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パチスロワイルドサイド-脇役という生き方-
2023.11.07
困惑のファーストコンタクト~5号機ゲッターマウス①~
――「え? 俺で良いんですか?」
副編集長「なんで? イヤなの?」
スマホのスピーカーから発せられた突然の依頼に身を固くした。掌がジワリと湿る。
――「いやいや全然! ヤベェ、なんか緊張するな」
副編集長「ハハ、ベテランでも緊張すんだ?」
――「そりゃしますよ! だって…」
〝機種ものライター〟になり、まもなく11年目になる。これまで巻頭の特集ページもたくさん経験してきたが、それとは別種の緊張感があった。パチスロ雑誌のライターとして真価が問われる。そんな怖さである。
機種ものライターとは?
パチスロ攻略誌において、主に無記名で機種ページの文章を担当するライターのこと。得する打ち方や勝ち方・楽しみ方を探し、それを記事にするのが業務内容のメイン。
正直に言えば〝いつかは来るだろう〟と思っていた。
たとえばそれがハナビやサンダーといった馴染みの機種なら、少しは緊張も和らいだハズだ。しかし依頼された機種は…
――「ゲッタマ、世代じゃないけど大丈夫すかね?」
副編集長「僕も世代じゃないけど、まあ大丈夫っしょ」
▲5号機「ゲッターマウス」(アクロス)
2016年の春頃に登場したA-PROJECT第5弾。純粋にBIGとREGのみで出玉を増やすノーマルタイプで、RTなどは非搭載。ボーナス合算確率は設定1でも1/145.6という遊びやすさが大きなウリだった。
4号機の初代と同様のリーチ目マシンで、そのリーチ目総数は3,000個以上。また、5号機からの新要素として小役ナビ「ゲッチュー演出」を搭載。演出絡みの1~2確も楽しるため、初代よりもライトユーザーに受け入れられやすいゲーム性だった。
4号機「ゲッターマウス」は、名前くらいなら知っているといった程度。完全に現役を過ぎた頃、場末のホールで2千円だけ打った記憶があるが、もちろんリーチ目の1つすら見ていない。
――「まあ、なんとか頑張ります」
副編集長「じゃヨロシク~。あとで担当編集から電話行くと思うから」
――「了解す! では失礼しまーす」
通話を切り、スマホをパソコンデスクに放ってイスにもたれた。
機種ものライターとして、十分な働きをしてきた自負はある。ノーマルタイプもたくさん担当してきた。しかし、アクロスのAプロ機種となるとプレッシャーが違う。4号機の現役を知るファンも多いハズだ。
4号機時代、Aタイプも好んで打った。ハナビ、サンダーV、ドンちゃん2…と、熱く語れる程度には打ったつもりでいる。しかし、当時はまだ素人の学生。打ち方を自分で考えたり、探ったりしたことはなかったように思う。
深淵は覗いていない。
攻略誌に載っていた通りにプレイしただけ。たとえるならば、安全に管理された浅瀬で遊んでいたようなものだ。機種ものライターは誰より先に沖に出て、深く潜る必要がある。あの頃に比べ、俺は成長しているだろうか?
杞憂。
初めての取材が許されたのは、依頼から2週間ほど経った頃。広報さんから基本仕様の説明を受け、小冊子と同程度の内容の資料をお借りして試打の時間がスタートした。当然、最初にすべきことは…
担当編集「ちょ、何してんスか?」
――「いやいや、まずは役構成だろ」
台の前にしゃがみこんで役構成を探した。パチスロを打つ際、特にノーマルタイプを打つ際は、決まってここからスタートする。これが当時のAプロ機種を初打ちする際の鉄則だ。
言うまでもなく、リーチ目役などを構成するフラグを見抜くためである。コレにより面白い打ち方や得する打ち方が判明するケースは多い。役構成は下皿の外側に貼ってあった。
――「ほら、やっぱりな!」
担当編集「どうしたんスか?」
――「昨日、ネットでこの台の情報探してみたんだけど」
担当編集「はあ」
――「誰かのブログに〝今作は1枚役ナシ〟って書いてあったんだよ」
担当編集「で、実際はあったと?」
――「4種類あるね」
担当編集「とんだガセネタでしたね」
――「まあ、どうせガセだと思ってたけど」
5号機以降、リール制御は1フラグにつき1本のみと決められている。素直にその通りに制御を組むと、ある程度決まった形のリーチ目しか止まらない。
それを解決するのが、みなさんもご存じの小役重複。ボーナスと1枚役を重複させれば、リーチ目のバリエーションが格段に増えるわけである。これにより成立ゲーム限定のリーチ目を作ることも可能。
Aプロ機種では、しばらくその流れが続いていた。今作「ゲッタマ」もリーチ目マシンのため、必ず1枚役か何かを使ってくるだろう。そう読んでいたため、たまたま見つけた件のガセ情報に衝撃を受けたのだった。
もしも1枚役ナシで3,000通りにも及ぶリーチ目を実現していたら!? 何か革命的な新技術か、俺の知らない内規改定があったのかもしれない!? そうなると俺の手には負えない――と恐れていたが、どうやら杞憂だったらしい。
ホッと胸を撫でおろし、いよいよ試打をスタートした。
上級者向け?
