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【パチスロライトノベル】サクラのつもりが本物になりました
【パチスロライトノベル】サクラのつもりが本物になりました

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たまごさん
- 投稿日:2025/03/15 00:42
あらすじ
大学生の千葉アヤメは就活に失敗し、生活費のためのアルバイトを探していた。様々な面接に落ち続ける中、高時給にひかれてパチスロ店「メガレオパード虎ノ門店」の面接を受けることになる。
しかし店長の鷹野からの提案は予想外のものだった。来店演者として「サクラ」として働かないかというもの。高時給に惹かれたアヤメは、「勝っている姿を見せるだけ」という仕事を引き受けることにする。
最初は演技だったアヤメのプレイだが、持ち前の観察力と勘の良さで、本当に勝てるようになっていく。店内では「勝ち姫」として常連客から注目を集めるようになり、アヤメ自身も「演技」と「本心」の境界が曖昧になっていく。
そんな中、同じ店で働く謎めいた男性スタッフ・高杉レンと親しくなるが、彼は「サクラ行為」に疑問を持っていることをアヤメに告げる。
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第1章 サクラのオファー
「……はぁ」
千葉アヤメは溜息をつきながら、スマホの就活アプリを眺めていた。三月も終わりに近づき、春の訪れとともに新年度が始まろうとしていた。しかし、大学4年生になろうとしている彼女の就職活動は芳しくなかった。
「もう30社は落ちたかな…」
カフェのテーブルに広げられた履歴書と、何度も書き直したエントリーシートの束。アヤメは肩を落とし、隣に置いたコーヒーに口をつけた。苦みが広がる。就活の現実と同じように。
「このままじゃヤバい。とりあえずバイトでもしないと…」
生活費が底をついていた。実家から仕送りはあるものの、東京での一人暮らしはとにかく金がかかる。アルバイト情報を探していると、目に飛び込んできたのは「時給1,500円〜 接客経験不問」という破格の条件。
「メガレオパード虎ノ門店…パチスロ屋さん?」
興味半分で応募したアヤメは、翌日には面接の連絡を受けていた。
メガレオパード虎ノ門店の外観は、派手な電飾と豪華な装飾が特徴的だった。モダンなデザインの建物は周囲のオフィスビルと比べても遜色なく、むしろ存在感があった。
「失礼します」
アヤメが店の事務所を訪れると、小太りで愛想のよさそうな中年男性が迎えてくれた。
「やぁ、千葉さん。鷹野です。店長やってます。今日はわざわざ来てくれてありがとう」
鷹野シゲルと名乗る男性は、笑顔でアヤメを応接ソファに案内した。
「いえ、こちらこそ面接の機会をいただき、ありがとうございます」
アヤメは緊張しながらも笑顔を作る。一般的な質疑応答が終わり、店長の鷹野は咳払いをした。
「千葉さん、実はね。今回うちが募集してるのは、ちょっと特殊なポジションなんだ」
「特殊、ですか?」
「そう。表向きはスタッフとして雇用するけど、実際には…」鷹野は少し声を落とし、「来店演者になってほしいんだ」
「来店…演者?」
「わかりやすく言えば、サクラさ」鷹野は笑いながら言った。「うちの店で遊技してる姿を見せてほしいんだ。もちろん、給料は約束通り。時給1,500円。軍資金はこちらが出す。ただし、負けてもいいけど勝った分は半分こちらの分。残りは持っていっていいよ。」
アヤメは目を丸くした。サクラ?それは詐欺じゃないのか?しかし鷹野は落ち着いた様子で続けた。
「別に不正はないよ。単に店の活気を出すために、若くて可愛い女性に遊技してもらうだけ。千葉さんみたいな子がキラキラした目で遊んでるのを見れば、お客さんも楽しくなるだろ?」
アヤメは頭を整理した。要するに、パチスロをプレイする姿を見せるだけで時給1,500円。さらに勝てば、その分も自分のものになる。
「でも私、パチスロとかほとんどやったことなくて…」
「大丈夫、教えるよ。基本的には『勝ってる姿』を見せてほしいんだ。最初は演技でもいい。でも、ここだけの話、コツさえ掴めば本当に勝てるようになるかもしれないね」
