しくじり店長・第48話『これが本当のクリエーター7』

元・店長カタギリ元・ホール店長カタギリのしくじり店長

平成19年・春。

引っ掻かれたら顔が3秒以内に紫色になってしまいそうな、鋭い爪が目印の毒ギャル。「アンタ、焼きソバの食べ過ぎだよ！」とツッコミたくなる、ソース色の顔をした金髪男。七三分けとツーブロックのコラボヘアーがシャレオツな、IT企業の役員気取りといった感じのアゴヒゲ兄貴。華々しく走り抜けた人生にブレーキをかけて、慣性の中で余生を送っている花柄服の婆さん。

緩やかな道玄坂の勾配に抗うかのように、従わざるを得ないかのように、悲喜こもごもの人生が行き交う。輝かしい日々を浪費する、数多の若者が集う渋谷の街。

文字通りの谷間に帰ってきた私は今日もまた、下着ドロボーの罪で連行される犯人のような気分で、曇天の空の下を這う。何を食べても同じ味がするから、細長い飴色のパンばかりを齧りながら。毎日、付き合っているこの坂道とは対照的に、心は実に平坦だった。

『職務内容：パチンコ店のイベント企画・立案　　勤務地：渋谷』

カンチャンズッポシ、大穴的中、待っていたぞケンシロウ。ハローワークのパソコンの画面に表示された求人を見た瞬間、一気に高まる私の尿意。私のようなドリーム工場長が探していた仕事は、まさにコレだったと街頭演説したくなるような、理想的な内容じゃありませんか。さっそく履歴書と職務経歴書、そして大きな期待を鞄に詰めて近代的なビルに乗り込み、アルプスの少女のように陽気な笑顔を浮かべながら面接に挑んだ結果、無事に入社が確定。

販社の面接でズブ濡れのハムスターみたいに震えていた過去に、さようなら。ついでにハローワークの、関脇系熟女よ、さようなら。カタギリさん、半年ぶりのノージョブ生活卒業、おめでとう、おめでとう、おめでとう！！（六畳一間のアパートにて、カステラと缶チューハイでセルフ入社祝い）

それにしても、イベント企画という名前の格好良さはたまりませんね。

「え？　俺の仕事？　アミューズメント関係のイベントクリエーター、って言えばわかる？　」

間違いなく言っちゃいますね！合コンに参加している7人の毒ギャルを前にして、クリエーター発言しちゃいますね！これがホントのクリエーター７、とか言っちゃいますね！このギャグで苦笑いした人は、残念ながらもう若くないと自覚したほうがいいですけど！もしかしたらハイパーパチンコメディアクリエーターとして、若手の演技派女優と交際しちゃうかもね！楽しそうな仕事だな、パチンコ店のイベント企画！！

……そんなことを考えていた時代も、確かにありました。

本当の仕事内容は、ホールのチラシ作り。パチンコ店から送られてくる発注書を元に、担当者と電話で打ち合わせ。その具体的な内容をデザイナーに説明して、チラシやポスターの作成に携わるのが私の仕事でした。ホール関係者との電話のやりとりは、だいたいこんな感じです。

発注書のラフに従って作成した画像データを、メールで店舗に送信
↓
直後に電話して「とりあえず、左下のキャラはもうちょい大きくして」といった感じの修正依頼を受ける
↓
修正したデータを送って、再度連絡（ここまで、平均3～4時間）
↓
「う～ん、これだとデカ過ぎ。あと、新台入替の文字の赤は、もうちょっと濃い色で」
↓
露骨に嫌な顔をするデザイナーに再度修正の依頼をして、さらに数時間後にホールへ連絡
↓
「ああ、やっぱり最初のデザインがいいわ。全部、元のヤツに戻しちゃって」

こんなやりとりだけで、1日の大半を過ごします。さらにホールの担当者には、いろいろなタイプがいらっしゃる訳で。スグに怒鳴り散らす荒くれタイプ、何を言っているのかよく聞き取れないウィスパーボイスタイプ、指示内容がコロコロと変わるきまぐれオレンジ☆ロードタイプ、ほとんど電話に出ないはぐれメタルタイプ等々。特に一番厄介なのが最後者のホール担当で、その方の出社時刻はなんと、午前2時。つまり、その時間からチラシの修正作業がはじまるのです。見た目はオッサンだけどズブの素人かつ、ド新人ですからね、私……。