担当編集「オーソドックスなのは、左リール枠上にチェリーを残す感じすかね?」
――「う~ん、チェリー落としでも問題なさそうだけど…」
▼リール配列
数ゲーム回して感触を確かめる。枠上にチェリーを残す「チェリー残し」も、枠下にチェリーをスベらせる「チェリー落とし」も、さほど違いはなさそうだ。
――「資料のリーチ目一覧を見ても、チェリー残しがメインっぽいかな」
担当編集「ですね。うわ、この台、左リールに赤7が3つもあんのか」
――「だね。チェリーだけ見てたから気にしてなかったけど」
担当編集「これは初心者にはキツいな」
――「そうかもしれんね」
やや上級者向け。はじめの印象はそんな感じだ。そして、その印象はさらに強くなっていく。
しばらくプレイを続けていると、担当編集の台で予告音が発生。
担当編集「これがゲッチュー演出ですね?」
――「んで、どうなんの???」
ゲッチュー演出発生時はチェリーの可能性ナシ。つまりチェリーを狙う必要がないため、左リールの自由度が格段に増すわけである。が、まだ探る段階ではナイと判断したのだろう。担当編集がいつも通りのチェリー残しで左リールを止めると…
担当編集「あ、サブローが光りました」
――「えーと、スイカ対応だね」
左リールの停止形は上から赤7・オレンジ・スイカ。ごく普通にスイカが揃いそうな雰囲気だが…
担当編集「え…マジか」
――「どしたの?」
担当編集「中・右リールともスイカ2個ずつしか無いっス!」
――「まあ、そうだね」
担当編集「いやいや、演出あったからよかったけど」
――「演出ないとこぼしそうだね」
担当編集「いやいや、ムズいムズいムズい」
――「ふははは、落ち着いてw」
担当編集は俺より7~8才ほど若い。プライベート稼働のほとんどはAT機だそうで、ノーマルタイプはあまり得意でないらしい。Aプロ機種を得意とする編集が忙しく、たまたま担当編集を任されることになったようだ。
――「とりあえずハサミで右リールにネズミ狙って」
担当編集「いや、右リールにネズミ3匹います!!」
――「うーん、もう直視でスイカ見なよ」
担当編集「キッツ!」
担当編集が狙いを定め右リールを止めると、まさかの枠内スイカなし!!
――「ちょ、ちゃんと狙った?」
担当編集「狙いましたよ! ほら、枠外に落ちてったの!」
――「目押し遅かったんじゃなくて?」
担当編集「違いますて!」
次いで中リールを止めると…
――「あ!」
担当編集「1枚役だ」
リール上には、たしかにスイカ・リプレイ・リプレイの1枚役が入賞していた。担当編集を顔を見合わせ首を捻る。これは小役否定ということでいいのだろうか?
担当編集「1枚掛けでボーナス狙ってみます?」
――「だね。えーと、最速揃えは…」
すぐに配列と1枚掛けの有効ラインをチェックする。
――「中段ワンか…まず左中段までにネズミ・リプ・赤7の赤7狙って」
担当編集「はい…赤7止まりました」
――「次は右中段までに赤7・リプ・BARのBAR狙い」
担当編集「BAR止まりました」
――「バケかな?」
中リールに赤7を狙うと、予想通りREGが入賞した。
――「んー、なるほど…」
1枚役をこぼしてリーチ目を形成すると思っていたが、素直に1枚役が揃ってボーナスとは!? スイカ・リプレイ・リプレイ(スリリ)の1枚役は、左第1停止だと配列上こぼせないハズ。つまり、スリリは成立のたび必ず入賞するというのか…?
これ……面白いか???