鷹野の言葉に、アヤメは悩んだ。モラル的にどうかと思いつつも、高時給の誘惑は強かった。
「考えておきます…」
「そう。焦らなくていいよ。でも、千葉さんなら向いてると思うな」鷹野は名刺を差し出した。「何か質問があったら、いつでも連絡して」
その夜、アパートに戻ったアヤメは長い間考え込んだ。就活は思うように進まず、生活費は減る一方。友人たちは次々と内定を獲得していく中、彼女だけが取り残されている感覚。
「……やってみよう」
次の日、アヤメは鷹野に電話をかけた。
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第2章 サクラデビュー
「まずは基本的な台の仕組みから教えるね」
入店してから三日目。メガレオパード虎ノ門店の休憩室で、鷹野はアヤメにパチスロの仕組みを丁寧に説明していた。
「要するに、目押しと呼ばれる技術と、台の特性を理解することが大事なんだ」
アヤメはメモを取りながら真剣に聞き入った。
「でもね、千葉さん。最初から勝てなくていいんだよ。むしろ、負けてる時の表情も大事なんだ。『あーもう!』って感じで悔しがったり、『今日は絶対勝つ!』って意気込んでる姿も、お客さんは好きなんだ」
「演技ってことですね」
「そう。でも、あまりオーバーにやると逆効果。自然に振る舞うのがコツだよ」
その日の夜、アヤメは自宅でパチスロの勉強をした。YouTube動画で基本操作を学び、人気機種の特徴を覚えていく。
「意外と奥が深いんだな…」
翌日。いよいよアヤメのサクラデビューの日だった。
「ドキドキするな…」
「今日はAブロックの奥のエリアで。目立たず、でも人通りはある位置ね」
出勤前、LINEで鷹野から説明を受けたアヤメは、指示通りのエリアに向かった。店内は既に多くの客で賑わっていた。平日の昼間にも関わらず、サラリーマン風の男性や主婦らしき女性たちが熱心に台と向き合っている。
アヤメは緊張しながらもAブロックへと進み、比較的空いている台を見つけると、おそるおそるその台に腰掛けた。離れた位置から鷹野が巡回しているのが見えたが、彼は客との会話に夢中な様子で、アヤメには目もくれない。そう、これが「サクラ」の基本。店員との特別な関係を周囲に悟られてはならないのだ。
初日はあっという間に過ぎた。結果は3,000円の負け。しかし時給だけで7,500円の収入になる。
「どうだった?」
仕事を終え、帰り際に鷹野からLINEが来た。
「緊張しましたけど、なんとかできました」
「うん、良かったよ。自然な感じで遊べてた。これからは徐々に技術も身につけていこう」
その言葉通り、アヤメは日を追うごとにパチスロの腕を上げていった。来る前に指定された台を打つ。最初は試行錯誤しながら打っていたが、持ち前のセンスの良さを活かし色目押しはすぐにできるようになっていた。
一週間後、アヤメは初めて大きく勝った。
「え?これ、本当に私が勝ったの?」
画面には「獲得枚数: 1252枚」の文字。換算すると約25,000円の交換、18,000円の勝利だった。勝ち分の半分が取り分なので、9,000円と時給ぶんの利益だ。
「おめでとう!」鷹野からLINEが来ていた。「やっぱり千葉さん、センスあるよ」
「いえ、たまたまだと思います…」
アヤメは謙遜しながらも、内心では嬉しさが広がっていた。演技のつもりが、本当に勝ててしまった喜び。それに加え、周囲のお客さんから「すごいね」「教えてよ」と声をかけられる経験は、就活で傷ついた自尊心を少しだけ癒やしてくれた。
その日から、アヤメは店内で徐々に注目される存在になっていった。
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第3章 勝ち姫の誕生
「また勝ってる…あの子、最近よく見るよね」 「勝ち姫って呼ばれてるって」
入店して一ヶ月が経った頃、アヤメは常連客の間で「勝ち姫」というあだ名で知られるようになっていた。彼女の周りには常に人だかりができ、彼女がどの台に座るかを注目する客も増えていた。
「千葉さん、すごいじゃないか」
ある日、鷹野から嬉しそうにLINEが来た。
「いえ、まだまだです…」
「謙遜する必要はないよ。最初はサクラのつもりだったけど、今の千葉さんは本物だ。お客さんの人気も凄いしね」
