温かいリスナー～ぱちスロAKB48-バラの儀式～

ラッシーパチスロワイルドサイド-脇役という生き方-

前回のあらすじ
同業者の友人・近間の紹介により、初めてソロ生配信の依頼を受けたラッシー。内容は新台『ぱちスロAKB48-バラの儀式』を打ちながらの実況配信だった。当時はパチンコ・パチスロメディアに対し猛烈な逆風が吹いており、新台を確保するのも一苦労。配信の舞台となる実戦店にはAKBバラが1台しかないため、指定台を疑われぬよう自腹実戦を避け、運営・Bさんの個人的なカネをお借りして代打ちする形となったが―――。

※前編(①)はコチラ

『それでははじめます』

ノートPCのチャット欄に赤で表示された文章は、運営が打ち込んだコメントであることを示している。それを確認し、俺はシマの外のベースにいるBさんに向かいコクコクと頷いた。ほどなくBさんの右手がスッと上がり、5・4・3…とカウントが始まる。俺は背後に置かれたカメラに向き直り、姿勢を正して深く息を吸った。

――「ぱちスロAKBバラ、新台生配信ーーー!!」

『おはよう』
『おはー』
『誰やねん？』
『誰コイツ』
『8888888888』

チラリとノートPCに目を移すと、チャット欄がどんどん更新され、メインの配信画面に薄めの弾幕が走った。

――「皆さん、おはようございます！攻略誌『H』のラッシーと申します！」

『おはよう！』
『見事に知らんヤツでワロタ』
『88888888888』
『新人かな？』
『Hとか読んだことねーわ』

どんどん更新されるチャット欄に困惑しながらも続けた。

――「さあ、今から16時までの6時間、AKBバラの配信を担当させていただきますが、ソロでの生配信は今日が初めてなので、つたない配信にはなりますが、最後までお付き合いいただけたらと思います」

『おもんない』
『マジメか(ワラ)』
『コメントおもんない』
『初体験だね』
『HならA呼んで来いや』

――「おい、辛辣すぎんか？」

『ワラ』
『いや誰やねん？』
『いま自己紹介してたよ』
『気にせんでエエよ』

――「ハハハ(笑) まあオープニングで長々喋ってもアレなんで、さっそく打ち始めますか！打ちながら改めて自己紹介などしていきましょう」

シマ外のベースをチラリと見ると、Bさんがコクコクと頷き、手で『どうぞ』とサインを出していた。俺はノートPCを膝の上に置き、1万円札を拝んでからサンドに投じた。

『拝んでてワロタ』
『台取れてよかったな』
『指定台か?』
『昨日打ったけどク〇台だった』

――「いや、今から6時間打つからク〇台言うな(笑)」

『お気の毒』
『俺は初代より好きだけどな』
『今日も負けか、可哀想に』
『カスタム誰にする？』

現代なら「同接(同時接続)」と言うのだろうか。ノートPCに表示された「来場者」は200人強。はじめてのソロ配信ゆえ、これが多いのか少ないのかさえ分からない。新台の配信としては少ないようにも感じるが……。

かくして緊張の初ソロ生配信が始まった。

話が早い。

――「それじゃ回しまーす」

膝上にノートPCを置きながら実戦するのは初めての経験だった。リール・液晶・ノートPCと忙しく視線を動かしながらの実戦は、想定していたよりずっと難しい。慣れるまでにはなかなか時間がかかりそうだ。

――「で、打ちながらコメント読んでいきますけど、この今回の新台生配信は、いつもと少し勝手が違いまして。まずは、その説明をさせていただきます」

『なに？』
『どゆこと？』
『勝手が違うって何？』

――「こちら本日おじゃましてるホールさん、AKBバラ1台しか無いんスよ」

『指定台か』
『指定台だな』
『指定台確定』
『通報した』

――「いやいや、通報すな(笑)！で、並び順入場だから、運営のBさんと早朝から並んで、1番入場で確保したわけですよ」

『で、指定台なわけだな？』
『設定知ってんだろ？』
『ライターは全員丸刈りで謝罪しろ』

――「いや何でだよ！今って微妙な時期じゃないスか？ウチの『H』でも厳しいルールが決められていて、指定台を疑われるような収録・配信はできなくなってるんスよ」

『ほう、ほんで？』
『でも…やってんだろ？』
『ライターはみんな指定台』

――「いや違うわ！落ちつけて(笑)。なので今日は運営Bさんの自腹で実戦させてもらってます。勝っても俺の手元に入らないし、負けて困るのはBさんってわけ」

『だから万券拝んでたのか』
『Bさん可哀想』
『それくらい運営会社が出せよ』
『Bさん破産させようぜ!!』

――「だから普段通りの新台配信だけど、いわゆる代打ち的な形ですね。俺も代打ちって好きじゃないけど、まあ事情が事情ですのでね。もちろんお店には確認して、代打ちOKの許可をいただいてます」