見えない面白さ。
その後も試打を続けると、少しずつゲーム性が見えてきた。
スイカをしっかり狙ったのに1枚役が揃った場合はボーナス確定。逆に言えばスイカを狙わずに揃った1枚役は、ボーナス非当選の恐れがある。つまり、スイカは種ナシ1枚役と重複しているというわけだ。
この時点で分かったスイカと1枚役の関係
■スイカこぼしの1枚役
→ボーナスの可能性ナシ
■純正の1枚役(スイカ非重複)
→ボーナス確定
ちなみにスイカの払い出しは1枚のみなので、こぼして1枚役を入賞させても損はナイ。
担当編集「一応、常にスイカを狙わなきゃいけないんスか?」
――「1枚役の種アリ・種ナシを見抜きたいならそうなるかな…」
担当編集「そんなのムリっスよ」
――「さっき演出ナシのスイカもあったしね」
担当編集「どうにかラクに打つ方法ないんスか?」
――「うーん、左リールのチェリー捉えたら、もうリール止める前に視線は右リールのスイカに移して…ほら、こんな感じで」
担当編集「できるかっ!! そんな器用な打ち方! 誌面に書けないっスよ」
――「まあ、でもスイカこぼしても1枚役入賞で損はナイから」
担当編集「まあ、そうっスけど…」
――「スイカこぼし1枚か純正1枚か見抜きたいよね」
打ち続けるにつれ、リーチ目法則もおぼろげながら分かってきた。赤7とネズミの小山型や一直線型といった〝リーチ目っぽい停止形〟は頻繁に停止する。ほんと、びっくりするほど頻繁に停止するのだ。もちろんすべてが当りというわけではナイ。
重要なのは右リールの上or下段に停止したボーナス図柄。いや、もっと正確に言うならば、ネズミ図柄の1つ上の小役図柄だ。
そこがオレンジならリーチ目になるが、リプレイだとリーチ目にならない。その「リプレイを背負ったネズミ」がジローというわけだ。たとえ赤7とネズミが一直線に並んでも、ジローならリーチ目じゃないといった具合である。
ジロー絡みの〝リーチ目っぽい停止形〟は、概ねリーチ目ではない。そしてジロー絡みで〝リーチ目っぽくない停止形〟が、逆にリーチ目だったりする。
――「なるほど……これはムズいな」
担当編集「もう何がなにやら…」
これは参った。
編集部は担当ライターの人選をミスしたのかもしれない。
引っ掛かり。
午後6時、取材終了――
――「うう、頭使いすぎて痛ぇよ…」
担当編集「ええ? 僕は楽しかったですけどね」
担当編集がゴキゲンなのは、「中押し小役狙い」を完成させたためである。中リールの枠上・上段付近に赤7かネズミを狙えば、小役を全てフォローできるうえ、ボーナス察知も至極簡単。
スイカの代わりに1枚役も獲得できるため、スイカの目押しに苦しむ必要もない。初心者でもムダなく打てる、パーフェクトな小役狙い手順と言っていい。
担当編集「一時はどうなるかと思いましたけど、中押し手順が見つかって安心しました」
――「……そう?」
担当編集「なんでそんな気落ちしてんスか?」
――「いや、たしかに中押しはスマートだけど」
担当編集「だけど…なんスか?」
――「あれは本来の遊び方じゃないと思うんだ」
担当編集「本来の遊び方じゃない?」
――「なんと言うか…」
たとえば5号機「B-MAX」。普通に小役狙いでも楽しめるが、実は全リール適当打ちでも構わない。適当打ちだと小役をこぼすが、チェリーこぼし時に入る短いRTが小役補正のような役割を果たし損失を防いでくれる。
そしてサンダーVリボルトにも初心者向けの3連V狙いがある。これは生入りに向いているため俺もよくやっているが、やはり王道は単V狙いと赤7狙うだろう。
要するにアクロスは、初~中級者向けの打ち方を「用意してくれている」わけである。そしてゲッタマにおいて、中押しが〝それ〟にあたるのではなかろうか?
リーチ目マシンのハズなのに、そのリーチ目を極端に少なく限定してしまう中押し。分かりやすくて誰でも打てるという点では素晴らしい。しかし…
中押しばかりしていると、Aプロ打ちとして大切な何かを物を失うような気がする。あれはあくまで「救済として用意された打ち方」。そんな気がしてならない。
開発者がオススメしたい打ち方は、きっと別にある。そう思い粛々と左第1停止のチェリー残しを実践したものの、「これだ!!」という感触は掴めなかった。この取材で開発者の意図を掴み切れなかった。それが悔しくて堪らなかった。
それから約1カ月後。
導入日からの2日間で、俺はゲッタマの面白さに溺れることになる。
つづく
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- ラッシー
- 代表作:パチスロワイルドサイド -脇役という生き方-
山形県出身。アルバイトでCSのパチンコ・パチスロ番組スタッフを経験し、その後、パチスロ攻略誌編集部へ。2年半ほど編集部員としての下積みを経て、23歳でライターに転身。現在は「パチスロ必勝本&DX」や「パチスロ極&Z」を中心に執筆。DVD・CS番組・無料動画などに出演しつつ、動画のディレクションや編集も担当。好きなパチスロはハナビシリーズ・ドンちゃんシリーズ、他多数。
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