アヤメは複雑な表情を浮かべた。確かに最近は勝つことが多く、月の収入は時給と取り分で40万円近くになることもあった。しかし、「サクラ」という肩書きがあることに引っかかりを感じていた。
「サクラじゃなくて、普通のお客さんとして遊べないですか?」
「え?」鷹野は驚いた表情を見せた。
「だって今の私、サクラじゃなくても勝てるし…」
鷹野は少し考え込み、「そうだな…今の千葉さんなら、確かにサクラという形式にこだわる必要はないかもしれない。でもそれはかなり大変だ」
その会話の後、アヤメは自分の立場について考えるようになった。サクラとして始めたが、今の自分はどこからサクラで、どこから本当の自分なのか。境界線が曖昧になっていた。
「あの、千葉さんですよね?」
ある日、プレイ中のアヤメに、一人の男性客が声をかけてきた。二十代後半くらい、爽やかな雰囲気の青年だった。
「はい…」
「松岡タクミです。実は前にここで働いていて…千葉さんのプレイをいつも見てました」
「あ、ありがとうございます」
アヤメは少し警戒しながらも、礼儀正しく応えた。
「差し支えなければ、今度コーヒーでも一緒にどうですか?」
唐突な誘いに、アヤメは戸惑った。しかし、松岡の誠実そうな雰囲気に、少し心が動いた。
「…考えておきます」
その後も松岡は定期的に声をかけてくるようになり、次第にアヤメも彼の存在に慣れていった。元店員という彼は、パチスロの知識も豊富で、アヤメに色々なアドバイスをくれた。
「松岡さんって、なんで店員辞めたんですか?」
ようやく誘いに応じてコーヒーを飲みに行った日、アヤメは気になっていたことを尋ねた。
「それは…」松岡は少し表情を曇らせた。「店の方針に疑問を感じたからです」
「方針?」
「サクラを使うとか、そういうことですね」
アヤメの胸がギュッと締め付けられた。松岡は彼女の反応に気づいたのか、慌てて付け加えた。
「千葉さんのことを言っているわけじゃないんです。でも、パチスロって本来はフェアであるべきだと思うんです。お店側も客側も」
その言葉に、アヤメは自分の立場をより深く考えるようになった。
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第4章 高杉レンとの出会い
「一度、話しておきたいことがある」
アヤメは鷹野から一言受け、居酒屋で顔を合わせることになった。
「新人さん?」
鷹野がもう一人連れてきたのはスマートな体型に、知的な雰囲気を漂わせる三十代前半くらいの男性。
「あ、高杉です。今日から入りました」
「千葉アヤメです。よろしくお願いします」
高杉レンと名乗るその男性は、アヤメに軽くお辞儀をした。彼の物腰は丁寧で、パチスロ店の従業員というよりも、どこかのオフィスワーカーのような印象だった。
「千葉さんは来店のサクラですよね」
その直球の質問に、アヤメは一瞬言葉に詰まった。
「…はい」
「すごいですね。評判聞いてます」高杉は微笑んだ。「勝ち姫って呼ばれてるとか」
何か引っかかる感覚がある。アヤメは警戒心を抱きつつも、会話を続けた。
「そんな大げさな…」
「謙遜する必要はないですよ。実力で勝ってるなら、堂々としていいじゃないですか」
高杉のその言葉には、どこか試すような響きがあった。
それから、高杉は時々アヤメに話しかけてくるようになった。彼はホールスタッフとして働きながらも、客の動向や台の設定を鋭く観察している様子だった。それから再び鷹野と居酒屋で飲むことになり、高杉も来ていた。
「高杉さん、前はどこで働いてたんですか?」
ある日、アヤメは勇気を出して尋ねた。
「いろんなところですね」高杉はあいまいに答えた。「でも、パチンコ業界は長いです。いろんな店を見てきました」
「へえ…」
「千葉さんは、本当にこの仕事が好きですか?」
突然の質問に、アヤメは考え込んだ。最初は生活のためだったが、今は…
「わからないです。でも、勝てるのは嬉しいです」
「それは素直でいいですね」高杉は満足そうに頷いた。「実は僕、サクラという制度にはあまり賛成できないんです」
「え?」
「でも、千葉さんみたいに本当に実力で勝てる人なら、別にサクラじゃなくてもいいと思うんです。むしろ、そういう正直な姿を見せた方がお客さんも納得するでしょう」
アヤメは高杉の言葉に心を揺さぶられた。彼女自身も、最近は同じことを考えていたからだ。
