今なお健在。とりわけレア役、特にチャンス目がそのままボーナスに直結するクレアシリーズは、ファンからの支持も厚く、何より秘宝伝らしさが感じられて個人的にも好感を持てます。

シリーズ化されたタイトルにはそれぞれ「機種のイメージ」がつきもの。ゲーム性は言うまでもなく、スペックや演出、そして筐体のルックスにまでユーザーは勝手なイメージを持っています。そのイメージを保ちつつ、どこまで新たな試みにチャレンジするのか。開発者の手腕が問われる部分ではありますが、秘宝伝シリーズには大きな失敗を経た結果として完成された領域にまで辿り着いた印象を受けますね。

とはいえ一番大事なのは適正台数の販売なのですが、ね。

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元・店長カタギリ: 代表作：しくじり店長

シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。タイトルは「しくじり店長」。パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。