『難しい時期だからな』
『Bさんが不憫でならない』
『Bさん働いてんのに金減るのか』
『理不尽の極み』

――「いや、負ける前提で話すなや！勝つわ！」

朝イチからパチスロの生配信を見るようなリスナーだ。現在のパチンコ・パチスロ業界の事情など、説明するまでもなく知っている。そして「人のカネで生配信」は、それはそれで面白いと思いのほかリアクションが良かった。

完全アウェー。

朝イチの台確保は想定していたより簡単だった。平日ということもあり、朝の並びはサッパリ。俺とBさんはもちろん早朝から並んで先頭を確保していたが、次のお客さんが来たのは開店直前。つまり、このホールの信頼度は……推して知るべしである。

開店時にBさんの顔を見たが、もうタダ働きを覚悟したような表情だった。勝たねばならない。いや、最悪でも軽傷で済ます必要がある。

俺らライターや演者は「仕事をしてカネが減る」という事象に慣れているが、カタギの人はそうじゃない。Bさんのような技術屋にとって、それがどれほど理不尽か想像するに余りある。タダ働きになるかどうかは俺に懸かっているのだ！

――「じゃあ説明も終わったんでコメント読んでいきまーす」

『攻略誌「H」とか一人も知らねえ』
――「一人もて！ウチだってそこそこ歴史あるわ！じゃあ知ってる一人目にしてください」

『俺、攻略誌は「G」派だから、Gのライターしか知らねえ』
――「それでいいんじゃないスか？俺もG読んでるし、Mも読んでるし」

『Gのライターに仲良いヤツいないの？』
――「Gの話ばっかだな！仲良い人たくさんいるよ。雑誌が違っても横の繋がりは割とあるんスよね。近間だって元々Mのライターだし」

当時のこのチャンネルの生配信に、我が「H」のライターはほとんど出演していなかった。だから視聴者のほとんどは「G」派と「M」派ばかりだったのだろう。

――「あ、ヤベ！スイカこぼした」

『早々にこぼしてワロタ』
『しょせん「H」か』
『やっぱ「G」だな』
『あ～あ、Bさんのカネが』

――「Bさんスイマセン！気を付けます！」

やはりノートPCを見ながらのプレイはなかなか難しい。チャット欄に集中してしまうと、どうしても液晶とリールを見るのがおろそかになる。改めて気を引き締め打っていると…

――「おっ、ショートフリーズ来た！」

悪くない感触。

AKBバラはレア役成立時にショートフリーズが発生する可能性があり、発生時はボーナス期待度が一気に跳ね上がる。ショートフリーズは2段階だが、1段階目止まりでも十分チャンスだ。

成立役は強チェリーで、ショートフリーズは1段階止まり。導入直後ゆえ正確なボーナス期待度は不明だが、かなり期待できると思っていい。比較的確率の高い「じゃんけんボーナス(REG)」と異色BIGを狙いつつ連続演出を見守ると…

――「異色BIGっスね。投資は5K」

『おめ』
『やるやん』
『チッ、当りやがったか』
『指定台か？』

――「でもBIGだけ引いてもしょうがないんだよな」

※仕様については前回更新分を参照

リアルボーナス搭載のART機だ。ボーナスだけでは勝てないし、逆にARTだけでも大量出玉を獲得することは難しい。通常時からの初当りボーナスできっちりARTに入れ、ART中もきっちりボーナスを引いていく。そうして出玉を伸ばしていくのが理想形だ。

『アカン』
『ダメそうだなこれは』
『もっと〝どりょく〟しろよラッキー』

――「ラッキーじゃねえわ！ラッシーだわ」

BIG中に弱スイカを引いたものの、ART期待度を示唆する〝どりょく〟はジワジワとしか上がらない。結局〝どりょく〟は45とかなり低い状況でジャッジ演出「神判ノ刻」を迎えることに。その結果はもちろん…

『チッ、使えね～な』
『これだから「H」は』
『どりょくが足んねーんだよ』

――「おい、おまいら言いすぎだぞ」

案の定、ART「神曲ラッシュ」は非当選。

――「まあ、まだ朝イチ1回目のボーナスだから。切り替えていこう！」

『ポジティブでワロタ』
『それを言っていいのはBさんだけ』
『てめえの金じゃねーだろが』
『他人事でわろた』

一見すると辛辣そうなコメントが多いものの、本当に不快に感じるコメントは皆無と言っていい。いや、そもそも本当に不快なコメントは、運営のBさんがハジいて俺に見えないようにしている可能性もある。

