クソ台じゃないよ！ ちょっとしくじっただけ！ 元ホール店長が語る「リズムボーイズマスター(大東音響)」のしくじり物語。

皆さんはパチスロを評価する際、何を重視されるのでしょうか？

通常時の演出、ボーナスやARTの当選までの過程、ボーナスやART消化中の高揚感、ご自身の懐具合に見合った出玉性能などをそれぞれ体感した上で総合的な判断をするのが一般的ですかね？　ゆえに初打ちで大当りしなかった、とりあえず当たったけど単発で終わった、といった展開で遊技を終えた場合には「面白くなかった」としか思えず、それがご自身の評価となるのでしょうね。

そう考えるとやはりパチスロにおける最大の評価ポイントはやはり通常時の演出なのでしょう。リールの滑りやビタ止まり等を含めた停止出目、液晶や役モノの多彩な演出、リール始動時の予告音や払い出し時などの効果音など、様々な形で打ち手の期待感を上手に煽ってくるのが面白いパチスロ機の条件だと思うのです。

長きに渡るパチスロの歴史において、通常時の演出を飛躍的に向上させたのは何と言っても1997年末に導入された『サンダーV』で間違いありません。

それまでボーナスの成否を出目と告知ランプのみに頼っていたパチスロに、予告音とリールのバックライト消灯を搭載することによって、ボーナス成立までの過程をこれまで以上に楽しめるようになったのです。加えて初心者にもわかりやすく、ビジュアル面のインパクト絶大なボーナス3連図柄を初めて採用したことにより、Aタイプの面白さを格段に向上させることに成功したのです。

……ちょっと堅苦し過ぎますね。ニュースキャスターじゃないのですから。

ま、とにかく今回ご紹介するのは、そういった進化したAタイプ機種が続々と導入されていた時代、さらにはCT機の登場によりゲーム性も出玉性能も各段に向上していた状況下で導入された『不自然な連チャン』を期待されたマシンであります。大事なものを取り入れなかった、なおかつ時代にも追いつけなかった『しくじり要素』によってマイナー機の烙印を押されることとなってしまった不遇台、ご紹介いたします。
 

★今回のしくじり機種は『リズムボーイズマスター（大東音響）』

ホールデビューは1999年4月。前年に導入された知る人ぞ知る大東音響の名作『リズムボーイズ』の後継機としてデビューし注目を集めたものの、一部マニアに圧倒的な支持を得た初代と違いマイナー機のまま消えていった不遇台であります。では、いったい何が原因だったのでしょうか？
 

しくじりポイント1.そうじゃない！ 初代の魅力「リプ連」が失われた後継機

初代『リズムボーイズ』の代名詞といえばズバリ、リプ連。

リプレイの連続成立がボーナスの前兆となるイリーガルマシン特有のゲーム性がヘビーユーザーを虜にした前作に対して、後継機にあたる本機では最大の魅力であるリプ連はナッシング。前作でユーザーを魅了した要因を廃した普通の連チャン機でした。この時点で既に前作以下の評価となるのは明白です。アツい小役前兆こそ後継機ならば絶対に継承しなければならないもの。それ無くしては語れないものを廃するのは致命的でしたね。予告音も3連Vも無いサンダーVの後継機がデビューしたら、それはもう違う機種でしか無いですからねえ。
 

しくじりポイント2.リプ連が無いなら何がアツい？ ゲーム性の問題

通常時なんか関係ねえ、連チャンすれば良いだろ。そういった方々も一部にはいらっしゃったでしょうが、そういった方々でも『32ゲームバージョン』という単語を耳にしてしまうと脳や指先が震えてしまうのではないでしょうか？　

ボーナス直後のレバーONに全精力を注ぎ込んだ当時の興奮を思い出してください、ほら、今すぐにでもまた打ちたくなるような快感を身体が覚えてしまっているじゃないですか。 既にノーマル機のみならず連チャン機でも『ボーナス前後の期待感』が人気を集めていた時代の中で、小役前兆も無く連チャンゾーンも曖昧なリズムボーイズマスター。状態に突入さえすれば「いつ終わるのかわからない」ボーナスの連打が待ち受けていたものの、脳汁発生要素の乏しさは否めませんでした。