「そうですよね…」
「いつか、この業界も変わらないといけないと思うんです。もっと透明で、お客さんとフェアな関係を築く方向に」
高杉の言葉には情熱があり、アヤメは彼の考え方に共感を覚えた。
次第に、アヤメは高杉と鷹野の間にある緊張関係にも気づくようになった。二人は表面上は穏やかに接しているが、時折鋭い視線を交わすことがあった。
「高杉さんと店長って、何か…」
アヤメが松岡にそんな疑問をこぼすと、彼は少し表情を引き締めた。
「高杉レンか…あの人、本当にただの従業員なのかな」
「どういう意味ですか?」
「いや、何でもない」松岡は話題を変えた。「それより、千葉さんは最近どう?勝ててる?」
アヤメは不思議に思いながらも、会話を続けた。しかし、高杉の正体について、彼女の中で疑問が膨らみ始めていた。
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第5章 炎上
ある平日の朝、アヤメのスマホが通知音を鳴らし続けた。
「何だろう…」
半眼で画面を見ると、LINEやTwitterからの連絡が殺到していた。まだ眠い目をこすりながら、彼女は大学の友人からのメッセージを開いた。
『アヤメ、大丈夫?このツイート見た?』
添付されたリンクを開くと、そこには彼女がメガレオパードでパチスロをしている写真と共に、衝撃的な内容が書かれていた。
『メガレオパード虎ノ門店は「サクラ」を使っています。この女性は店に雇われた「来店演者」で、わざと勝っているように見せかけています。みんな騙されないで!#パチスロ詐欺 #サクラ告発』
投稿は既に数千のリツイートを獲得し、コメント欄には「マジかよ」「騙された」「こんな可愛い子がサクラだったなんて」といった反応が溢れていた。
「うそ…」
アヤメは血の気が引くのを感じた。確かに彼女はサクラとして雇われたが、今は本当に自分の実力で勝っている。しかし、その複雑な状況をSNS上で説明することはできない。
慌ててアヤメは鷹野に電話した。
「店長!大変です!私のことがTwitterで…」
「ああ、見た」鷹野の声は重かった。「すぐに店に来てくれないか。対応を考えたい」
急いで店に向かうと、いつもは明るい鷹野の表情が暗く沈んでいた。事務所には高杉の姿もあった。
「投稿したのは佐伯ミユキという女性客だ」鷹野が説明した。「彼女、千葉さんの隣で大負けした後から、店に不満を持っていたみたいだ」
「でも、なぜ私のことを…」
「嫉妬じゃないかな」高杉が冷静に分析した。「若くて可愛い女性が連勝してるのを見て、それを認められなかった。だから『サクラだ』と決めつけた」
「どうすればいいですか…」アヤメの声は震えていた。
「とりあえず、千葉さんは今日は休みにしよう」鷹野が言った。「店としても対応を検討する。法的措置も含めてね」
店を出たアヤメは、足取り重く帰路についた。スマホには友人からの心配メッセージが届き続けていた。大学でも噂になっているらしい。
「アヤメ、本当なの?」 「パチスロ屋でバイトしてたの知らなかった」 「サクラって…詐欺じゃない?」
返信する言葉が見つからなかった。部屋に戻ったアヤメは、ベッドに倒れ込みそのまま涙を流した。
その夜、松岡から電話がかかってきた。
「千葉さん、大丈夫?」
「松岡さん…」アヤメは涙声で応えた。「私、どうすればいいか分からなくて…」
「落ち着いて。あの投稿、事実誤認がたくさんあるよ。千葉さんは最初はサクラだったかもしれないけど、今は本当に自分の実力で勝ってる。それに、そもそも『サクラ』という概念自体が誤解されてる」
松岡の冷静な分析に、アヤメは少し心を落ち着かせた。
「でも、みんな私のこと信じないと思う…」
「じゃあ、証明すればいいんだ」松岡の声に力が入った。「佐伯さんの言ってることが間違いだって」
「どうやって…?」
「それは…考えがある」
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第6章 真実の追求
「ライブ配信?」
松岡の提案に、アヤメは驚いた顔をした。彼らは喫茶店で対面していた。
「そう。千葉さんが本当に実力で勝てることを、生配信で証明するんだ。しかも、メガレオパードじゃなく、別の店で」
「でも…」