1日平均16時間勤務、週に1度でも家に帰れればラッキーという日々。慣れない仕事に悪戦苦闘しているうちに、連日の頭痛と顔面の痙攣が治まらなくなってしまいまして、午前0時過ぎに体調不良のため仮眠室で横になっていた私の脇腹に、年下の同僚のサッカーボールキックが炸裂したところでギブアップ。

「スミマセン、もう無理です、スミマセンスミマセン……」

アンタを取るのに幾らカネがかかったと思うの、と憤る上司を目の前にしても、何に対して、誰に対して謝罪しているのか、頭で理解できない。ドラマ『スクール☆ウォーズ』における滝沢先生のように号泣してしまっているのに、その涙が溢れる理由が悔しさなのか、惨めさなのか、情けなさなのかも、同じように全くわからない。振り返って考えるとそれは、仕事に対する肉体の拒絶反応だったのかも知れない。

退職を口にした徹夜明けの朝、地下鉄のホームに立ちつくす、しくじりクリエーター。手荷物を投げ出す感覚で、ここから身を投げてしまったら楽になれるかなあ。JR渋谷駅の西口を出て左手にある、国道246号線に架かる巨大な歩道橋。この場所から、引き裂いた学生証を紙吹雪にして舞い上がらせたのが14年前。パチンコのプロになるんです、そう宣言して中退した専門学校が建っていた、かつての憧れの街。羽根なんて無いけど、この場所なら飛べる気がするなあ。

「なに言ってんだよ、そんな勇気も無いくせによう……」

車輪とレールの軋む音。飛び散った火花と、焦げた鉄の匂い。鼻孔に飛び込む埃。視界を掠めた生温かい風の痕。耳元で誰かが囁いて、引き戻された現実では、日常の感覚が戻っていた。

期間にして、わずか4ヶ月。数年にも感じた苦役のような日々で気付かされたのは、人が皆、愛する者の傍に立っていたいと願うように、私もまた愛しているパチンコ業界へ戻って、パチンコを愛している人々の姿を見つめていたいという、現場への強い欲求だった。

「やっぱりパチンコ屋に戻ろう、手作りブーメランのように……」

こうして私は結局、再びパチンコ店の店員としての道を選択する。逃げ出せば、逃げ出すほど、理想からは遠ざかってしまう。それでも見苦しくとも、たとえ見捨てられようとも、また昔みたいに孤独の闇の中で溺れないように、必死でもがき続けるしか無いのである。

カタギリ・今週の1枚

最近はパチスロが絶不調なので、甘デジをメインで打っております。

写真は甘ガルパンの大当り確定リーチ、戦車道全国大会2回戦。あんなに張り切っていたのにパッタリ倒れるチョビが可愛いですね。

……あ、結果は潜伏＆規定回数抜け単発終了でした。

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この記事へのコメント（6 件）

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/07/28; トリオレの三男さま。

手作りなので上手く戻ってくるかどうかは別問題なのです（笑）。

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/07/28; あっきさま。

結局、それしかできないことに気づかされたからですな！

ちなみにアメブロはサボっています（笑）！

元・店長カタギリ: 投稿日：2017/07/28; 久兵衛さま。

こういうところにツッコんでもらえるのが、実は嬉しいお年頃であります（笑）！

トリオレの三男: 投稿日：2017/07/12; ブーメラン…西城秀樹ですね！
戻ってきてよかった(´；ω；`)

あっき: 投稿日：2017/07/12; カタギリさん、こんにちは。
かなり、きつい仕事ですな。
最後はパチンコ屋に戻るのですな。
でも、色々な事に挑戦していても最後は一番慣れている仕事に戻りますよね。

あ！そういえば、アメブロ更新してますか？

久兵衛: 投稿日：2017/07/12; ＞きまぐれオレンジ☆ロードタイプ

つまり青春野郎ってことですな！

元・店長カタギリ: 代表作：しくじり店長

シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。タイトルは「しくじり店長」。パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。