いずれにせよ近間が言っていた通り、このチャンネルのリスナーにはたしかな温かみを感じる。さっきまで俺のことを知らなかった人も、大人しくこのグダグダな展開に付き合ってくれているのだ。

まだ始まってスグなので設定の有無など皆目見当もつかないが、それほど悪い配信にはならない気がする。そんな感触を得た立ち上がりだった。

良質なリスナー。

およそ1時間後――

『通常時見飽きた』
『カスタム変えようぜ』
『〝アルパカもふもふ〟じゃねえんだよ』

BIGの出玉は一瞬でノマれ、追加投資が続いている。そして現在のハマリゲーム数は700Gに達しようとしていた。チャット欄が少し荒れているのもムリはない。ずっと通常時の配信を見せられれば、そりゃ文句の1つくらい言いたくもなるだろう。

雰囲気は徐々に悪くなっている。それでもボーナス＋ART機を打っていれば、この程度のハマリは珍しい内に入らない。展開で見せられないなら、チャット欄のコメントを拾ってトークで繋ぐしかない。

『俺もう寝るわ』
――「寝る？もうすぐ正午だよ？夜勤明けかな？」

『夜勤(笑)』
『働いてるヤツが平日の朝から配信見ると思うか？』
『全員ニートだよ』
『働いたら負け』

チラリと来場者数を確認すると、500人弱にまで増えていた。

――「はは、冗談でしょ？」

『は？』
『傷ついたんだが』
『誠に遺憾』
『謝罪を要求する!!』

――「いやなんでだよ！ニートならどうやってパチスロ打つのよ？」

『親の遺産で食ってます』
『ママが働いてくれてる』

――「いやママに迷惑かけんなよ」

『笑笑笑』
『正論やめろ』
『ライターが言うか(笑)』

――「うっせえ、はよハロワ行ってこい！」

『笑笑笑』
『それを言ったら戦争だろが！』
『超えちゃいけないライン考えろ』

――「フハハハハ……」

思いのほか居心地がいい。口の悪いコメントばかりに見えるが、ネットの押し引きをしっかり理解しているリスナーばかりでとてもやりやすい。ネット上級者とでもいうべきか、冗談を冗談としっかり認識してくれている。

お陰で大きくハマってはいるものの、退屈さなど微塵も感じることなく気持ちよく打てている。が……

怪しい雲行き。

およそ30分後―――

――「はい、1000G到達でーす」

『おい、マジかよ』
『遠隔？』
『店長にボタン押すよう電話する』

――「おい、絶対やめろ！」

2度目のボーナスが引けないまま、ハマリゲーム数は遂に1,000Gに到達。それでもまだ分からないが、きっと設定はナイだろう。これで爆出しからの炎上の心配はなくなったが……

『ちょっとマイクオフします』

チャット欄に運営のカキコミを示す赤文字を見つけベースのほうに顔を向けると、Bさんが立ち上がり手招きしていた。

――「ちょっと一瞬離れます」

『いってら』
『返ってくんな』
『クビかな？』

シマ外のベースに近づくにつれ、Bさんの顔がハッキリと見えてきた。Bさんとは過去にも何度かお会いしているが、こんな顔を見るのは初めてだ。明らかに暗く沈んでいる。

――「はい、なんでしょう？」
Bさん「マジメにやってもらっていいスか？」

――「………え？」

たしかに当りシーンは見せられていないが、俺だって悪気があってハマってるわけではない。悪いとも思っている。相手はパチスロなのだ。レバーを叩く以外に現状を打破する方法などない。

――「………すみません」
Bさん「なんとか……お願いしますよ？」

――「……分かりました！頑張ります！」

たしかにBさんの身になればそうだ。俺とリスナーがキャッキャとお喋りしている間も、どんどん身銭を削られている。Bさんがどれほどパチスロ慣れしているか分からないが、総投資はすでに30Kを超えているのだ。不安になるのも無理はない。

仮にリスナーに楽しんでもらえたとしても、このままではBさんからの信用を失ってしまう。「もうアイツと仕事したくない」と思われては困る。このチャンネルで多くの番組の運営を任される人物だ。どうにか気持ちに応えねばならない！

しかし、俺は思い知らされることになる。1,000Gハマリなど、まだこの地獄の入り口にすぎなかったことを。

つづく

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ラッシー: 代表作：パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-

山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本＆DX」や「パチスロ極＆Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。