「もう一つ重要なことがある」松岡は声を低くした。「高杉レンのこと、気になってたでしょ?彼、実はフリーのジャーナリストなんだ」
「え?」
「パチンコ業界の闇を追ってるんだよ。サクラの実態とか、換金の問題とか。『週間マガジンX』っていう雑誌の連載のために、潜入取材してるんだと思う」
アヤメは衝撃を受けた。高杉の不思議な雰囲気や鋭い観察眼、そして鷹野との微妙な関係が一気に腑に落ちた。
「じゃあ私は…取材対象?」
「多分ね。でも、彼も千葉さんの実力は認めてると思う。だからこそ、この機会に本当のことを明らかにするべきじゃないかな」
アヤメは考え込んだ。自分が「サクラ」として始めたこと、しかし今は本当に実力で勝っていること、そして高杉の存在…すべてが複雑に絡み合っていた。
「わかりました。やってみます」
その日の夕方、アヤメは鷹野に電話をした。状況を説明し、一時的に仕事を休むことを伝えた。
「そうか…」鷹野の声は複雑な感情を含んでいた。「確かに、今のままじゃ千葉さんも店も傷つくばかりだ。少し時間をおくのも一つの手だな」
電話を切った後、アヤメはさらに決意を固めた。この騒動を、自分の力で解決したい。
三日後、アヤメと松岡は都内の別のパチスロ店に向かった。今日は、彼女が初めてライブ配信に挑戦する日だった。
「緊張する…」
「大丈夫、ありのままの千葉さんを見せればいい」
松岡の励ましを受け、アヤメはスマホを三脚に固定した。事前に告知したTwitterアカウントには、すでに数百人のフォロワーが集まっていた。佐伯の投稿をきっかけに、彼女の名前は一気に拡散されていたのだ。
「こんにちは、千葉アヤメです」
彼女は勇気を振り絞って配信を開始した。最初は緊張で声が震えたが、徐々に落ち着いてきた。
「先日、私がパチスロ店のサクラだという投稿が拡散されました。確かに私は最初、メガレオパード虎ノ門店でパチスロデビューをしました。それは事実です」
アヤメは包み隠さず話した。
「でも、私は今、本当に自分の実力で勝負しています。今日はそれを証明するために、まったく関係のないこの店で遊びます。私が本当に勝てるのか、負けるのか…すべてリアルタイムでお見せします」
コメント欄には様々な反応が流れた。応援の声もあれば、疑いの目を向ける声もあった。
「それでは始めます」
アヤメは深呼吸し、プレイを開始した。彼女の説明は丁寧で、なぜこの台を選んだのか、どういう戦略でプレイするのかを解説しながら進めていく。
最初は凡庸な展開だったが、一時間ほど経ったところで、アヤメの勘が冴え始めた。彼女の読みどおりに、台は大きく爆発。視聴者数は徐々に増え、2,000人を超えた。
「すごい…本当に勝ってる」 「これは演技じゃないわ」 「解説も的確だし、技術あるよね」
コメント欄の反応が次第に好意的なものに変わっていく。アヤメは3時間のプレイで、約6万円のプラスで終えた。
「今日はここまでにします。見てくださった皆さん、ありがとうございました」
配信を終えた後、アヤメは安堵のため息をついた。
「うまくいったね」松岡が笑顔で言った。
「はい…でも、まだこれが終わりじゃないですよね」
帰り道、アヤメのスマホに高杉からメッセージが届いた。
『素晴らしい配信でした。明日、話があります。前に会った居酒屋で』
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第7章 真相と決断
翌日、アヤメはいつもの居酒屋に行くと、高杉が一人で待っていた。
「来てくれてありがとう」
高杉の表情はいつもより柔らかく、どこか安心感があった。
「松岡さんから聞きました。あなたはジャーナリストなんですよね」
高杉は小さくうなずいた。
「そう。でも、伝えておきたいことがある。私は最初、この店のサクラ行為を暴くつもりでやって来た。だが、千葉さんを観察するうちに、興味深いことに気づいたんだ」
「興味深いこと?」
「君は『サクラ』として始めたけれど、今は本物のプレイヤーになっている。そこに、この業界の希望を見たんだ」
高杉はコーヒーを一口飲み、続けた。
「パチンコ業界は長年、様々な批判を受けてきた。射幸性が高すぎる、依存症を生み出す、胴元が儲かるだけ…。批判の多くは正しい。だからこそ、業界は変わるべきだと思っている」
アヤメは黙って聞いていた。
「でも千葉さん、君のような存在は貴重だ。純粋に技術を磨き、楽しみ、そして勝つ。これこそパチスロの本来の姿じゃないだろうか」