中毒性の高い告知音や明確な連チャンゾーン等のリプ連に変わる新機軸さえ搭載していれば、世紀末のパチスロシーンにおいても評価は全く違うものになっていたことでしょう。一応『GIG』と描かれたリール上部の告知ランプの『G』が点灯した場合はビッグボーナスで『I』ならレギュラーボーナスといった新要素は追加されていたものの、そんなことよりもユーザーが求めていたものはより高い中毒性。ユーザーは既に連チャンだけでは物足りず、出玉が加速していく過程を楽しめなければ『面白いパチスロ』と認めない時代へと進化していたのですから。
 

★元店長カタギリとリズムボーイズマスター

私が当時勤務していたパチスロ専門店には『ワンフロア全台リズムボーイズマスター』という常軌を逸した強制収容所のような空間があり、常人がほぼ立ち寄らないその場所を私は心の中で魔界図書館と呼んでおりました。静寂、しかしながら神聖さは皆無。

何かの間違いで吸い込まれてきたお客さんの顔面には「現在5万負け」という、嫌なメッセージがタトゥーのように浮かんでいても不思議ではない雰囲気をまとった人のみ。いわば『逆・精神と時の部屋』みたいな空間だったのです。

そんな魔界図書館の副館長だった私がある日、閉店後に何気なくデータランプをチェックしていたところ、連日そこそこの稼働があるにも関わらず常にボーナス回数ゼロの台を発見したのです。私はすぐに館長、じゃなかった店長に「○○番台、ここ数日で一回もボーナスが当たってないのは何かおかしくないですか？」と若手議員のような気分で進言したのですが、店長は「まあ、そういう台もある」とベテラン議員のような表情で返答してきたため、私は「まあ、そういう事もあるか」と深く考えるのをヤメておきました。

ところがその数日後のイベント日。私が15時頃に出勤すると例の連日ボーナスゼロ回の台は何故か電源を落とされていました。どうしたのかしらと思いながらデータランプを見るとその台、なんとゲーム数は3000ゲームにあと一歩といった状況で両ボーナス無し。慌てて事務所で石像のように固まっていた店長に「電源の落ちているリズマス、どうしたんスか？」と尋問したところ、店長はただひとことだけ「あの台、設定6だ……」と辞職を決めた国会議員のような表情で呟いたため、私は再び深く考えるのをヤメました。

同メーカーの台ではごく稀にボーナスに当選しない不具合が起こる、その事実を耳にしていたので念のため店長に進言していてはいたものの、まさか本当に自店の台で目の当たりにするとは。この事件以降、魔界図書館に陳列されていたリズマス達はひとシマ、またひとシマと姿を消し、魔界図書館は国会図書館の空気感へと変貌していったのです。ま、設置機種が変わってもやや客層に変化が見られただけでした、というお話です。
 

★まとめ～時代遅れと呼ばれても～

高い出玉性能を有しつつも、前作の良さが失われた時代遅れのゲーム性で世に放たれたリズムボーイズマスター。本機が導入された半年後に先代の『リズムボーイズ』が不正改造機として摘発され、翌年に検定取り消し処分が下されたためホールから姿を消してしまいましたが、リズムボーイズマスターに関しては騒動後もしばらくはホールで遊技可能な状況が続いておりました。

しかしながら時は既に21世紀に突入しノーマル機ではCT機のみならず大量獲得機やストック機、そして狂乱のAT機時代の幕が開きました。イリーガルマシンも前述の通り小役前兆モノや沖スロの32ゲームバージョン等が人気を博し、いよいよリズムボーイズマスターの存在理由が希薄になってしまっていたのです。

それでも全国各地に存在していたであろう『リズマス』の中には先代と同様に元気な姿を長きに渡って維持していたホールさんもあるのかも知れません。私の中では亡き先代の後にも必死に名を残そうとした昔気質の健気な弟分として、今でも心に残るいじらしい『しくじり機種』なのであります。