「私は…最初は演技だったけど」アヤメは小声で言った。
「そう、最初は。でも今は違う」高杉は真剣な眼差しで言った。「昨日の配信を見たよ。あれは演技ではない。君は本物だ」
アヤメは複雑な思いで口を開いた。
「でも、私はずっと嘘をついていたようなものです。サクラとして雇われて…」
「そこが重要なポイントなんだ」高杉は身を乗り出した。「僕が書こうとしている記事は『サクラ批判』ではない。『パチスロ業界の新しい可能性』についてだ。千葉さんのような存在が、この業界をもっと健全な方向に変えられるかもしれないと思ってる」
アヤメは驚いた。自分がそんな存在だとは思っていなかった。
「でも、一つ聞いておきたいことがある」高杉は声を落とした。「君はこれからどうしたい?このままメガレオパードでサクラとして働き続けるのか、それとも…」
アヤメは窓の外を見つめながら考えた。炎上、高杉の正体、松岡のサポート、そして自分の心の変化。様々なことが頭の中を駆け巡る。
「私は…」
その時、鷹野が現れた。
「お、千葉さん、来てたんだ」
鷹野は少し疲れた表情だったが、アヤメを見ると笑顔を見せた。
「高杉さんから聞いたよ。君が勇気を出して配信したこと。すごいじゃないか」
アヤメは驚いた顔で高杉を見た。高杉はうなずき返した。
「店長、実は高杉さんは…」
「ああ、知ってるよ」鷹野は椅子に座った。「ジャーナリストだろ?最初から気づいてた」
今度は高杉が驚いた様子を見せた。
「なぜ?」
「この業界にいると、そういう人を見分ける勘が働くようになるんだ」鷹野は苦笑した。「それに、履歴書の経歴があまりにも完璧すぎた。でもあえて黙っていたよ。我々にも言い分があると思ったからね」
三人は沈黙した後、鷹野が口を開いた。
「千葉さん、正直に言うよ。君をサクラとして雇ったことは間違いじゃなかったと今でも思ってる。でも、君が本当に実力をつけていく姿を見て、考えさせられた。我々の商売のあり方についてね」
アヤメは鷹野の言葉に耳を傾けた。
「この炎上騒ぎで、私も決断したんだ」鷹野は真剣な表情になった。「メガレオパードは、もう『サクラ』を使うのをやめる。正々堂々と、お客さんと向き合うことにした」
「店長…」アヤメは感動して言葉に詰まった。
「千葉さんの姿を見て、パチスロの本当の楽しさを伝えられる人がいれば、こんな小細工は必要ないって気づいたんだ」
高杉が満足そうに頷いた。
「素晴らしい決断です。これこそ私が書きたかった記事のエピローグになりますね」
三人はしばらく話し合い、今後のことを相談した。アヤメの心に、新しい決意が芽生えていった。
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第8章 再出発
「こんにちは、千葉アヤメです!今日も配信を始めていきます!」
アヤメはスマホを三脚に固定し、明るく挨拶した。彼女の配信チャンネル「アヤメのパチスロ研究室」は、登録者数が5千人を超えていた。炎上から一ヶ月、彼女は新しい道を歩み始めていた。
「今日はこの新台を打ってみます!みなさん一緒に研究していきましょう」
彼女は台の特徴や攻略法を丁寧に解説しながらプレイを始めた。コメント欄には「アヤメさんのおかげで勝てました!」「解説わかりやすい!」といった声が並んでいた。
配信は大成功。二時間のプレイで15,000円のプラス。視聴者からの質問にも丁寧に答え、パチスロの楽しさと同時に、依存性の危険性についても語った。
「今日はここまで!次回は水曜日の夜8時から配信します」
配信を終えたアヤメは深呼吸した。
「お疲れ様」
近くにいた松岡が笑顔で声をかけた。彼は今、アヤメの配信マネージャーとして一緒に活動していた。
「ありがとう、松岡さん」
二人は喫茶店に移動し、今後の計画を話し合った。
「高杉さんの記事、読んだ?」松岡が尋ねた。
「うん」アヤメは頷いた。
週刊マガジンXに掲載された高杉の記事『サクラから生まれたリアルスター』は、パチスロ業界に波紋を広げていた。記事はアヤメの実名こそ伏せていたものの、彼女の軌跡を詳しく描いていた。サクラとして始まり、本物のプレイヤーへと成長した若い女性の姿。そして、その存在がパチスロ業界にもたらす可能性。
「あの記事のおかげで、業界の見方も変わってきたね」松岡は嬉しそうに言った。
「私だけじゃなくて、メガレオパードも変わったね」
アヤメが言うとおり、メガレオパードは「サクラ」を廃止し、代わりにスキルアップ動画を定期的にアップするようになっていた。パチスロの楽しみ方や、負けないコツを正々堂々と教えるというコンセプトだ。鷹野も動画内で、「お客様と誠実に向き合う店作り」を宣言していた。
「ところで、あの投稿した人…佐伯さんとは?」
「ああ」松岡は表情を曇らせた。「店側から訴訟も考えたけど、鷹野さんが『和解』を選んだらしい。佐伯さんも事実誤認を認めて、投稿を削除したよ」
「そう…」アヤメはほっとした。
彼女はコーヒーを飲みながら、窓の外を見つめた。最初は生活のためだけに始めたアルバイト。それが今や、彼女の新しいキャリアになっていた。パチスロ配信者として、そして時には店舗からの依頼でセミナー講師として活動する日々。就活に失敗した彼女が、思いがけない形で自分の居場所を見つけたのだ。
「アヤメさん、実は提案があるんだ」松岡が少し緊張した様子で言った。
「なに?」
「いくつかの媒体から、君の来店を全国展開したいという話が来てるんだ。『勝ち姫』ブランドで、パチスロの楽しさを広めていく企画なんだけど…」
アヤメは驚きの表情を見せた。「全国…?」
「そう。東京だけじゃなくて、大阪、名古屋、福岡…各地のパチスロ店を巡る企画だ。もちろん、僕もマネージャーとして同行するから」
アヤメは考え込んだ。自分の経験を多くの人に伝えられる。パチスロを正しく楽しむ知識を広められる。それは、かつてサクラとして始めた彼女にとって、大きな意味を持つことだった。
「やります」アヤメは決意を固めた。「私にできることなら」
松岡は嬉しそうに頷き、話を続けた。二人の間には、友情以上の感情も芽生え始めていた。
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第9章 再会
「千葉さん、久しぶり」
全国の店舗を回る最終地、東京に戻ったアヤメを、高杉が待っていた。彼らは高級レストランで再会を果たした。
「高杉さん、お元気でしたか」
「ああ。記事は好評だったよ。おかげで僕も専門ジャーナリストとして認められてきた」高杉は笑顔で言った。
全国の店舗回りは大盛況だった。各地でアヤメへ会いに来る人で行列になり、彼女のSNSフォロワーは2万人を超えていた。もはや「サクラ」ではなく、実力を認められた「パチスロ演者」として名を馳せていた。
「どうだった?全国ツアー」
「忙しかったけど、充実してました」アヤメは楽しそうに答えた。「いろんな人に会えて、パチスロの楽しさを伝えられたと思います」
「そして、松岡くんとも?」高杉が意味深に尋ねた。
アヤメは少し頬を赤らめた。ツアー中、松岡との関係はさらに深まり、二人はつい先日、付き合い始めたところだった。
「…バレてますか?」
「ジャーナリストの勘だよ」高杉は微笑んだ。「おめでとう。彼はいい男だ」
しばらく二人は近況を語り合った後、高杉が真剣な表情になった。
「実は今日、特別な招待客がいるんだ」
「招待客?」
高杉が軽く手を挙げると、レストランの入口から一人の女性が近づいてきた。アヤメは彼女を見て、息を呑んだ。
「佐伯…さん」
佐伯ミユキ。SNSでアヤメをサクラだと告発し、炎上の発端となった女性だった。彼女は緊張した面持ちで席に着いた。
「千葉さん…お久しぶりです」
気まずい沈黙が流れた。高杉が口を開いた。
「佐伯さんから、千葉さんに直接謝罪したいという申し出があったんだ」
佐伯は深く頭を下げた。
「本当に申し訳ありませんでした。あの日、私は大負けして頭に血が上っていて…でも、それは言い訳にはなりません」
アヤメは複雑な表情で佐伯を見つめた。あの投稿で、彼女はどれだけ傷ついたか。しかし同時に、あの出来事がなければ、今の自分はなかったとも言える。
「佐伯さん、顔を上げてください」アヤメは優しく言った。「確かに最初は辛かったです。でも、あの出来事があったからこそ、私は自分と向き合えました。むしろ感謝しています」
佐伯は涙ぐみながら顔を上げた。
「でも、私は…」
「今は過去のことです。これからのことを考えましょう」アヤメは微笑んだ。
高杉は満足そうに二人を見つめていた。彼の計画通り、和解の場が設けられたのだ。
その後、三人は打ち解けて話し合った。佐伯もパチスロが好きで、アヤメの配信を最近チェックし始めたという。
「実は…私も配信者になりたいと思ってるんです」佐伯が恥ずかしそうに言った。「千葉さんのように、正しい知識を広められる人になりたくて」
「それなら、一緒に動画に出ませんか?」アヤメは思いついたように提案した。「女性同士で、違った視点を提供できると思うんです」
佐伯の目が輝いた。高杉も驚いた表情を見せた。
「それはいいアイデアですね」高杉は感心した様子で言った。「対立していた二人が共演するなんて、素晴らしいストーリーになる」
帰り道、アヤメは晴れやかな気持ちだった。佐伯との和解。松岡との恋。そして何より、自分自身が成長したという実感。サクラとして始まった彼女の旅は、思いがけない形で彼女を本物の「勝ち姫」へと導いたのだ。
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エピローグ
一年後。メガレオパード虎ノ門店は「正々堂々スロット」というコンセプトで生まれ変わり、より健全な遊技場として評判を得ていた。鷹野店長は業界誌でインタビューを受け、「透明性のある店づくり」の先駆者として語られるようになっていた。
高杉はパチンコ業界の良心的ジャーナリストとして確固たる地位を築き、著書『遊技場革命』は業界関係者の必読書となっていた。
アヤメのチャンネル登録者数は10万人を突破していた。彼女の実践動画は「技術的で分かりやすい」「女性目線の解説が新鮮」と人気を博し、専門メディアからもインタビューを受けるほどになっていた。松岡は彼女の撮影や編集を手伝いながら、二人で活動の幅を広げていた。
「今日の実践動画の編集、終わったよ」
自宅のリビングで、松岡がパソコンから顔を上げた。アヤメは温かい紅茶を二つ持って近づいた。
「ありがとう。見せて」
二人は並んで画面を見つめた。最新の実践動画は、ある機種の攻略法に特化したもので、アヤメの実力が存分に発揮されていた。
「完璧だね」アヤメは満足そうに言った。
彼女と松岡は恋人同士になり、仕事のパートナーとしても絶妙のチームワークを見せていた。「勝ち姫」の愛称で親しまれるアヤメだが、彼女は常に負ける可能性についても率直に語り、「パチスロは娯楽であって、生活の糧にすべきではない」というメッセージも発信し続けていた。
「そういえば、佐伯さんから連絡あったよ」松岡がスマホを見せた。
佐伯もアヤメに影響を受け、「ミユキの負けない実践記」というYouTubeチャンネルを始めていた。フォロワーは着実に増え、アヤメとのコラボ動画も大きな反響を呼んでいた。かつての対立は、創造的な協力関係へと変わっていたのだ。
ある日、アヤメはメガレオパード虎ノ門店を訪れた。久々の撮影ロケーションとして選んだのだ。かつて彼女が「サクラ」として座っていた席に腰掛け、懐かしさを感じていた。
「懐かしいだろう?」
振り返ると、鷹野が立っていた。
「店長」アヤメは嬉しそうに笑った。
「もう店長じゃないよ」鷹野は笑った。「今はメガレオパードの広報部長だ。全国展開の責任者でね」
二人はしばらく近況を語り合った。
「あのとき、私をサクラに誘わなかったら、今の私はなかったと思います」アヤメは真剣に言った。
「いや、千葉さんの才能は必ず開花したさ。私は少しきっかけを作っただけだよ」鷹野は優しく微笑んだ。
店を出る前、アヤメは一台のパチスロの前で立ち止まった。彼女が初めて大勝ちした台だ。懐かしさと共に、彼女は思った。
「サクラ」として演技で始まった日々。しかし、その「演技」は彼女を本物の「勝ち姫」へと成長させた。人生とは不思議なもの。演じることから始まっても、心を込めれば、いつしか本物になる。
松岡がカメラを構えると、アヤメはその台の前で笑顔を見せた。夕暮れの光が差し込む店内で、彼女の表情は輝いていた。
「みなさん、こんにちは!アヤメのパチスロ日記、特別編『私の原点回帰』をお送りします!」
彼女は自然な笑顔で話し始めた。彼女の動画には、いつもながらの多くの視聴者が集まり、応援のコメントが寄せられていた。
千葉アヤメの新しい物語は、まだ始まったばかりだった。
-終-
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